未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:戦場で大きな権限を持つ政治将校だが、残念ながら彼らも人間であり、腐敗や汚職に無縁という事はない。そういった場合、彼らを処するために動くのもアリステラの仕事である。一般の軍人に対し絶大な権限を振るう彼ら政治将校だが、アリステラはその対象ではなく、また恐怖も遠慮も存在しない無感情なアリステラの兵は淡々と違反政治将校を処分する。>
西方司令部執務室。
アレックスが三度訪れた事のあるその場所で、ある密談が行われていた。
参加者は二人。この部屋の主であるザラガ・クロッカス西方司令と、その秘書であるグレイヤード・フォンブラウ少佐だ。
彼らの話しているのは、今、人類軍に蔓延する、ある脅威についての情報。機密情報ではあるが、それ以上に不可解な障害に阻まれているそれを、ザラガは何年も前から追い続けていた。
彼は確信しているのだ。その問題を解決しない限り、異星生物との戦争の終結、ひいては人類の未来はない、と。
「つまり、今回の調査も失敗に終わった、と」
「はっ。今回、219名の信頼できる者を動かしましたが、そのうち32名が心身に異常をきたし、うち17名がその後消息を絶ちました。それ以降、発見されたのは僅か6名、いずれも不審死ではなく戦死、あるいは自殺として処理されていたようです」
「一割以上がそのあり様か……。完全に行方の分からない11名はどうなったと思う?」
「まだ死体が発見されていないか、あるいは……あちら側に取り込まれたのかと」
「そうか。残念だ」
該当する人物の経歴ファイルに目を通す。いずれも生まれ、育ちに問題はなく、人類軍への忠誠も厚く偏った思想もない、理想的な人物だった。利益や権威に誘惑されない人物を極力選んだはずだったが、やはり人の心の奥底まで見通せるわけではない。
ザラガやフォンブラウの目が曇っていたか、あるいは……。
「それこそ、人心を操る魔法でも使っている、とでも思った方が合理的とすらいえるな。人類軍の内部でこれだけ暗躍し、しかし尻尾すらつかめないとなると」
「正確には尻尾はつかんでいるのです。しかしそれを手繰っていくと途中でちぎれているか、あるいは覗き込んだ人間が丸のみにされる……そんな有様です。怪物を追っているかのようです、個人的な意見としては」
「我らの相手は人間ではない、と?」
「人とは怪物でありましょう?」
「違いない」
人間ほど個体差の大きい生物はいない。姿かたちではなく、その心、有り様がだ。一見して純朴な好青年そのものの兵士が、本物の怪物が犇めく地獄から三度……いや正確には四度、平然と帰ってきた事例をザラガも知っている。
当の本人は、あくまで自分の運が良いだけだと認識しているようだが、そんな訳があるか。あれこそ、人の皮を被った別の生き物としかいいようがない。ただ、その忠誠心、ひいては人類軍への貢献は疑いようがない。有益であるうちは、怪物とて飼うべきである。
だがそれが、人類に害を成すのなら、どんな手段を用いても排除すべきである。
問題は、その姿すら見えないだけでなく、一体何を考えているのかわからない事だ。
“彼ら”は、同じ人類であるのは間違いない。軍や政府の中で暗躍し、不合理な事件を引き起こす。ある時は極端な人頭税の高騰をもたらし、ある時は自治政府の混乱をもたらし、ある時は異星生物との戦線に悪影響をもたらす。銃後の人員を苦しめ、政府への不満を蓄積させ、軍の規律を揺るがせる彼らの行いは、悪戯に人類社会の維持に負担をかけている。
いうなれば、重大な汚職を引き起こしているのだ。歴史上、国家を腐敗に導くような、そんな存在が組織だって活動しているのは間違いない。破綻していないのは、ひとえに人類の生息園があまりにも広大であるからだ。巨大であれば、毒はそうそう簡単に回らない。だが、巨大だからであるこそ、患部を見つけるのは容易ではなく、治療も容易い話ではない。
