未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
夕闇の帳が降りた静かな夜。
アレックスは自分の士官室で一人、人事書類の確認を行っていた。
見ているのはミリシアについての書類。
ミリシア・ヴァディス二等兵。
年齢19歳。ブラウンのセミロングと、緑色のアーモンド状の目つきが特徴の女性士官。徴兵時は17歳、出身地は植民惑星トラヴィスⅢ。実家は代々トランスポーターを家業とする実業家で、その次女。特筆すべき点として、動輪もしくは履帯であれば、小型車両から大型の重量級輸送車輌まで及第点で運転できる操縦スキルを持つ。その他の適性は並み。
第77独立遊撃隊の操縦手について書類に纏められているのは、概ねそのような概要だった。いうなれば、生まれも育ちも生粋のドライバー。操縦手としては申し分ない人材であるのは間違いない。そもそも兵士の平均生存時間が一週間とか言われる前線で、二年間生き延びているのだ。書類上のスキルは並みとはいっても、兵士としては一流であるのは間違いない。訓練の後の整備でも、手慣れた手つきで車輛を分解整備していた。
ただ、疑問に思うのがその出自だ。植民惑星の輸送産業に関わる家となると、それなりの豪族、権力者だ。普通、まず徴兵される対象ではない。確かに異生物との戦争は兵士をすりつぶして行われる挽肉製造機のようなものだが、それでも広い人類生存圏から浅く集める事で膨大な人員を賄っている。極端な徴兵はむしろ銃後の生産力を痩せ劣らせ、人類全体の生存を危うくする、というのは政治においても徹底された事実のはずだ。何故このような事がまかり通っているのか。
徴兵時期も気になる。アレックスも同じころに徴兵された。だが、植民惑星が離れすぎている。二度目の全滅までは同じ宙域の出身者で集まり、三度目の全滅時は兵役が4年を越えるベテランばかりの部隊に配属されたので知らなかったが、あの異常な人頭税の増額はアレックスの故郷である辺境宙域だけに限った話ではなかったらしい。
「ふーん……」
どうにもひっかかるが、それはもう一兵卒のアレックスには関係ない。流石に翌年以降も同じ税はとってないのを確認しているから、あとは故郷の両親が惑星を立て直してくれるだろう。
それよりも大事なのは、部下との関係を円滑にするためにはどうか、だ。特に、隊のメンバーは前歴に傷持ちが多い。ミリシアも、わかりやすく過去に問題を起こしている。
いや、彼女が問題を起こしたというより、巻き込まれただけのようだが。書類によれば、入隊した隊で部隊長他多数に性的暴行を受けていた、とある。実際に会って、作戦行動を過ごしてみたが、彼女は蠱惑的な色気と、幼げな明るさを持ち合わせた、男性からすれば非常に魅力的な女性だ。モノにしたい、と短絡的な行動に出る男がいるのも、許せはしないが、わからなくはない。
問題はそんな経歴であるにも関わらず、彼女は男性であるアレックス自身について壁を作っていないように見えた事だ。普通だったら、男性アレルギーだったり、男性不信になっていてもおかしくはない。だが見た限り、彼女はアレックスを拒絶するどころか友好的な振舞を見せ、むしろ距離を置いていたアレックスに自ら歩み寄ってきた。
あくまで同じ隊として表向きは友好的な関係を結びたい、という理性の振舞なのだろうか? だが、無理をしているのであれば、隊長としてそれを看過する訳にはいかない。
それをはっきりするために、アレックスは今晩、ミリシアを面談の為に自室に呼び出していた。時計を見れば、そろそろ彼女がやってくる時間だ。
その時まさに、コンコン、とドアをノックする音。
「アレックス隊長。ミリシアです」
「開いてるぞ、入ってくれ」
手にしていた書類をデスクに戻す。行儀よく音を立てず入ってきたミリシアは、少し落ち着かなさそうに頭を下げた。
「夜分に失礼します、隊長」
ふわり、とよく梳いた髪が動きにあわせて靡く。その拍子に、僅かによい香りが男臭い室内に広がった。香水ではない、石鹸の香り。見れば、彼女の肌は赤く上気していて、僅かに湿っている。多分、シャワー上がり。
