未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:宇宙に広く人類が広がっても、いや、だからこそ、宇宙の深淵を人は恐れている。勿論、宇宙空間の銀河の輝きを楽しむものも居るが、中には宇宙の闇に魅入られ発狂する者がいない訳ではない。兵士が妖精だの精霊だのいいだした場合は注意が必要である。場合によっては保安官による鎮静化が必要。>
自慢ではないが、アレックスは自身の周りに美女が多いと認識している。
故郷に残してきた義妹も、雪の精霊と謳われるほどに美しい少女であったし、隊のメンバーも皆、平均点は非常に高い。方向性こそ違うが四人ともおしゃれをして町を歩けば、誰もが振り返らずにはいられないだろう。そんな訳で、アレックス自身の審美眼もそれなりに肥えているつもりだった。
その彼をして、目を奪われるほどの美女。
靡かせるのは白銀に輝き、流れる様は流水を思わせるほどのきめ細やかな髪。肌は新雪のように白く艶やかで、ほんのり命を感じさせる赤が僅かにすけている。長い睫毛に伏し目がちのどこか憂いを帯びた青い瞳。背は女性としては高く、しかしひょろりとした印象にならない程度に肉付きの良い躰はモデルのように括れる所は括れていて、さらに体格に釣り合うようにお尻と胸も大きく形が良い。
宇宙に名をとどろかす彫刻家が、天啓を受けて大理石から美の女神を掘り出したとしたらこうなるのではないか、そう思わずにはいられない。
そんな美人が、よりにもよって軍用艦の薄汚れたサウナ室にいるのは、ひどく現実感がなかった。使い古され、茶色い汚れが染み付いたサウナ室の石と木で組まれた薄暗い室内に立つ彼女は、まるで自ら光を放っているかのような極端なコントラストのハイライトであり、いっそ冒涜的ですらあった。
しばし、不躾にも美女を見つめたまま硬直するアレックス。
言葉が出てこないどころか、思考が完全に硬直していた。
「あの」
そんなアレックスの思考を引き戻したのは、当の美女の言葉。見た目通り、鈴を転がすような美しい声だな、と涅槃をスキップしていた意識が頷いた。
「そんなに見つめられると、流石に恥ずかしいのですが……」
「しっ、しっ、し! 失礼しましたぁっ!」
ガババァッ! と体全体でよそを向く。うぶな少年でもあるまいし、心臓がバクバク、脂汗がダラダラ、呂律も回っていない情けないあり様であった。
情けない事この上ないアレックスの醜態をさらす背中に、くすくすと小さな笑いが投げかけられる。
「ふふ。そんなに必死に顔を背けなくてもよいですよ。じっと見つめられるのはちょっと恥ずかしかったですが、ここはもとより男女混合です。普通になさってください」
「い、いえ。不躾な視線、申し訳ありませんでした……。この時間帯に、他に利用する者がいるとは思っておりませんでしたので……。ましてや、貴方のような美人が……」
「あら。ふふ、お上手ですこと」
「ほっ、本心ですのでっ」
うわあ俺は何を言ってるんだと内心頭を抱えて絶叫しつつ、全力でアレックスは記憶の連絡帳をまくり上げていた。果たしてこの女性はいったい誰か、である。が、どれだけ記憶をあさっても、まったくもって見覚えがない。そもそもこんな初見で目を奪われるような美人、遠巻きにでも見ていたら忘れるはずがない。
普段顔を合わせる事のない、艦橋スタッフか、軍外からの出向社員か何かだろうか。いやしかし、いくら巨大とはいえ閉鎖空間の話だ。これほどの美人が居て、男どもの間に一切話題にあがらないという事がありえるのだろうか。いや無い。
しかし現実に目の前に存在する訳で……。
「ふぅ……」
