未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:陸軍では基本的に強化装甲服の類を運用していないため、そういった装備を運用するのはもっぱら海兵隊である。これは兵站の事情や任務の違いもあるが、海兵隊の任務は概ね人間の限界を超えた能力を要求される事が多い、というのが要素として強い。半面陸軍の場合、兵士にそのような任務遂行能力を要求するのは単に指揮官の無能とみなされる。>
暗闇に突如弾けた閃光。
たとえ見えなくとも、だからこそ人間の目は暗闇の中、採光能力を全開にしている。その状態で、完全な闇の中から突如フラッシュバンの光を浴びれば、最悪失明、そうでなくても前後不覚に陥るというものだ。
閃光弾を放った者の狙いはそれであり、視覚を封じたうえで対象を制圧するつもりであった。だからこそ、閃光で照らし出された中、対象のアレックスが微塵も動じず、それどころか片手で傍らの部下の目を守る余裕さえあった事を目の当たりにしたときに、襲撃者も驚愕せざるを得なかった。
アレックスはそれどころか、目に布を巻き付けて完全に視野を封じていた。この闇の中、聴覚や感覚に集中する為に最初からそうしていたのだろう。それ故に、突然の閃光にも動じず、むしろ予想していたかのように対応を見せていた。
それを確認して、しかし襲撃者はそのままアレックスに突撃した。奇襲は失敗したようだが、さりとてそれで状況が好転するはずもない。
“普通の人間が、我々に敵うはずがない”。
その絶対的な自信をもって、襲撃者は装甲で覆われた手を伸ばした。殺すつもりはない、がイレギュラーには静かにしてもらおう。その意図で、骨の何本かはへし折るつもりで伸ばした指先は、しかし空を切った。
屈みこんで掴みかかりを回避したアレックスが、襲撃者の懐に潜り込む。彼は、分厚い装甲に覆われた襲撃者の体躯に戸惑うことなく、優しく触れるように指先を胸元に押し当てた。
直後、襲撃者の視界が一巡する。
合気の要領で投げ飛ばされたと即座に理解し、その理解故に混乱する。
生身ではないのだぞ?! その驚愕のあまりに体が動かず、そのまま床に叩きつけられる。重量で岩が砕け飛ぶが、装甲に覆われた襲撃者の体は無傷のまま。しかし、突進の勢いがそのまま自分に返ってきたような衝撃に息が乱れる。
ちゃきり、と首元に実銃が付きつけられる。気が付けば、大の字に伸びた襲撃者の上に片足を置いたアレックスが、手にした銃を突き付けていた。このようなちゃちな銃で、と考えた襲撃者だったが、しかしその銃をよく見て考えを改める。……生身の人間には不相応なほどの大口径。何故そんなものを持っているのかはうかがい知れないが、この距離でなら、装甲を抜くに十分な火力を秘めているのは明らかだった。
「動くな」
銃口を突きつけながら、アレックスが目隠しを取る。油断なく銃を構えながらも、その視線は襲撃者ではなく、周囲に油断なく向けられている。
足元では閃光弾の燃え残りが、ちりちりと音を立てながら仄かに周囲を照らし出している。その明かりに照らされて、僅かに周囲の様子がうかがえた。
明かりの元に露になった岩壁は、灰色の中に青白い斑点がいくつも輝いている。レアメタルの結晶がまじった岩は性質が変わるのか、あちこちで硬く砕け、鋭利な断面をさらしていた。その合間を、ちょろちょろと水が流れている。
俄かに明るくなった洞窟に、目を瞬かせるネルス。アレックスが遮ったおかげでフラッシュバンの直撃は受けていなかったが、暗闇に慣れた目が調子を取り戻すにはまだ時間が必要そうだ。おぼろげに像を結ぶ視界の中でおろおろと周辺を見渡す彼女は、アレックスが取り押さえている人物の姿を確認し、息を飲んだ。
見た事のないタイプのパワードスーツ。それもかなり大型だ。
重装甲でありながら四肢の均整がとれている。背中にはバックパックを背負っており、その中に動力等を収めているのか本体部分に不自然な膨らみがなく、追従性を最重視した設計思想が見て取れる。それはすなわち、海兵隊のようにボディシェルにパイロットを収めるタイプではなく、文字通り全身に装甲を着込む文字通りのスーツ構造であるはずだが、それを加味して考えると、中身の人間がいささか大きすぎるようにも見える。
細部の詳細は見て取れないが、装飾からして人類軍のパワードスーツに違いない。だが何故、それが突然襲ってきたのか?