まあ今日は訓練で土塗れオイル塗れになったしな、と心の中でなぜか言い訳をするアレックス。何だか妙に動悸が早くなった。
「俺が呼び出したんだから、気にするな。あ、そこの椅子に座ってくれ。……代用コーヒーは飲むか?」
「はい。お願いします」
「分かった」
普段使っていない二つ目のカップを取り出し、コーヒーの用意をする。ミリシアはおどおどと椅子に座り、きょろきょろと室内を見渡している。その様子に、思わずアレックスは苦笑を零した。車内ではクールに振舞っていたのに、今はその欠片も見えない。
「はは、落ち着けって。それとも……やっぱ男性は怖いか?」
「え? いや、そうじゃなくて。隊長の自室、こんな風なのかーって……」
「何もないだろ? 隊長といっても、この間まで一兵卒だったからな」
言葉通り、士官室とはいえ最低限の机と棚があるだけで私物らしきものは殆どない。これが佐官ともなればカーペットなり故郷の品なり何かしらが飾ってあるものだが、残念ながらアレックスはそういうものを持ち合わせていなかった。
何か私物が飾ってあるとしたら、そう、机の上の勲章くらいだ。
ミリシアの視線が机の上にとまり、目が丸く見開かれる
「隻眼の獅子勲章……ほんとにあったんだ。嘘、ほんとに三つ……」
「残念ながら戦勲を称える勲章は一つもないがな。珍しいのか、それ?」
「珍しいも何も、ほんとに持ってる人初めて見ました……。一応、噂にはなってたけど、そんな事ありえないしと思ってたし……あ! じゃああの噂は本当なんですか、その、獅子勲章は司令官から直接授与されるって……」
「本当だぞ。俺は三回、ザラガ総司令と顔を合わせてる」
「ほんと?! すごーい!」
「ははは」
美人に褒められて気分が悪くなる男はいない。なんだか気持ちが舞い上がってしまって、照れ隠しにアレックスはコーヒーの粉を溶かすスプーンをやたらとかき回した。
が、そこで気が付く。いつまでたっても粉が溶けない。
「……あ゛っ」
「どうしました?」
「ん゛っ、いや、そのなんでもない……」
「……隊長。それ、もしかしてガンパウダー注いでません……?」
「う゛ん゛っ」
咳き込んで誤魔化そうとするアレックス。無理である。
彼女の言う通り、アレックスがコーヒーだと思って開けた缶は、湿気たガンパウダーの缶だった。道理でいくらかき混ぜても溶けない訳である。
「ふふ」
「あー、くそ。ラベリングしとけばよかった……これじゃないならコーヒーどこにあったかな。こっちの棚かな」
大人しく失敗を認め、ミリシアに背を向けて棚に向かい合う。やっぱり無地の缶が敷き詰められてるのを見てゲンナリしながら、記憶を頼りにコーヒーを探す。
その背後で、ミリシアが席を立つ気配を感じた。
不味い、呆れられたか? 肩を落とすアレックスをよそに、パチン、とボタンをはずす音。思わず腕が止まる。
続けて、衣服の落ちる衣擦れの音。
反射的に振り返るアレックス。
その彼の、男の視線を前に。ミリシアは気恥ずかしそうに、半ば半裸の状態で立っていた。床に落とされていた上着に続けて、半脱ぎのズボンが落とされる。露になるのは、白いレースの下着と、上気した白い肌。
それに一通り見入ってしまってから、アレックスは遅れて我に返った。脳裏で、ミリシアの過去の経歴がフラッシュバックし、思考が回転する。
「面談! 面談だから! そういうつもりじゃない!」
でてきた言葉は、泡をくった言い訳のようなものだった。わたわたと手を振り身を起こしつつ説得を試みる。
「俺の言い方が不味かったなら謝る! 君を呼んだのはあくまで今後の隊の運営のために人となりを知りたかったからであって、今までの奴みたいにそういう事を君に強制するつもりはないんだ」
彼女は過去の隊で性的暴行を受けていた。それは最初の隊の話とされているが、そういうバックボーンを持つ彼女に、その後移った部隊の男性が紳士的な対応に終始したかというと怪しい。むしろ、その事につけこんで強引に関係を迫った者もいるのではないか。