内心大狂乱に陥っているアレックスの横で、美女は何食わぬ顔で腰かけ、サウナの熱気に汗を流していた。熱によってか白い肌が血色よく色づき、タオルで汗を拭う横顔にはぞっとするような色気がある。チラリとそれを横目で確認してしまったアレックスははじかれたように顔を逸らし、心の中でとにかく思いつく限りの念仏やら説法やら義妹の説教をつぶやきながら、サウナの薄汚れた空間の一角に視線を向けた。
「そ、その。失礼ながら、どちら様でしょうか。いやその、貴方のような方、一度顔を合わせていれば忘れるはずがないのですが、覚えがなくて……」
「あら、ヒドイですわ。もう何度も顔を合わせていますのに……」
「?!?!!?」
驚愕の証言が投下される。混乱と記憶の参照が加速し、頭が真っ白になる。
「あ、いや、それは、その……」
「ふふふ。お気になさらないで。貴方に私と出会った覚えがあったら、逆に困りますの。その時私、姿と身分を偽っておりましたから」
「偽る……?」
「ええ。私の容姿はどうにもトラブルを招き寄せてしまうようですので。ですから、お気になさらないで」
「ああ、そういう……」
それには酷く納得する。こんな美の化身みたいな女性が艦内を歩いていたら、それこそ男どもは揃いも揃って声をかけるだろう。多少乱暴な手段に訴える奴もいるかもしれない。それは確かに、迷惑極まりない。
「……いや、自覚があるならそんな無防備にサウナ入ってきちゃ駄目ですよ! 私一人だったからいいものを……いやいや何いってんだ俺」
「本当に誰かいるとは思わなかったんですもの。でも、そうですね。以後気をつけます」
「まったく、本当ですよ。気をつけてくださいね」
「ええ。貴方が居る時にだけ、入らせてもらうわ」
「わかってない!!!? ダメですからね! さっき不躾に見てたでしょ俺! 危険ですから!」
この流れ揶揄われてる! と頭を抱えるアレックス。そんな彼を、優しい目で見つめる美女。アレックスがもし冷静だったなら、その視線に強い好意と好奇心、慈愛が混じっているのに気が付けただろうが、あいにくこの時の彼は大分パニックに陥っていた。
「ふふ、すいません。じゃあ、私がここにいても困るでしょうから、早めに失礼しますわ」
「ああ、いや、俺が先に出ます。入口見張っていますので……」
「いいえ、もう十分温まりましたので、これで」
すっくと美女が立ち上がる。その拍子にはらりと銀の髪が靡いて、思わずその残像をアレックスは目で追ってしまう。
「その前に一ついいでしょうか、兵士さん」
「はい……?」
「貴方は、何のために戦っているのですか?」
「なんの……って」
そりゃ人類のために、と答えようとしたアレックスは、真剣な美女の視線に出かけた言葉を飲み込んだ。少なくとも、つまらない社交辞令を求めている相手の目ではなかった。
「……何のためって……」
答えようとして、言葉に詰まる。
アレックスが徴兵に応じたのは、故郷の為だった。
法外な人頭税をふっかけられて、司法にも頼る事ができず窮地に追いやられた故郷を救うために、いうなれば人柱として徴兵に応じた。その後は流されるまま戦って、戦って。周りが死んでいくなかで、生き残って、生き残って。軍の中で臆病者とみなされないために、それなりに積極的に戦って、発言して。
そこに目的はなかった。
徴兵された時点で、自分はすでに死んだものと同義だった。
いや、本当にそうか?
それだったならば、あの地獄のような訓練戦艦の日々で、初陣を飾った戦場で、三度死にかけた逆境で、素直に死んでおけばよかった話だ。徴兵に応じた時点で、故郷へ尽くしているのだから。苦しい思いをして、辛い思いをして、戦い続ける(生きる)必要はない。
でも、今もこうして生きている。戦い続けている。
それは、死にたくなかったからなのではないか? かつての自分には、そういう気持ちがあったのではないか?
「何の…………」
死んでもよかった、ではなく、死にたくなかったのだとすれば。
生きたかったのだとすれば。
その理由は、なんだ。つい最近、死を前にしたとき、自分は何を思った?
