未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
惑星デュートリオンⅢのトラブルをアレックス達は乗り越えた。
が、それは惑星規模の戦線でおきた、小さな事件の一つでしかない。個人からすれば大きな事件であったかもしれないが、デュートリオンⅢ全体から見れば局所的なものでしかない。勿論、事態が最悪の方向に推移すればあるいは惑星失陥の原因になったかもしれないが、未然に防がれた今、結局は人と異星生物の勢力は拮抗したまま、陣取りゲームが続くだけだ。
とはいえ、それは個々の英雄を蔑ろにする、という話ではない。少なくともデュートリオンⅢの戦線を預かる者は、そのトラブルが惑星失陥に繋がりうる危険性を認識していたし、それを未然に阻止した功労者に報いる程度の管理能力を持ち合わせていた。残念ながら機密に触れたため彼の活躍そのものは表向きには無かったことにされた為、傍目からは謎の重症を負った上に上の贔屓で特別扱いされているようなアレになってしまったが、まあそれは仕方ない。
よって、重症を負ったアレックスは急遽後方に移送され、そこで再生医療を受ける事になった。特に、彼の場合得体のしれない感染症に感染していた事、DEATHとの戦闘で重症を負っていた事もあって、完全隔離されたうえで再生治療を行う事になった。ちなみにこういう場合、元部隊は解散して再編する事がほとんどである。感染症の事がなければ義手などの応急処置で戻れたのだが、今回はそうもいかない。
当然アレックスらからすれば大問題なのだが、今回の場合感染症を理由にアレックスと接触していた部隊員全員が精密検査を受けるべく後方に搬送された為、一時的に部隊そのものが消滅してしまったのでその問題も結果的に発生しなかった。全員の安全が確認された後、再編という形で第77独立遊撃隊を再結成する形になる、という見込みだ。全く持って都合のよい話である。勿論そうなるように働きかけてくれた偉い人がいるのはわかっており、アレックスからすれば足を向けて眠れない。
そして一週間かけて治療と検査を行ったアレックスは今、宇宙空間に浮かぶ病院船の個室で、医者を相手に術後経過を確認しているところだった。
「はい、ウィンザードさん。右手を開いて、閉じてー、回してー」
ベッドの上に横たわったまま、ふっくらした丸顔の医者に言われるがまま、右手を動かしたり、握りしめたり、その挙動をチェックする。
「動きに問題はないみたいですねえ。違和感はないですか? 上から貴方の場合、きちんと再生医療を施してくれ、と言われてるので。私個人としても、ほんの些細な神経の癒着ずれでメスの先の動きが1マイクロずれるのは本当に困る話ですからねぇ。大丈夫ですかねぇ?」
「いえ、問題ありません、先生。むしろこう、肌の感覚とか指先の触感とか、生まれ変わったような感じです」
「そりゃ文字通り新品ですからねえ。千切れかけてた所からまるまる再生医療で継ぎ変えましたから。まあ別に大したことじゃありませんが、それでも万が一がありますからねぇ」
クローニングによる再生医療は、もう数世紀以上使われているごく当たり前の治療に過ぎない。それでもやはり、腕一本まるごと交換、となると、多少慎重になるというものだ、と医者は説明する。
「私としては半端な治療を受けていた古傷を消す方が大変でしたねえ。戦場だから仕方ないんですが、軍にはもうちょっと良い治療用パッチを導入してほしいところですねぇ」
「はぁ……」
「あ、そうそう。貴方の感染症疑惑があった例の症状なんですけどねぇ。あれも、もう問題ないと思いますねぇ。こうして私が素顔で対面してるから察してるとは思いますけどねぇ」
「あれ、結局なんだったんです?」
「うーん。私は生物学者ではないので断言しかねるんですけどねぇ。推察でいうなら、マーキングっていうより、遅効性の毒だったと思うんですよねぇ」
「毒?」
「はい、そうですねぇ。うーん、なんていったらいいのかなぁ……特定の対象が近づいた時に活性化して、激痛で殺す、といった感じのものなんですかねぇ。上手く機能していなかったみたいではありますけどねぇ。あ、そうそう、ここに担ぎ込まれた時には貴方自身の免疫でほぼ無力化されていたみたいですねぇ。これはウィンザードさんの免疫が強かったというより、もともと感染してた細菌が弱かったみたいですねぇ」
「はぁ……」
