※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:徴兵された兵の兵役期間は一般的に5年である。ただ、従軍中の功罪によって上下する。ほとんどの兵士は戦死するか、退任が可能であっても同僚を残していく事ができずにそのままずるずると兵役を続行する事が多く、きっちり5年で退役する兵士は非常に少ない。中には深刻な軍紀違反を犯して死刑の代わりに無期兵役になった者もいる。>





第三十四話 敵に向かって撤退せよ

 

 

 

 

 

「地上が滅茶苦茶になってる話はしたが、お前らには関係ないんだろう、兄弟?」

 

「ははは、まあ確かにそうなんだがな。……こっちとしても、割とジョークで済まねえ話をアンタが持ってたのは本当に意外だったんだ。ある意味、俺達の出自よりヤベェ話さ。“DEATH”と交戦してあまつさえ撃退するヒューマンが実在するとはね」

 

「何?」

 

「DEATH。スケスケマッチョマンのコードネームさ。兄弟は色々と頭が回るみたいだから先にいっておくが、こいつが異星生物なのはほぼ間違いない。司令部は、奴は異星生物の上級工作員だと認定してずっと追いかけてた」

 

「……異星生物に対する前提が根底からひっくり返るな。奴は間違いなく知性と自我を持っていたぞ」

 

「そう。それが奴だけなのか、他にもいろいろいるのか、いたとしてそいつらこそが“異星生物”の本体なのか、何もわからんが何かを知るきっかけにはなる。まさにとびきりのお宝野郎だが……古来、宝ってのは怪物が守るもんだ。この場合は奴自身が怪物だが」

 

 マイクはむっつりと顎を引いた仏頂面で語りを続ける。さっきまでのとってつけたような朗らかな演技よりよっぽど似合ってるな、とアレックスは内心茶化したが、口にする事はない。

 

「そもそものきっかけは、ある戦線で異星生物の逆侵攻の直前、司令官の不審死が相次いだ事が確認されたからだ。それもほんの数分前、発覚したのは本当に偶然だ。下手をしたら今も侵攻の中で死んだと誤認されていたかもな。んで、それをやらかした奴がいて、そいつが全ての件において同一個体だという疑惑も出てきた。それで、司令部は奴をアリステラで狩りだそうとしたんだが……おっと、アリステラの事は知ってるかい、兄弟?」

 

「知ってるわけないだろ……。噂には聞いたことがあるぐらいで、対面した事があるんだかないんだか。肩に腕章でも下げてくれていたら分かりやすいんだが」

 

「流石に知らんか、機密だからな。あ、これオフレコにしといてくれよ、俺がバラしたって知られたら締められる」

 

「おい」

 

「ははは。まあ、精兵で構成された特殊部隊だと思えばいい。俺達には劣るが、相当やべえ奴らだ。そいつら一個中隊を差し向けて、その工作員を捕らえようとしたんだが……」

 

「返り討ちか」

 

「ご明察。一人で一般兵十人分の働きをするって言われる精鋭部隊が、たった一匹の異星生物に返り討ち。生きて帰ったものは僅か数名、そいつらもほとんど奴の姿を見ていない。奴と戦った兵士は鏖だ。だから、司令部はそいつに“DEATH”というコードネームを与え、ずっと警戒してきた。警戒してどうにかなるもんじゃないがな」

 

「おっそろしい奴だな。しかし、アリステラの連中、奴の姿は確認できてたんだろう? どうやったんだ、サーモセンサーとかなら見えるのか?」

 

「……それなんだがな。奴が光学迷彩を使うって話は兄弟、あんたの口から初めてきいたんだよ、俺」

 

 まいったぜほんと、とマイクは肩を竦めた。

 

「マジか」

 

