未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:星見は軍の指揮系統とは独立した存在である。彼ら彼女らは“灯台”とよばれる拠点からの命を受けて任務に明け暮れているが、その灯台がどこにあって何であるかを知る者はいない。>
独立遊撃隊に与えられた管轄区域。
その一角にあるリクリエーションルームに、部隊の実働メンバーが集まり、シルバを待っていた。裏方メンバーはいない。あまりにも突拍子の無い話で彼らがついていけるか怪しかったし、どう考えても機密に抵触する話になる以上、申し訳ないが知る人間を悪戯に増やすわけにはいかない。幸い事務メンバーもそれはわかっているようで、むしろあちらから呼ばないでくださいね? と念をおされた。立場が逆だったらアレックスも同じだ。君子危うきに近づかず、というやつである。
全員、無言でシルバの来訪を待つ。指定した時間まではまだ5分以上あるが、関係者は20分以上前にすでに集まっていた。関心が高いというより、皆不安なのだろう。
無言の部屋に、カチコチと時計の針が進む音だけが響く。
不意にネルスがつぶやいた。
「来ますかね?」
「そりゃどういう意味だ?」
「だって普通に考えたら、私達に説明する義理はないんじゃないです? このままばっくれて、上に話を通して私達が見たのは全部幻覚、催眠性のガスが敵艦内に充満していました、はいおしまい、で済んじゃう話ですし」
「そりゃあ、そうだが」
実際、考えなかった訳でもない。というか、目算としてはその可能性が高い。
戦場を共にしたとはいえ、所詮、アレックス達は唯の一般兵士だ。明らかにこれまで秘匿されていたであろう情報を、いくら目の当たりにしたとしてもイチイチ律儀に説明してもらえる権利など持ち合わせてはいない。
「まあ、聞いてみるだけならタダだろ。このままドロンされたら、まあそれまでだ。個人的にはそれはないと思うがな?」
「なんでです?」
「一応、仲間だからな」
それしか根拠はないが、他に何の根拠が必要だろうか、というのがアレックスの持論だった。仲間を信じられずして、生き残る事はできない。
ネルスがなおも言い募ろうとした、その時だ。
コンコン、とドアをノックする音が響いた。
「中尉さん、皆さん。シルバです」
「どうぞ、お待ちしてました」
ガチャリ、とドアが開かれる。
全く警戒していない様子で無防備に姿を顕したのは、銀の髪を靡かせる長身の美女。
やはり度を超した美人である。戦闘中はそれどころではなく容姿をよく見ていなかったであろう海兵隊メンバーや、そもそも居合わせていなかったミリシアやイオリが驚いたように息を呑んだ。
正直アレックスも目を奪われていたが、相手の容姿に見入るのはほどほどにして声をかける。このままだとシルバのペースで話が始まってしまう。
主導権を握りたい訳ではないが、聞きたい事をちゃんと聞くためにもできれば話の流れをつかんでおきたい。
「よぅ、シルバさん。今日は最初からその恰好なんだな」
「はい。今更隠す必要もないと思いまして……ああ、でも、まずは皆さんに姿を偽っていた事を謝罪しなければなりませんね。その、素顔を晒しているとトラブルが多くて……」
「いやー、まあ、そりゃそうだろうけど……え、化粧でどうにかなる範疇じゃなくない? どうやってんの??」
「骨格変わってるよね、どうみても」
「それは……まあ、私からすると大したことではないんですが、その。企業秘密、という事で」
口元に指をあててナイショ、のポーズ。あざといにも程がある仕草だが、多分天然でやっている。
男受けは良いだろうが、女性陣にはどうだろうか……と目を向けるが、女性陣にもあんまり受けは悪くないようだ。こういう、あきらかに蠱惑的な仕草の女性というのは嫌われるものらしいが、シルバの場合、元が非現実的なレベルの美人なので嫉妬する気持ちも沸いてこないらしい。
「ふむ。しかし私の故郷には美女に化けて男を誘惑する山姥の伝説が伝わっていてな。正直、今の状態が化かされてる、と思った方が納得がいくんだが」