「動くなと言ったはずだが」
わずかに首を動かした相手に、アレックスが乱暴に蹴りをいれる。彼らしからぬ粗暴な仕草だが、しかし制圧した相手とその仲間、両方に警戒心を飛ばしている今、紳士としてふるまう余裕もないだろう事ぐらいはネルスにもわかる。
制圧されたパワードスーツは叩きつけられた拍子にバックパックを酷く損傷したようで、黒い煙を吹いている。それでも、あそこから一瞬で立ち上がり人間の首をへし折るぐらいの事は可能なはずである。拳銃一つで制圧するにはあまりにも危険な相手だ。
それでもさっさと仕留めてしまわないのは、他の仲間を警戒しての事だろう。ここで取り押さえた相手を殺してしまえば、その仲間と戦うしかなくなる。いくらアレックスでも、流石に勝ち目があるとは思えない。
長い長い沈黙の時間が過ぎる。十分? 一時間? そんなはずがないとわかっていても、流れる時間があまりにもゆっくりだ。ごくり、とネルスは唾を飲んだ。
「……わかった。今から出る。撃たないでくれよ」
低い男の声。続いて言葉通り闇の中から、照明弾の明かりの中に踏み出してくる人影。
倒れているパワードスーツと全く同じ装備。体格も同じだ。
新たに現れた兵士は、敵意が無い事をアピールするようにアレックスに両手を掲げて万歳のポーズをとって見せる。それを見てアレックスが頷くと、兵士は自分のヘルメットに手をやり、それを取り外した。プシュウ、と圧縮空気の音がもれて、ヘルメットが取り外される。その下から、浅黒い肌の人間の顔が現れた。髪は綺麗に反り上げており、薄暗がりの中でもテカテカとしている額を軽くなでて、男は軽薄そうな口調で名乗りを上げた。
「どこぞの特殊部隊のだれかさんだ、マイクとでも呼んでくれ。悪いな、すげー機密部隊なんで名乗る訳にはいかないんだ。けっしてアンタを馬鹿にしてる訳じゃない」
「オーケー、マイク。了解した。俺の事はアレックスと呼んでくれ、兄弟。ようやく話が通じそうな相手と出会えてほっとしているよ。じゃあさっそくで悪いんだが、このせっかちさんを説き伏せてくれないか。うっかり足がひっかかって転ばせちまったせいで、ご機嫌斜めみたいでな」
「いいぜ兄弟、ちょっと待ってな」
軽口をたたき合って、マイクが倒れている兵士に何ごとか音を発さず指示をする。読唇術で読み取ろうとしたネルスはすぐに諦めた。通常の言語じゃない、おそらく部隊間の符丁か何かだ。よほど機密性の高い、それも極めて高度な訓練を受けた特殊部隊に違いないのだろう。
同僚の指示を受けてか、倒れていた兵士から抵抗の気配が消える。大人しくなった彼から足をどけて下がるアレックス。マイクは軽い歩調で歩み寄ると、倒れていた同僚を助け起こした。
助け起こされた兵士は一言も発さず、そのまま足元に片膝をついて待機する。
「……これ以上、一言も情報はよこせない、ってか?」
「それは違うぜ兄弟。こいつはボビー、先走ったうえに生身のあんたにあっさり無力化されちまったのがあまりにも恥ずかしくて合わせる顔がねえのさ。これは八割ぐらいガチだから、そこんとこ汲み取ってやってくれ。マジで」
軽薄な口調だったが、マジで、の所は声色が真剣だった。ちょっとネルスにはその気持ちが分かる。アレックスは訝しむような顔で眉を潜めているが。
「たまたま上手くいっただけさ。次は無い」
「謙遜もすぎると嫌味だぜケルベロス」
嫌そうにアレックスが顔をしかめた。
「……ケルベロスは犬だ。獅子じゃない。ってか、俺の事は全部知ってる、ってか」
遅れてネルスも言葉の意味に気が付く。ケルベロスはネルスでも知っている、地球古来の伝承に搭乗する三つ首の番犬だ。地獄の門番をしているという存在で、知名度とは裏腹にあまり活躍の類はない、と聞いている。