「マジさ。恐らくアリステラとの戦闘以後だろう。自分の存在が認知されていて、警戒されている事を把握して対策したんだ。しかもレーザーが突き抜けるレベルの光学迷彩とかヘヴィにも程があるだろ、人類の最新鋭装備でもそれは無理だぜ。いいか、兄弟。俺達はDEATHがこの星にきてる事も知らなかったし、奴がスケスケになる事も知らなかった。この意味が分かるか? アンタが体一つで分捕ってきた情報は、戦略級の爆弾ニュースだ」

 

「自分で言うのもなんだが、信じるのか? 大分怪しい事を口にしてる自覚もあるんだが」

 

 特に、透明な相手とナイフ戦が成立したとか、アレックス自身何言ってんだコイツ、って感じである。自分でもなんで成立したのか不思議な話だ。

 

 だがマイクには違う見解があるようだった。

 

「交戦したアリステラの死傷は、熟練のナイフ使いによるものだと誤認するような鮮やかな手さばきだったらしい。やっこさんの潜伏能力を考えれば、透明になれなくても軍の鍛錬に忍び込んで真似するぐらいは朝飯前だろうよ。ベテランはベテランを知る、体に染みついた動きでたまたま凌げた、なんてのはあり得ると思うぜ。特にあんたの場合」

 

「人を化け物みたいに言うな。しかし、納得したよ」

 

「うん?」

 

「いくらこちらが貴重な情報を提供したからって、そっちが私達に情報を開示する理由はない。訝しんでたんだが、今ので納得した。あの透明野郎の話を信じるって事は、私を奴にぶつけるつもりだな? あるいは、カナリアか。奴も、仕留めそこなった私を狙ってくる可能性があるからな」

 

「あー。そういう意図がない、といったらウソになるが……」

 

「いや、別に責めている訳じゃない。ある程度利益がはっきりしている方がこちらもやりやすい。それで、開示できる情報はそれだけか?」

 

「そうだな。あとはこっちの主目的ぐらいは話しておかないと不味いか? 兄弟、俺達の目標はなんだと思う?」

 

「んー……」

 

 問われて考え込む。

 

 本来マイク達は、地下洞窟を単独で侵攻し、どこかへ向かう予定だった。これは間違いない。その途中で崩落が発生し、上から落ちてきたアレックス達と偶然遭遇した。これも間違いないはずだ。

 

 しかし精鋭の機密部隊を投入するような戦場は、アレックスの記憶にはない。この惑星での戦いは、基本的に人類側の浄化施設を巡って行われているもので、それはあくまで量と量のぶつかり合い。精鋭部隊というものはそんな戦場に投入するものではなく、斬首戦術のような、敵のウィークポイントにぶつけるものだ。あるいは、攻勢限界まで押し込んだあとのダメ押しだ。

 

 そしてアレックスの知識に、異星生物がそんな攻略したら戦況が好転するようなわかりやすい拠点を作る事はそうそうない。

 

 さらにダメ押しするような局面も存在しない。むしろ現状、人類が聊か押されがちだ。劣勢を覆すために精鋭部隊を投入するような事はあるが、しかしそれはもったいない使い方だ。精鋭部隊はレアメタルの刃のようなもので、やはり仕上げにこそが相応しい。

 

 そうなると、だ。

 

 疑うべきは前提。

 

 アレックスの知識にない標的が、この惑星上に存在すると考えるべきだ。

 

 そしてこの惑星ヴァーミリオンⅢの特性を考えると……。

 

「そうだな。根拠も何もないが、レアメタルの精製施設か、大規模な環境改造プラント、そのあたりか? 地下にあるのか」

 

「……うーーん……。なあ兄弟。鋭すぎるのも問題だぜ?」

 

「あのなあ兄弟。おまえらの存在自体が半分答えみたいなもんなんだからしょうがないだろ? その反応で答え合わせはしない方がいいってのがわかったが、しかし本当に連れていくのか?」

 

「そりゃあしょうがないだろう。戦力としては評価を高くせざるを得ない以上、悪いけど徴発って事でつきあってもらうしかねーよ。こちらとしてもそこまで把握されちゃ放置できない」

