未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
AI。人類の良き下僕。便利な同居人。
概ね、彼らに人権はなく、彼らがそれを求める事はない。異星生物との戦争においても彼らは様々なところで活躍している。装甲車輛の制御系、司令部の戦術補佐、果てはレーザーガンの照準等々、彼ら無くして人類が戦っていくことはできないと言えるだろう。後方の植民惑星でも、市民管理のためにAIは便利な道具として活用されている。
だがしかし、彼らが異星生物との戦争において、直接矢面に立つことはない。
これは勿論、理由あってのことだ。
一つに、自己犠牲と自己防衛の境目の調整が、極めて難しい事。自己犠牲が強ければ、損害を顧みずに進撃し、結果的に悪戯に損害を拡大するのみになってしまう。逆に自己防衛が強ければ、消極的に侵攻するのみでちょっと戦況が悪化すれば防衛に専念し、最悪自己凍結で自らを守るのみになってしまう。これではとても、AIのみの戦場など構築できない。
不思議な話だが、最適解だけを選んでいると詰みやすくなる、というのが現実のおかしなところというべきなのだろうか。そもそも、未来を見通す事などできないのだから、現状における最適解が本当に正しい事など、誰にも保証できない。
二つに、整備性の問題だ。AI兵器は人間に比べると文句を言わず、悪環境にもへこたれず、壊れるまで動き続けるので一見、優れているように見える。が、この壊れるまで動き続ける、というのが問題だ。人間は最悪、水と食料と休憩時間をちゃんと与えていれば動き続ける。だが、機械はそうもいかない。一定時間ごとに整備し、油を差し、部品を交換しなければ壊れて動かなくなるだけだ。それを整備する自律工作機械を配備した所で、それもまた整備がいるし、何より戦力にならない部分にコストが増えていく事になる。じゃあ使い捨て前提の代物で、質より量を取ればいいのでは、という考えもあったが、そもそも物量で異星生物に対抗できるはずもない。
三つに、責任能力の話だ。作戦に失敗すれば当然指揮官や作戦立案者はある程度の責任を取らされるが、これは無能に仕事をさせ続ければ死人が増えるという、今後を考えての話でもあるし、周りへの示しでもある。規律と罰則がなければ組織は維持できない。だが、AIになると話は違う。彼らは恐怖しないし、納得もしない。作戦に失敗したAIを処分し次を用意したとして、新しいAIが前任者の失敗を顧みて慎重に振舞うかというとそうではない。先ほどもいったがAIは正しい事だけを言い、自らの正しさを疑うという機構を持ち合わせていないのだ。そしてそんなAIを処分した所で、周りへの示しがつくはずもない。あくまでAIの意見を採用した司令官の責任と言えばそれはそうなのだが、それなら猶更、後任がAIの意見を重用する事もないのが道理である、そうなったら高コストを払って配備された戦略AIはただの置物、無駄になってしまう。故に、戦略AIはあくまでアドバイザーにとどまり、戦略判断の一要素のみとして、指揮官の負担軽減が主な仕事とされる。
結局の所、AIだけの戦場など非現実的だと言わざるを得ないのだ。道具が、道具だけで戦争をできるはずもない。事実、戦争の中で何度も無人兵器の運用は試されてきたが、結局人間自身が銃を取った方が良い、という結論に収まっている。
しかし、だからといってAI部隊の運用が完全に忘れ去られた訳ではない。
よく勘違いされるが、司令部は別に兵士の命をなんとも思っていないわけではない。失われなければそれに越したことはないし、その代用になるものがあれば喜んで採用する。今はそれが無いだけだ。そして、用意するために一定のコストを割く事も忘れてはいない。
異星生物との戦争が始まって100年以上になる今も、一部の戦線では実験部隊という名目で命の代用品が模索されている。
「で、今回の玩具はこれかい」
「そういう事になりますね」
某惑星某所。前線基地の格納庫に送られてきた代物を見て、実験部隊の隊長は特に興味なさそうにつぶやいた。隣の副官が、添えられていた仕様をかみ砕いて通訳する。
「汎用性を犠牲に、極力構造を単純化して耐久性とコスト比を考慮。打撃部隊の衝突時の損害担当として開発されたオートマトン……だそうです」
「なんかうちのガキの玩具がこんなんだった気がするんだがな」
隊長の言葉には棘があるように聞こえるが、別にそんな事はない。ただの事実だからだ。
配備されたのは、全身丸っこい2mほどの人型。手足も胴体もずんぐりと太く、全体的にコロコロとしている。頭部は丸いフォルムでカメラアイが一つ、ぽつんとあるだけで、全体的に著しくディティールが乏しい。指も太く、隊長の言う通り低学年の子供向けの配慮された玩具のような見た目だった。