それに対し、アレックスは隻眼の獅子勲章を三つ持っている。それをさして三つ首と例えたのだ。つまり、この相手はアレックスの情報をある程度抑えているのだ。情報戦ではこちらが上回っている、という示唆か。
「おう、悪い悪い、マウント取るつもりじゃーないんだ。へへ、いやなに、優秀な兵士が察しが良いってのはまず無いからな、言葉遊びを楽しんじまった。不愉快にさせちまったなら誤るよ。お詫びにこっちも誠意っていう奴を見せよう」
劇団員のような大仰な素振りで手を振り、マイクがパチン、と指をならす。
途端に、いくつかの照明で周囲が照らし出された。それを持っているのは、複数のパワードスーツの兵士だ。それがすべてではなく、岩の影などから次々とパワードスーツが姿を露にする。気が付けばアレックスとネルスは洞窟の一角で、10人を超える装甲兵士に取り囲まれていた。おまけに全員、同じような体格……ほぼ巨人の軍勢といっても過言ではない。
明らかに思っていたよりも数が多い。アレックスがこれは負けた、と言わんばかりに額に手を当てた。少なくとも誠意を見せる、という言葉に裏はないらしい。なにせこの数で掛かられたらアレックスもどうしようもない。これでもなお、会話で解決しようというのは間違いなく誠意というものだ。実際、これみよがしに生身では持つのが精いっぱいな銃火器を抱えてはいたが、銃口をこちらに向けている兵士は一人もいなかった。
「オーケー、マイク。どうやら俺が思っていたよりもアンタはいいやつみたいだな? さっきの非礼を謝るよ」
「気にするな、兄弟。俺とアンタの仲だ」
にっ、と歯を見せて笑い、マイクはついてこい、と手振りで示した。
「色々話があるんだが、ここで立ち話してもしょうがない。質問には可能な限り答えるからさ、一緒に散歩といこうじゃないか」
アレックスは即答せず、ネルスと一度目を合わせる。ネルスも、こくん、と頷いて意思を示す。どのみち出口もはっきりしない暗夜行路だったのだ、道がわかっているらしい同行者がいるならそれに越したことはない。その出口がさらなる地獄という可能性もあるし、見たところその可能性の方が高いが、実際の所見逃してくれそうにもない。
選択肢はあるようでないとみるべきだろう。アレックスとネルスは最低限の警戒は保ちつつ、先導するマイクの後ろについた。挟み込むように無言で彼の同僚が背後に回ってくる。
マイクは一見素顔をさらし、通信もしていないように見えるが、しかし周囲と連携が取れすぎている。何らかのインプラントをしているな、と目測し、アレックスは内心の警戒度と対象の危険評価を繰り上げた。
厄介な事だ。どうしていつもこうなるのかね、と暗澹たる気持ちのアレックス。だが、傍らによせたネルスの顔を見ると、こつん、と自分の頭を小突き、彼女を抱き寄せた。
「た、隊長?」
「明るくても足元が滑るのは変わらないからな。気をつけろよ」
「は、はい……」
「なんだ、兄弟の女か?」
「可愛い部下だからな。つまらん事で怪我させたくない。それよりマイク、もう少し言葉遊びをしないか?」
「おぅ?」
「情報交換と行こう。どっちが価値のある情報を持っているか、詳らかにしようじゃないか」
前線基地陥落から16時間が過ぎた。
基地を放棄した部隊は事前の規定に従い合流地点へと集った。混乱は少なく、合流地点で部隊の再編制が行われている。
基本的に軍が最も大きな被害を受けるのは撤退戦だ。特に拠点からの撤収は、脱落者等大きな被害が出る。にも拘わらず、今回はさほど大きな被害はなかった。八割ちかい戦力が離脱に成功し、士気も高く復讐を叫びながら部隊が編制される。