 

「そっかー……。悪いネルス、どーも駄目だ。特大の貧乏くじだわこれ」

 

「いえ、まあ、それは覚悟してましたから……」

 

 今更の話である。

 

「まー、そういう訳だから、死なない程度にそこそこ立ち回ってくれよ兄弟」

 

「わかったよ。精々足を引っ張らないようにするから、作戦終了後の恩赦は頼むぜ」

 

「そこはまあ、働き次第だな!」

 

 はははは、と笑って先に進むマイクの後を、心底げっそりした顔で追うアレックス。ネルスはその傍らに付き添いながら、周囲の隊員達に目を向ける。

 

 誰もかれもが、こちらを一瞥にもしない。今のマイクとアレックスの会話にも、まったく反応を示さなかった。興味すらないように見える。

 

 正直、不気味だ。決してアンドロイドか何かではないのはわかるのだが、非人間的というか。まるで自分達を同じ種類の生物だと思ってないかのようだ。

 

「ネルス」

 

「っ」

 

「あまり詮索するな。こいつらはヤバイ。特級の厄ネタなのは間違いない、後で勘繰られるような事はするな」

 

「わかりました……」

 

 そのまま、互いに沈黙する。前では先行するマイクが鼻歌なんぞを歌っているが、いかにもこう、嘘っぽい。人間でないものが人間ならこうするだろう、と真似しているようだな、とアレックスは感想を抱いた。

 

 と、不意にマイクが足を止めた。一瞬だけ訝しむアレックスだが、すぐに彼も理由に気が付く。

 

「おでましか。……なんだ、また見た事のない奴っぽいな」

 

「へえ、兄弟。見えないのにわかるのか」

 

「こんな特徴的な音を立ててたらな」

 

 左右に散開した隊員が、ライトの光を闇に向けて敵の姿を探る。その間にも、アレックスの言う所の特徴的な音が、だんだんとネルスにもはっきりと聞こえてきた。

 

 ネチネチという、粘度の高い液体をこね合わせるような音。なるほど、こうまで露骨な粘液音を立てる異星生物はネルスも聞いたことがない。

 

 一応、あえて情報管理手としてアレックスには提言しておく。

 

「現地生物、という可能性は?」

 

「それだったら取り越し苦労で済むんだがな」

 

 アレックスもレーザーガンを構える。

 

 そうこうするうちに、ついにライトの光が敵の姿をとらえた。露になったその姿に、ネルスがうっと声を漏らす。

 

 一言でいうと、それは巨大なカタツムリににていた。全高4m程の、ゴツゴツとした殻をもっている。ただよくみればカタツムリのような四本角は見えず、殻から出る肌色の柔らかい体も多方向にタコの足を思わせるように伸びていて、複数の軟体生物の特徴を組み合わせたような異様な姿だった。

 

 鎌首をもたげるように、怪物の手足の先端が持ち上がり、ゆらゆらと揺れる。その動きに、どこか生物の捕食動作の前兆じみたものを感じ取って、アレックスはとっさにネルスを抱きかかえながら身を伏せた。

 

 次の瞬間、それらの腕先が素早く伸びた。鞭を叩きつけるように振り回されるそれに触れてしまった隊員のアーマーが、夥しい量の火花を散らした。うち一本がアレックス達の付近をかすめ、同じように火花を散らして岩壁を抉り取った。するすると伸びた手足が引いた後には、まるで熱湯をかけて溶けた氷のような掘削痕が深々と残っている。

 

「なっ……」

 

 凄まじい掘削力にアレックスも目を剥く。見れば回りの隊員も、回避ないし防御で被害は最低限に抑えたにもかかわらず、触れてしまったアーマーの一部がごっそりと抉られている。致命傷を受けたメンバーはいないようだが、明らかに動揺が動きに出ていた。

 

「なんだ今の!?」

 

