※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:異星生物が地下トンネルを掘って侵攻してくるのはありふれた話ではあるが、実際の所彼らがどうやってトンネルを掘っているかについては、実はよくわかっていない。少なくとも、手足を使って掘り進んでいる訳ではないらしい。>






第二十八話 その頃彼らは

 

「おー、派手にやってるなあ」

 

 敵の集中攻撃にさらされる最前線。それを少し離れた場所から観測したアレックスは、一見呑気そうにも見える感想を漏らした。車内には、四人の部下がそれぞれの仕事に従事しており、隊長の独り言を聞きとがめる者はいない。

 

 あの程度の惨状、異星生物との戦争ではありふれている。いまさら、特別気にするような事でもなかった。

 

 さらにいえば、当然アレックス達は激戦区をさけて動いているとか、そういう訳ではない。むしろ、彼らの仕事はこれからが本番だ。他人の事など気にかけている余裕はない。

 

 アレックス達第77独立遊撃隊は、指揮下に入った海兵隊を引き連れて、最前線を迂回、敵の後背への強襲作戦中である。元々は機動防御の一部を担当していたが、このままでは最前線が突破される恐れがあるため、敵増援を断つ必要性を上に訴え、許可が下りた。他に仲間の車輛はいない、単独行動だ。

 

 これは彼らが独立遊撃隊だから、という他に、人手不足や車輛不足、そして何より、この行動が独自行動権限をもっているから、というのが大きい。勿論、上層部に根回しと作戦の具申はしたのだが、どうにも、指揮官の皆様方は目前の敵に注力するあまり、その元を断つ、という点に関心が薄いようだった。作戦の許可はもらったが、勝手にやれ、という感じである。あちらからすれば、たかが一小隊。上手くいけば儲けもの、全滅しても大した事はない、という感じなのだろう。

 

 タイミングと流れを何か間違えていれば、後で敵前逃亡の罪に問われかねないが、そのあたりはアレックスには慣れたものである、ぬかりはない。

 

 あるいは、司令部もこれほどの勢力が監視網をすり抜けて前線に強襲してくるのを想定していなかったのかもしれない。

 

「しかし隊長、敵後背を断つ、といっても、場所までピンポイントに指定できるものなんです?」

 

 ハンドルを繰りながら、ミリシアが疑問を呈する。口調とは裏腹に、その操縦は指定された区域に迷いなく向かっている。彼女個人が疑問に思ったというよりも、他人……特に指揮下に入って日の浅い海兵隊に聞かせるためだろうな、とアレックスは思った。

 

「異星生物だってワープしてくる訳じゃない。やはり基本は歩いて進軍してくる訳だが、制宙権はこちらが握っているのに、監視をかいくぐってあれだけの大群を継続的に送り込んでくるんだ。つまり、衛星軌道から監視できない地点にトンネルでも掘って移動してきた、と考えるべきだ。そうなると、ポイントなんてごく少数に限られる。あとは敵の沸き方でほぼ確定できるといっていい。そんな難しい話でもないさ」

 

『そんな難しくない話に、こちらの指揮官は思い当たっていないようでしたが』

 

「そりゃ、敵侵攻の阻止が一番重要だからな。その侵攻に手持ちの札をフル投入しなければならない、となればそれでいっぱいいっぱいになるさ。最初からあちらさんの頭の中には、怪しげな独立遊撃隊なんて戦力のうちに入っていないだろうしな」

 

『なるほど……』

 

 納得したようなナックル1の相槌。どうでもいいが、プライベートでは胡乱な言葉使いの彼女はそれ以外では非常にきっちりと喋る。なんならプライベートでもアレックス相手だと丁寧語を崩さない。ちょっと寂しいかなー、なんてアレックスは頭の片隅で考えた。変わらず、きっちり2mの距離を維持されているし。

 

「まあ、所詮私達は単騎だ。一両自由に動く駒があったからって、それで戦局を変えられるはずがないっていうのが常識的判断ってやつだ」

 

「ん。でも隊長は変えるつもりでいるんですよね?」

 

「今回は変えられそうだからな」

 

 アレックスはちらりと視線をネルスに向ける。意図を悟ったネルスが、分析機器の解析結果を告げた。

 