「まあ、異星生物と我々では代謝のメカニズムが全然違うという話ですからねぇ。我々が異星生物を食べても消化できないし、あちらが我々を食べても同じ事みたいですからねぇ。バラムツってしってます? 地球の深海魚らしいんですが、シリコン系の油で体を構成してるもんだから食べても消化できないそうなんですよぉ。そういう話ですかねぇ。それでも有機物を分解して資源に変える事はできるので、あちらさんはスカベンジャーを戦場に放ってはいますが、どれぐらい役にたってるんですかねぇ」
のんびりと解説してくれる医者。しかし悪いが、地球なんてもはや記録上の惑星で、そこに生きる魚など伝説の生物か何かだ。今も現存しているかわからないので、たとえ話に出されても困る。
「まあそんな訳で、あちらとしても感染症を兵器運用するのは極めてハードルが高いんじゃないですかねぇ。おかげで助かったと思うんですけどねぇ。何と戦って感染したかはわからないですけど、あくまでオマケだったんじゃないですかねぇ。あるいは半端な殺傷力を分かったうえで、マーキングとして使っていたというのもあり得ない話ではないですからねぇ。我々にはわからなくても、あちらからみたら目立つ症例だったのかもしれませんねぇ。まあ結論としてはもう安全だけど、そのメカニズムや用途については憶測でしか語れませんねぇ。つまりなーんもわからんという事ですねぇ。すいませんねぇ」
「はぁ……」
さっきから、はぁ、しか言ってないな私、とアレックスは脱力した。なんかこの先生、話し方のリズムが独特すぎて気勢を削がれるのである。
「ところで、切り落とされた私の腕ってどうなるんです?」
「感染症の調査過程で細胞単位で切り刻まれた後、各方面の研究所に送られたからもう細胞一つ残ってませんねぇ。骨が残ってますけど記念に持って帰りますかねぇ? 漂白して飾ってる人とか聞いたことがありますねぇ。栄光の手みたいで縁起がよいんじゃないですかねぇ」
「あ、いえ、結構です。今後の医療の発展に役立てていただければ」
「あー、はい。寄付ありがとうございますねぇ。有効に活用させていただきますねぇ。あ、でも病院が資金難になったら、遺品扱いで売りに出してもいいですかねぇ。いい値段がつくと思うんですけどねぇ」
「マジやめてください」
「怒られちゃいましたねぇ」
にこにこと本気なのか冗談だったのかわからない顔で医者が宣う。なんかこの人苦手だな、というのがアレックスの偽らざる本心である。
「部下達は?」
「皆さん早々に潔白を証明できたので、病院船からそろそろ移動してもらう事になるんじゃないですかねぇ。後の事は軍のお偉いさんが考える事なので、これ以上はなんともいえませんねぇ。ただウィンザードさんと、あと一緒にきたネルス・マーディスさんはもうしばらく入院ですかねぇ。体内の細菌はほぼ完全に死滅してるんですが、ゼロを保証できないと動かすのを軍が嫌がりますからねぇ」
「そうですか……」
考えてみればネルスはあの地下空間での旅を一緒にしたし、やはり被感染者第一号という事で上も警戒しているのだろう。実際には医者がこうして無防備に対面しているあたり、もはや形だけ、という事なのだろうけど。
「あ、でもネルスさんとウィンザードさんが会う分には何の制限もありませんねぇ。なんなら一緒の病室に配置換えしますかねぇ?」
「え、いや、男女っすよ。流石に」
「男女だからですけどねぇ。気を使ったつもりだったんですけどねぇ。大丈夫、私は理解がある方だからベッドをちょっと汚すぐらい気にしませんからねぇ。担当の看護師がどう思うかまではまあちょっと、保証できかねますけどねぇ」
「先生、ふざけてるならこのあたりでお帰りいただけますかね?」
「おっと怒らせてしまいましたねぇ」
何を考えているのかわからないのほほん顔でそう宣いつつ、医者はトントンとカルテを束ねると席を立った。話はこれでおしまい、ということらしい。
「それでは、今日の診察はこれまで。ウィンザードさんはまだ大人しくしておいてくださいねぇ。腕の勘を取り戻すとか言って変な筋トレ始めないでくださいねぇ」
「わかってますよー。ていうか、今の再生医療、筋肉の劣化とかないでしょ」
「ふふふ。あ、でも動作訓練そのものはちゃんとやってくださいねぇ。指の動きとかに違和感があったら伝える事、いいですねぇ?」
それだけ言い残して、医者は部屋を後にした。ぼてぼて、と歩いて自動ドアの向こうに消える医者を見送って、アレックスはベッドに体を投げ出した。