「強度を最重視して全体的に曲線デザインを採用、転倒時も衝撃を緩和し基本システムのエラー等の発生率が2割ほど軽減されてるらしいです。構造も単純化したので整備も簡単になってますね。多少の電気工事士の心得があれば問題なく修理できる造りになってるみたいです」
「なんか中からカチカチ聞こえるんだが」
「一部機構がアナログみたいですね。うわ、すげえ、真空管とか使われてる。ECM対策かな?」
「開発部の奴らとうとう狂ったかこれ??」
割と本気で心配して首を傾げる隊長。実験部隊として開発とは長い付き合いになるが、彼らの開発する兵器の推移を目の当たりにしていると、半ば本気でそう思えてくる。
最初、彼らの送ってくる兵器は、人間の存在を無視した、完全自律型の無人兵器群だった。お前らは後ろで黙ってみていろと言わんばかりのそれらは、しかし、実戦ではさんざんな成果しか残せず、結局後詰めの人間の部隊がしりぬぐいをする羽目になった。
それ以降、どんどん人間に寄り添った、というか人間の支援を重視した兵器へと推移していき、最終的に送られてきたのがこれである。AIとしての特性である自己判断能力や自立行動能力を限定し、人間の指揮下で人間の盾として戦う。最先端技術を取り扱う開発部としては忸怩たる思いなのか、あるいはこれこそが合理的だとの判断に至ったのか、それともヤケクソになったのかこれではイマイチ判断が付きかねる。
「ていうか、AI兵器、なんだよなこれ? ゼンマイ仕掛けのブリキ人形でなく? コンタクトとれんのかこれ?」
「ああ、そこは問題ないみたいですね。っていうか今までで一番対人コミュニケーション能力にリソース割いてますねこれ。適当に話しかけてみてください」
「え、まじか」
半信半疑でオートマトンの前に立つ。これまでのAI兵器群は、そこまでコミュニケーション能力を重視していなかった。一番最初の連中なんて指揮所からコード撃ち込まない限りこっちの言う事を聞かなかったほどだ。最近の比較的マシな奴でも、最低限無線通信越しじゃないとこちらの言語を認識しなかったのだが。
軽く手をふって挨拶すると、ピピ、とセンサー音が小さく鳴り響いた。
『オハヨウゴザイマス、リーダー』
「おっ、マジでしゃべるのか。へー」
『ピ。戦地デノ円滑ナコミュニケーションノ為ニ我々ニハ発声機能ガ備ワッテオリマス』
「……活舌はいまいちだな」
「もろ棒読みの合成音声ですね……」
『我々ニハ学習機能ガ備ワッテイマス。会話ヲ通シテ成長シマス』
「しかも未完成品かよ……」
「まあ、いいんじゃないですか? 役には立ちそうです」
ふん、と隊長は鼻をならして、オートマトンの丸っこいボディを見回した。
「だといいがな」
それから数週間後。
実験小隊は異星生物の前線基地への攻撃任務に就いていた。まあ、基地といっても異星生物のものであるからして、巣というか、食糧庫というか、よくわからない何かだ。まあ、その用途を調べるのは生物学者の話であり、実験小隊には関係がない。ただ確かなのは、そこを攻撃し破壊し制圧する事で、異星生物の進軍に影響があるという事だ。
ただ、敵の本拠地だけあって防御もかなり厳しい。人類のように無数の歩哨を配置していたりする訳ではないが、単純に敵の数が多い。特に大型個体が多いため、うかつに手をだせば蜂の巣を突いたような事になる。当然、少数でしかけた場合の末路は決まっている。
だが、そこに今から実験小隊のみで攻撃をしかける事になる。普通に考えれば自殺行為だが、実験小隊のメンバーに動揺はない。彼らは得体のしれない新兵器の実証を行うエリート達であり、今更無理難題の一つや二つに音を上げるような者は一人もいない。
バチバチと火花を散らしながら、彼らの運用する無履帯車輛が宙を浮くように移動する。それらは車体下部に斥力の力場を形成し、滑るように高速移動する最新の実験車両の一つだ。原理的にはホバークラフトに近いだろうか? 性能は間違いないのだが、車体下部に生成する力場は無差別に進路上の障害物を破砕する恐れがあり、運用時に迂闊に近づいた味方をミンチにしてしまう恐れがある為、心得のある者でしか運用できないという問題からまだ前線に配備されていない代物だ。逆に言えば、異星生物もほとんどこの車輛の事を知らない。少数で敵地に強襲をしかけるにはもってこいの代物だった。
「ポイントBを通過。もうそろそろポイントAです」
「ふん。いやに順調だな。荷台の荷物どもを起動しておけ」
「ラジャ」
強襲車輛の荷台は、簡単な装甲版で覆われている。あくまで強酸等への対策にすぎないペラペラの風防のようなものだ。その内部でずらりと整列していた無数の機体が、メカニックの操作で次々と起動していく。
支援用オートマトン、その改良型達だ。