「誰が山姥ですか。もう、中尉さんたら。そりゃあその気になったらそういう認識操作もできますが、本当に今は素ですよ、素。むしろいつものお婆さんの恰好の時がそういうのやってるんですから」
「え、そうなの?」
「効果は逆ですけどね。私としては相手が老人だからとぞんざいに扱うようなお方とは一緒にいても不愉快ですので。その点、中尉さんは満点でした。相手が老婆であってもその技能と職に敬意を払う、まさに紳士の鏡でした」
ニコニコと笑うシルバ。妙に最初から好感度が高いと思っていたが、そういう事だったらしい。
「そういえば、今思ったんだが。偽っていたのは姿だけか? 例えば、名前とか」
「偽っているといえば、そうですが、違うと言えば違います。シルバ、というのは確かに私の名前ですが、それとは別に秘するべき真の名もあります。歴史の長い家とかだと珍しくない話じゃないですか?」
「ああ、それは。そうだな。ミリシアあたり、そうじゃなかったっけ?」
話を振られてミリシアがぎょっと目を剥く。
「え、ちょ、いきなり……ってかなんで知ってるんですか!? 話した事なかったですよね!?」
「いや、なんとなく。勘」
「勘んん!?」
「はっはっはっは。まあそれはともかく、シルバって名前も本物ならそれでいいや。今後もシルバと呼ばせてもらうよ」
「はい。それで、何からお話しましょうか? といっても、イチから全部話すと、とても長い話になりますし、前提知識も必要ですしねえ……」
「ああ、いや。そんな全部知りたいわけじゃない。君の裏だとか、作戦の目的とか、そういうのは正直どうでもいいんだ。私達が生き抜くのに必要な情報としてまずはそうだな、あの連中はいったい何か、からまず教えてほしい」
アレックスの問いかけに、シルバが真顔ですっと目を細めた。
不味い。地雷だったらしい。背筋にひやりと汗が浮いたのがわかる。
が、やばい感じだったのはほんの一瞬であり、シルバは顎に手をあてて「それもそうですね」と空気を切り替えた。
「確かに、貴方達からすれば一番知りたいのはそこ、ですよね。わかりました。でも詳細の説明は難しいので端的に。一言でいえば、彼らは遠い昔に、我ら星見から堕落した者達です。考え方を異にした別派閥、ともいえますね」
「遠い昔? 異星生物との戦争が始まるより前なのか?」
「相変わらず勘がよろしい。その通り、彼らが我々と道を違えたのはもう千年近く前の事です。人類が高次元視座理論のとっかかりを掴み、より遠くへ種を運ぶ手段を手に入れたあたりの事です」
「大白紙時代の事か」
歴史において、人類がかつて地球という小さな星に住んでおり、そこから宇宙へ広がっていた、という事は語られている。だが、そこから現在のように何千、何万光年と離れた場所へ広がっていったか、その過程の歴史は失われている。
それについては諸説あり、単純に近代文明の情報を電子保存するやり方が長期保存に向いていなかった、というのが主流ではある(皮肉にも原始的な粘土板や石板に電子媒体は情報の保存性、という意味では足元にも及ばなかった)が、しかし何故あるべきはずのバックアップも失われてしまったのか、というのが歴史家をかつて悩ませていた。長期保存できないならば常に書き加え維持し続けるのが現代文明のはずだったからである。今現在は異星生物との戦争という未曽有の事態において歴史は保存こそされるも研究は行われておらず、多くが謎のままだ。
「あんたら星見はその時代の記録をもっていた、という事か。しかし、そんな時代に分かたれたって……奴らは人類を裏切った訳ではない、という事か? 思想の違いとはどういう事だ?」
「いいえ。彼らは人類を裏切りました。それを説明するために必要な事なのですが……高次元視座理論については、皆さま、どのぐらいご存知ですか?」
シルバの問いに、一同は顔を見合わせるも、首を横に振る。
仕方ない話である。高次元視座理論はそれこそ大学の教授クラスでも議論に参考書を片手に行うほど難解であるし、軍の担当技官もあくまで機材を操作できる、といった程度が関の山だ。そもそも本格的に議論するには、それこそ星見のような特殊な技能を修めている必要があるとされ、学問、というには先天的資質に左右されすぎるものでもある。
