未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:攻撃機級は、あのザーバン異変で初めて確認された異星生物の新種である。従来の異星生物は棘皮動物や無脊椎動物に近い見た目をもったものがほとんどだったが、攻撃機級は爬虫類や哺乳類に近い特徴的な見た目をしている。多数の実験新種が投入されたザーバン異変の後も姿が確認されており、異星生物からも人類に有効な新種として認識されているようである。>
デュートリオンⅢ。
地表の大半を岩盤で覆われた、かつては資源惑星だった星。貴重な鉱物が採掘される為人類の入植が行われ、それに先立って惑星に簡易テラフォーミングが行われている。あくまで簡易なので緑化とまではいかず、惑星に存在する水に光合成をおこなうプランクトンの移植が行われた程度だが、それにより人類がギリギリ生存できる大気を保有していた。
しかし今はその水源は異星生物の生態圏に汚染され、頻繁に大気組成が変化する過酷な環境へと変化していた。人類の生存に必要な酸素も、濃度が高すぎれば毒となるが、話はそれで終わらない。変化するのは酸素だけでなく窒素など他の大気を構成する成分もあるからだ。
それ故に、デュートリオンⅢの戦いは独特の戦場となる。爆発物やプラズマの類は、戦場の酸素濃度、窒素濃度によって規模が変わる。火薬は酸化剤を必ず含むため不発という事はまずありえないが、二次的な効果が如実に違う。酸素が高濃度な日は爆発や炎は大きく燃え広がり、逆に低酸素だったり窒素濃度が高い日は殆ど影響がなかったりすぐに鎮火したりする。エンジンの燃焼効率も日によって変わり、極端すぎる日はエンジンを入れた途端に機関が爆発したり、逆に一切エンジンが掛からなかったりもする。戦術や被害対応も日によって変わる環境に適応できなければ、この星の戦場では生きていけない。
そして人類にはあまりに酷な環境でも、この環境を作り出した異星生物にとっては適応許容範囲内であるというのが、実に嫌らしい。日々の対応に追われる人類をよそに、彼らは表情も感情もなく、ただひたすら物量にものを言わせて押し寄せてくる。そこには戦略も戦術もないように見えて、しかし常に彼らは人類の隙を伺っているのだ。
今日もまた、戦線では互いが互いをすりつぶす消耗戦が繰り広げられていた。
舞台は、険しい山岳地帯に設けられた防御陣地。人類は棚田のように整理された防御陣地と、そこに彫られた塹壕に潜み、異星生物の侵攻に備えていた。
塹壕に潜む兵士は皆酸素マスクを装備しており、身を潜めて双眼鏡片手に異星生物の侵攻の予兆を逃さぬよう監視任務に努めている。その後方には対戦車砲が備え付けられ、さらに後方では自走砲が待機している。基本的に人類と異星生物の戦争というのは質と量のぶつけ合い、磨り潰しあいだが、このデュートリオンⅢの環境では人類が圧倒的に不利だ。あまりに人類のみに劣悪となった環境では投入できる戦力も限られ、常に物量で圧倒される人類側は、自然と防衛戦を強いられていた。追い込まれているともいえる。
この陣地の構造は、圧倒的な数で押し迫る異星生物に対し限られた戦力で効率的な防衛を行う為、機動防御を前提とした造りになっている。異星生物の浸透攻撃に対し、広く展開した歩兵の射撃と対戦車砲の攻撃で応戦しつつ、攻撃を受けている地点に機甲戦力が緊急展開、迎撃を行う。前線の兵士はそのまま踏みとどまり、一匹でも多くの異星生物をひきつけ続ける事になる。当然前線を支える兵士の損耗率は悪夢じみたものになるが、しかし、そうまでして防衛する理由が、この戦線にはある。
何故ならこの防衛線の目的は、惑星浄化拠点の守備だからだ。
彼らよりさらに後方には惑星の水質をかつてのものに戻すための浄化設備が設置されており、今も異星生物由来のプランクトンをろ過し、人類にとって正常な水質・生態系に戻す為の試みが行われている。そうやって地道に惑星の水質を改善していけば人類にとって不利な環境を覆す事ができ、大規模な部隊の投入が容易になる。そうすれば人類は他の戦線と同じドクトリンで部隊を展開できるようになり、勝利へと大きく近づく事ができるだろう。