「た、隊長、ちらっと奴の躰の裏側が見えたんですが、びっしりと何か細かいのが並んでました。舌歯のようなものと思われます」

 

「どんだけ歯が強いんだよアイツ!?」

 

 勿論そういう話ではない。見た目は初めて見るが、異星生物である事を疑う余地はないだろう。こんな生物が普通に生息していたら、この惑星で採掘なんてやっていられない。

 

 瞬時に生態を模索する。あのカタツムリの殻のようなものは、そうやって舌歯で削り取った物質で構築しているのだろうか。躰の裏側がごっそり歯、という事は露出しているのは躰ではなく、捕食器官だろうか。だとすると、そこを攻撃しても意味が薄そうだ。普通の軟体生物でも、口部はいくら傷ついてもなんともない場合が多い。だが、本体を攻撃しようにも、あの殻が邪魔だ。よくできている。

 

 それと同時に、一つの疑惑も浮上してくる。異星生物は大きなトンネルを短期間で掘るくせに、掘削の振動とかそういうのが感知されない事が以前から不思議だった。だが、こいつなら。この非常識な切削能力をもつ異星生物なら、秘密裏にトンネルを掘る事もできるのかもしれない。

 

「おい、マイク! こいつの事、お前らは知ってるのか?!」

 

「知ってる訳ないだろ兄弟! 初めて見るぞこんなイカレタコ助なのかカタツムリなのかわからねー奴! どうする命名権いるか!?」

 

「じゃあ貰っとくよ、こいつ多分掘削級だ! 色々と辻褄が合う!」

 

「……! 確かにな。だったら余計みのがせねーな!」

 

 流石というべきか、一言の指摘で同じ結論に至ったのだろう。交戦するか撤退すべきか、判断を決めかねていた部隊が殲滅方向で意思が決定されたのを感じる。

 

 彼らは機密作戦中であり、本来余計な戦闘はさけるべきである。が、これが本当に掘削級であるなら話は別だ。これを置いて行ったが最後、好き放題トンネルを掘られていくらでも増援を呼び込まれてしまう。そうなったら完全に詰みだ。

 

 まあ、そもそもあちらに、こちらを見逃すつもりは毛頭ないようだが。ひゅんひゅんと触腕を振り回す敵の様子に、部隊が大型ライフルを構えた。

 

「おっと兄弟、言い忘れてたが耳栓装備しろ! 俺達の装備は実弾だ、鼓膜が破れてもしらんぞ!」

 

 慌てて耳栓を装着するアレックスとネルス。その様子を確認する事もなく、彼らは掘削級に向けて発砲した。

 

 爆発のようなマズルフラッシュが洞窟内を照らし、爆音が音圧になって反響した。至近距離の戦車砲の爆音からも鼓膜を守る高性能な耳栓のおかげで耳が痛む事はないが、ビリビリと肌が泡立つ。パワードスーツを装着しているとはいえ、人間の持つ銃の火力ではない。パワードスーツの膂力を加味しても尋常ではない反動のはずなのに、しかし隊員達はそんな銃を立て続けにマシンガンのように連射した。

 

 そんな火力にさらされた掘削級は哀れなものだった。自慢の甲殻も一瞬で砕かれ、露出した内臓に容赦なく銃撃が叩き込まれる。数秒でぐずぐずの肉塊になったそれは、確認するまでもなく絶命以外の何物でもない。これで生きていたら逆に生物かどうか疑わしい所だ。

 

 ぐしゃりと崩れ落ちる肉塊。かなり強力な異星生物だったのだろうが、相手が悪かったというべきか。少なくとも、一匹でこの特殊部隊の相手をできる戦力ではなかったようだ。

 

 そう。

 

 一匹だった、なら。

 

「……まあ、一匹な訳ないわな」

 

 銃声を聞きつけたかのように、闇の中からライトの光の中に次々と同じ掘削級が姿を現す。掘られていたトンネルの直径を考えても、最低でも10匹以上は掘削級がいないと数が合わない。ここにいるのが複数の掘削部隊か、あるいはたまたま鉢合わせた一部隊かは見通せないが、どうも楽勝という訳にはいかなさそうだ。