「そうですか。それではざっくり、誤解に近いレベルまで話を単純化しますと、高次元視座理論というのはいわゆる、違うレイヤーから物事を見る、という話ではありません。こちらは多次元の話ですが、それとは話が全く違うのです」
簡単に多次元を説明すると、いわゆる線だけの世界が一次元。それが広がり、面だけの世界が二次元。立体が三次元で、人類が認識しているのはそれに時間の流れを加えた四次元とされる。
「高次元視座理論は、言葉通り、より上位の視点で世界を認識する学問です。いわゆる多次元……三次元や四次元というのは、あくまで人間の認識できるスケール、人間に理解できる感覚の話です。そうですね、我々の世界がディスプレイの中の映像であるならば、それを見ている視聴者が、高次元視座理論における”視座”にあたります」
「えっと……?」
一同の頭の上に?マークが乱舞する。いきなり例えが俗っぽくなって混乱する中、アレックスはとても俗っぽくその説明を解釈した。つまり。
「要は神様の視点で物事を考えるって事か?」
「あ、それはとても的確ですね。そういう風にとっていただいて結構です。根本的には全く違いますが見せかけの解釈としては悪くないです」
「そ、そうか……」
これは褒められているのか貶されているのだろうか。
「例えば跳躍航行は、ディスプレイの中でどれだけ移動しても、映像の中でどれだけ映像を早送りしても、見ている人の時間や場所は変わりませんよね? そういう感じで、高次元視座理論において高次元からの観測というのは一方的なものなのです。それはさせておき、ここで大事なのは、神の視座でものを見るという事です。さて、神の視点、それを辿って行った時、そこには何がいますか?」
「……神?」
「そうです」
半信半疑、半ばあてずっぽうな答えに、シルバは深く頷いた。
「それは決して、我々の思うような、わかりやすい知性を備えたものではありません。コミュニケーションなど不可能で、いや、知性や自我どころか、存在に意味があるのかさえわかりません。高次元を支える柱のようなものだと言うものいます。ですが、高次元視座理論を神の視点で現実世界を解釈するというのなら、高次元には、確かに神と呼ぶべき存在がいるのです。そして彼らは、この神に対する認識で我々と袂を分かちました」
「信仰のすれ違い、ってやつか?」
「いいえ。我々は神を信仰などしておりません。あくまで解釈としての神であり、本当に神である訳ではありません。少なくとも、それらと我々が交渉が成立するものだとは考えていませんでした。我々にとって高次元視座理論はただの学問であり、神がいたとしてもそれはいうなれば道具としての認識でした。しかし、彼らは違う解釈をしました。現実世界こそが神の為であり、現実は神の為に消費されるべきだと」
つまりは、神の世界を覗き見するうちに、彼らは神に魅入られたのだ。
「以降、彼らは我々星見の元を離れ、一見すると己の欲望のままに知識と力を振るうようになりました。その行いは常軌を逸し、流血と死をもたらすもの。我々星見が己の禁を破り、軍に協力するようになったのは人類を滅亡させる訳にはいかないというのもありますが、彼らを探し出し討滅するためでもあります」
「はぁ……」
なんか凄く非科学的な話のように感じて、アレックスは気の抜けた返事を返すしかなかった。とはいえ、あくまでわかりやすくかみ砕いた、かみ砕きまくった上の胡乱な例えであるのは分かっている。それを考えれば、こんな子供の考えた与太話みたいな事をしゃべらせているのが急に申し訳なくなってきた。
知性レベルが違いすぎると会話が成立しないとは言うが、それでも会話を成そうとするとこういう事になるのだろう。
「全く分かってないんだろうが、とりあえず分かったと思う。つまり連中は、その神様の視点で、神様に奉仕する目的で、結果的に現実世界に多大な被害をもたらしてる、と。今回はその行動が、あの訓練戦艦を地獄に変える事だったって事か? じゃああのハゲ野郎も変な力を使っていたし、仲間みたいなものか?」