そういう連中ばかり相手にしてきたから、彼女は今回もそうだと思ってしまった、アレックスはそう考える。だが、だからといってただ振り払うだけでは、彼女を傷つけてしまう。彼女の“普通”を否定してしまえば、彼女が普通ではない、と拒絶するのと同じだ。
一応、アレックスだって聖人君子ではない。今だって目を背ければいいのに、ミリシアの上気した肌から目を離せない。下半身は別の生き物だと、こういう時にはつくづく思い知らされる。
それでも言葉を選んで、ミリシアに気持ちを伝えようとする。
「いいかい、ミリシア。そんな事をしなくても俺は君を除け者にしないし、したところで君を特別扱いするつもりもない。軍務以外で身を切り売りするような事を、強制するつもりはないんだ。その、君が魅力的な女性だっていうのは間違いない。それでも、その、なんだ。必要とあれば死ね、と命令するのが上官だけどさ、それでもなんていうか……」
一呼吸おいて、目を背ける。
「君を、傷つけたい訳じゃないんだ……」
しばし、静寂が部屋に訪れる。
アレックスは目をそらして立ち尽くし、ミリシアは下着姿のまま佇んでいる。
言葉を咀嚼しているかのような間をおいて、ミリシアがぽつりと言った。
「……隊長。前提として。私を抱くとしたら、それは私が女だからですか? それとも、ミリシア・ヴァディスだからですか?」
問いかけられて、ミリシアの目を見返す。
恥じらいもなく、照れもなく。じっとりと濡れたような輝きを秘めるアーモンドアイが、アレックスを見つめている。
いまいち要領を得ない質問だったが、アレックスは可能な限り誠実に答えた。
「女だからって理由なら、抱かないよ。これでも故郷ではその気になれば抱く相手に不自由してなかった。それでも……君の裸を前にしたら、落ち着いていられない」
「そうですか……」
言葉を聞いたミリシアは、うっすらと微笑み、アレックスの腕の中にふわりと飛び込んだ。
かすかに、石鹸の香が鼻孔を擽る。
「ミ、ミリシア」
「最初は、痛かった。怖かったです」
アレックスの胸に顔を押し当てて述懐するミリシアに、手が止まる。少し迷ってから、彼女の背中に手をまわして軽く抱きしめた。そうしてやりたいと思った。
「士官室に引き込まれて、無理やり。同僚の女性も助けてはくれませんでした。頻繁に呼び出されて、相手をするのも一人、二人と増えていきました。そうこうするうちに、そんな悪く感じなくなっていきました」
「ミリシア……」
「無理やりされてるのに、それが気持ちよくなっていって。段々、呼び出されるのを待つようになって。私、淫らな娘だったんです。気が付いたら、そういうのは嫌じゃなくなってました」
それは違う、と言うのは簡単だ。虐待された者が、現実を受け入れるためにそういう心の作り替えをしてしまうのはありふれた話である。だが、その事実を否定するのはミリシア自身を否定するのと同じことだ。自分の正しさを通すために、彼女を傷つけるつもりはない。
「それで、ずっと?」
「はい。その隊が壊滅して別の隊に移っても、噂を聞いていたらしい上官に呼び出されました。多分、断る事もできました。でも私は部屋を訪ねました。気持ちいいの、好きだったから」
そっと、ミリシアの指がアレックスの股間をまさぐる。服の下でガチガチに屹立しているそれを撫でさすって、陶酔するように彼女は息を吐いた。
「隊長は……私のような痴女は、お嫌ですか?」
「ここで君に考えなおすよう言えたら、多分かっこいいんだけどね」
理性では、やめておいた方がいいのが分かっている。だが一度腕の中にいれてしまったこの柔らかさを、手放す気にはなれなくなっていた。多分、彼女の話を真摯に聞こうとするあまり、懐に長く抱きすぎた。人間、一度懐に入れたものは捨てるのに抵抗が……いや、そういう話ではない。うだうだと言い訳を述べるのは彼女に失礼だ。
アレックスとて男だ。結局、獣のような性欲とは無縁でいられない。それだけ、という事にしておこう。