ピカピカに磨かれていた装甲表面はこれまでの戦歴で無数の傷が刻まれ、歴戦の様相を示している。そのカメラアイに起動シグナルの緑の光が灯り、確かめるようにぐるぐると首を回した。人間が体をほぐすようなものだろうか。
『オートマトン、起動しました』
「よし。今回はお前らが作戦の鍵だ。敵前線基地の攻略にはお前たちの火力と装甲が頼りだ」
『おまかせください、メカニック。本日も、一人足りとて犠牲を出さずに終わらせて見せます』
「はは、よくいった。……機械のお前にいっても仕方がないがな……頼むぞ!」
『ラジャ』
異星生物の陣地で、爆発が巻き起こった。
強襲部隊の先制攻撃、何十発というロケット弾が陣地に降り注ぐ。その爆発で大きな損害を受けながらも、無数の個体が被害を顧みずにわっと湧き出した。どこにこれだけ隠れていたのか、という数であり、たちまち周辺が異星生物の群れで埋め尽くされる。
そこに強襲車輛が突入してくる。それらは不可視の斥力力場で進路上の異星生物を種類問わず挽肉に変えながら突入すると、くるりとその場で反転した。
その荷台から、速やかにオートマトン達が降り立っていく。高出力のアクチュエーターで跳躍するように飛び降り、ずしん、と自重を殺すようにしゃがみ込む。隙といえるその挙動に群がろうとする異星生物を、荷台から人間の兵士が射撃を行って支援した。彼らが使用するのは、バックパックを背負いそこからケーブルで電力を供給されるタイプのレーザーガンであり、兵站問題や汎用性などそもそもレーザーガンが採用された理由である利点をかなぐり捨てた本末転倒なものではあるが、火器としては遥かに強力だ。生命力が売りの先兵級であっても、急所を的確に撃ち抜かなくても仕留められる。
着地衝撃から立ち直った第一陣のオートマトン達が、戦闘機動を開始する。カメラアイを攻撃的な赤色に光らせながら、武骨な腕で薙ぎ払い、肩に装備された可動銃座から高出力レーザーを照射する。
だが、動きがいささか鈍い。それをついて、無数の先兵級がオートマトンに絡みついた。人間であれば忽ち四肢を八つ引きにされる有様……しかしオートマトンは一向にそれらを気にも留めず、好きなように動き回った。その両腕が振るわれる度に、絡みついた先兵級が逆に引きちぎられてバラバラになり、力を失った肉片がぼろりと落ちる。
先兵級ではらちが明かないとばかりに、戦場にでてくる漆黒の影。猟兵級であるならば、いくらオートマトンが頑丈であってもその装甲を切り裂く事が出来るだろう。
だが、そうはさせじと歩兵のレーザーガンが猟兵級を打ち抜く。前線の大多数をしめる一般兵と違い、彼ら実験小隊は精兵揃いだ。慌てる事無く、優先順位を間違わず的確な狙撃で瞬く間に猟兵級の数を減らしていく。オートマトンも、自らのレーザーガンで猟兵級を処理しながら、異星生物に鉄拳を振るう。
と、小型種を駆逐していけば、大型種が遅れて顔を出してきた。無数の棘に覆われた戦車級、生物兵器を備えた制圧級の群れを前に、オートマトン達は拳を突き出すと、手のひらに収めていた武装を展開した。
強襲車輛の斥力場発生装置をより小型化、攻撃用に転用したもの。不可視の、しかし戦車を一撃でへしゃげさせる強力な衝撃波が、大型の異星生物を吹き飛ばす。
しかし倒しても倒しても、次の異星生物が姿を現す。底なしに見える敵の戦力に、オートマトン達は躊躇いも迷いもなく、屹然と歩を進めた。
その日行われた、実験小隊による敵陣地攻撃任務は、半分成功、半分失敗に終わった。作戦そのものに問題はなかったのだが、陣地攻撃を受けて近隣の異星生物が引き返してきたため敵戦力が想定を上回り、対処不可能と判断し撤退。その際に、試験運用されていたオートマトン隊の過半数を損失した。
本来、敵戦力は前線での同時攻撃で牽制するはずだったのだが、一部戦線で想定以上の侵攻の遅れが生じ、結果敵遊軍戦力が生まれたのが原因だ。敵が引き返したことで一時的に前線は前進したものの、その後態勢を整えた敵の逆侵攻で前線は再び後退している。
主要目標であったオートマトンの戦力評価試験は上々といえる。彼らは人類歩兵を装甲と火力でカバーする壁となり、敵大型異星生物とも互角に渡り合った。見積もられていたよりも高い戦闘評価を上げており、新兵器のコンセプトモデルとしては成功の範囲に入る。問題は莫大な生産コストであり、こちらについては解決のめどが立っていない。
またオートマトン隊は、殿を務めた3機が、撤収を指示されたにも関わらず部隊員の援護を優先し、それによって離脱に失敗し失われたとの報告あり。制御AIの再調整が必要と判断され、配備されていた機体は一度全回収、解析のちに改修される予定である。
なお、この作戦で実験小隊は部隊員2名が死亡している。