「いいえ。恐らくは違います」
シルバは目を細め、記憶を思い返すような仕草で否定する。
「彼らは、ある意味純粋です。その行動原理に私利私欲は殆どない。傍から見れば目的も何もない……それに対しあの男は邪悪な欲望に満ちていました。即物的な現実での利益に目が淀んでいた。恐らくあくまで技術や力を教えられただけで、その意味や目的は分かっていない、ただの手下でしょう。問題は、何故そんな事ができたか、です。ただの俗物に、あんな高度な力を振るわせる事ができるのなら……彼らによる人類軍の汚染は、想像以上に広がっているのかもしれません。なんせ、見たままに相手の意識を操り、人知を超えた力を振るう訳ですからね。超人願望をもった悪党などこの世界に掃いて捨てるほどいます。そういった人間に彼らが接触し、何かしらを画策し、広げているとしたら由々しき問題です」
「えーと、つまり? 連中に人類をどうこうするつもりがなくとも、その行動の結果、人類にとんでもない被害が出てるって事か?」
「そうなります」
間髪入れずシルバの肯定が返ってきてアレックスはげんなりする。
任務前のアリステラ司令官との会話を思い出す。
意味合いは違うが、なるほど。裏切り者がいる訳ではない。ただ、意味不明な目的の為に動く者がいて、そいつらの甘言に乗せられたクソみたいな浅慮者が山ほどいたという訳である。
そしてシルバの話とこれまでの体験を顧みれば、そいつらは人類軍にあふれかえるほど存在していて、一般兵士はそれに付き合わされて意味もなく磨り潰されてきたという事になる。
洒落にならないほどクソみたいな話だ。
「本来ならば、我々星見がもっと軍と協力して対処すべき話なのですが、我々の数はあまりにも少ない。そもそも、常人には理解の及ばない話です。話したところで話半分にしか受け取られないか、軍に潜む信者に排除されるか、とにかく我々で対応するにも限界がありました。問題を深刻視し大きな部隊を動かしてくれた司令官もいますが、彼らは根こそぎ敵の手に落ちました。人の心を捻じ曲げる事など奴らには容易い事で、常人がそれに抗う事は困難なのです。それは身をもって体験されたと思いますが」
「ああ……あれか」
あのハゲ頭と対面した時の事を思い出す。あの異様な経験は、催眠術とかそんな話ではなかった訳だ。
下手をすれば今頃、ハゲの手下になっていたかもしれない訳だ。ぞっとする話である。
「ん?」
そこまで考えて、アレックスはある事に気が付いた。
確かに、変な催眠術みたいなのにかかりそうにはなった。なったが、しかしそれは結局、アレックスは自力で打ち破る事が出来たのだ。
「あれ、でもそれだとおかしくないか? 俺達、最終的にハゲの暗示みたいなの、自力で打ち破れたけど……シルバが何かしてくれたのか? それともあのハゲがヘボかったのか?」
「いいえ」
シルバは静かに首を横に振った。
「少なくともあの男はそれなりの使い手でした、常人が耐えられるものではありません。私は一応、手を出すべきかと判断しましたが、最終的には必要ありませんでした。……貴方達には、もともとその素養があると見込まれていたのです。だからこそ、ここに集められました」
「……なるほど。ここからが話の本題って訳か」
「はい。私が今回の任務に参加したのは、堕落した者達の関与が疑われていたからですが、それ以前から、貴方達はある目的から、特定の条件を満たした者達で集められていたのです」
つまり、第77独立遊撃隊結成の秘密、という訳である。それは是非とも、聞かせていただけなければいけない話だ。何かある、とは思っていたが、そろそろわからないままに振り回されるのも嫌気が差してきていたところである。
「アレックス中尉さんはある程度想像がついていたと思いますが、そもそもこの独立遊撃隊、どういったメンバーが選抜されたと思っておられます?」
「経歴に傷がある連中だろ。本隊の中に混ぜてもどうしても浮いてしまう奴、望まぬともトラブルを呼び寄せてしまう奴、戦果は出してるが評価できない奴。転じて、本人に瑕疵はなくとも軍からすれば消えてほしい奴、を集めて修羅場に放りこむ為のある種の懲罰部隊だと思ってたが」