それに……。
「奴らが単純に人類軍に混乱をもたらし、害を成すだけならばもっと話は簡単だったのだが。奴らの行動は理不尽かつ気まぐれで、混沌としているように見える。目的が見えぬ」
そうなのだ。
彼らは、何らかの目的をもち、統制された行動を取る。だがその結果はあまりにも混沌としている。調査の過程で、明らかに彼らとの関係をもつと思われる司令部が劣勢の戦線への的確な人員配置を主導し、戦線を巻き返した事がある。劣勢の戦線に、所属不明の……おそらくは彼らの手勢が参戦し、結果的に戦況が好転した事もある。そういった事例があるからこそ、彼らが関与している案件であるかどうか、見極めるのが難しくなっているのだ。そうでなければ、急激に戦況が悪化した戦場を追い回すだけでよいのだが。
「その事なのですが、一つ、視点を変えれば見える事もあると思われるのです」
「視点、とな?」
「はい。閣下、近頃、特務部隊が追っているDEATHやLORD……レジェンドと呼称されている個体群について、どのぐらいお耳に入っていらっしゃるでしょうか?」
司令部の人員を暗殺して回った、死を告げる者ことDEATH。そして、多数の異星生物を指揮し高い戦略戦術立案能力を持ち、自らも最前線で戦い惑星単位で人類軍を滅ぼす恐るべきLORD。他にも、戦いの陰で人知れず人類軍に絶大な被害をもたらしているそれら特殊個体を、司令部はレジェンドと呼んで区別している。
ちなみに絶大な被害をもたらしながら知られていないのは、基本的に彼らの姿を目にした者は生きて帰れないからだ。アリステラの追撃部隊を全滅させたDEATHもそうだが、LORDに至ってはその手腕で宇宙航路すら封鎖し、孤立した惑星上で一人残らず人類軍を殲滅する恐るべき司令官である。LORDに滅ぼされた星はすでに数十に上り、これまで観測されてなかっただけで緒戦の人類軍の敗走に次ぐ敗走にも関わっていた疑惑がある。
他の個体も同様に、分野は違えど絶大な被害を人類に齎している。最近になって彼らの情報がまとまってきたのは、アリステラのような特殊部隊や“レオニダスの兄弟”によって彼らの生きた情報が手に入った事で、過去の錯乱した兵士の妄言と思われていた発言が重要な証言であった事に気が付く事ができたからだ。
だがそれゆえに情報には尾鰭がつき、司令部のものでも正確に情報を把握しているとは言い難い。
「うむ。司令部でも特級機密故全て耳に入っているとは言い切れぬが、明確に知性と理性を有し、かつこれまで観測の無い特殊な肉体を持つ、異星生物にとっても特殊な個体とされている連中の事だな。一説では単体で種が完結している単体種とも聞いた。……そこまでくると、不自然な存在だ。人為的ならぬ異星的に作り出された生体兵器と考えるべきだろうな」
生体兵器……人類からすれば、珍妙な響きである。
だが、異星生物からすればおそらく、それは人類にとっての鉄の武具、剣や銃と同じものであろう。
そう。つまり、異星生物には“戦争”の概念が存在する。そして、戦争とは外交の一つの形である。
「はい。そしてその事はすなわち、これまで我々が異星生物に抱いていた、『彼らには戦略や戦術、文化や社会は存在しない』という前提が間違っていたという事であります。人類と尺度が違うだけで、彼らにも戦略や戦術、文化や社会が存在し、それはすなわち経済が存在するという可能性であります。それを踏まえて、一つ情報をまとめてみました。すなわち、異星生物の視点になって、この戦争がどのような経済被害をもたらしているか、です」
「ほう?」
差し出された資料に目を通す。
異星生物の視点、といってもあくまで暫定的なものだ。仮初の数値を入力し、人類の経済圏に当てはめたもの。到底信頼できる数値ではないが、方向性の参考にはなる、そういったものだ。
人によってはただの落書きと投げ捨てるだろう。だが、それを読むザラガの目には、歴戦の知将の煌めきが瞬いていた。いやまあ、ザラガの場合物理的にも片目が光るのだが。