 

 再び爆音のような銃声が鳴り響く。それに対するように、掘削級が触腕を振りかざす。

 

 忽ち地下は致命的攻撃の飛び交う殺戮場と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩盤をえぐる触腕が振るわれ、岩壁を打ち抜く砲火が放たれる。

 

 一匹の掘削級が殻ごと撃ち抜かれて崩れ落ちる一方、触腕がかすめ肩アーマーが深くえぐられた隊員が味方に引きずられて隊列の中央に下がっていく。

 

 地下での戦闘は、円陣を組んで応戦する特殊部隊と、多方向から押し寄せる掘削級とのつぶし合いに発展していた。即死攻撃といっても過言ではない攻撃を振りかざす相手に、陣形を維持できているのは実に驚異的な事だ。それだけで特殊部隊の能力の高さがうかがえる。

 

 そしてそんな戦いの中で、アレックスとネルスはおとなしく機を伺いつつ、負傷者の手当てに専念していた。特殊部隊が隊列を維持して応戦している中で、勝手に動くのはかえって邪魔だ。一人でも多く部隊員が戦闘に集中できるよう、中心に引きずってきた者の対応をする。とはいっても、アーマー側に生命維持装置があるので、鎮痛剤や止血剤の投与は自動的に行われているようだ。それで対応できない重症となれば、この場で対応する事は難しい。あくまで止血帯を巻き付けたり、損壊したアーマーの排除が関の山だ。

 

「よし、外すぞ」

 

 早速運び込まれてきた隊員の対応をする。ひきずってきた隊員が足早に戦線に戻るのを尻目に、まずはヘルメットを除装し、意識の確認。朦朧としているも意識があるのを確認したら声をかけながら、損傷したアーマーを排除する。この隊員は左肩から袈裟懸けにやられたらしく、胸部アーマーが大きく損傷している。確認をとって機能停止したアーマーのロックを解除し、前後に割り開いたアーマーの胸部部分をアレックスが取り外す。

 

 めちゃくちゃ重い。高い防御力をもつ複合合金のようだが、しかし掘削級にかかれば紙粘土のような扱いだ。外した装甲の下からは、大量の血がどろりとあふれ出した。

 

 ひるまず、傷口に止血帯やらなんやらを巻き付ける。そしてそのまま包帯でぐるぐる巻き。同時にカンフル剤やなにやらも多数注射して応急処置。

 

 戦闘不能レベルの傷を負ったのはこれで三人目だ。アレックスとネルスで引きずっていき、先に負傷したメンバーの横に並べ寝かせる。

 

「これで三人目! どうだマイク、そっちは!?」

 

「任せろ兄弟、大分数が減ってきた、あと数匹……いや」

 

 不意にマイクは射撃を中止し、手にした大型ライフルを棍棒のように振りかざした。直後、闇の中から飛び掛かってきた黒い影をライフルで殴打して叩き落し、床に転がったところにスタンピングでとどめを刺す。

 

 猟兵級の体ははじけたように砕け、足先が飛び散る。

 

「くそ、他の雑魚も沸いてきやがった、時間をかけすぎたか!」

 

「潮時か」

 

「掘削級はあと数匹だ、しとめてすぐに移動する! 負傷した連中は死んでもついてこい!」

 

「イエス、サー」

 

 負傷して寝かされていた隊員達が、ぎこちなく身を起こす。最低限の応急処置はしたが、本来なら安静にしていなければならない傷だ。しかし、ここに置いていくわけにもいかないし、これ以上彼らに構っていれば隊が丸ごと全滅するのもアレックスには理解できる。残酷なようだが、頑張ってもらうしかない。

 

 負傷者に付き添ってアレックスとネルスも移動を開始する。前線では特殊部隊員が掘削級を仕留めようと攻勢を強めているが、増援の対処で手数はむしろ減っている。

 