「敵分布と地形の照合を完了しました。あとは、振動センサーの観測結果を照合すれば確証が得られると思います。指定ポイントで停車し、センサーによる観測を行ってください」

 

「了解。ミリシア操縦手、そろそろ指定ポイントだな?」

 

「そろそろというか、もう着きますよ。停車しますねー」

 

 言うが早いか、滑らかに27式が停車する。慣れてしまったが、頑強さ最優先で乗り心地なんぞ全く考慮しない軍用車両でこの滑らかな挙動は、ミリシアの極めて高い操縦技術のたまものだ。これからもお世話になろう、とアレックスは記憶を振り返ってしみじみと思った。

 

 停車を確認し、グランドアンカーが撃ち込まれ振動センサーが索敵を行う。停車して得られた高精度の走査結果を、ネルスが分析する。ただ結果をコンピューターに読み上げさせればいいのなら、情報管理手という役割を置いていない。結局こういうのは、最後には人間の経験と推察、そして勘がものをいうのだ、とアレックスは信じている。

 

 別に機械を信用していないのではない、細かいニュアンスの違い、実際に戦場にいるからこその微細な違和感、そういうものをコンピューターはずばりと切り落としてしまう。現実は残念ながら、0と1に分解できるようなものではない。

 

「隊長、解析完了しました。隊長の予想通り、伏兵トンネルは途中でいくつにも枝分かれし、複数の出口があるようです。ですが、私の見立ても隊長の予想と同じく、大本は一つと考えられます」

 

「意見がそろったな」

 

『……どうしてそこまで正確な予想を? 歴戦の経験から、というだけではないでしょう?』

 

「道理だよ。私は上の人間を無能だと思っていないし、敵がただのケダモノとも思っていない。上の連中が偵察衛星で血眼になって索敵しても敵の出現ポイントがわからないなら、おそらく小さな出口に枝分かれして地形に隠れてるのが道理だ。でもそんな細かいトンネルをいくつも掘るのは効率が悪いからな。デカいトンネルを一つ掘って、衛星軌道からの地底走査が届かないあたりから細かく分岐するのが一番効率が良い。なんでこっちの目の範囲が分かっているかは知らないがな、異星生物はこっちの手の内をかなり見通してるぞ」

 

『な、なるほど……』

 

「だけど今度はこっちがあちらの手札を見通してるわけですね、隊長」

 

「そういう事だ、ミリシア操縦手。そして全部の出口をつぶすのは我々寡兵では不可能だが、地形が分かっているなら大きな分岐点を爆破して埋めちまえばいい。そこで、海兵隊の出番って訳だ。いけるな?」

 

『おまかせください、アレックス隊長。そういう任務は我々の十八番です』

 

「そこは期待してるよ」

 

「隊長、地形探査の結果から、27式が突入できそうなトンネルから最短ルートのものを算出しました。ミリシア操縦手、データきていますか?」

 

「確認したよ。ほんじゃ、激しいドライブといきますかね」

 

 ミリシアがアクセルを踏み込み、車内がガクンと揺れる。そのまままっすぐに、27式は目的のトンネル出入り口へと向かう。

 

 トンネルは、周辺の地形に溶け込むように巧妙に偽装されていた。人類軍の砲撃から逃れた天然の石樹枝が広がるその下に、ひっそりとかくれるように崩落が口を開けている。その中から次々に先兵級や猟兵級、清掃級が沸いてきているのを目視して、頬を歪ませるミリシア。

 

 ほんとはダメだけど。ほんとはいけないんだけど。

 

 この戦場に限っては、これが正義!

 

 目の前に無数の生命体を確認しながら、なおも加速する。高速で突進する軍用車輛の車体は鉄槌に等しく、回転する履帯はミンチメーカーに等しい。それまでの勢いを保ったまま、おそらく攻撃を受けるとは予想だにしていなかったであろう緩慢な動きの異星生物の群れに突っ込む。

 

 ドゴォ、というより、ドボォ、といった感じの衝撃。

 

 先兵級の吸盤のついた腕も、猟兵級の鋭い鉤爪も、清掃級のひょろりとした鞭のような肢も、まとめて鉄塊に引きつぶされて弾けてちぎれる。履帯の下で大量の肉塊を磨り潰すのを車体ごしに感じて、ミリシアは声を上げずに笑った。