「……なるほど。この戦争は、異星生物にとっても負担であり、悪戯に続けるべきものではない、と。そういう事だな」
「あくまで我々が把握している西方戦線においては、ですが。しかし、そうならないのです。全体的には異星生物が優勢であるにも関わらず、です。そしてこのデータをご覧ください」
「うむ」
渡された資料は、様々な戦線における、人員被害や損害報告、それによって失われたコストの詳細。それだけならただの戦況報告だが、この資料には、仮定の情報も付属していた。すなわち、この戦線が優勢になった場合、劣勢になった場合、戦い続けた場合、撤退した場合、のコストの比だ。
さらにこの資料は人類軍だけでなく、仮定ではあるが異星生物側の損害報告も短く記載されていた。
そしてもう一つ。ザラガの記憶力は、提示された資料が全て、自分達が追っている者達が関与した戦線においてまとめたものである事にも気が付いていた。
「なるほど。そうか。奴らには敵味方などない、そういう事か」
「はい。連中が関与し、一見人類側が優勢になったと思われる戦線……しかし、それをコストで見ると、そうやって戦線が巻き返した結果、見通しのない状態でダラダラと交戦が続き、返って流れる血の量が増えていると思われます。そして、連中によって人類軍が後退を強いられたと思われる戦線も、異星生物から見れば同じように、引くべき所で引けなくなり、ずるずると流血を強いられています。奴らに我々と同じような戦略、ひいては文化や社会、経済の概念があるのなら、勝っているときに引くのは、難しい」
「そうして、異星生物も人類も問わず、引きどころを見失って、流さなくてもよい血を流し続ける……あの者達の目的は、戦争そのものか!」
その視点はなかった、とばかりにザラガは納得し、しかし同時に困惑した。
「だが、その事であの者達がどう得するのだ? 一体何の利がある?」
「問題はそこなのです……」
そう。少なくとも、暗躍する者達が戦争の長期化によって得る利益などない。
かつて、死の商人という言葉があった。敵味方問わず兵器を売りつけ、その利益で儲けていた者達。それならば戦争は長期化すれば長期化するほど儲けられるだろう。
だがこの戦争は違う。相手は言葉の通じぬ異星生物。そして人類圏は絶滅するかさせるかの戦争を強いられている。当然、軍需産業は人類生存の名目の元に政府の管理下におかれ、なかば公営事業的な業務を強いられている。戦争が長引けば長引くほど、彼らは企業としての有り様を侵食され、タダ働きを強いられる事になる。つまり、損をするばかりなのだ。
では、軍や政府、そういった軍需産業に怨恨をもつものの犯行か? それも違うだろう。
「少なくとも恨みではないな。奴らはある意味己の目的に対して忠実に、堅実に動いている。何らかの益がなければこうはいかん」
勿論、軍の上層部など、この状況だからこそ権限を振るえる者もいるだろうが……。
「ふむ。促成軍事将校が奴らに取り込まれやすかったのは、そういった権益の問題だろうな。奴らは、戦争中だからこそ強権を振るっていられる。人類軍のためという名目の元に、どれだけ横暴をしても捕らえられることはなかった。そういう意味では、繋がりがあったのは納得がいく。戦争が終わらねばよい、と考えている数少ない者達だろうからな」
「ですがそれは過去の話です、閣下。今現在、粛清は順調に進んでいます。そして少なくとも問題ある政治将校を捕縛に動いたもの達に異常が起きた事は報告されておりません。奴ら本体を追う者とは違って、です。彼らは大本から完全に切り捨てられたということでしょう」
「それはすなわち、わかりやすい権益で動いている連中ではない、という事だな……」
ふぅむ、とつぶやきつつ、ザラガはソファに深く体を預けた。筋肉質の大男の体重をうけて、ぎしり、とソファのフレームが軋む。
「……分かりやすい現世での損得は問題ではない。まるで宗教家だな、奴らは」
「ははは。宗教家は宗教家でも、邪教の類でしょうな」