『義兄さま』
「故郷の為、ですかね」
「故郷、ですか」
「ええ。俺みたいなどこの馬の骨ともしれないやつを家族として迎え入れてくれて、愛してくれた人たちの為に、俺は戦っているんだと思います」
「そうですか……ふふ。素敵な理由ですね」
「ありきたりな理由ですけどね」
照れと礼儀で、顔を逸らしたまま答えるアレックス。だから、彼は相手の美女が、心底安堵したような、心の底からの笑みを浮かべた事に気が付かなかった。
気が付かなくてよかったかもしれない。もしそれを目の当たりにしていたら、心を丸ごと持っていかれていた、それは会心の笑みだった。
「答えてくれてありがとうございます、兵士さん。どうか頑張って……希望がどれだけ儚いとしても、生き延びてくださいね」
「……ええ。どうも」
それを最後に、美女はサウナから去った。しばらく茫然と彼女の居なくなったサウナでぼおっとしていたアレックスだが、くしゃみを一つすると、自らも席を立った。
「ちょっと長居しすぎたな……」
サウナルームを出て、ぐるりと周囲を見渡す。今度こそ完全に、人っ子一人気配はない。
「なんだったんだろ、今の。まさか本当に妖精か何かだったんだろうか……いやいや、非科学的な」
頭をぶんぶん振って、アレックスは今の出会いは微睡みで見た夢のようなものだと、忘れる事にした。
「ああ、シルバさん」
「おや、隊長さん。こんばんわ」
部屋への帰り道、アレックスがばったりと出会ったのは星見のシルバだった。彼女はいつもと同じ、薄汚れたローブ姿で何やら荷物を背負っていた。
何も言わずに、荷物をひょいと担ぎ上げるアレックス。
「運びますよ。どちらへ?」
「あら、すいませんねぇ。部屋に戻るところだったのですが……よいのですよ、気になさらず。見た所、風呂から戻るところでしょう?」
「いえ、寝る前のちょっとした運動をしていたところです。こちらこそお気になさらず」
「そうですか。すいませんねぇ……しかし、何かいいことがありましたか?」
「え? なんでです?」
「いえね。何か機嫌がよろしいようでしたから……」
「いいこと。いいことですか……」
顎に手を当てながら、ゆっくりと歩くシルバに歩調を合わせる。
しかし、どう話したものか。正直、時間がたってアレックスは、さっきの邂逅が現実だったのか自信が持てなくなってきていた。サウナで朦朧とした自分のみた白昼夢だったという事にする方が、よほど現実味がある。
「そうですな。いい事があったといえば、ありましたな。……宇宙の妖精に出会った、っていったら、信じます?」
「…………」
「…………」
「……ふ、うふふふ。面白い事をおっしゃるのですのね、隊長さん」
「いやあはははは、すいません、忘れてくださいな。ははははは」
無茶苦茶居心地のわるい沈黙を、馬鹿笑いでごまかすアレックス。
やっぱあれは幻覚だったな、ヨシ! と記憶の底にしまい込むのであった。
新たに第77独立遊撃隊に配属される事になった、シルバ。
星見観測者である彼女はいわゆる特技兵にあたり、兵士としては相当な上位士官なのではあるが、その見た目、何より知識のない者からすれば胡散臭い事この上ない能力から、当初部隊内でも浮いた存在であった。
が、一週間もすれば、たちまち部隊内の、特に女性から信任を置かれるようになっていた。まるで古くからの古参士官であるかのように相談相手になり、彼女らの話し相手を務めていた。そのあり様を見たアレックスは、首を傾げて頭の上にクエスチョンを浮かべていたものだ。
勿論、これには理由がある。それはシルバが星見としての力で、女性士官に己の力を見せつけた、とかではない。もっと単純で、益のある話である。
今日も、シルバは巡洋艦に設けられた隊スペースの一角、人気のない所で布を敷いていた。濃紫色の、おそらく身にまとっているローブと同じ素材の絨毯の上に座っているシルバは、まるで物乞いか露天商、といった風体だ。しかし、ここはあくまで隊の固有スペース。部隊員でなければ、ここに来ることはない。
だから、彼女のこれは、部隊員を待っているのだ。
今日も、一人の女性士官がこそこそと人目を避けるようにシルバの元を訪れる。
長い三つ編みにした黒髪の女性……ネルスだ。