 

「ストラーイク」

 

「ニーナ……ちょっとその表現はどうかなと……」

 

「段々ひき逃げアタック上達するなあ、ミリシア操縦手……」

 

 幸いにして27式に窓は殆どないので、外で起きてる一大スプラッタをアレックス以下の五名は見る事はない。が、彼らはちょっと忘れていた。今回は、海兵隊の皆さんが車輛後部に張り付いているのである。たちまち悲鳴があがった。

 

『何やってるんですかー?!』

 

「あ、忘れてた。まあ張り付いてるの後ろだし大丈夫だろ」

 

『そういう、問題、じゃ……ひぃいいなんか内臓張り付いてきたぁ!?』

 

『……なんか、転がっていく死体と目が合っちゃった……』

 

「いやお前ら、前線でど付き合ったらどのみち肉片塗れになるだろ。一緒じゃん」

 

『それだって好きでドログチャになってる訳じゃないんですけども!?』

 

「はいはいじゃれ合うのはその辺にね。敵さんもこっちに気が付いたみたいよ」

 

 ミリシアの言葉通り、暗いトンネルを照らすライトの明かりに、無数の敵の影が浮かび上がる。大量の先兵級が文字通り壁になって立ちふさがろうとするのを、機関砲の掃射が木っ端みじんに打ち砕いた。左右や後方から、脚力に物を言わせて追ってくる猟兵級を、海兵隊が機関銃で迎撃する。単身突入、すなわち周囲は全て敵だ。長居はできない。1秒足を止めれば包囲する敵の数は10倍になる。とにかく走り抜けてしまうのが唯一の活路だ。

 

 普通のドライバーなら無理だろう。だがミリシアは鼻歌交じりで死のダートコースを駆け抜けていく。こいつも大概おかしいよなあとアレックスは自分の事を棚に上げて思った。

 

「目的ポイントまであと100m」

 

「おっけぃ。ちょいときついのいくよ、振り落とされないでねー」

 

 軽い口調で、ミリシアが猛烈にハンドルを手繰り、ブレーキとアクセルを巧みに操作する。彼女の運転で27式は疾走しながらドリフトを行い、180度方向転換する。とっさにギアをバックにいれて勢いを落としながらも走る先に、目的であるトンネルの結合点がある。

 

「うへえ、なんかとにかくいっぱいいるぅ……」

 

 イオリがげっそりとつぶやく。暗がりでよく見えないが、多種多様なシルエットの異星生物がひしめいているのは、実にカオス極まりない光景だ。が、それに目を奪われている暇はない。

 

「照明弾、撃て! 出番だ海兵隊!」

 

『了解! ゴー、ゴーゴー!』

 

 マルチランチャーから投射された照明弾が、暗いトンネルを真昼のように照らし出す。急激に明るくなった事で、視覚を用いるタイプの異星生物は目が眩んで身動きに支障をきたす。

 

 その隙を逃さず、海兵隊チームは二名を車輛の護衛に残し、ナックル1以下三名が指定ポイントに急行する。巨大なアームで障害となる異星生物を薙ぎ払いながらポイントを確保すると、素早くナックル3が背負っていた荷物を床に降ろす。爆破工作用の時限爆弾、それも特大だ。側面の制御基板にキーを入力すると、爆弾からアンカーが展開され地面に突き刺さった。

 

 その作業の間、ナックル1とナックル2がそれぞれ異星生物を薙ぎ払って時間を稼ぐ。だが、わずか数秒の作業の間にも加速度的に状況は悪化していく。照明弾で行動不能になった異星生物は多いが、そうでない者も多い。特に厄介な猟兵級が惑わされなかった事もあって、機関銃を焼け付く寸前まで連続射撃し、とにかく近寄らせまいと弾幕を張る。

 

 その後ろでは、異常を感じて駆け付けた他の巨大異星生物の姿が。遅れてやってきた怪物達は当然照明弾で目をやられていないため、海兵隊の姿を見とがめるとすぐさま前進してくる。この数を相手にするのは無理だ。

 

「設置完了!」

 

「撤収!」

 

 ナックル3の報告に、はじかれたように下がる。それまで必死に守っていた爆弾に一切の未練を見せない急な動きに、異星生物達が困惑したように狙いを左右させる。だが、最終的には動く方を狙う事にしたのだろう、撤収する海兵隊に群がってくる。