「違いないな……。ふむ。これは悪くない線の考えではないか?」
急に何かを思いついたようにザラガが明るい声を上げる。
「閣下?」
「いや何、奴らだの連中だの、という呼び方ではイマイチ何を指しているのか曖昧だ。ここは連中の事を、信者……カルティストどもとでも呼ぶのはどうだろうか?」
「ああ、そういう……。いや、確かにそれは、案外、正鵠を得た……」
呼び方一つとはいえ、しかし馬鹿に出来たものではない。何と呼ぶか、は大きな意味を秘めている。フォンブラウ少佐は真剣に考えて、ふむ、と頷いた。
「知っている者からすれば何を指すか一目瞭然ですが、知らぬ者からすれば只の言葉……。確かに、アレだの、奴らだの、と呼ぶよりは書類もまとめやすいですな。悪くない案かと」
「よし。ではこれから連中をカルティストと呼称する。以後周知するように」
「はっ」
こうして、ザラガ司令官とフォンブラウ少佐の会議は一つ、まとまりを得た。状況的には何も好転していないが、得体のしれない相手にある種の形を得たというのは、それなりに大きな意味合いがあった。
この時の、信者、という認識。半ば冗談であったが、それは後に思えば、奇妙な符号であったと、彼らは思い返すことになる。
検査入院と治療を終え、アレックスが病院船を離れたのは入院してから実に一月後の事だった。その間、関係を深めたネルスも同じタイミングで退院となった。これについては、アレックスにタイミングを合わせた、という事だろう。
それと同時に解散していた人員にも召集がかかり、久方ぶりに部隊のメンバー全員が巡洋艦の隊スペースにて顔を合わせる事ができた。その中には知り合ったばかりのシルバの姿もあった。
そうして再結成した第77独立遊撃隊であったが、当面は休暇及び訓練に臨む事になる。これは隊の運用サイクルの事もあるが、上からの直々のお達しでもあった。どうやら上には、何か独立遊撃隊を使ってやりたい仕事が出来たらしい。それまでに、諸々準備を整えておくように、との事だった。
それが果たしてあの特殊部隊に協力した事と関係があるのか、DEATHと戦った事と関係があるのかは分からないが、とにかく何が起きてもよいように備えておく必要がある。
やるべき事はたくさんあるが、まず第一に行うべきは団結力の確認である。
「第77独立遊撃隊の再結成を……乾杯!」
「乾杯!」
バーを貸し切って、隊のメンバーだけで祝杯を掲げる。
人数は解散前と変わらない。基地陥落の混乱の中、整備班にしろ事務班にしろ班長がよく監督し行方不明者や死傷者を出さなかったというのもあるが、転属届けを出したものがいなかった、というのが大きい。
あれだけの目にあってまだこの隊に居続けようというのは、変わり者か危機管理センサーが死んでいるかのどっちかだが、しかしアレックスはそれを有難く思った。
「えー。そろそろ何度目かわからないトラブルに巻き込まれて、それでも全員がここにこうして集った事を嬉しく思う」
「隊長ー、堅苦しい上に話ながーい」
「最初ぐらいきちっとさせろって、ちょ、なんでもう酔っぱらってるんだよ!?」
「酔ってませーん、あはははは」
「ああ、もう。とにかくこれからもろくでもない目に合う予感がするので、今の内に英気を養っておいてくれ、以上!」
顔を赤くしてしなだれかかってくるミリシアをあしらいながら短く挨拶を打ち切る。
それを皮切りに、皆がわっとテーブルに並べてある食事に群がった。互いに軽口を叩きながら酒を飲みかわし、軽食に舌鼓を打つ。流石に安全区域を航行しているとはいえ軍艦なのでそうご馳走は手に入らなかったが、戦地で食べるレーション等に比べれば雲泥の差だ。みるみるうちに皿の上が空になっていく。
アレックス自身もミリシアを引きずりながらサンドイッチに手を伸ばす。挟んである中身は缶詰等の応用だが、作ったものの腕がよいのかなかなか美味しい。
ちょいちょいそうやって皿をつまみながら、人を探す。