「自制が聞くうちに確認しておくけど、どう扱われるのが好み?」
「……無茶苦茶に、してください……」
煽るような言葉に、腕の中の彼女に乱暴に口づけを交わす。
逃げられないように抱きしめて唇を奪うそれは乱暴なものだったが、ミリシアは身じろぎしつつもそれを受け入れた。
慣れてないのか、唇越しに歯が当たる。がっつきそうになる自分を抑えて、二度、三度、教え込むように軽い口づけを続ける。
「そう、上手。慣れるのが早いね」
「ん……」
言葉を封じるように、ちゅ、と唇を重ねる。間合いに馴染んできたのか、ミリシアはより密着できるように腕の中で背伸びしてくる。柔らかい胸が押し付けられてきて、アレックスはちょっとムラッ、ときた。
そこでふと悪戯心が沸いた。口づけに夢中になってるミリシアの隙をついて、左手を彼女の足の間に潜り込ませる。彼女の下着に覆われた秘所を、後ろから優しく刺激する。
「っ」
ミリシアが刺激に顎を跳ねさせて、キスが外れる。反射的に逃げようとする彼女の体を、逃さないように強く抱きしめる。
「はい、失敗」
「そんな……」
指の動きもキスも中断すると、ミリシアが蕩けた声で非難してくる。百の言葉より雄弁に続きを強請るその声色に笑みを浮かべて、アレックスはもう一度口を重ねた。
「ふっ……ふぅ………んっ」
再びキス。夢中になる傍ら不器用に行われる呼吸が一瞬乱れるが、今度は顎をはずす事なく粘膜の接触が続く。よくできました、とアレックスは悪戯から本格的に愛撫へと指の動きを変えて、優しく下着越しに接触を続ける。
腕の中で、指の動きにあわせてミリシアが身じろぎする。逃れようとする動きはいつしか、より刺激を求めて追従するような動きになっていた。胸板でつぶれる胸も、逆に押し付けるように上下する。
「んんっ……」
逸物を衣服の上から撫でさするようにミリシアの指が這いまわる。形を確認するようなその手つきに、男性のそれに対する嫌悪感は感じられない。むしろ、期待感すら感じられる。
その一方で、優しいキスに慣れてない事に、アレックスは小さな憐憫を覚えた。彼女のこれまでの性事情が、少し見えてきたような気がする。
ちょっと性急なぐらいがちょうどいいみたいだな、とアレックスは口づけを深くする。舌を伸ばし、ミリシアの並びのよい歯茎を舌先でなぞる。
「ん、ふっ」
自ら歯列を開き、ミリシアの舌が絡みついてくる。生き物のように、互いの舌が絡み合い唾液を交換する。むしろ貪欲なまでにディープキスを貪ってくるミリシアに、アレックスの方がやや押され気味なぐらいだ。
主導権を奪われそうになって、アレックスが意地悪気に目を細めた。緩やかに刺激を加えていた指を、秘所に食い込ませるように押し上げる。湿った下着の向こうで、ぬちゃりと粘っこい感触がした。
くぐもった悲鳴を上げてミリシアの動きが止まる。
反撃と言わんばかりに舌を絡めとり、押しのけ、彼女の咥内を占領する。細かな皺のよった口蓋を強く舌先で擦り上げ、同時に指先で秘所の割れ目を押し開く。
堪えきれなくなったかのように、ミリシアの手が背中に回される。しがみついてくるような彼女を抱き留めたまま、上と下の口を指と舌でそれぞれ蹂躙する。やがてひきつったようにミリシアの全身が強張り、脱力した。縋り付くように崩れ落ちる彼女の体をお姫様抱っこで抱え上げ、ベッドに向かう。
ミリシアをゆっくりとベッドに横たえ、自分も急いで服を脱ぐとトランクス一着になって、彼女の上に被さるように寝台に上がる。ミリシアはぼうっとした表情でなされるままでいたが、その視線がテントを張るトランクスにじっと注がれた。
「……あ……」
顔を赤くして見入るミリシアの様子に男としての喜びに浸りつつ、アレックスは彼女の下着に手をかけた。フロントホックのそれを、パチンとはずし柔肌を露にする。
晒される丸みを帯びた胸。その頂点の乳輪に、やや黒ずんだ乳首。
