※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:部隊内で同じタイプのレーザーガンを使っている事は少ない。ユニバーサル規格に従っていればそれだけでいいので、いろんな星の色んな工場がレーザーガンを独自に製造、納品しており、流通過程でごちゃまぜになるからである。ただ、時折爆発したり照射時間が極端に短い不良品を作る工業惑星があり、そういった場合は製品を回収した上で惑星の責任者や製造員は全て背信者として”処理”される。>



第四話 訓練中の不幸な事故

 

「総員対ショック姿勢!」

 

 つんざく衝撃が、車輛を襲った。正面装甲のおかげで貫通はされなかったものの、被弾の衝撃で軽量の車体が激しく揺れる。車内のインテリアが一部はじけ飛び、その破片が銃弾のようにアレックスの肩を打った。覗き窓の強化ガラス越しに、遠方の車輌群の砲塔から煙が昇っていくのがちらりと見える。

 

 激痛に耐えながら叫ぶ。

 

「情報管理手、スモークを炊け! 操縦手、視界を塞いだら蛇行しながら全速後退、向きはまかせる!」

 

「了解!」

 

 返ってきたのは操縦席の声だけ。一瞬ひやりとするが、車外の光景が急速に白い煙で隠されていく。十分な白煙を確認して、車輛が急速発進。ハンドルを左にきって、煙幕の中を後退する。

 

「損害報告!」

 

「操縦手、問題ありません」

 

「じ、情報管理手、軽く肩を打ちましたが問題ありません」

 

「砲撃手、問題ありません。助かりました」

 

「副砲手より報告。今の衝撃でレーザーシステムに異常発生。撃てません」

 

 ガァン、と左舷から衝撃。直撃ではない、至近弾。車体が衝撃で揺らぐが、幸いにして履帯損傷等は起きなかったようで、車輛は速度を落とすことなくスモークを壁に後退する。

 

「副砲手! 副砲トラブルは対処可能か? 有害物質の漏洩はあるか?」

 

「否定。漏洩はなし、エラー番号は……レーザー光軸のズレによる安全装置の起動と思われます。すぐに対応します」

 

「了解した、出来るだけ早く頼む。操縦手、後退はもういい。“敵部隊”から射線を切りながら、丘陵の後ろまで退避しろ……つっ」

 

「しゃ、車長。血が……」

 

 情報管理手の声で、さっき打った肩に血が滲んでいるのに気が付く。包帯を手に身を乗り出す彼女を手で制して、車長席にある通信装置を手に取る。今は多少の怪我にかかずらっている場合ではない。

 

「第3013機甲大隊、応答せよ。繰り返す、第3013大隊、応答せよ」

 

『こちら第3013大隊所属ボーグ1。どうぞ』

 

「こちら、第77独立遊撃隊アレックス・ウィンザード少尉だ。ボーグ1、先ほど訓練エリアにてそちらの戦車部隊に攻撃を受けた。説明を求める」

 

 不明瞭な無線通信の向こうに、嘲るような笑いが一つ。

 

『攻撃ではない。訓練に協力してやったのだ。偵察車輛一つではロクな訓練もできないだろう? わざわざ新設の部隊のために手をさいてやったのだ、感謝してもらいたいものだな』

 

 こいつはダメだな、とアレックスは脳裏で展開していた議論の草案を打ち切った。歪んだ嗜虐心と残虐性が声に滲み出ている。戦場では別に珍しくもない話だが、希望を見いだせずただひたすら責任転嫁に励んだ結果、弱者を甚振る事にしか生きがいを見いだせないカスの類。

 

 なるほど、後ろ盾もないたった五人の偵察小隊、それも構成員は女ばかりで一方的に殴れる相手だと思ったか。軍全体の規模からすれば、一台と五人の兵士など誤差みたいなもの、本部もまともに相手はしまい。

 

 一応、西部方面総司令の肝いりで設立された部隊なのだが、それを理解できるだけの頭がない奴が相手では仕方ない。補給の面では、それなりに融通が利くのだが。

 

「……了解した。訓練協力に感謝する。では」

 

「ちょ、ちょっと隊長? いいんですか?」

 