「シ、シルバさん、こんにちは……」
「はい、マーディスさん。こんにちは」
にっこりと微笑むシルバに、ぎこちなく笑みを返すネルス。その合間にも、きょろきょろと忙しなく周囲を確認する。よっぽど後ろめたい事があるかのようだ。
流石にそんな彼女を見咎めて、シルバから苦笑が漏れた。
「大丈夫ですよ。しばらくここには誰も来ません。そういう事に、なっています」
「そ、そうですか……」
シルバにそう言われて、ようやく落ち着くネルス。なんだかんだで、この不可思議なシルバの言葉にも、彼女らは一定の信頼を置くようになった。
「そ、それでですね、シルバさん。その、この間の、話してた品物は……」
「ええ、ええ。届いておりますよ。少しお待ちください」
言って、シルバは傍らに置いてあった布袋に手を伸ばし、しばし中を弄った。そして彼女が取り出したのは、小さな小瓶。茶色いそれの中には、いくつかの丸薬が入っているのが見て取れる。
「はい。巨根の方に効く膨張止めの丸薬です。これでよかったかしら?」
「は、はい! ありがとうございます!」
喜々として受け取り、代金の軍票を手渡すネルス。いそいそとそれを懐にしまう。
「まさか、本当にこんな薬があるなんて……」
「ふふふ。殿方は大きければ大きいほどいい、なんて思ってらっしゃるけど、受け入れる女性の方からすれば大きすぎると辛いだけですものね。それを全ての女性が受け入れられる訳でも無し。そういった悩みは、昔からあるものですから。特に、後ろの方だと得に、ね?」
「あ、いや、別に、その後ろとか前とかそういう話では……」
顔を真っ赤にして言い訳をするネルス。
「うふふ。あとこれは、私からの餞別です。受け取ってくださいな」
「えっと。これは?」
小さなケースを渡されて首を傾げるネルス。開けてみると、中には白い軟膏が詰まっていた。
「一族秘伝の軟膏ですわ。行為の前に、適量を伸ばすように使ってください。不本意な怪我や痛みを抑えられます」
「あ、ありがとうございます……」
顔を赤くしながらも、大人しく受け取るネルス。
ちなみにこの軟膏、結構ヤバイ代物だったりする。生娘に後ろの喜びを仕込むときに使うもので、遅効性だが非常に効果時間が長く、“深い”。なんせ男性と違って女性には後ろの方には直接的な性感帯がないのだ、やはりそれ相応に強力なものになる。が、そのあたりを言うとネルスが気後れして使わないのが見えるのでシルバはそこには触れず黙っていた。
「ふふふ。いいえ。また何か欲しかったら行ってくださいね。仕入れておきますわ」
「その、本当にすいません……。こんな、その、アダルトショップみたいな扱いしてしまって……」
「いいえ? 本当に気にしていませんわ。子孫繁栄は大事な事。その為の秘薬はたくさんありますし……それを若い皆さまに使っていただけるのは、大変うれしい事ですわ」
いたって真面目な顔で、シルバはネルスを諭す。冗談でもなく本気でそう思っているらしい。
「男女の仲で、性の事は避けられない事。身体の相性とか、夜の営みが上手くいくか、というのは、とっても大事な事。そう恥ずかしがる話ではありませんわ」
「そ、そうですか……」
「……あら、すいません。ちょっと熱が入ってしまいましたわ。おほほほ……」
口元に手をあててあらやだ私、と乗り出していた身を引くシルバ。
なんか、思ってたのと違って変な方向に愉快な人だな、というのがネルスの嘘偽りない感想だ。しかしすぐに気持ちを切り替えて、懐の小瓶に思いをはせる。
ニーナから始まった一連のシルバ商店だが、その効果のほどは実体験済みだ。今回の商品も、期待に応えてくれるはずである。
「……ふふっ」
めくるめく夜の営みに思いをはせて、ルンルンステップで帰り路を急ぐネルス。
そんな彼女を見送って、シルバはうんうん、と頷いた。
「アレックス隊長は名誉心も物欲も薄い方でいらっしゃいますからね。ああやって、身の回りの女性方が積極的に迫るぐらいしなければ慰撫にはならないでしょう。ふふふ、でも少し滋養のつく物でも仕入れておきましょうか? 男性は大変ですものね」
ニコニコとそんな、女性陣が聞いたら顔を真っ青にして首を振るような事を言うシルバは、残念ながらまだアレックスの非常識っぷりには慣れていないようだった。