探し人は隊員の合間に埋もれるようにして埋没していた。辛うじて見える紫のフードに近づき、声をかける。
「どうも、シルバさん」
「はい、隊長さん。今日は楽しい会食に呼んでいただき、ありがとうございます」
「いいえ、もう同じ隊の仲間ですから」
社交辞令を交わし、一転、真面目な態度で、
「話を聞きました。うちの隊を手助けしてくださったそうで」
「ふふふ、それこそ遠慮ご無用、という事ですわ。同じ隊の仲間として、力を尽くすのは当然の事。むしろ私よりも、ニーナさんを気にかけてやってくださいな。彼女の助力がなければ、ああもスムーズにいきませんでしたわ」
「ニーナ? そうなのか、ミリシア?」
「んー。そうといえばそうかな? 皆微妙にシルバさんの言う事信じきれなかった時に、躊躇せずGO提言したのは彼女だしね」
「そうか……」
「ちなみに理由、聞く? 聞いちゃう? 私達惚気られてんのかと思ったんだけど、隊長そのあたりどう思う? ねえ?」
「酒はいると余計にめんどくさいなお前……」
「あー! めんどくさいって言うー! ひーどーいー!」
ぐりぐりぐりぐり、と頭を押し付けてくるミリシア。せっかくの美人が台無しである。というか最近アレックスも理解し始めたが、アンニュイな感じの無気力美人ではなく、こっちのウザ絡みしてくるほうが本性っぽい。こっちはこっちで可愛らしいから気にしないが。
「ふふふ。仲がよろしいのですね、本当」
「所かまわずこれされるとそれはそれで困るんですがね! ほら、周りの目があるだろ、離れろ! 男性隊員の目があるんだから!」
言って引きはがしにかかるアレックスを、周囲の整備班や事務の隊員は苦笑いを浮かべて見守っている。彼らからすれば、もともと五人でやっていたらしいという話は聞いているし、まあそういうのもあるよな、という感じである。
それに短い付き合いでもアレックスのやたら窮地に追い込まれる運勢は嫌というほど目の当たりにしてるので、どっちかというとあまり近づきたくないのが本音だ。DEATHの事や特殊部隊の事を知らなくても、司令塔崩壊から地下迷宮に落下してそこからなんか生還した男である。プラスマイナスゼロといっても運勢の振れ幅がヤバすぎる。
アレックスは分かっていないが、むしろ目に毒なのは女性隊員の方である。男性隊員が入ったといっても圧倒的に女所帯の部隊であるのは変わらず、さらに追加メンバーの大多数は強襲を旨とする苛烈な海兵隊出身である。彼女らからすれば窮地を引き寄せこそそれを機転と技量で突破するアレックスに憧れのような感情を抱いていてもおかしくはなく、しかしアレックスは畑違いという事で彼女らに対しては徹底して距離を置いた紳士的な態度を努めている。その一方で、同じ陸軍というだけで敷居のないメンバー四人(最近一人増えた事を彼女らは敏感に察知している)とイチャイチャイチャしているのである。視線の湿度も高くなる。
「…………」
「はいはい、アヤカっち。ジェらるのは分かるけど、もうちょっと控えめにしな。祝いの席なんだからさ」
「し、嫉妬なんかしてないって!」
「てかアヤカもさあ、ちょっと距離の詰め方が下手なんだって。ナイフ戦を教導してくださーい、なんてやれば、至近距離でべたべたできるんじゃない?」
「……私がそれをまだやってないとなんで思う?」
「……結果は?」
「肌に触れるどころかボコボコにされたよ……」
「ボコボコかぁ……」
ちなみに言うまでもないが、アヤカは海兵隊メンバーの中で一番近接戦闘に優れている訳で。一行、揃って遠い目をする。
ちなみに触れておくと、彼女達の近接戦闘スキルは一級だ。そもそも海兵隊の中でも、肉薄戦闘に特化したスーツを運用している彼女達である。スーツ着用時は神経系のバイパスや制御系AIの補佐によってより反応速度を向上させているが、それが生かせるのも生身でも十分な実力があってこその話だ。
「いや、下手に実力があったからボコボコにされたんじゃない? 全く身についてない分野で手取り足取り教えてください、ってやれば……」