 

 のっそりと前進した制圧級が手にしたバイオウェポンを彼らに向ける。地上で装備していたものとは違う形、種類をしたそれは、鋏でしめあげられると苦し気な絶叫と共に、無数の細長い棘を撃ちだした。狙いは甘いが本数が多い、10本近くの棘が海兵隊達に降り注ぎ、そのうちの一発がナックル1の肩をかすめた。よろめく彼女をナックル2が後ろから飛びつくように支え、三人そろって27式の後部ハッチに取りつく。それを見て、護衛の二人も車輛側面に飛びつくと、追いすがる敵に機関銃を連射した。

 

「出せ!」

 

 合図する時間も惜しいとばかりに急発進。取り囲もうとする敵に機関砲を撃ち放ちながら、27式が来た道を大急ぎで逆走する。

 

 背後からは無数の怪物達が大挙して追ってくる。数えるのも馬鹿馬鹿しい数の猟兵級がトンネルの床を壁を天井を這いまわり、黒い染みのように迫りくる。追われるがままではなくイオリが機関砲を後方にむけて撃ちまくるが、数が多すぎて焼石に水だ。

 

「ニーナ副砲手!」

 

「あいよ」

 

 アレックスの指示で、ニーナがミサイルを発射する。閉鎖空間での爆発兵器は自殺行為だが、今日のデュートリオンⅢは酸素が少ない日だ。普通に撃つより巻き込まれる危険性は低い。その分、いつもよりもミサイルの爆発は控えめだったが、それも計算のうちだ。トンネルを崩壊させない程度の爆発で、群がっている猟兵級が吹き飛ばされる。さらに爆発によって生じた急激な気圧の変化は、いくら異星生物としても命にかかわるレベルだ。脅威に見舞われて追撃の肢が緩み、その間に27式は全力疾走でトンネルの出口に向かう。差し込める光を確認して、ふぅ、とアレックスは気を抜く事はないものの、安堵の息を吐いた。

 

 

 

 第77独立遊撃隊が嵐のように立ち去った後。無数の死体の中に埋もれるように、時限爆弾は鎮座していた。音も立てない、大した熱源も持たないそれに、ほとんどの異星生物は感心を示さない。ただ、その場を生き残った制圧級のうちの一匹が、そういえばこれなんだったんだろう、という風に鋏の先で、つんつん、と爆弾の外殻を突いた。

 

 それを見たのか、猟兵級がわらわらと群がってくる。詳細はわからなくとも人類の残したものであるからして、破壊しようとしたのだろう。鋭い爪が堅い外殻に突き立てられるが、思いの他頑丈で手間取っている。

 

 その内部では、アナログの時限タイマーが残りカウントを数え終わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 トンネルの入り口付近は突入時に派手にぶちかましただけあって、元気な異星生物の姿は殆どない。少し余裕をもって、アレックスは腕時計を確認した。起爆時間まであと少しのはずだ。これで無事に任務完了のはず。

 

「起爆まであとちょっとか。一応破壊力が不足してもトンネルを封鎖できるようナパームを併用した起爆装置をしかけたけど、爆弾そのものは酸素が低くても爆発力が落ちないタイプだったっけ?」

 

『ええ。起爆時の爆発だけで、ポイントを破壊するには十分なはずです。まあ、酸素があればあるほど爆発は大きくなるものですが、今の酸素濃度なら気にする必要も無いでしょう』

 

「だな。……ん? ネルス情報管理手、どうした、顔を青くして」

 

「その……隊長……。出口に近づくにつれて、その。大気組成が……」

 

「ん?」

 

 ネルスの示す数値を確認するアレックス。直後、彼の悲鳴じみた指示が飛んだ。

 

「全力! 全力で走れ! ミリシア、エンジンが焼き付いてもいいから全力だ!」

 

 組成表の酸素の数値は、通常の五倍以上を示していた。もはや猛毒の大気といって差し支えないが、問題はそこではない。

 

「爆発がどのレベルの規模に拡大するかわからん! 死ぬ気で距離を取れ!」

 

 叫んだ直後、ドズン、という振動が車輛を、トンネル全体を揺らした。

 