 ちらり、と負傷兵達に目をむける。三人いる負傷者のうち、比較的軽傷な者が一人いる。ボビーと呼ばれた彼は、アレックスとの悶着でバックパックが損傷していたせいで全力が出せなかったのか、早々に触腕の一撃で左腕を肘から失っていた。パワーダウンしていた事もあって後方に下げられたが、アーマーを酷く損壊している他の二人よりはまだ余力を残している。よし、とアレックスは彼に声をかけた。

 

「前線を支援する、手を貸してくれ」

 

「どうするつもりだ?」

 

「なに、ちょっとアンタの肩を借りたいだけだ、文字通りな」

 

「……なるほど。理解した」

 

 思いのほかあっさりと了承し、ボビーは吊るしていた大型ライフルをアレックスに手渡した。ずしり、とくる重量とサイズ。ライフルというより、ロケットランチャーか何かと言われた方がしっくりくる。当然反動も尋常じゃないはずで、少なくともアレックスにフルオート掃射は絶対に無理だ。セレクターをセミオートに切り替えて、両手でライフルを抱えて前線に向かう。

 

 移動を決めたものの、包囲されているのは変わらない。まだ四匹の掘削級が残っている。これを仕留めなければ後背に不安要素を残す事になる。そのうちの一匹に狙いを定め、アレックスとボビーは応戦する部隊員に肩を並べた。

 

 素早くボビーがその場で片膝をつく。その右肩に大型ライフルを立てかけ、さらにボビーが右手でそれを支える。パワードスーツをストック代わりに仕立て上げたアレックスは、掘削級に狙いを定めて引き金を引いた。

 

 手がしびれるほどの猛烈な反動。セミオートでこれか、とげんなりしながらも、暴れる射線を制御して火力を集中させる。精密射撃とはいかないもののある程度まとまった射撃が掘削級に叩き込まれ、その外殻が砕けた。露になった急所に、素早くレーザーガンに持ち替えて精密射撃でトドメを刺す。激しい閃光と共に柔らかな内臓が忽ち焼き焦げ、掘削級は力なく触腕を投げ出してその場に崩れた。

 

 素早くボビーが立ち上がり、片手でコンバットナイフを抜く。群がってくる雑兵をアレックスも一緒になって迎撃しながら声を上げた。

 

「雑魚の相手なら私もできる、他に回ってくれ!」

 

「感謝する」

 

 五体満足な隊員はわずかな躊躇もせずにその場を離れ、他の掘削級の迎撃に回る。その場に残されたのはアレックスと負傷兵のボビーだけだが、そこまで数の多くない雑兵相手ならどうとでもなる。掘削級相手では火力の問題でお呼びでなかった分、ここで仕事をしなければな、とアレックスは笑った。

 

「中尉。私の腰にハンドガンのマガジンがある。弾込めをお願いできるか」

 

「おっけ、まかせろ」

 

 アレックスが請け負うと、ボビーはコンバットナイフを飛び込んできた猟兵級の口にぶち込んで素早くハンドガンを抜いた。フルオートと見まがう速度で弾丸が吐き出され、一射一殺で敵を仕留めていく。たちまち弾切れになったそれをアレックスが受け取り、代わりに自分のレーザーガンを手渡す。少し首を傾げたボビーは、そのままレーザーガンで迎撃を実行する。その間に手早くハンドガンのマガジンを入れ替えるアレックス。

 

 ハンドガンといっても、大型ライフルがそうであるように生身の人間の仕様を想定しているとは思えない大口径だ。ただ造りはそう変わらないようで、戸惑う事無くマガジンを装填する。

 

「ほいよ」

 

「こちらも返す」

 

 レーザーガンとハンドガンを交換し、再び弾幕を張る。暗闇に実弾のマズルフラッシュと、レーザーの乱反射が乱れ咲いた。

 

「やるじゃないか」

 