これについては、司令部から最後にきちんとした指示が出たのが一つ、そしてもう一つが強襲してきた敵の戦力がさほどではなかった、というのが大きい。
強襲してきた巨大生物は、しかし司令塔の破壊以外は大した動きを見せなかった。もしあれがあの巨体で暴れまわれば甚大な被害が出ていたのは間違いない。しかし実際は、瓦礫の中から気休め程度に沸いてきた少数の手勢をけしかけるだけで、撤退する部隊に対しては放置もよい所だった。
この事は多くの兵士も士官も気になっている事だが、結論を出せるものはいない。ただ、もしかすると疲れ切って動けなかったのではないか、という意見が大半だ。なんだかんだで基地の地下はかなりの範囲に渡って耐爆コンクリートで埋め立てられていた。その下まで掘り進み、一気に奇襲したとしても、相当の厚さのコンクリートを突き破って地上に向かった事になる。あの巨大な異星生物でも、それは絶大な負担だったのではないか、と。
また、下準備や投入した戦力の規模に対し、しょっぱい戦果に終わった、とする意見もある。もし司令部に何を言わせる事もなく葬っていれば命令もなく、抗戦する部隊、撤退する部隊でわやくちゃになり酷い事になったかもしれないが、そこは不幸中の幸いと誰もが思っている。
ただ、そうでもない者達もいる。
それは数少ない犠牲者の中に替えがきかない人物が入っていた者達であり……第77独立遊撃隊のメンバーも、その中の一つだった。
全員ではない。ここに居るのはアヤカほか数名の海兵隊戦闘員と、ミリシア、イオリ、ニーナ、そして新しく部隊に同行する事になったシルバだけだ。他のメンバーとは逸れたままだ。
彼女らは基地から脱出する友軍の車輛の荷台を間借りし、ここまでやってきた。本来ならば同じように脱出したであろう事務員や整備班、他の海兵隊メンバーを探さなければならないのだが、しかしながら皆にその気力はないようだった。
「隊長……戻ってこないね……」
ぽつり、とニーナがつぶやく。
ミリシアはイライラとし指でリズムを取り、イオリはただひたすらおろおろ、アヤカは困ったように額に手を当てていた。
「どうしたもんかね……」
独立遊撃隊は、ある意味アレックスあっての部隊だ。その部隊長がMIA、作戦中消息不明になってしまえば、独立遊撃隊は成り立たない。彼抜きで運用が続けられるのか、それとも解体して原隊に戻されるのか。この状況では判然としない。
いやまあ、そもそも自分達の身の振りもわからない。混乱が少ないとはいえ基地陥落はあまりにも大きい失点だ。このまま異星生物の軍勢に押しつぶされて明日にも、という事もありうる。明日もしれないのは戦場では珍しくもない事だが、しかしここ最近はアレックスという精神的支柱があったからさほど気にすることもなかった。
だがいざそれが失われてしまうと、なかなかクるものがある。
「どうしよう……隊長、やっぱり……」
「言わないでイオリ」
「でもミリシア……」
「あれで生きてたら四つ目の獅子勲章じゃねーかな……」
部隊の主要メンバーがそろって肩を落としている、その時だった。
「あのお方なら無事ですよ」
全員が胡乱気に首を上げる。その視線の先には、フードで顔を隠した老婆の姿。つい先日、部隊に入ったばかりの星見観測者……シルバ。
「……今、なんて」
「アレックス・ウィンザード中尉は無事です。あの方の光は、消えていません」
「そういうの、わかる訳? 星見だから?」
「今はそうお答えしましょう」
老婆のしわくちゃの顔を眺めながら、ミリシアは考える。
信じたい。本当なら飛びついて信じてしまいたい。だが、そういう訳にもいかない。
