未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
『任務ご苦労。散々だったようだな』
『酷い目にあった。ユニットは?』
『既に準備してある。次の任務は私も途中まで同道する事になりそうだ』
『珍しいな。君に私の助けがいるとは思えないが』
『どちらかというと、私の任務が君の補助になる形かな。悪いが、次もなかなか君にとって大変そうだ』
『失敗した私だ、過剰な期待はやめてほしいのだがな。人類軍には論功行賞というものがあるらしいぞ』
『仕方あるまい。効率性では、我々は人類のそれに到底及ばん』
『文句をいっても始まらないか。で、次の任地は?』
『宇宙だ』
アリステラとの共同作戦を終え、特務艦にしばし滞在したアレックス達はその後、再び海兵隊の息がかかった巡洋艦に移った。特務艦に乗船していたのは任務のための特例的な処置にすぎず、今後作戦を共にする事があっても恐らく二度と同乗する事はないだろう。
巡洋艦に移ったあとまず最初に行われたのは、きちんとした医療設備での治療だ。負傷兵となったアヤカは勿論、アレックス達も大なり小なり怪我をしている。特に本人の自覚のない部分での後遺症がのこっていないかは念入りにチェックされた。
その上で、残念ながらアヤカは後方の軍病院へと輸送される事になった。義足ではなく、再生医療による完全な治療をしてもらえる事になったのだが、やはり失われた部分が多すぎるため海兵隊の設備でも前線での治療は困難だったのだ。
そしてこの日、一向は送り出されるアヤカの見送りに来ていた。
「すいません、隊長……」
「言うな。名誉の負傷だ、胸をはって治療してこい」
車いすの上でしょんぼりするアヤカに、アレックスは膝をついて励ましの声をかける。
足を物理的に失ったのもあるが、今のアヤカはひどく小さく見える。両足を失ったショックだけでなく、自分だけが戦線離脱する申し訳なさ、得意の白兵戦で遅れをとった事など、理由はいくらでもあるだろう。一際何かのスキルに自信があれば、それを打ち砕かれた時の反動はそれだけ大きい。アレックスも理解しているつもりだ。
「別に、このまま負傷兵として退役だとか、事務送りって訳じゃないだろう? きちんと直して、リハビリして、前線に戻ってこい。俺達の任務はこれからが本番だ、切込み役がいなきゃ始まらん」
「はい……」
「言っておくけどアヤカっち、お世辞とか社交辞令じゃないからね。しばらく私がアンタの代理になるけど、気心の知れた特攻野郎がいなくなったらそれだけ負担はでっかいんだから。これ以上欠員が出る前に戻ってくること、いいね?」
アヤカの脱落に伴いナックル1を引き継いだプラリネが、あえて強い口調で発破をかけた。それに対しては少しだけ自然体で、アヤカが笑い返す。
やっぱ気心の知れた同僚だよなあ、とアレックスは暖かくそれを見守りながら肩を落とした。
「隊長」
「ん?」
「私、必ず戻ってきますので。その時はどうか、一勝負お願いします」
「おう。楽しみにしてる」
そのやり取りを最後に、アヤカは付き添いの看護師と一緒に往来シャトルで巡洋艦から去った。
色々と不安はあるが、最後に見せてくれた眼には力がこもっていた。あれなら大丈夫だろう、とアレックスは思う。
あとは彼女が戻ってきたら部隊が壊滅してたなんて事にならないよう、隊長として全力を尽くす所存だ。
「うーん。隊長、意味わかってるかなあ……わかってないんだろうなぁ……」
「隊長だもんね……」
「食虫植物系男子だもんね……」
「?」
意味深な視線をむけてくるプラリネ以下海兵隊のメンバー。意味が察せず首を傾げると、彼女らはこれ見よがしに肩を落としてため息をついた。解せぬ。
巡洋艦での日々は、実際の所暇よりの平穏である。
特殊任務で得た成果やら何やらで上が滅茶苦茶ゴタついており、同時に異星生物の侵攻があらゆる戦線で不気味なぐらい停滞しているのもあって、アレックス達に限らず人類軍全体が割と落ち着いた雰囲気だ。
勿論油断はしてない。何故異星生物の侵攻が落ち着いたのかはっきりと断言できない以上、ある程度の緊張は保たれている。もしかすると今は軍備を整えているだけで、次の瞬間にも大規模侵攻が始まらないとも限らないのだ。
裏事情を知っているアレックスは、おそらくLORDを失ったせいだ、とあたりをつけているが、常識的に考えていくら優秀でも将を一人失っただけで全軍に影響が波及するはずもない。それ以外にも何か理由があるはずだが、しかし調べる手段もない。
もしかすると以前だったら理由を探る為に単騎突入を命じられていたかもしれないが、幸いにして今は、司令部から直々に待て、を指示されている。
そうなると、素直に平穏を享受しておくのが任務という訳である。普段は色々と思う事もある司令部からの命令だが、自分に都合がよければ素直に従っておくのが賢い生き方だ。
そんな訳で、アレックスは存分に骨休めを楽しんでいた。
自室にこもり、コーヒーを片手に雑誌に目を通す。雑誌は民間の出してる軍事マガジンだ、売店で買ってきた。今月の内容は海兵隊の扱うご自慢の強襲輸送機についてである。勿論軍部による検閲が入っているが、畑違いの兵器について知っておくのは無駄ではないし、あと単純にこういうのもアレックスは割と好きだ。いくつになっても男というのは鋭角の鉄の塊に心惹かれるものなのである。それに、海兵隊の兵器とは縁がない訳ではない。今はもう懐かしくすらあるザーバンでの危機でアレックスらを救ってくれたコスモホークの詳細な写真とか、改めてみると色々と心が擽られるものがある。