だが、それは異星生物も承知の上の話であり、すでに防衛線は幾度となく大規模な攻撃にさらされていた。勿論、軌道上からの監視、砲撃部隊による遠距離攻撃による敵侵攻阻止は当然行われている。しかし異星生物は地に潜み、流れに潜み、気が付けば目前に進行部隊が存在しているのだ。油断などできようはずもない。
防衛線に不意に緊張が走った。
兵士が背を低くして塹壕の中を駆け回り、レーザーガンを構えた射手が射撃位置に移動する。勲章を胸にさげた指揮官が、手早く腕につけた大気組成分析装置に目をむけて指示を出す。
防衛線には霧が立ち込め、あまり遠くまでは見通せない。人類側の防衛線は棚田のように人工的に整理されているが、防衛線の向こうに広がる丘陵は、天然の結晶質の岩肌がむき出しのままだ。
まるで巨大なサンゴの森が立ち枯れ、折り重なったような独特の光景は、この星の地盤に含まれる希少鉱物によって生み出されたものだ。かつてはまるで森のように枝が広がっていたが、度重なる砲撃で砕かれた今は、ひたすら殺風景なだけだ。
そんな岩と霧だけの世界で、霞む地平線で動く影を、兵士達は確かに目にした。目の錯覚ともとれたその陰は瞬く間に数を増やし、地平線を覆い、黒い波濤となって押し寄せてくる。
異星生物の侵攻が始まったのだ。
先鋒を切るのは、ヒトデのような姿をした先兵級。名前の通り異星生物侵攻の先陣を切る彼らは、防御力も攻撃力も異星生物の中では大したものではないが、しかし数がとにかく多い。そして体の構造が単純故か、急所を撃たれない限りなかなか死なない。狩人じみた熟練の射手であれば一息に数体仕留めてしまえるが、訓練も経験も足りない新兵では何十発撃ち込んでも仕留められない、そういうタフさを持つが故に、陣地への先制攻撃によく投入される。
それに対し、人類軍は歩兵の多くを塹壕に潜ませたまま、銃座からせり出した重レーザー砲で、迫りくる先兵級を薙ぎ払う。重機関砲の代わりに宇宙の戦争に持ち込まれた化学レーザーの光が、紙でも燃やすように先兵級を蹴散らしていく。彼らの突撃に律儀に歩兵で対応していては被害が拡大する。余裕があるうちは多少過剰火力でも確実に大火力で殲滅する、人類が異星生物との戦争で学んだ鉄則だ。
歩兵の出番はあくまでそのあと。制圧射撃を抜けてきた僅かな生き残りを、ベテランが狙撃して確実に仕留める。
しかし、先兵級の波は途絶える事はない。焼かれても焼かれても、その屍を乗り越えるようにして次の波がやってくる。まるで死体で壕を埋めようかという勢いだ。人間同士の戦争であれば目を覆いたくなる損害であろうが、異星生物にとって、先兵級の百や千、損害のうちにも入らない。コストがあまりにも違うのだ。
先兵級の目的はあくまで、これから始まる本格攻撃に備えて敵の戦線に圧をかける事。いくら最弱クラスの異星生物戦力とはいえ、歩兵のつめる塹壕に一匹入り込んだだけで死人がでる。そのため人類は囮とわかっていても先兵級に戦力をさかねばならず、その采配を見誤った所から突き崩されていく。
そんな人類側の対応を見定めてか、異星生物の侵攻は次の段階に切り替わる。
地響きを鳴らし、先兵の波をかき分けて本命の戦力が進軍してくる。その中でも特に目立つのは制圧級の姿だ。地球の生物で例えればオカヤドカリに似た見た目のその巨大甲殻生物は、しかし弱点である腹部を持たない。内臓は全て手足の中に分散して収まっており、見た目とは裏腹に極限まで生体機能を省スペース化、外骨格の発達が行われている。おまけに急所の神経中枢は個体によって場所が違うため、他の大型異星生物への対処方法である急所のピンポイント攻撃も難しい。異星生物の手札の中でも単純に分厚く、硬い為、防御の整った防衛線の強行突破には適切な個体だ。
その一方で特殊な器官をもたないため遠距離攻撃が出来ず、本来であれば人類の機甲戦力の敵ではない。だがこの異星生物の本領は、他の異星生物と連携を行うという事だ。より正しくは、攻撃に特化した別の異星生物を、武器として扱う。