「隊長そんな事考えてたんですか……」
「最初はな。でもしばらくやってるうちになんか妙に手厚い支援があるんで、懲罰部隊って線は早々に外れたけどな。だから平均点の部隊じゃ結果を出せないような鉄火場に向かわせるある種の特務部隊を期待されているんだと考えてた」
言葉通り、最初こそオンボロ車輛に、僅か五人の部隊員。上からの扱いも適当で、それこそ訓練が終わり次第適当な戦線に突っ込ませられるものだと思っていた。
が、実際は上から肝いりで27式という最新式車輛やバックアップ要員も宛がわれ、海兵隊との合同任務にもあたる特殊部隊のような扱いだ。アレックスはそれなりに軍歴があるとはいえっても佐官ですらないし、正直待遇が良すぎて困惑している部分もあった。そもそも部隊員が経歴に傷をもっているのは事実なので、そんな人間に対してコストをかけすぎではないか? という根本的な疑問もある。
「特殊部隊、というのはある意味その通りですね。……軍とて無能ではありません、人類軍の中におかしな動きをする者がいる事、そしてそれを探りに精鋭を向かわせても大概が帰ってこない事は把握していました。だからその正体を掴む為の方策の一環として、それに関わった人間を集めて観察する事にしたのです」
「……なぬ? じゃあつまり」
「ええ。皆さま方の経歴に傷がつく事になった一連の事件。それは全て、不穏分子が絡んでいる、と軍が判断したものです」
ミリシアが孤立する原因になった強姦事件。イオリが心の傷を追う事になった部隊の壊滅と恋人の死。ネルスが同僚と揉めて軍規に従い引き金を引いた事件。ニーナの部隊が壊滅し、彼女が異星生物に捕虜にされた事件。
これらが全て、背信者の関わった事件だとすると、一つ見逃せない要素がある。
そう、彼女らは皆、たった一人の生存者なのだ。
ちなみにアレックスについてはもはや言うまでもないだろう。
「皆様方が生き残った理由。それが、まったく関係なかったからなのか、それとも首謀者側だったのか。それを見極めるために軍は容疑者全員を一か所に集め、その挙動を監視する事にしたのです。……まあ最初から予想外の事態に見舞われてすっかり目論見はおかしくなってしまったみたいですけど」
何がどうおかしくなったかは今更説明するまでもない。
「……いや俺達も好きでトラブルに見舞われた訳じゃないんだが」
「偶然だけど偶然にも程があるよね」
「ん。ていうか今更だけど、振り返ってみるとそりゃあ私らの経歴怪しすぎるか……裏を疑うよね……」
「ふふふ。まあそういう訳で、どう考えても運がおかしいだけで白、と軍は判断した訳です。そうなると、逆に何故、に理由が欲しくなってきます。そして貴方達が異常なトラブルを引き寄せて解決するのを見て、軍はある可能性に思い当たりました」
「可能性?」
「はい。貴方達が背信者の陰謀に巻き込まれながらも、あちら側に引き込まれず生き残った理由。軍は、何かしらの耐性があったからでは、と考えたのです」
「成程、道理ではある。そうか、それが今回、アリステラ主体の部隊に、かなり強引に俺達がねじ込まれた理由か」
「そうです。そしてその見込みは実際に正しかった。危うい所でしたが、アレックス中尉さんは彼らの力を自力で打ち破って正気を取り戻しました。私は万が一に備えて待機しておりましたが、必要ありませんでしたね。ただ、軍が注目しているのと同じように、堕ちた者どももまた貴方達に着目していた、というのに考えが及ばなかったのは浅慮でした。彼らからしても、耐性をもった人間は邪魔かつ貴重な生贄に見えたのでしょう。私としても、正直もうしばらくは星見のお婆さんとして皆さまと一緒にいたかったのですが、ああなってはやむを得ず正体をさらしたわけです。あの外見を維持するにもそれなりに力を使いますので」
「ふぅむ……」
シルバの説明を、改めて整理するアレックス。
大体聞きたかった事は聞けただろうか。独立遊撃隊が結成された理由、特別扱いを受けていた理由、今回の特殊任務に連れていかれた理由、シルバの正体と目的。