「全く良くはないが、話が通じる手合いじゃなさそうだ。基地司令につないでとりなしてもらうのも手だが、それだとあいつ等はこちらを侮ったまま、同じことを繰り返す。こういう時は殴り返してやるのが一番手っ取り早い。獣と同じだな」

 

「さ、流石に撃たれたから撃ち返すのは同じ話ではありません……!」

 

 通話が終わった途端に包帯片手に上ってきた情報管理手が口を尖らせる。なるほど、道理だ。殺されそうになったからって、じゃあ相手を殺す権利が発生するかというとまた別の話だ。勿論それはアレックスも承知の上だ。

 

「別に撃ち返すつもりはないさ。もっと簡単な話がある、要はあいつ等を行動不能にしてしまえばいいのさ。考えがある、ちょっと耳を貸してくれ。ああ、操縦手は目的地点を指示するから、そこまで継続して移動を頼む」

 

 周辺地形は訓練にあたって頭に入れている。それでも一応地図を取り出して確認し、ポイントを指示。巡航移動する戦車の中で、残った四人で顔を突き合わせて作戦会議だ。

 

「今回の作戦目標は敵部隊の無力化だ。別に砲弾を叩き込むって訳じゃない、行動不能にすればいい。戦場においては、些細な事でも行動不能につながりえる。それを人為的に引き起こす」

 

「具体的には?」

 

「土砂崩れに巻き込む。このポイントを見てくれ。比較的車輛の通りやすい地点だが、近くに小高い岩山がある。このあたり一帯はかなり風化が進んでいる上に花崗岩のような砕きやすい地層だ。簡易的な爆破装置で意図的に土砂崩れを引き起こせる。勿論、ポイントをいくつか抑える必要があるが。時に情報管理手、一つ言えるか?」

 

 アレックスに話を振られて、黒髪を三つ編みにした彼女は形のよい顎に手を当てて考え込んだ。答えが出る数秒の間、整えられた長い睫毛をじっとアレックスは観察していた。身なりにも妥協がない、良いところのお嬢さんだろうか?

 

「敵車輛の引き込み、でしょうか。目に見えて危険なポイントです、何も考えずに敵がここを通る可能性は低い。餌をぶら下げて誘導が必要ですし、土砂が効率的に働くためには敵の側面を向けておく事も必要……でしょうか?」

 

「そうだ。正面からよりは、車輛側面から土砂をぶつける方が効率的だ。横転や履帯への巻き込みが狙える。ほかに問題点を指摘できる者はいるか?」

 

 副砲手がおずおずと控えめに挙手する。

 

「……どうやって土砂崩れを引き起こす、んです? 今回、車輛には訓練用の弱装弾しか持ち込んでいない。あれでは土砂崩れなんて起きない」

 

「提言は尤もだが、出来るだけ腹案を添えて言うように。爆発力は問題ない、砲弾に加えて重レーザーのバッテリーを併用した即席起爆装置を使う。やった事があるが、あれなら小高い丘の一つぐらいは軽く吹き飛ばせる。起爆装置の製作も私自身が可能だ」

 

「えっ」

 

「なんだ、副砲手君」

 

「あ、いえ、そういうつもりでは……。その……疑う訳ではないんですが、やった事あるんですか? そんなの」

 

「割としょっちゅうやってたぞ。擱座した車輛や戦友からレーザーバッテリーを失敬してな、焚火に仕込んでよってきた奴を吹っ飛ばしたり、即席地雷にして足止めにしたり。必要も無いのにやると政治将校に目を付けられるが、線引きはなんとなくわかってる。今回の場合も問題ない」

 

「そ、そうですか……」

 

 もごもごと言い淀む副砲手に、首をかしげるアレックス。何か納得いかない事があったのだろうか(注:アレックス基準では大したことがないが、明らかに歴戦の猛者的な発言である)。ともあれ、彼の提案に反対する者はここにはいないようだ。

 

「それでは作戦を決行する。囮班と工作班に分けるから、各々準備をしてくれ」

 

 そして作戦決行後。

 

 

 

 囮班に残ったのは、戦車長であるアレックスと、操縦手の二人。あとの三人は下車して爆破工作に向かった。即席起爆装置の扱いだけが不安要素だったが、情報管理手が思ったよりも爆発物の扱いに詳しかったので、彼女を班長として作戦を任せた。作戦会議での応答でも彼女が適任だろう。