 ……バックドラフトという現象がある。簡単に説明すると、閉鎖空間での燃焼により酸素を使い切り、可燃性ガスが充満しているにも関わらず一見すると僅かな火しか残ってない状態で、閉鎖が解かれ大量の酸素が流入した結果、可燃性ガスの燃焼が一気に進み爆発的な炎が発生する現象だ。

 

 そして今回、トンネルの状態はこのバックドラフト現象そのものではないが、それに近い状態になっていた。外気の大気変動が、地下にほられたトンネルにすぐさま影響する訳ではない。そのため低酸素状態で爆弾が起爆、トンネルが崩壊する。そうすると、崩落によって外気の高濃度の酸素が気圧差で流入する。そしてトンネル内には、低酸素状態故に燃焼しきらなかった気化した可燃性物質が充満しているはずだ。

 

 それらに、残り火が火をつけたら、どうなるか。

 

 最初の爆発とは比較にならないほどの轟音が、27式を背後から貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 最初に気が付いたのは、この乱戦状態でも目通しの利く、勘のよい兵士だった。

 

 彼はチリチリとした危機感に首を傾げ、これ以上何か起きるのかと視線をめぐらせた。最前線は相変わらず人類と異星生物が至近距離で殺し合う泥沼の消耗戦となっていたが、彼の感じた危機はそれではない。

 

「……なんだあれ」

 

 視線が、丘を二つぐらい越えた先に異変を確認する。真っ黒なキノコ雲が、今まさに傘を開く様。一瞬惚けた彼が、現実を理解するのに1秒ほどかかった。直後、塹壕に伏せて、無線越しに味方に警告を飛ばす。

 

「敵陣後方に戦略級爆発を確認! 伏せろ!」

 

 人類と異星生物、その命運の差を分けたのは、まさにその通信一つだった。

 

 多くの兵士が警告に従い、可能な限り身を隠す。しかしそれと相対していた異星生物は人間達の急な動きに何かを感じる事もなく、淡々と防衛線を乗り越えようとする。

 

 その無防備さが、致命的な結果を招いた。

 

 光に遅れて、衝撃波が到来する。兵士が戦略級、と判断したのに間違いはなく、それそのものが鉄槌のような空気の波濤が、前線をおしながした。

 

 小型の異星生物はひとたまりもない。見えない手で横殴りにされたかのようにへしゃげ、宙を舞い、地面へと叩きつけられて絶命する。俊足が自慢の猟兵級も、空気の振動そのものから逃げられるはずもなく、むしろ軽量化のために華奢な躰が災いして、生存率は先兵級より低かった。

 

 頑強な肉体をもつ戦車級や制圧級も例外ではない。戦車級は爆風に煽られ岩肌に叩きつけられ自慢の棘は悉くが折れ、中枢殻も砕けて青白い臓物をさらした。制圧級は手足がもげ、甲殻は砕け、青い血を流す筋肉組織をむき出しになりつつも、ごく少数は生き延びた。

 

 一瞬にして死屍累々と化した異星生物陣営。そこに、塹壕で爆風の衝撃をやりすごした人類軍の歩兵が襲い掛かった。さらに衝撃波を耐えて稼働可能な状態の車輛が砲撃を加え、残存勢力を次々と駆逐する。流石に全員が今の爆発をやり過ごせたわけではないが、コラテラルダメージの範疇に収まる被害だ。

 

 人類からすれば規模は違うものの爆発から伏せて身を守るのは何百年、何千年という付き合いである。群としてはともかく、個では本能にまかせて暴れるだけの異星生物との違いが、ここで大きな明暗を分けた。

 

 最も、普段であれば異星生物とてここまで間抜けではない。軌道爆撃には危険を感知して隠れるし、制圧砲撃に無防備にさらされる事もほとんどない。恐らくは、自分達のテリトリーで起きた爆発故に対応が狂ったものと考えられるが、そういう因果関係を顧みるのはえらい人の仕事だ。現場の兵士は、降ってわいた反撃の隙を逃さまいと、残された力を振り絞った。

 