「さて、次の方は……ああ、なるほど。噂をすれば」
はたと何かに気が付いたように佇まいをなおすシルバ。
しばらくしてシルバ商店を訪れたのは、話題のアレックス本人であった。
「よっす。何かあるかい?」
「ええ。いい物が揃っておりますよ」
再び袋を弄って、品物を取り出すシルバ。取り出したるは夜の秘薬……ではなく、多種多様な珍味の類である。それも、特に日持ちが効くものばかりだ。
「悪いな。故郷から持ち込んだ秘伝の保存食食べちまったから、代わりを探しててな……。いや、しかし色々あるな。これはなんだ? ヒモっぽいが」
「糖類を含んだ植物の茎を塩辛い発酵食品で煮込み、干したものですわ。そのまま食べてもよし、湯で煮て戻せばスープになります。常食するには塩分糖分が高すぎますが、保存食としてはよろしいかと」
「んー。悪くはないんだが、服に仕込むにはちょっとな……。こっちの板みたいなのは?」
「ある惑星で作られている栄養バーでございます。従業員の健康のためにあえて固く焼しめていたそうなのですが、どんどんエスカレートしていった結果、とても常人にはかみ砕けない代物になってしまいまして。ナイフなどで削って少しずつ食べる物になります。常軌を逸した密度で焼き固められていますので、多少の湿気はものともしません。さらにこれは保存食として、表面を蜜蝋で固めてありますわ」
「ふむ。悪くはなさそうだが……あんまり硬い物を服に仕込むのはちょっと邪魔になるんだよな……こっちの木の実みたいなのは?」
「お目が高いですわ。それは、赤胡桃の実。300年に一度だけ実をつけると言われるものでして、栄養価の塊というより、爆弾ですわ。二粒以上を同時に食べると、過剰すぎて鼻血と血涙と血尿を垂れ流して死ぬ恐れがありますが……非常食としては優れていると思います。ただし、本格的に飢える前に食べるのが大事ですわ。胃腸が弱った状態ですと、一欠けらでも内臓に穴が開きます」
「おっし、それを二粒くれ」
「はい、毎度ありでございます」
小さな木の実を受け取り、懐に入れる。ネルスにはこんなものいくらでも、とはいったが、やはり故郷の味を軍艦内で手に入れるのは困難だ。それでも代用品が手に入り、少し安心する。やはり万が一の備えがあるとないとでは安心感が違う。
何やら多少危険な事を言われた気もするが、何、用法容量を守れば問題ないだろう。
「しかし悪いな、いつも。軍の配給じゃ良い物がなくてな……」
「いえ、いえ。こちらも、仕入れられるものしかありませんので……。他の物はどうなさいますか?」
「そうだな。服に仕込まなくても、貴重な食料だし、一通り買っておこうかな?」
「ふふ、わかりました。それでしたら少し、オマケを……」
「うん?」
シルバからそっと手渡された陶器の小瓶を受け取り、アレックスは中身を改めた。中には何やら、黄色い木の実の塩漬けのようなものが入っている。
「生薬のようなものです。数日おきに一粒口にされれば、精がつくでしょう。味はちょっと、クセがありますが、それが好き、という人もいらっしゃいますわ。時間があれば、他にも精のつくものを仕入しますが……」
「お、それはありがたく頂いておくよ。ありがとう。他にもあるっていうなら、じゃあよろしくお願いしておこうかな」
「いえ、いえ。ではまたのご利用を……」
「商売上手だなあ、はは」
支払いを終え、上機嫌でその場を後にするアレックス。彼の頭の中は、さっそく栄養バーを代用コーヒーと合わせてみようかな、という考えでいっぱいだった。珍味は美味しい、というのが彼の哲学である。ちなみに、環境の厳しいウィンザードでは大体の保存食は珍味にカウントされる。哲学でもなんでもなく、単に食べなれた味、というだけの事である。
なお、オマケでもらった生薬が原因で彼の恋人達が割と大変な目にあうのだが、その事をシルバが把握するのは大分あとの事である。
<戦場のひみつ:補助ブースターは、陸戦用の車輛を宇宙空間で運用する際に使用する装備として開発されたものである。陸戦用の車輛であっても短時間なら宇宙空間でも運用できる気密を持っているのが普通であるため、ブースターをつけて艦から艦へ飛ばすのに使われる。>