 

「すまんな、操縦手。どうしても車輛の移動に人員が必要だったので残ってもらって。貧乏くじを引かせてしまったな」

 

「いえ、気にしておりません」

 

 砲手席に座るアレックスからの労いに、感情を排した冷静な声が返ってくる。ただ静かなだけで、男性嫌悪等は感じられない。訓練を開始してからずっと口数が少なかったこともあり、経歴を考えても男性に嫌悪感があるのだろうか、と思っていたが、単に任務中は静かな質なだけのようだ。

 

 ふいに操縦手が振り返る。照明のほとんどない薄暗い車内で、彼女のアーモンド状の目が怪しく輝いてアレックスを見つめている。どこかミステリアスで、陰のある……それでいて僅かに少女の香りを残した年ごろの美女。同情するつもりも、庇いたてする気も毛頭ないが、彼女に手を出した輩の気持ちがアレックスにもちょっとわかる気がした。

 

「ミリシア」

 

「うん?」

 

「ミリシア、と呼んでくれませんか。せめて二人きりで危険に臨む時ぐらい、お互いを個人として扱ってもよいかと思います」

 

「あ、ああ。意外だな。てっきりそういうのは嫌いかと思ったんだが……というか、ミリシア・ヴァディス、だったな。いきなり下の名前は、その、変じゃないか?」

 

「苗字、嫌いなんです。可愛くないので」

 

「ふふ、そうか。わかったよ、ミリシア操縦手。私の事はなんでも、好きなほうを呼んでくれ」

 

「わかりました、アレックス隊長」

 

 それきり、ミリシアは前を向いて沈黙した。ブラウンの髪をセミロングにした彼女の後ろ姿だけが見える。必要がない限り喋らない、という事らしい。それでも先ほどまでのどこか居心地の悪さは感じない、とアレックスは思う。

 

 念のため主砲の確認を行い、一度車長席に戻る。双眼鏡を片手に、敵の動向を伺う。

 

「……来たぞ」

 

 短い言葉に、ミリシアの背が強張るのが見えた。視界をレンズに戻せば、砂埃を挙げてデザートイエローの車両が4両、連なって走行しているのが見えた。こちらを完全に見失っているのか、進行方向はいささか逸れているが想定の範囲内だ。

 

 都合が良い。

 

「始めるぞ」

 

『了解』

 

 通信越しに工作班の返事を確認し、砲手席に座る。装填しているのは、訓練弾ですらない信号弾だ。あくまでこちらに注意を向ければいいし、万が一当たってしまってもこれなら言い訳が聞く。

 

「発射」

 

 訓練弾に比べれば大分軽い砲撃音と共に、砲手のスコープの向こうでピンク色のスモークが上がる。突然隊列の真ん中に立ち上がったスモークに混乱したように敵戦車の隊列が乱れるが、すぐに気を取り直したように車輛が旋回。四つの砲塔がこちらに向かって旋回する。

 

「ずらかるぞ」

 

「了解」

 

 事前の打ち合わせ通りに、車輛がバックで急発進。勾配を盾にして遁走する。

 

 そこに飛んでくる敵車輛の砲撃。こちらをはっきり目視できてないはずだが、あてずっぽうで出鱈目に撃ってきているようだ。車輛の右側面付近に一発が着弾し、ミリシアが小さな悲鳴を上げた。

 

「な、なんか滅茶苦茶撃ってきますね……!?」

 

「よほど信号弾を撃ち込まれたのにイラッときたらしいな。とはいえこの距離で起伏を超えてくるとなると、副砲で榴弾でも撃ってきているか? 一応、訓練用の弱装弾なのは最後の正気かな」

 

「冷静ですね、アレックス隊長」

 

「予定通りではあるからな」

 

 答えて、車長席に戻る。逃走コースは事前に打ち合わせているが、そもそも操縦席からの後方視界は非常に悪い。車長席から適宜指示が必要だ。

 

「いいぞ、このままハンドルを左に切れ。アクセルは適宜踏み込めよ」

 

「あとどのぐらいですか、きゃっ!?」

 