アレックスは柔らかい笑顔を維持して勤めながら、ミリシアの胸に手を伸ばした。触るか触らないか、といった塩梅で、輪郭をなぞるように指を動かす。くすぐったそうに、もどかしそうにミリシアが身じろぎをする。その手が所在なさげに彷徨い、アレックスの手に重ねられた。
「……っ」
物足りない、とばかりに重ねられた手に力が入る。アレックスはそれを無視して、微かな愛撫を続けた。胸ばかりではなく、脇腹や肩、お腹にも手を滑らせていく。
「どうして……」
「嫌がらせじゃない。性的コミュニケーションという奴をもう少し、楽しんだほうがいいと思うよ」
恐らく、獣のように求められる事しか知らないのだろう。優しいキスに殆ど経験がなかったように。だけどそれだけでは勿体ない。
ミリシアのような美人との交わりを、粘膜の交合だけで終わらせてしまっては損というものだ。
「コミュニケーション、ですか……?」
「そうだよ。よくわからないなら、言い方を変えようか。俺としては君の体に精液を吐き出すより、君が気持ちよくなってくれる方が気持ちがいいんだ。肉欲ってのは、言葉通り肉の交わりだけで満たされるばかりじゃない」
「よく……わかりません……けど」
すっとミリシアが手をどける。おずおずとためらったように頭上へと万歳のように手を投げ出し、無防備に体をアレックスに向けて差し出す。きゅ、と繊手が枕を握りしめた。
「だったら……教えてください……隊長が」
「ああ」
身を任せてくるミリシアの体を、反応を探るように触れていく。最初は困惑に固くなっていた彼女の体も、今はアレックスの指を待つように弛緩し、その接触を段々と受け入れていく。それにともない、少しずつミリシアの反応も変わってくる。
最初はくすぐったさを堪えるような、あるいは物足りなさを隠そうともしなかった。だが徐々に、その吐息に熱がこもり、快楽の比重が増えていく。じっとりと肌に汗が滲むようになり、柔らかく解れた躰は指先に吸い付くように馴染みつつある。
面白いほど従順に反応するミリシアの躰に、アレックスはすっかり夢中になっていた。初心な処女を抱くのとも、経験のある情婦を抱くのともまた違う。
おそらく今までの乱暴で雑なセックスで、それなりに性感は開発されていたのだろう。だがあくまでそれなりだ。それにミリシアの心の方が、快楽というものに慣れてない。
しかし感じるための下地はできているのだ。あとは彼女の心が、快楽を受け入れられるように優しく導いてやればいい。
困惑したようにミリシアが喘いだ。
「ふぅ……ふぅ……っ。おか、しいです。こんなの……。強く触れてない、のに」
「君の知っている男は、随分と自分勝手な奴ばかりだったんだね」
「はい……そうですっ……。乱暴に胸を揉んで、あそこを掻きまわすばかりで、隊長みたいに優しく触れた事なんて……っ」
くっ、と白い喉が逸らされた。少しだけ深く触れた指で触れながら、少しずつ分かってきた彼女の性感帯へと刺激を絞り込んでいく。胸や秘所といった、わかりやすい場所ばかりでしか、女性が感じないわけではない。ただそういうのは個人差が大きいから、相手の反応を見ながら辛抱強く探るしかない。そんな経験が、ミリシアには絶対的に不足していた。
「敏感な所を擦り合わせるだけがセックスじゃない。教えてあげるから、リラックスして、心を委ねるんだ。素直に、俺の指先に集中して」
「はい……っ」
その作業は、大理石の塊から石像を掘り出すのに似ている。見ただけではわからない彼女の弱い所を、少しずつ探り出して明らかにしていく。触れているのは指先だけだが、彼女の呼吸や体温、ちょっとした反応を五感を駆使して強い弱いを識別していく。
「いい……ですっ……」
息を荒くしながらミリシアが呻く。拒絶ではない、良い、と。
「こんな……知らなっ……。敏感なところ、触れて、ないのにぃ……っ」
「どこが特に感じる?」
「わかりま……せんっ。隊長の、触れる、所……全部、優しくてっ」
「そう。じゃあ、こういうのはどう?」
弄る指を止めて、ミリシアの右手を取る。困惑したように目を離せないでいる彼女の目の前で、見せつけるように、右手同士を絡ませる。