これでしばらく一人の時間だ。ドアはセキュリティで守られており、医者をはじめとする関係者以外出入りする事はない。そして今日の診察が終わった以上、翌日の朝までは基本的に誰も来ない。
そんでもって、寝るにはまだ大分早かった。仕方ないので、風景でも見て気を紛らわすか、とアレックスは枕元のリモコンに手を伸ばし、ごろんと横を向いた。
宇宙船の内部にある部屋には、窓は無い。ただその代わりに、壁面にはスクリーンがあり、どこかの農耕惑星の風景を映し出す事が出来る。リモコンを手にぽちぽち映像を切り替えて、故郷であるウィンザードに似た寒村の光景を表示すると、ぼんやりとその光景を眺める。
ちなみに、どれだけ切り替えても宇宙空間は映らない。まあ病気やケガで精神が参っている患者に、宇宙の無限の闇を見せつけてもよい影響はなさそうなので、まあ仕方ない。
そうやって時間を無為に消費している、不意にコンコン、とドアをノックする音が響いた。
「……誰だい?」
『アレックス隊長、私です。ネルスです。今、よろしいですか?』
「いいよ。暇してたところだ」
許可をうけて、おずおずとネルスが病室にはいってくる。彼女も入院患者なのでそれらしい服装をしているのだが、おや、とアレックスは目ざとく気が付いた。
「珍しいな、化粧をしているのか」
「あ、いえ、ここは戦場じゃないですので、はい」
「そうか? でもベッドに横になってたら顔につかないか? ……なんてな、俺に会うから化粧してくれたんだろう? ありがとうな」
「あ、え、は、はい。そうです……」
顔を真っ赤にして立ち尽くすネルス。ちょっとキザったらしかったか、と言動を反省しつつ、アレックスはベッドのふちに腰かける姿勢をとった。先生達がつかっている椅子に、座るようにネルスを促す。
「ほい。まあ、もてなすものもないんだが」
「いいえ、失礼します……」
ちょこん、と椅子にこしかけるネルス。
そのまま、無言で時間だけが過ぎていく。壁面では、雪が積もった枝が重みに耐えかねて、どしゃりと白雪をまき散らしている。そして軽くなった枝に、再び雪が積もりだす。
「……どした?」
ラチが空かなくなってアレックスから話題を振る。きゅ、とネルスが目に見えるほど肩を緊張させ、指を握りしめた。
「あ、あの。その! ……あ、アレックス隊長は、その、部隊の他のメンバーと関係、もってるんですよね?」
「あ、まあ、うん。ソウダネ……」
「そ、それで! その……あの……ですね……その……わ、わわ、私……私なんぞは、その……どど、ど……」
言い淀みまくり、舌を噛みまくり、要領を得ない言葉の末に、ばっ、とネルスは椅子から立ち上がった。紅潮して、涙で潤んだ顔でアレックスに向き直る。
「すすす、好きです! アレックスさん!」
「」
「い、いいな、って前から、その、思ってたんですけど! 今回の事で、もう、ダメです! 寝ても覚めても、貴方の事しか考えられません!」
「そ、そうなのか……。うん、嬉しいよ、ネルス。俺も、君の事は……好きだよ、ネルス」
「…………!」
アレックスの返答に、一瞬固まるネルス。直後、胸の中に飛び込んできた彼女を、受け止めて抱きしめる。
熱い。情熱に燃え盛る彼女の体を抱きしめながら、しかし、アレックスは己の不誠実を彼女に尋ねた。
「でもいいのかい? 俺はミリシア、イオリ、ニーナと関係をもっているし……彼女たちと関係を切る事は、うん、できないよ?」
「そ、それは分かってます……。あの三人との繋がりが、ただの情欲じゃない事も、よくわかってます」
「そうなのかい?」
「ええ。……最近ですね、あの三人、自分達が同類になったからってところかまわず猥談するんですよ。おかげで嫌でも耳に入りますし、事情も理解してます」
「そ、そっか……。注意しておいた方が、いいかな……」
「そうですね。言っておいた方がいいと思います。で、ですね。それを踏まえても、やっぱりその、駄目なんです……。アレックスさんの事で、もう頭がいっぱいで……」
きゅ、と抱き返してくるネルス。情熱的な言葉と同じように、彼女の体は熱く火照っていた。
「ネルス……」
「アレックスさん……」
至近距離で見つめあう。ごくり、とアレックスは息を飲んだ。らしくなく、緊張している自分がいた。
申し合わせたように、ネルスが瞼を閉じる。
アレックスはためらいがちに、彼女のそれに唇を重ねた。
「ん……ぅ」
数秒、重ね合わせた唇を話す。ネルスはうっとりと目を細め、キスの余韻を味わっているようだった。