ミリシアは星見の能力を疑っている訳ではないが、かといって傾倒している訳でもない。安直な希望に飛びついて、それで裏切られた時、人の受ける傷は何倍にもなる。内心の恐れが、ミリシアを縛り付けている。
「そんな事……信じられない……」
つぶやくミリシアに、イオリやアヤカも同調するように目を伏せる。シルバは……自らの言葉を否定された事をどう思ったのか。フードの下の彼女の表情はうかがえない。
ただ、一人だけ。一人だけ、違う事を考えていた者がいた。
「それで。隊長が生きてて、じゃあどうすればいい?」
「ニーナ?」
「ここでぼさっとしてる訳にもいかないでしょ。隊長が生きてるっていうなら、じゃあどうすればいいぐらい、見えるんでしょ。迎えに行けばいい? それとも待っていた方がいいのかな」
「待って。貴女、信じるの? その……私は、無理だわ。怖い。怖いの。なんで貴女はそんなあっさり……」
「私自身の判断じゃないよ。隊長ならそうするだろうってだけ」
一人、背筋をしゃんと伸ばすニーナ。その表情は、妄信に近いものかもしれないが、晴れやかだった。
「私は星見の事は分からない。でも隊長があれだけ厚遇して尊重していたのだから、隊長は星見の意見を優先して採用するはず。私は隊長の部下として、あの人の指示に従うと決めた。例えこの場にいなくても、それは変わらない。それで、シルバさん。私達はどうすればいい? どうすれば、あの人の意に沿える?」
「そうですね。まずは、整備班と合流し、車輛を確保するのが肝要でしょう」
「……整備班が車輛と一緒に脱出していると?」
「ええ。そうですね……もう少し詳しく言いますと、足回りの修繕だけ最優先で行っていたおかげで、独自に逃げ出したようですね。ただ、道に迷って少し立ち往生しているようです。武装も外していたので慎重に動きすぎて逸れてしまったようですね。……地図のこのあたりでしょうか?」
言って、シルバが地図を取り出して、枯れ木のような指先で場所を示す。
場所は、そう離れた所ではない。今のメンバーでも向かう事は可能だろう。ただ、決して安全ではない。周辺には異星生物が徘徊している可能性があるし、もし猟兵級の群れに遭遇すればお陀仏だ。そのリスクと、シルバの言う事を信じるかどうかの天秤が、一向の頭の中で揺れる。
信じたくない訳ではない。ただ、シルバの言葉はあまりにも具体的だった。まるで見てきたかのような言に、逆に信じていいのか、という疑惑も沸いてしまう。詐欺師とは、常に自信家だからだ。
「……上等じゃん」
その中で、真っ先に天秤を蹴倒したのはミリシアだった。彼女はさっきまでの陰鬱な目はどこへやら、挑発的に目を細めながらレーザーガンの点検を始めた。
「いいよ、やってやる。そこに行って整備班が本当にいれば、隊長が生きてるって言も信じられるし、合流もできて一石二鳥よ。やってやろうじゃないの」
「……ま、どのみち他にやることなかったしな。スーツがなくても海兵隊魂は健在ってとこをみせてやるぜ」
「皆……。……隊長の無謀さに感染したら駄目よ? 私達、猟兵級の爪も捌けないし、制圧級の急所を突いたりもできないし、先兵級の腕を引きちぎったりとかできないんだからね?」
「イオリー、最後のは隊長でも無理だと思うよ。あの人、フィジカルはフィジカルでも反応速度がおかしいタイプだから」
「そこがわかってるなら良し」
ガヤガヤと皆が動き出す。その様子を見て、ニーナはひっそりと心の奥で安堵した。慣れない事をした甲斐があった。
そんなニーナに、シルバが少し困ったように尋ねかけた。
「あの……今の冗談は、最近の流行りなのでしょうか?」
「冗談?」
「いやまあ……まるで、先兵級を引きちぎる以外は本当に出来るみたいな……。冗談、ですよね……?」