今回制圧級が手にしているのは、細長いイソギンチャクのような異星生物だ。彼らは体内に特殊な液体を蓄積している。これは単体では酸性でもアルカリ性でもない、毒でもないただの特殊な溶液だが、雄雌で蓄積している液体の成分が微妙に異なる。この二つが混ざりあうと、途端に溶液の成分や含まれている微生物が反応を起こし、きわめて強烈な酸性の可燃物へと変貌するのだ。
この性質を制圧級は当然、よく把握している。彼らは雄個体を装備した集団と雌個体を装備した集団へと別れ、互いに連携して単一の標的へと攻撃を行う。そうすれば、敵地で混ざりあった溶液が敵陣地のみを焼き払い、一方で自分達は万が一溶液が零れても単体では何の危険性もないため安全という訳だ。
だが、それを理解しているのは人間も同じ。制圧級が鋏で保持するバイオウェポンを絞り上げて溶液を放出させるよりも早く、対戦車砲による攻撃が開始される。重レーザーにとってかわられた機関砲と違い、こちらは数世紀前から変わらぬ実体弾による攻撃だ。貴重な実弾を扱うだけに割り振られた射手の射撃は、期待された通りに制圧級へと降り注ぐ。
直撃による轟音と衝撃波、視界を覆う土煙が巻き上がる。砲撃に巻き込まれた先兵級の手足がバラバラになって飛び散り、砲撃地点は即座に青白いミンチの製造現場と化す。しかし、砲撃を受けた制圧級はしばらく動きを止めただけで、何事もなかったかのように進軍を開始する。その甲殻は流石に無傷とはいかないが、精々ヒビがはいった程度であり、流血している個体すら多い方ではない。何匹か運が悪かったのか、甲殻が欠けて内部組織が覗いている者もいるが、それでも致命傷には程遠い。
その事は、人類とて織り込み済みだ。そもそも狙いは制圧級そのものではない。制圧級はとてつもない耐久力をもっているが、彼らの装備しているバイオウェポンはそうでもない。事実、砲撃にされされた制圧級の手にあった柔らかな軟体生物は悉くが砲撃の衝撃に耐えかね、内容物をぶちまけて絶命していた。これで防御陣地を直接焼き払われる心配はなくなった。
だが、しかし。人類軍の動揺は少ないものの、大口径砲でも制圧級を止める事が叶わないのは事実だ。さらに制圧級が目立つだけで、防衛線を脅かす脅威はそれだけにとどまらない。制圧級と先兵級であふれかえる戦線に、漆黒の影が走り抜ける。
それを目にした兵士の一人が、恐怖の混じった警告の声をあげた。
「猟兵級が来るぞ!」
「撃て撃て! ひきつけて撃とうとか考えるんじゃないぞ!」
走るヒトデ、ステーキメーカー、黒い死神。様々な名で呼ばれるのは、それ相応の被害を人類に与えてきたからこそ。先兵級の合間を縫うように走る惨殺者に向けて、塹壕から身を乗り出した兵士が一斉にレーザーガンを放った。
とにかく数にものを言わせた面制圧だ。光速のレーザー照射に、俊足を誇る猟兵級も次々と撃ち抜かれ、脱落していく。彼らは機動力と攻撃力に特化した分、防御力は無いに等しい。急所を射抜かれなければ即死はしないが、肢を何本か切り落とされればその俊足は機能しない。機動力さえ奪えば、近接戦闘能力しかない猟兵級は放置しても構わない相手だ。
だが、全ての兵士が正しい判断をできる訳ではない。動きが鈍った個体にトドメを刺す事を優先するあまりに、十全な個体を見落とした数人の兵士。その彼らの目の前に、迎撃を抜けた猟兵級が躍り出た。兵士達がミスを自覚するよりも早く、ハエトリグモに例えられる跳躍で塹壕の中へと躍り出る。
「ひっ……」
至近距離で黒光りする甲殻を目の当たりにした兵士の喉から恐怖にひきつった嗚咽が漏れた。次の瞬間、その兵士の首と胴、鼻の上に赤い射線が入り、一瞬おいてガスマスクやアーマーごとバラバラの肉塊となって崩れ落ちた。
鉤爪に血を滴らせて、猟兵級が次の獲物へと飛び掛かる。最終的に僅か一匹の猟兵級が仕留められるまでに惨殺された兵士は8人に上り、その損失と巻き起こった恐慌は前線に穴を開けるには十分なものだった。