 車輌の上空で榴弾が弾け、衝撃で車輛が激しく揺さぶられる。破片が装甲を打つ音に首を竦めながら、アレックスはひび割れた覗き窓越しに敵の車輌を確認する。

 

「……いや。どんぴしゃだ」

 

 おそらく狐を追うのに夢中になりすぎたのだろう。敵車輛は原則避けるべき一列になって、トラップゾーンに差し掛かったところだった。盛り上がった岩山の麓、砂埃を乗り越えて突き進んでくるその姿には、自分達が罠のただ中にいると気が付いている様子は無い。

 

「工作班! 起爆しろ!」

 

『了解』

 

 情報管理手の短い返答の後、岩山で光が弾けた。目に悪いバッテリー誘爆の黄緑色を帯びた閃光。思わず目を背けるアレックス。

 

 それでも残像で目がチカチカする。

 

「……どうなった? 操縦席、そちらからは見えるか?」

 

「すいません、こっちも閃光で目が。すこし待ってください」

 

 ゆっくりと車輌が減速する。それに伴い、荒れ地を疾走する振動は収まっていくが、代わりに質の違う振動が車内に響く。

 

 連続する、大質量が移動するような重く響く振動。

 

 土砂崩れの音だ。

 

「上手くいったらしいな」

 

 回復してきた視界に映ったのは、半ばで崩れ崩壊する岩山と、その土砂に巻き込まれて砂利の中に埋まっていく敵部隊の車輌の姿だ。異常に気が付いた先頭車輛がバックで逃げ出そうとし、後続に激突。玉突き事故のようになった所に、横から大小様々な砂礫が押しかかっていく。こうなってしまっては、キャタピラ駆動だろうとどうしようもない。そもそもキャタピラは、障害物の突破力には優れているが同時に繊細なシステムだ。想定外、許容外の負荷をかけると簡単に故障する。

 

 車体そのものは砂礫の圧力にも十分耐えるだろうが、ああなっては救助を待つほかはない。実戦であればこんな簡単に罠にかからなかっただろうが、訓練という環境が彼らの気をゆるめさせたのだろう。

 

 完全に敵部隊を無力化した事を確認し、アレックスはインカムを取り、本部へと通信を繋いだ。

 

「本部へ、こちら第77独立遊撃隊。訓練地区で土砂災害が発生、第3013大隊の車輌が崩落に巻き込まれて生き埋めになった。救助を要請する。繰り返す、訓練地区で土砂災害が発生。救助を要請する」

 

『本部より第77独立遊撃隊へ。経緯は把握している。直ちに救助部隊を派遣する。貴隊は訓練を中断し基地に退避せよ』

 

「第77独立遊撃隊より本部へ。了解した、基地へ帰投する」

 

「……救助を私たちから要請したんですか?」

 

「そりゃあな。今回のはあくまでも不幸な事故だからな。戦車隊の連中にはお悔やみ申し上げる」

 

 わざとらしく言うアレックスに、ぷふっ、とミリシアが口元に手を当てて笑った。

 

「ええー、通るんですか、それ?」

 

「もちろん。本部も言っていただろう、経緯は把握していると。こういう小競り合いは割とあるんだ。私は政治将校が銃を抜く線引きは把握してる」

 

「ふふ、流石、って言っておきますね、隊長」

 

「ここは素直におだてられておくとするかな」

 

 柔らかく労われて、アレックスは照れ隠しに車長席に深く座り込む。ミリシアは小さく笑いながらもハンドルを切り、その場を離れる。工作班との合流地点に向かわなければならない。

 

 機嫌よさそうに鼻歌を歌いながら車輛を運転するミリシアの後ろ姿を見つめながら、アレックスはなんとかうまくやっていけそうかな、と先の事に思いをはせた。

 

 

 






<戦場のひみつ:政治将校は最前線において士気の崩壊を防ぐために派遣される。歴史上存在したかつての政治将校とは大きく違い、彼らは自ら最前線に赴きその行動によって兵士を鼓舞する。将校はマスターチーフまで上り詰めた兵士が専門の教育を受ける事で昇格したものか、専門の軍事学校の卒業生である。近年、後者の質の低下が問題になっている。>
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