「……ふふ。キスしちゃいました……」
「そっか、初めて?」
「はい、初めてです。……だから、一度じゃよくわかりませんでした」
「そっか。じゃあ、練習しないとね……」
「はい……」
再び、唇を重ねる。数度、触れ合うだけの優しいキス。
アレックスからすれば物足りない軽いふれあい。それでも、胸が満たされるものがある。
「ん、ちゅ……ん……っ」
ネルスの指に、アレックスも指を絡める。恋人繋ぎのように互いを抱き寄せて、離れないように、少しずつキスの時間が伸びていく。
「ん、ふぅ……少し、呼吸のコツ、わかってきました……んっ……」
キスに夢中になっているネルスの腰に片手を回して抱き寄せる。控えめなネルスの胸が、抱き寄せられて形を変える。互いに薄い入院着なので、素肌ほどではないにしろ互いの肌の質感と体温が伝わってくる。
少しだけネルスの体が硬直する。だがキスを続けていれば、次第にそれも解れてきた。
さりとて、ずっとキスをしているわけにもいかない。探りを入れるように、アレックスは唇が離れたタイミングで声をかけた。
「ネルス……その。次にいってもいいかい?」
「次……あっ」
かぁ、とネルスの頬が先ほどまでとは違う意味で赤く染まる。数秒躊躇うような沈黙のあと、こくん、と彼女は頷いた。
ネルスの入院着に手をかけ、はだけさせる。薄い布地がふわりと降りて、彼女の上半身が露になる。
多少、戦場暮らしで荒れた肌に、細かい傷が残っている。少し筋肉質なのはよく鍛えているからだろうか。それでも、柔らかでしっとりとした、女の体だ。
手を伸ばし、胸に軽く触れる。ぴくり、とネルスの体が震えた。
「怖い?」
「怖くは……ないです、けど。……その、こういうの、初めてなので」
「そっか」
「はい……。だからその、アレックスさんにまかせます。貴方の好きなように、触れていいです……いいや、触れてほしい、です」
「いいの? そんな事いって」
優しく、触れるか触れないかでネルスの胸の輪郭をなぞるように刺激する。悩まし気な吐息を吐いて、むくむくと乳首が起き上がってくる。
「言っておくけど、ものすごくスケベだからね、俺。そんな男に体をまかせたら、大変な事になっちゃうかもよ」
「た、大変な、あっ、事って………んっ」
「取返しのつかない事になっちゃうかも、って事だよ……」
耳元でささやきながら、再び口づけを交わす。鼻をすんすん鳴らしながら答えるネルスの胸を、焦らすように刺激する。
キスの邪魔にならないような、ささやかなフェザータッチ。
「あっ、ん……っ、あぁ、あっ……んっ……ちゅっ」
「んっ……、ふふ、どう? 腕、くっつけなおしたから少し、下手になってるかもしれないけど……」
「ぁあっ……あ……ふぁっ……あ……っ!」
アレックスの触れるだけのような愛撫に、すでに腰砕けになっているネルス。
触れれば触れるだけ反応があって、どこまでも踏み込めそうだ。体より先に、心が開かれている感じ。
ミリシアはヤケになっていた。イオリは流されていた。ニーナは触れ合う事には価値を見出していなかった。
その中で、ネルスは最初から、アレックスを求めていた。
「ん……あ……ふふ……素敵、です……。こんな気持ちに、なるなんて……。ふわふわ、します……」
「もっと欲しい?」
「はい、ほしいです……。もっとすごいの……アレックスさんの好きなように……して」
熱のこもった視線を返しながら、ネルスが半裸の体をアレックスにこすりつけるように抱き着いてくる。勃起した乳首をこすりつけるようにして、淫蕩に笑う。
「私だって小娘じゃないんですから……まぐわいがどんな事かぐらいわかってるんです……。あんまり、気を使わないでくださいね……」
「ネルス」
「女だって性欲もあるし……エッチな事に興味だってあるんですから……。好きな人に無茶苦茶にされたいとか、好きな人にならエッチに躾けられたいとか、あるんですよ……ふふっ……。ねえ、アレックスさんは、どんな風に私を仕込みたいんですか? いいですよ、何されても。ほかの子にできない事だって、してあげます……」
顔を真っ赤にして言葉に詰まりながらも、淫らな告白をするネルス。ついには、アレックスの耳元で、湿ったようにそれを告げる。
「……実は、その。後ろの処理もしてきたんです……。ふふ。ほかの子でも、後ろはしてないでしょ……?」
「っ、ネルス……っ!」