迎撃の弱まったポイントを目ざとく見とがめた制圧級が殺到する。対戦車砲と重レーザーの集中射撃でそのほとんどは倒されるが、生き延びた数匹が鋏を打ち下ろして塹壕を砕き、設置された銃座を破壊し、対戦車砲へと迫る。直前で見切りをつけた射手が離脱した直後、倒れ掛かるようにして制圧級が対戦車砲を押しつぶした。既に致命傷を追っていたその制圧級はそこで絶命するが、これによりその地点の迎撃能力が急激に低下する。
波濤のように迫る異星生物の巨躯に、臆した兵士が立ち竦む。そしてついには、一人の兵士が背を向けた。一人逃げれば二人、二人逃げれば三人。典型的な破綻の前兆だ。
その連鎖を、しかし始まる前に一発の銃声が断ち切った。
「戦え! 根性無しども!」
銃口から硝煙をくすぶらせながら、黒いトレンチコートを羽織った将校が声を上げた。彼はガスマスク越しでも響く雷鳴のような声でもって、檄を飛ばす。
黒いトレンチコートは政治将校の証だ。及び腰になっていた兵士達が、略式処刑の恐怖を前に足を止める。
「何をぼさっとしている!」
政治将校は額を射抜かれて倒れ伏した兵士の遺骸を乱暴に蹴り飛ばしながら前進し、兵士達に喝を入れるように空に向かって二発目の銃撃を行った。
当然そんな事をすれば敵の目に留まる。たちまち数匹の先兵級が群がってくるが、政治将校は全く怯む様子を見せず、ナイフを抜いて伸びてくる腕を切り払い、撃ち払い、流れに逆らうように前進した。
「我らが守るのは自分の命ではない! 銃後に広がる、無数の星々とそこに住まう者の命だ! 父を、母を、子を先祖を持つものならばそれを守るために戦え! 我らの死は我ら個人の死にあらず、我らの命は我ら個人の命にあらず! 臆するな! 撃て!」
その場にいるどの兵士よりも果敢に、勇猛に、檄を飛ばしながら戦う政治将校。先兵級の急所を一発で仕留め、ナイフで貫き、たった一人で次々と異星生物を血祭に挙げていく。その言葉と行動に触発され、兵士達の崩壊しかけていた士気は辛うじて持ち直した。
「政治将校閣下に続け!」
「異星生物を殺せ!」
「引くな! 撃て!」
兵士達が鬨の声を上げ、異星生物へと反抗する。その様子を見届け、政治将校は銃のマガジンを交換すると戦場を見渡した。
押し込まれていたのはどうやらここだけの様子だった。他の戦線は、継続して防衛線を維持している。
このまま前線を押し戻すべく前に出る政治将校。その脇を走っていた兵士の首が、ふいに宙を舞った。実戦で鍛えられた本能が思考よりも先にナイフを繰り出させるが、それは半ばから断たれ、続けてナイフを握っていた左手も切り落とされた。
「が、ぐっ!?」
呻きは上げるも悲鳴は堪え、血走った目が残像を追う。
不意の奇襲で兵士一人と政治将校の片腕を奪った猟兵級、それは倒れ伏した制圧級の躯に着地した。そのままそれが次の獲物へ向かうより早く、政治将校は引き金を引いていた。精神力で人間なら当然発生するはずの激痛による硬直を無視した速射は、一仕事終えて動きを止めていた猟兵級を確実にとらえ、破砕した。
政治将校は猟兵級の絶命を確認し、地面に転がった片腕に目を向ける。危なかった、一瞬でもナイフを抜くのが遅れていたら彼自身の首が地面に転がっていたことだろう。
「奴の言っていた通りか……猟兵級は動きの合間に必ず硬直する……。言うのは簡単だがな……」
「か、閣下! 腕が!」
「かまうな! 前進しろ!」
切り落とされた腕からだばだばと血を流しながらも政治将校は怒声を上げる。片腕を失いバランスを崩しながらも、よろよろと前線へと向かう。
有言実行。真の政治将校は、自らの命も一顧だにしない。全ては人類の勝利の為。
そんな彼に、ズン、と制圧級の巨躯が立ちふさがった。周囲の兵士がレーザーガンを放ち、政治将校もマガジンの残弾を全て撃ち放つが、そんなものは制圧級にとっては痒みすら感じない。外骨格で全てはじき返し、乱雑に兵士達を鋏で薙ぎ払ったその視線が、立ちふさがる政治将校に向く。
「閣下! お逃げください!」
絶対的な死の直感に、しかし政治将校は一瞬すら怯む事はなかった。