「身についてない分野、って、なによ?」
「……料理とか?」
一同揃って首を傾げる海兵隊一行。ちなみにアレックスは料理はあまり得意ではない。所詮男だし、食べられればいいといった感じのワイルドな猟師飯が関の山である。
「ふふふ。皆さま、本当に仲がよろしいことで」
そんな痴情の縺れにつながりそうな騒ぎを、シルバはニコニコと笑って楽しそうに見守っていた。
会食が終わり、自由時間。あえて部隊の仲間と鉢合わせないように遅い時間にアレックスはサウナを訪れていた。
軍の設備は多くの場合男女共用であり、サウナも例にもれない。それでも艦には陸戦部隊と違ってオペレーターや非戦闘員に女性の比率が多いため時間帯を決めてすみわけしている場合がおおいのだが、時間が遅いため今はその区切りもないようだ。つまり、そんな時間に好き好んでやってくるもの好きはいない訳で、アレックスは貸し切り状態を満喫していた。
シャワーで汚れを落とし、サウナで温まる。血行をよくする事で自然治癒力も高まるし、汗を流す事で躰の老廃物を落とす事もできる。贅沢を言えば故郷の温泉のように、たっぷりの湯につかりたいところだが、それは流石に贅沢、というものだろう。そもそも、シャワーやサウナが使えるだけでも大分有難い話だ。
「……いや、違うか」
首をふってそんな考えを追い出す。最近分かってきたが、アレックスが以前おかれていた環境が異常だったのだ。異様なまでの人命軽視、作戦成功そのものより兵士を虐待する事に重きを置いたような環境。もしあれが普通だったら、人類はとっくの昔に異星生物に滅ぼされている。
惑星ザーバンの事件こそが、その証明だ。理解できないがどうやら人類軍の中には同胞に仇名す事に命をかけている奴らがいるらしい。そいつらは一見まともな顔をして軍に潜み、正常な軍の運用を妨害し人類の戦線を脅かしている。
おそらくは、ザラガ西方司令が独立遊撃隊を編成したのも、その調査や追跡が目的だったのだろう。だがしょっぱなから介入され、あやうく孤立したあげくに磨り潰される所だった。今アレックスや部下達が生きているのは、運が良かったからに過ぎない。
「戦力がちゃくちゃくと増強されてるのは、これからの働きに期待、ってとこか……」
それが果たして良い事なのか悪い事なのか。
ただ、本気の戦力が別にある事を今のアレックスは知っている。あの謎のパワードスーツの特殊部隊……あれこそがおそらく、司令部の本命だろう。多分、ずっと前から戦場で噂になっていた超人兵士、それこそが彼らだ。数にものを言わせた人類軍の通常部隊で戦線を構築し、特殊部隊を異星生物拠点に投入しピンポイントで打撃を与える……人類はずっと以前から、想像以上に異星生物についての研究も対策も進めていたのだ。その事は、最前線で戦っている身からすれば、ある意味救いだ。いつか人類は勝利する事ができると、信じる理由になる。
その為にも、背信者を一刻も排除せねばならないのだろう。
「まあ、そんな簡単にあぶりだせるんなら、司令部も苦労してないだろうな。流石に、そこまでは俺が考える仕事じゃないし」
ふぅ、とタオルで汗を拭う。いい感じに体が温まってきた。
もう少ししたらサウナを出よう、そんな感じにアレックスがぼんやり考えていると、ガチャリ、とサウナのドアが開く音がした。
こんな時間に、俺の他の利用者がいるのか。そんな風に考えながら来客に目を向けて、アレックスはそこで固まった。
使い古された、薄汚れたサウナ室。そこに到底見合わない、白銀の髪を称えた美女が、悠然と佇んでいた。
<戦場のひみつ:戦場での糧食やサプリメントの類は、公営事業によって製造されている。価格競争による品質の上下を避け、安定して一定のコストで戦場に供給し続けるための公営事業だが、長期間宇宙空間を航行する巡洋艦などには、士気を維持するため一般企業によって販売される糧食なども降ろされている。特にあるハンバーガーショップのチェーン店の熱意は高く、戦闘艦の内部に店を構えているほどである。>