「そっちもな」

 

 小型の異星生物を蹴散らしながら、互いの射撃の腕前をたたえ合う。

 

 と、ボビーが不意に射撃を中断した。

 

「引き時だ。残りの掘削級を撃破した、進撃する。……生身では我々についてくるのは厳しい、掴まれ」

 

「え? あ、ああ」

 

 掴まれってどこに? と思いつつもアレックスが返事をすると、むんず、とボビーがアレックスの首根っこを右手でつかんだ。そのまま米俵でも担ぐように彼を肩に抱えて走り出す。スーツのアシストによってか、人間の走行速度とは思えない勢いだ。風防の無い車のように風が顔に吹き付けてくる。

 

「ちょ、まっ、ネルス情報管理手は……」

 

「安心しろ、ちゃんと拾う。掴むのはお前でやれ」

 

「ええ……?!」

 

 ドッドッと走るボビーが向かうのは、言葉通りにネルスの元だ。見れば他の負傷者も人間離れした速度でその場を離れるのに置いて行かれて、ネルスがおろおろしている。いくらなんでも薄情者すぎないかね、と思いつつ、アレックスは手を伸ばした。

 

「ネルス!」

 

「アレックス隊長!」

 

 伸ばされた手をしっかりつかみ、彼女を抱き上げる。人ひとり増えてもボビーにはさしたる重さではなかったのか、彼の走りは乱れない。そのまま撤収するほかのメンバーに歩みを合わせて、かなりの勢いで洞窟内をかけていく。

 

 とにかく振動が酷い。見捨ててくれなかったのはありがたいが、下手に喋ると舌を噛みそうだし、ネルスが振り落とされそうになって慌てて引き寄せる。しがみつくところがない。

 

「すまん、中尉は自力でしがみつけるか? 情報管理手の方は脇に抱えよう」

 

「助かる!」

 

 言うが早いがネルスをボビーが担ぎなおす。その間にアレックスはボビーのバックパックの上に腰かけるような姿勢に移動した。冷たいヘルメットに手を置いて、ようやく安定を得て人心地がついた。

 

「急に忙しないな!」

 

「すまんな。敵に察知されてしまった以上、このまま敵地に強硬突入する。場所はそう離れていない、これ以上状況が悪化する前に標的を撃破し脱出する」

 

「ま、そうするしかないな。掘削級を全滅させた事に意味はあったと信じるしかないか」

 

 見た所掘削級はかなりの大型種だ。それに高い近接戦闘能力を持ちながらこれまで戦線に投入してこなかったのを見るに、数が多いとは思えない。

 

 なにせ奴は人類軍主力のレーザーガンに相性が良い。粘液に覆われた肉体は見た目以上にレーザーの熱攻撃に強かったし、肝心の急所は頑丈な殻に覆われている。触腕の攻撃は一撃で戦車の装甲も破壊できるだろう。そんな戦力を戦線に投入せず、あくまで裏方任務に専念させていた事からも異星生物側にも貴重な戦力なのは間違いない。あそこで特殊部隊とかちあったのも、そのまま戦闘に発展してしまったのも想定外の事態だろう。悲しいかな、異星生物は個々で戦略的判断を下す能力がない。本能のまま特殊部隊と交戦してしまったのは、異星生物側にとって大きな失態のはずだ。

 

「……」

 

 そこで、不意に思い出すのは奴……“DEATH”の事だ。あれは自らが戦術的に不利と判断するや否や、迷いなく退いた。やはりあの個体が異常なのか。

 

 特殊部隊は全力疾走のマラソンじみた勢いで、勝手知ったる道を走るように地下回廊を駆け抜けていく。どうやらアレックスと遭遇したのが完全に想定外だっただけで、マッピングからなにからなにまで下準備は完璧のようだ。

 

 実に計画的だ。勝つべくして勝つ、それは別にいい。結構な事だ。

 