 先ほどまでとは違う狂乱に包まれる戦場。一方、少し下がった位置にある塹壕の影では、負傷した政治将校が兵士に押さえつけられて治療を施されていた。先ほどまでは私も前線に戻る! と抵抗していた政治将校だったが、どうやら自分の出番はないようだ、と状況を顧みて抵抗を諦め、医療班の治療に身をまかせる。厄介な患者が大人しくなったことで、医療班の衛生兵はほっと肩を落とした。

 

「ふぅ。やっと治療を受けてくださる気になりましたか」

 

「貴様の名は覚えておくぞ。私の名が刻まれるのを邪魔しおって」

 

「そんなに嫌なら私を処刑なさればよかったでしょうに」

 

「職務に忠実なだけの者を撃てるかっ」

 

 吐き捨てる政治将校に、苦笑いを浮かべる衛生兵。最近はおかしな政治将校も増えてきたが、こういう人は嫌いではない、と彼は思った。残念ながら戦場では命に優先順位があり、優劣があり、死ぬべき者生きるべき者がいるのは事実であった。

 

「しかし、なんだったんでしょうね、あの爆発。酸素濃度が急激に高まっていたのは警告が回ってたはずですが」

 

「……少し前に、司令部から遊撃隊が敵の増援を断つべく行動に移った、という報告があった。奴らが敵のトンネルを爆破したのだろうが……地下に潜っていたせいで警告が届かなかったのだろうな。恐らく、無酸素状態を想定して爆弾を起爆し、結果的に過剰な爆発を引き起こしてしまったのだろう」

 

「あら、聞いて大丈夫なんですか、それ」

 

「問題ない」

 

 政治将校は軍帽を被り直し、目元を隠した。

 

「あの爆発だ。……意図しないものだったのなら、おそらく奴らは生きてはいまい。彼らの事を、一人でも多く覚えている者がいるにこしたことはないだろう」

 

 

 

 

 

 

「なんで生きてるのかね私達」

 

「謎だね」

 

「なぞ」

 

「いや別に死にたくはないんですけどね……」

 

 ミリシア達四人の女性士官は、岩肌にそろって座り込みながらぼやいた。少し離れた場所からは、海兵隊の皆がひっくりかえった27式を起こそうとする、おーえす!おーえす! という掛け声が聞こえてくる。

 

 あの大爆発。トンネルの奥から押し寄せてきた爆炎に半ば押し出されるように脱出した一行だったが、流石に死を覚悟した。あまりに勢いよく飛び出した車輛はほぼ空を飛んでいて、この高さから岩肌に落下すれば大破は免れられない。

 

 が、どういう幸運なのか、落下地点にちょうど制圧級が一匹、こちらに背をむけて、甲殻をいい具合の角度で突っ立っていた。それを踏み台にして着地の衝撃を緩和でき、あとはミリシアが乙女らしからぬ気合の声を上げて車体を制御、履帯や動輪を脱落させつつも着地に成功したのだ。

 

 直後にひっくりかえったものの、驚くべき事に外に張り付いていた海兵隊も含め、死傷者はゼロだった。

 

 ちなみに同じように爆発に巻き込まれた異星生物は見渡す限り全滅である。

 

 とはいえ装備的にはほぼ全損。海兵隊もパワードスーツは腕が全員もげてしまい、動力も壊れたそれを脱ぎ捨ててボディースーツ姿で車輛を元に戻そうと奮闘している。唯一の男手であるアレックスもそれに混じり、おーえす、おーえすと元気に声を張り上げていた。ちなみに当然だが状況が状況だから2mの距離は守られていない。

 

 なお、最新のパワードスーツに適応した彼女らのボディースーツは、体にぴっちりはりついた皮膜のようなものだった。動作の即応性を高めるだとか、しわがあるとアーマー内部でひっかかって危ないから、という理由らしいが、基地内では羽織っていたジャケットすらないと、ほとんど水着というか、裸と変わらないというか、むしろ裸より恥ずかしい気がする。さしもの海兵隊達も平静ではいられないようで、ちょっと恥じらい交じりで頬を赤らめていた。ただ一人、隣でその恰好でいられると目に毒だからとアレックスの上着を借りて隣で車を押すアヤカだけは、その赤面の意味合いが微妙に違うようではあったが。その様子を遠目に観察していたミリシアの目は酷く据わっていた。

 

「……やっぱ今から私も混じってくる」

 