「聞け! 兵士達よ! 私の銃は、いつでもお前たちを見ているぞ! 恥ずべき事をするなかれ、恐れる事なかれ! 人類に、栄光あれぇぇえええ!」
振り下ろされる鋏を前に、残された手で最敬礼を行う政治将校。その様を見る兵士達にもはや成すすべはなく、彼の命は聖録に記されるばかりかと思われた。
故に、兵士達は後に語る。人類の守護者は、だからこそ彼を見捨てなかったと。
突如、暴風のように火線が制圧級に降り注いだ。無数の曳光弾を引くその掃射は、曳光の数十倍の弾幕でもって、制圧級の巨体を物理的に突き飛ばした。甲殻の表面で弾けた砲弾の欠片があたりに降り注ぐが、奇跡じみた幸運か、はたまた別の理由か、その一つとて政治将校を巻き込む事はなかった。驚きバランスを崩す彼を兵士の一人が支えて肩を持ち、急いで塹壕へと引きずり込む。
その直後、体勢を立て直して立ち上がった制圧級の頭上からトップアタックをしかけたミサイルが、その巨体を内部から木っ端みじんに粉砕した。
同じように、戦場のあちこちでミサイル攻撃で制圧級が吹き飛び、さらに高速で移動しながらの機銃掃射が、猟兵級先兵級問わず異星生物の尖兵を吹き散らしていく。
兵士達の間に歓声が上がった。
「増援が来たぞ!」
「味方だ! 押し返せ!」
燃え上がる対戦車砲の残骸を踏み砕いて、装甲車輛が前進する。異星生物に押し込まれる味方を踏みつぶさぬよう慎重に、かつ大胆に機動する車輛群が、その火力と機動力をもって異星生物の軍に打撃を加える。
対戦車砲とはくらべものにならない火力の主砲が、立て続けに火を噴く。超高速の鋼の杭が、制圧級の甲殻を打ち砕き巨体を地に沈める。群がる先兵級や猟兵級を、機銃掃射がなぎはらう。圧倒する火力と装甲。
だが、それだけで勝てるほど話は甘くない。進撃阻止のためとはいえ前に出すぎた車輛が、制圧級に取りつかれた。車輛の装甲は自分自身の砲撃に耐えるほど頑強だが、制圧級の怪力はそれを上回る。巨大な鋏によって履帯が引きちぎられ、砲身が捻じ曲げられ、ペンチのように装甲が引きはがされる。行動不能になった車輛に猟兵級が群がり、その鋭い爪で装甲をくり抜き侵入口を切り開くと内部へと殺到した。通信越しに短い断末魔が響き渡り、それきり車輛は沈黙する。
生存者の不在を見て取った別の車輛が、群がる異星生物ごと棺桶となった車輛を砲撃した。ボロボロの装甲に砲撃を防ぐ能力はなく、内部の燃料や弾薬に誘爆したのか派手に爆発した車輛が、冥途の土産に取り憑いていた異星生物の群れを道連れにする。
それでも燃え上げる車輛と異星生物の残骸を踏み越えて、次から次へと新手が押し寄せる。さらには津波のように押し寄せる先兵級と制圧級、猟兵級の向こう側に、無数の棘が林立している。戦車級の後詰めが、前線に押し寄せてきているのだ。
戦車級は防衛及び制圧に特化した個体だ。もしこのまま雪崩れ込まれれば、押し込まれた状況で戦線を固定されてしまう恐れがある。急行した車輛群が阻止砲撃を行うが、制圧級と先兵級の壁が盾となり、戦車級に届かない。
そうこうしている内に、最前の塹壕に戦車級の群れが到達した。塹壕にはまだ多くの兵士が居残り必死の抵抗を試みていたが、戦車級は無慈悲に全身の棘でそれらの兵士を順に串刺しにしていく。ウニのような生物が塹壕の上をころころと転がるという一見コミカルな動きだが、転がるたびに串刺しにされる兵士の死体が増えていくのは、あまりにも悪夢じみた光景だ。その様を目の当たりにした兵士が発狂して塹壕から飛び出し、先兵級に群がられて四肢をバラバラに引きちぎられて絶命する。
大地には異星生物と人類の肉片と血がまき散らされ、それを鉤爪と履帯が踏みにじったマーブル模様が広がっている。凄絶な殲滅戦は、まだこれからが本番だ。
<戦場のひみつ:清掃級は細長く柔軟な肢が特徴の小型の異星生物である。クモヒトデに似た姿のこの生物は、その小柄な体を生かして戦場から有機物をすする。一見脆弱だが、人間一人を絞め殺す程度の力はあり危険な事に変わりはない。また生殖器官の類が存在しないため、他の種の幼生なのではないかと言われていた。>