少なくとも部隊周りの、知りたかった事、知っておくべきだった事についてはこれではっきりした事になる。
シルバの言う力、については気になるが、星見関係という事がわかっていたらそれでいいだろう。説明されたとしても理解できる自信はない。
「となると、これからも俺達はそれ絡みの任務に駆り出される事になるのか?」
「そうですね。堕ちた者達が出てきた以上、我々星見もいつまでも慎重論を振りかざしてはいられなくなりました。今現在、私達星見の管理組織である“灯台”も西方司令部にかけあって情報の公開と共有を行っています。今後は異星生物との戦争だけでなく、軍内部の不穏分子の排除も活性化していく事でしょう」
「あー。って事は仕事が増えるだけかあ……」
「ん。異星生物との戦争が本職だもんね」
「まあ、あんな事あったし、しばらくはお休み貰えるんじゃない? だって私達これからはよくわからない弱小愚連隊じゃなくて、西方司令部とっておきの特殊部隊、って事でしょ?」
希望の満ちたミリシアの発言だが、しかしあながち間違ってもいないだろう。
これまでは数多の人類軍兵士の一人にすぎず、いくらでも消耗される側だったが、今回の作戦で特異性を示した今、独立遊撃隊は代わりの無い貴重な人材となった。
使いつぶすにしろ慎重に判断されるはずで、これまでのように雑に鉄火場に放り込まれる事はなくなるはずだ。
アレックスとしてもそれは歓迎すべき話である。結局鉄火場に放り込まれるのは変わらないだろうし任務も過酷だろうが、それに見合う準備や支援を受けられるのは展望が全然違う。
「ははは。気が早いぞ、ミリシア。だがまあ、好い話ではある。他にはなんか聞きたい事がある奴、いるか? 海兵隊の連中は?」
「いやあ、あたしらは言われた所につっこんで殴るのが仕事なんで、そういう難しいのはおまかせしますよ」
「だね」
「あ、じゃあもう一ついいですか、シルバさん。そういえばさっきの作戦、異星生物がなんか堕ちた者? とかいうのを狙ってたような気がするんですけど……」
「それは私もさっぱり。ただ、西方司令部の見解ですと、堕ちた者は異星生物にも被害が大きくなるよう動いていたらしいので、あちら側でもその存在を認識して追撃していた、というのはさほどおかしくはない話ですね。そうなってくると、異星生物は一般論とは違い、我々人類に近い指揮系統を有している、という話になってくるので、専門ではない私ではちょっと……」
どうやらシルバもLORDとかいう個体が姿を見せた事についてはさっぱりらしい。
まあ、人類を神とやらのために殺して回るような奴らだ。異星生物側にも盛大に恨みをかっているというのは、まあさほど想像に難い事ではない。意外なのは、そういった恨みを抱いて付け狙うような情動が異星生物にもあるという事だが。
戦場で垣間見た、LORDの二対四つの目を思い出す。感情を窺わせない、冷酷な知性に満ちた視線。地の底で相まみえたDEATHの事をどうしても思い出す。
まあ、どっちも今は亡きものだ。DEATHは大崩落に巻き込まれて死んだだろうし、LORDは自爆と共に宇宙の塵と化した。あの自爆に関しては、逃げ遅れてこのまま死んだら死体をはじめとする各種情報が残ってしまうから、いっそ派手に着火して痕跡を残すまいとした、という感じだろう。アレックスが同じ立場だったら間違いなくそうする。
特異個体の連中は基本的に単一個体という話だし、これで人類を脅かしてきた二大戦力が失われたという事になる。今後の異星生物との戦争にも大きく影響するだろう。
色々と風が向いてきたかもな、とアレックスは楽観に頬を緩めた。
話す事を大かた終えて、会議は賑やかな談話へと移りつつあった。
きゃいきゃいと会話の弾む、そんなリクリエーションルームの天井裏。
ネズミ一匹いない闇の奥で、ぺたり、と粘液質な足音が一つ。
特務艦を監視する小鬼達すら眼の届かない闇の奥で、何かが息を潜めている。
その視線は、光の下で賑やかに談笑する独立遊撃隊の女達をじっと見つめていた。
<警告:お前たち は 我々の事 を 何も知ら ない。>