思わずベッドに彼女を押し倒す。いささか乱暴な手つきで胸を揉みしだき、唇を奪う。場合によっては抵抗や反発を招きそうであったが、ネルスは甘い声を上げてアレックスの行為を受け入れた。
脱ぎ掛けの入院着を引きはがし、彼女の秘所に触れる。くちゅり、と豊かに愛液をたたえた秘所が、これ以上の愛撫は不要だと訴えていた。
早く貫いて、女にしてほしい。そう訴える彼女の体に、しかしアレックスは急に頭が冷えてきた。
このまま、彼女の処女を奪うのも別に悪いわけではない。だが、もう少し、趣向を凝らしてもいいだろう、と。
「アレックスさん……?」
動きを止めたアレックスを不審に思ったのか、とろんとした目のネルスが見上げてくる。彼女はアレックスに完全に身を差し出し、その事に何の不安もないようだった。
「……ふふ。いい事を思いついたんだ……」
くちゅり、と彼女の愛液を指にからめる。甘い声を上げる彼女を鳴かせるように陰唇をなぶって、大量の愛液を絡めた指先を、その後ろのすぼまりへともっていく。
「あ……」
アレックスの意図を察したネルスが声を上げる。そこに抵抗の意志はないのを見て取って、アレックスは人差し指の関節一つ分、彼女の窄まりへともぐりこませた。
「ひ……あ……っ!!」
びくん、と震えるネルス。そんな彼女の奥に、ずるずると指を進めていく。愛液のぬめりの助けがあって、ずるずると指が奥へと入り込んでいく。
「ふふ。準備してきた、っていってたけど、そのおかげかな? 指が簡単にはいっていくよ。わかる?」
「ふぅーーっ、はっ、はっ、ふーー……あ、ああっ」
息を荒げながら、逃げ出さずに指を受け入れるネルス。目は虚ろで、不浄の穴を侵されている状況を受け入れるのに必死なようだった。
人差し指を半ばまで入れて、ぐるり、とかき回すようにひねる。切羽つまった声を上げてネルスの体が震えた。
「どう? 気持ち悪いとか、あるかい?」
「わ、わかんない、ですっ。ぞくぞくっと、して、あぁっ!」
話の途中でぐぽぐぽと指を前後させると、甘い声でネルスは悶えた。
「ふむ……」
ネルスの反応を見て、アレックスは少し思案した。
衆道という概念があるが、実際の所、男の場合は前立腺を一番効率よく刺激する方法が後ろの穴なので、道理としてありえない話ではない。だが、女性には当然、そのような器官は存在しない。
そして腸の構造は、男も女も大して変わらない。男が後ろの穴で刺激を得られるのが前立腺のせいなら、それがない女性が後ろの穴で感じる事はありえない。
一応、子宮やそれにつながる膣といった器官が腸のすぐ近くにあるので、間接的にそれを刺激する事で快感は得られるかもしれない。だがそれなら、直接そちらを刺激したほうが良いに決まっている。
よって、女性が後ろの穴で感じる事はできない、というのが理屈になるのだが……しかし、他に要素がないわけではない。
例えば、心の在り様だ。女性というのは、心理状態が肉体の感度に大きく影響する。極端な話、嫌な相手に体をまさぐられるのと、好きな相手にまさぐられるのとでは、全然反応が違う、というのは当然の話だ。
つまり、心理的な要素。後ろの不浄の穴を開発される事に、女性の側で何か大きな意味を見出しているなら、精神的に快楽を得られる事もあるだろうと、そういう事だ。
「ネルス。感じてる?」
「あっ、はっ、もしかすると、んんっ、そうかも、ですっ」
「そっか……ネルスは後ろの穴で感じちゃうんだ。それってすごい事だよ。ネルスはエッチな才能があるんだね」
「あぁ、そんな事、言わないで……っ」
「ごめんごめん、悪く言ってるんじゃないんだよ。俺が知っている中で、そんな子は初めてだったから、ね」
「はじ、めて……?」
ネルスが、初めて、という言葉に反応する。ちょっと悪いかな、と思いつつも、アレックスは彼女の思考を誘導しにはいった。
「そうだよ。もしかするとミリシアは経験があるかもしれないけど……こうして後ろの穴を本格的に攻めるのも、それで感じる女の子も、ネルスが初めて。新鮮な体験で、ワクワクしてる」
「そう、なんですか? ほかの子には、してなくて……あぁ、私、だけ……?」
トロンとした目でネルスが滔々と呟く。
アレックスを受け入れたとはいえ、他に三人も愛人がいる、というのは彼女の中でコンプレックスだったのは間違いない。他の女の子と比べられたらどうしよう、という気持ちはあっただろう。
だがその三人も知らない、していない事を自分が今受け入れてるとしたら。それは彼女の中で精神的なアドバンテージに映るのではないか?