 だから、信用できない。さっきも特殊部隊の任務的には本来、掘削級を相手にする必要はない。なんだか戦うしかないみたいな雰囲気を出していたが、こうやって最終的に強行軍に切り替えた所を見ると、戦わずに済んだならそれでよかったのではないか、という疑問が沸いてくる。それでも戦ったという事は、掘削級の排除も彼らの任務の一つだったのではないだろうか。

 

 彼らは特殊部隊だ。その任務を、例え肩を並べている相手にも全て明かしたりはしないだろう。それぐらいはアレックスも心得ているが……しかし、程度というものもある。

 

 ボビーのヘルメットに覆われた後頭部に目を向ける。成り行きで共闘しているが、彼らは果たしてどこまで信用していい相手なのだろうか。

 

「っ……」

 

 不意に右手がピリリと疼いて思考が中断される。暗闇でよく見えないが、右手の甲に何か違和感がある。どさくさに紛れて打ったのだろうか?

 

「停止する」

 

 不意にボビーがそう告げて、移動速度が減速する。てっきりガクッと急停止するかと思ってしがみついたアレックスだが、意外にもボビーはゆるやかに速度を落としてタッチダウンした。割と気が回る奴だったらしい。

 

 2mを軽く超える巨体からおずおずと降りる。なんだか子供のころ、父親に肩車をしてもらったあと、降りた時の事を思い出す気分だった。一方で脇にかかえられていたネルスはすっかり目を回しているようで、ふらふらとしている彼女を慌てて抱きかかえる。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

「……ヴァディスさんが、普段、どれだけ安全運転を心がけているかよくわかりまひた……」

 

「……そ、そうか」

 

 どうコメントしたものか、アレックスには判断しかねた。

 

 それはともかく。ボビーが停止したのは、洞窟の一角、崖になっている所の淵だったようだ。後方を見やっても、追いすがってくる敵はいない。あくまで騒動に引き付けられただけで、戦術的意味合いをもった増援ではなかったのだろう。そういった、意味の無い動きと意味のある動きが入り乱れるから、異星生物相手の戦略は立てにくいのだが、今回はそれがこちらにとって都合の良い形に流れたとみるべきだろう。

 

 前を見る。どういう訳かこのあたりは少しだけ空間が明るく、他の隊員達も足を止め、崖から何かを覗き込んでいる様子が見える。負傷者二名も、脱落する事なく腰を下ろしているの見てアレックスは少しだけ安堵した。こっちを見捨てていった薄情者とはいえ、負傷者は負傷者だ。しかしあの怪我であれだけ動けるあたり、背が高いだけでなく肉体強度も常人離れしている。

 

 変な所を模索しそうになった考えを振り払い、アレックスはマイクを見つけて歩み寄った。崖下を除いている彼に倣い、隣から同じように覗き込む。

 

「……なるほど。あれが目的地か」

 

「そういう事だな。地獄の一丁目を見下ろしている気分はどうだい?」

 

 崖の下には、広い地下空洞が広がっている。もともとあったのではなく、あきらかに拡張したと思わしきその空間には、不気味に光る“何か”があった。周辺が明るいのは、それの影響だろう。

 

 恐らくは、人類でいうプラント。ただ、蝋か泥を固めたような外見で、隙間から見える内部構造は内臓のような有機質でかつ、ほんのり緑色に光っている全長30mほどの円錐状の塔ではあるが。何をどう解釈しても、人類の建造した物ではない。塔の根元には、これまた生理的嫌悪感を催すような有機的な塊が幾重にも折り重なるように形成されている。

 

「異星生物の、戦略拠点か……」

 






<戦場のひみつ:異星生物が拠点らしきものを構築する事は知られている。その多くは、蜂の巣、あるいは蟻塚、といったもので、人間のように工業的機能を持ったプラントのようなものを構築した公式の目撃例は存在していない。が、航宙型の存在などから、地上拠点にそういう生体プラントが無いという事はまずないだろうというのが識者の考えである。>

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