情報密度の高いページを時間をかけて捲りながら、アレックスはふと時計に目を向けた。読書を始めてからすでに10分ほどが経過している。つまり、約束の時間までそろそろだ。
雑誌を片付け、コーヒーカップを軽く洗う。そうしていると、ドアが控えめにコンコン、とノックされた。
「どうぞー」
許可を出すと、ブラウンの髪の女性兵士が、おずおずと入ってきた。ミリシアだ。
「いらっしゃい」
「ど、どうも……」
気恥ずかしそうに後ろ手でドアの鍵をかけながら、もじもじするミリシア。今更何を恥ずかしがっているんだか、と思わなくもないが、しかしそういう所に男はそそられるものだ。ミリシアの本性を考えるに、多分意図してそう振舞っているのだろうけど。
まあ、つまりそういう訳だ。
ある程度の余裕と時間があれば、自然とそういう流れになる。結局部隊の部下全員をお手付きにしてしまった以上は、勿論きちんと責任を取らなければならない。幸い、部下同士で愛人協定とでもいうべきものを引いているようで、その事で険悪な関係になったり揉めたりする事はなく日替わりで担当を決めているらしい。アレックスとしては彼女らの気持ちに甘えているようでどうにも申し訳ない。その分、当番の時は満足させられるよう務めているつもりだ。
「おいで、ミリシア」
「は、はい……その、お手柔らかにお願いしますね……?」
「そうはいっても、激しくしてくれないと不満そうにするじゃん?」
「そ、そんな事は……ある、かも、です……」
近づいてきた彼女を腕の中に抱き留める。体温が高い。どっどっどっと流れる彼女の血潮を感じて、アレックスは小さく笑った。
期待しているのが自分だけではない、というのは割とうれしい。
「じゃ、いつもどおり、最初はキスから、ね?
「はい……」
今まで何度も躰を重ねてきたけど、最初はいつも必ずキスからだ。
最初の頃は呼吸が合わなくて歯をぶつけたり、変に首を伸ばしたりがあったけど、今となってはもう目を瞑ってても合わせられる。ちゅ、と軽く触れるだけのフレンチキスを交わす。
腕のなかで、ぶるり、とミリシアの躰が震えたのが分かる。きゅぅ、と子宮が疼いているのも。
ミリシアには悪いけども、このキスの習慣は意図して教え込んだ。気持ちと躰を切り替えるスイッチとして、言ってみれば調教を重ねた結果だ。完全に女性士官の己を忘れ、一人の女として目をとろんと潤ませる彼女に、今度は深いキスを重ねる。
背中に回されたミリシアの指が、ぎゅぅ、とつねるようにしがみついてきた。
「んー。今頃ミリシアの番、かあ」
「隊長。ベッドだと凄い悪い奴……」
「わかるわかる。調教されてるって感じするよねー」
第77独立遊撃隊の格納庫。固定されている27式の車内で、イオリにニーナ、ネルスが駄弁っていた。
格納庫には整備員が何人かいるが、なんだかんだ機械の音でやかましいので相手にその気が無ければ何をしゃべってるかなんて聞き取れない。海兵隊や事務仕事の隊員が増えた中、猥談をするにはリクリエーションルームとかはちょっと憚られるので、最近はここがお喋りの定位置だ。
ちなみに、女性だけで集まっているのを見て男性兵士が声をかけてくる、というのは最近極端に減った。なんか部隊の武勇伝というか一周回ってもはや豪運なのでは、というトラブルを引き寄せるのが周知されてきているらしく、むしろ廊下で道を譲られるあり様である。他の男に色目を使われてもウザいだけだが、それはそれとして露骨に危険物扱いされるとそれはそれで不愉快なのだなあ、と彼女らは新発見した。
「ん。まああくまで、私達を気持ちよくするための手段って感じだし……趣味は入ってると思うけど。惚れた方が負けって言うけど本当なのよねー」
「まあ、なんだかんだ受け入れてる私達も相当の好き者。割れ鍋に綴じ蓋。……ネルスには負けるけど」
「ちょ、なんでですか!?」
「えー? それ言う? 言わせちゃう?? 言っていいのかなぁー?」
「うわ、クズノハさんそれめっちゃムカつくんですけども……?!」
「どーどー。すごい顔してるよ。隊長が見たら引く」
「そこでアレックス隊長を引き合いにだすのはずるいでしょうよもー!」
わあわあ、ぎゃあぎゃあ。
三人よれば姦しい、とはまさにこの事である。
そんなこんなで彼女らなりにコミュニケーションを楽しんでいると、不意に、トントン、と27式のハッチを叩く音がした。
途端にぴたりと会話が止む。
「……誰?」
「聞かれたかな……」
「というか、人が楽しく話してる所に空気読まないの誰よ……」
代表でイオリが席を立つ。ロックを外して車長席を踏み台にして顔を出すと、そこにいたのは。
「ど、どうもー……」
「…………」
「あはは、その、すいません。楽しくお喋りしてた所を邪魔してしまったみたいで……その……。……あ、あはは……そんなに怒らないで……くれません……?」
銀色の髪。青い瞳。同性でも目を奪われるようなナイスバディ。
第77独立遊撃隊御付きの、最近は正体をすっかり隠さなくなった銀の魔女、シルバがそこにいた。
感想をもらえると作者が喜びます。とても。
意思表示した方がいいと聞いたので正直に書きます。感想ほしい!!