「いや、だからやめときなさいって。だいたい貴女、着地時の衝撃で両足くじいてるじゃないの。動けないんだから大人しくしてなさい」

 

「だ、だって。だってー……」

 

「ん。ミリシア、ここは私達の負け。仕方ない……。全員どこかしらの負傷をしている以上、隊長のために大人しくしておくが吉……」

 

「大体……周辺に敵がいないとも……限らない。一応……私たちは、監視」

 

「ウギギギギギ」

 

 ネルス、イオリ、ニーナに論破されて、ギリギリと歯ぎしりして悔しがるミリシアに、三人一同ため息をつく。ちなみにネルスは右腕に裂傷、イオリは左肩脱臼、ニーナは左足の捻挫。全員、とても戦える状態ではない。人類軍の汎用装備がレーザーガンでなければ、歩哨に立つこともできないだろう。いや座っているのだが。

 

「ん。まって、おふざけはそこまで。敵が来たよ」

 

 イオリの言葉通り、数匹の先兵級が近場の崖を這いまわっていた。前線から逃げてきたのか、あるいはもともと気まぐれにこのあたりをうろついていたのか。異星生物には確固とした軍紀は当然存在しないので、その理由を推し量る事は難しい。

 

 確かなのは、今の状況で彼らは深刻な脅威だという事だ。

 

「隊長達の掛け声につられてでてきたのかしら」

 

「あいつら、耳はないって話だけど……空気の振動ぐらいは感じるかもね」

 

 ミリシアとニーナが這いつくばってレーザーガンのバイポッドを起こす。腕が使えないイオリとネルスはその補助だ。

 

「隊長、聞こえますか? 敵を確認しました、排除します」

 

『わかった。無理をするな。こちらも一時作業を中断する』

 

 何も四人は意味もなく集まっていたわけではない。彼女たちのいたポジションは隆起した岩肌の上であり、周辺を見渡しやすく逆に見つかりにくい。

 

 先制攻撃にはもってこいの状況だ。ただ、射手であるミリシアとニーナはまともに歩けない。初撃で仕留められなければ危険だが……。

 

「……ま、なんとかなるでしょ。隊長は五体満足だし」

 

 軽くつぶやけば、プレッシャーも軽くなった。レンズの中で拡大される先兵級の躰、その中心核を狙って引き金を引く。

 

 バシュゥ、と黄色い火花が跳ね上がった。遠距離からの質量なき攻撃を受けた先兵級は一度だけ肢を痙攣させ、その場に倒れた。動く様子は無い。

 

 ワンショットキル。射撃がさして得意でないミリシアからすれば上出来だ。

 

「仕留めた。ニーナはどう?」

 

「バッチシ。隊長直伝」

 

「距離があるうちに次を仕留めなきゃ。……あら?」

 

 戦果を確認し、次の獲物に照準を定める。が、レンズの中で次の先兵級はすでにもの言わぬ躯になっていた。

 

「ニーナ、もう次撃った?」

 

「撃ってない。……私達と同じようなタイミングで、誰かが撃った」

 

「誰かって……」

 

 ミリシアの目くばせを受けて、イオリが立ち上がる。岩場から身を晒せば敵に見つかる恐れがあるが、今は目立つのが最優先だ。

 

 ライトを手に取って、チカチカ、と規定のタイミングで点滅させる。友軍の存在を知らせる信号だ。

 

 そうすると、少し離れた岩場から、同じようにチカチカと光の応答があった。

 

「助かった、友軍だ!」

 

 続けて救難を意味する信号を繰り返す。

 

 すぐには反応はなかった。代わりに、軍用ジープがどこからか姿を現し向かってくる。見事なまでの隠ぺいだった、周辺の掃討を行っていた所を見るにベテランなのかもしれない。

 

 とにかく、横転した戦車を人力でひっくり返そうなどという不毛な時間はこれで終わりを迎えたようだ。

 

 





<戦場のひみつ:今現在生き残っている経済圏のほかに、宇宙にはかつて人類の経済圏は二つ存在した。それらは規模だけなら今残っているものよりも大きかったが、理論的な防衛戦を行う事ができず、異星生物の侵攻を前に責任転嫁の果て、内戦に勤しんだあげく塵も残らなかった。今現在ではただ、侮蔑と軽蔑の対象として歴史に存在が残るのみである。>
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