ニーナは誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
ミリシア達が色んな意味での異文化コミュニケーションを行っていた、その一方。
アレックスとネルス、そしてマイクを名乗る男の率いる謎の一行は、変わらず地下洞窟を行脚していた。
見知らぬもの同士、真意を探るような沈黙が続く……という事はなく、意外なことに、マイクという男はお喋りであった。コンタクト時のトラブルはなんだったのか、情報開示に抵抗はないようである。勿論、喋れる範囲で、という但し書きがついているのは間違いなのだが、しかし交渉が難航すると思っていたアレックスには予想外の展開だった。
「つまり、アンタらは名目上も存在しない、友軍にも所在を隠してる極秘の存在って事か」
「そういう事。友軍を支援する事もされる事もない、ロンリーソルジャー、それが俺達って事よ。例え味方が全滅しようと、自分達が裏でひっそりと全滅しようと、鉄の意思で己の任務を成すアイアンソルジャー……痺れるだろ?」
「痺れるな。んで、なんでそんな冷血戦士が私達と同行する気になったんだよ」
「そこを突かれると弱いんだが……俺達の存在は友軍にも知られちゃいけない。かといって、証拠隠滅のために友軍を殺す訳にもいかんだろ? 出自を誤魔化して地上まで送るっていうのも考えたが、そのために戦力を割く訳にもいかない。だったら、しょうがないけどご同行願うしかないじゃん?」
「嘘はよくないな、マイク。その前に私達を見捨てるつもりだった、が抜けてるぞ。私が察知しなかったら普通に素通りするつもりだったんだろ? あとついでに口封じする気満々だったじゃないか?」
「おう、昔の事をいつまでもネチネチ突きまわすのはモテないぞ兄弟? 別に殺す気はなかったんだってば、ちょっとお休み頂こうと思っただけでな……この場合兄弟がバケモンすぎなのさ。スーツ着こんでる俺達を一本背負いとか何? いまだに信じられないんですけどー」
「一本背負いなんかしたら私の背骨が折れる。合気の要領で転がしただけさ。次もできるかはわかんねー」
「ハハハハハ。知ってるぞ、そういう事言う奴に限って次はもっとえげつない真似してくるんだ。……いやマジでお前なんなの兄弟?」
「何って人間だが」
「HAHAHAナイスジョーク!」
爆笑しながらバンバンとアレックスの背中をたたくマイク。叩かれてるアレックスがうざったいなコイツ……という顔をするだけで済んでいるあたり、スーツで増強されているはずの筋力を完全に制御しているわね、とネルスは観察した。海兵隊で一番の使い手であるアヤカも、時折力加減を誤って備品を壊している事を考えると、やはり軽い口調とは裏腹に練度が異常だ。そしておそらく、隊列を構成する10人近いパワードスーツ全員が近い練度だ。
武装の性能が分からないから断言できないが、少なくとも常人の兵士100人よりも強力な戦力なのではないだろうか?
それにしてもそんな相手に囲まれた中で表面上は気やすく会話をかわし、情報を引き出そうとするアレックスの度胸にはネルスも感心を通り越して呆れてくるレベルである。
「あと言っておくがボビーをひっくり返した事だけで兄弟に呆れてるんじゃないからな?」
「へえ。それはさっきからやたら気前がいいのと関係してるのか?」
アレックスが目を細める。どうやら本題に入ったらしい。
<戦場のひみつ:再生医療の類は一般兵でも受けられるが、治療には時間がかかる。最前線では応急処置的に義肢がとりつけられる事が多いのだが、生身より頑丈だったり交換が容易なため、そのまま義肢を使い続ける兵士も多い。>