そういったアレックスの憶測は、どうやらあたっていたらしい。
ここで大事なのは、関係をもった順番や過ごした時間に関わらず、皆を平等に扱う、という事だ。
言葉でいうのは簡単だが、実行に移すのは難しい。一番現実的なのは、それぞれの関係に差別点を設ける、という事だ。互いに、あの人はああいう事を求められているけど、自分は違う事を求められている、という認識を持たせる。
最初から考えていたわけではもちろんない。入院している間に、彼女らとの関係を振り返っていて、ちょっと考えていかなければいけないかな、と思っていたところだ。
「このまま、後ろに慣らしていったら、前より先にこっちが感じるようになるね」
「アレックスさんは……私を、そうしたい、んですか?」
「そうだといったら、どうする?」
アレックスの問いかけに、ネルスは少し悩むようなそぶりを見せて……アレックスがいじりやすいように、股を開いて顔を逸らした。
「貴方がそうしたいなら、いいですよ……。前より先に、後ろで感じちゃうような変態の女の子がいいっていうなら、私は……」
「ネルス……」
陰唇は、さきほどまでにも増して愛液をたたえている。
「大丈夫、すぐに無理やりはしないよ。時間をかけて慣らしていくから」
「は、はい……。あ、でも……」
「うん?」
「ほかの娘には、しないでくださいね……?」
「ああ。わかった」
後ろの穴を探る指の動きを再開させる。息を乱すネルスの様子を見ながら、アレックスは前にも手を伸ばした。未経験で、固く閉じた青い果実を、痛くないようにやさしく触れる。
「あっ……ああっ! あっ……んっ!」
性感への刺激で声を上げるネルスの様子を伺いながら、前後の穴を解していく。後ろの穴で感じる肉体的快感は結局、膣側の性感帯を経由して受け取るものだから、その両方を刺激していく事で本当に感じるようになるかもしれない。
なんだか本当に調教してるみたいだな、とアレックスは悪い顔をした。
「ふあっ! あっ……ああっ! あっ! なんか変です、アレックスさんっ、お尻、お尻いじられてるのに、私、私……っ!」
「イケそう?」
「わ、わかんなっ、あっ、わかんないですっ! どっち、どっちなのか、あぁっ! あっ!」
感覚的には、ネルスが高ぶっているのはクリトリスや陰唇、少しだけ指を潜り込ませた膣の感覚だろう。後ろはそもそも、開発を始めたばかりだ、感じる要素はない。だけど同時に責め立てたこと、ネルスがあまり慣れていないのもあって、前後の感覚を誤認しているらしい。ちょっと愉しい。
「あっ、ああっ! アレックスさん、私、私……ああああっ!!」
ビクン、とネルスの体が制御を失って小さく跳ねる。
本当の絶頂には程遠い、その入り口のようなもの。それでも、初めて他人の、男の手で頂きに導かれた体験に、ネルスは息も絶え絶え、汗だくでベッドに沈んだ。
その額に、ちゅ、とアレックスはキスを落とす。
「お疲れ様。今日は、これまでにしよう。少しずつ、慣れていこうな」
「はい……アレックスさん……。……あの……」
「うん?」
「気持ち、よかったです……」
小さく感想を告げて、ネルスは目を閉じた。そのまま、すぅすぅと小さな寝息を立て始める。
そんな彼女にシーツをかぶせてやりながら、アレックスも少し横になった。
看護師が来るまで十分な時間がある。今起こすより、しばらくネルスを寝かせてやりたかった。
それからしばらく、毎夜のようにネルスはアレックスの元を訪れた。