ミリシアの指。戦場暮らしで硬く荒れている所はあったけど、それでも女性らしい柔らかさと細さ、滑らかさを残している白い指。それに対し、ゴツゴツと節くれだち、岩のように荒れたアレックスの、男性の指。それを意識して官能的に擦り合わせ、恋人繋ぎのようにして一本一本、性差を味わうように絡ませていく。
「う、うそ……そんな指なんかで感じ……っ!」
「もう何されても感じちゃう?」
「はい、はい、指気持ちいい……」
「そっか。じゃあ、もう少し気持ちいい事、しようか。……あむっ」
なすがままにされる彼女の右手を、口にくわえる。指同士ではなく、舌という粘膜で、彼女の指を絡めとる。これまでの柔らかな刺激とは違い、指舐めは実際に肉体的な感触よりも、精神に訴えかける手段として攻めに使われる立派な愛撫だ。果たして効果は絶大だった。
「ひっ、あ……っ、うそ、そんな……ぁ」
経験の無い、指で感じるという刺激。その事に混乱しつつも、ミリシアは自分の指が隊長の舌でたっぷりと涎を塗され、一本一本しゃぶられていく様子から目を離せない。
頃合いかな、と判断し、アレックスは指を解放すると、その右手甲に強くキスマークを残すように口づけをした。
ぢゅっ。
「………っっつ!」
びくん、とミリシアの全身がひきつったように戦慄く。一瞬息が止まり、噛み殺したような哀切の声が漏れた。
軽いとはいえ二度目の絶頂を受けてぐったりとベッドに沈むミリシア。そんな彼女を労わるように、アレックスは横に体を下ろして、よくできました、とその頭を優しく撫でた。
「ふぅ……ふぅ……」
「気持ちよくいけたみたいだね。……大丈夫?」
「あ……はい……。……隊長、その……」
「うん?」
「こういうの……実は慣れてたり……します?」
「まあ、少しね」
実際の所は結構、自信があったりする。婚約者を娶って家督を継ぐ事が早い段階で決まっていたので、実家の方針もあって夜伽の教育はしっかり受けている。事実として、夫婦関係においてベッドでのやり取りは重要な意味を占めているし、何より子供を産み次代へ繋いでいくのは義務でもある。床が下手では済まされない。
聞いた話でも実家に限った話ではないらしい。だいたいの尊家は本番は結婚まで許されないが、夜の主導権を握る男側は早い段階でそういった行為の練習台も兼ねる専属の侍女をあてがわれ、少なくともその侍女の心身を完全に篭絡するぐらいの事は求められる。
ちなみにこれは性処理用の相手という事は決してなく、あんまりそういうのが下手だったり乱暴だったりすると侍女から家督者に報告が行くので、それこそ夫婦関係の予行練習として扱うぐらいの甲斐性が後継者には求められる。婚約者からも当然、自分の女をどう扱っているか、観察されるという面もある。あまりにアレだと破談もあり得る。
なので当然、そんな事情をここで話すべきではないという事も、彼は心得ている。ベッドの中で、自分の女に夢を見せてあげるのは、男の責務だ。
「そ、そうですか……」
「やっぱり、気になる? どういう相手がいたとか」
「あ、い、いえ! それを言ったらその、私こそ隊長に申し訳ないし……」
「こら。そろそろそれ、やめたら?」
「え?」
「俺は隊長、って名前の生き物じゃないんだけどね、ミリシア?」
言って、軽く肩を抱き寄せる。
こういう事に本当に耐性がないらしいミリシアは、火照るのとは別の意味合いで顔を赤らめ、こくこくと頷いた。
「は、はい……たいちょ……あっ。……うぅ」
「こらこら。まあ、しょうがないか。ミリシアは真面目だものな」
軽く頬を寄せてキスを落とす。ミリシアはくすぐったそうにしながらも、黙ってそれを受け入れた。少しずつ、こういったスキンシップに慣れていけばいい。
その一方で、オルガズムの波が十分に引いたのを見て取って、アレックスは少しだけ意地悪に尋ねた。
「それで、どうする? 今日はここまでにしておく?」
「えっ……」
「君の事情や気持ちはよく分かった。君がよければ、今後も機会を設けるけど……」
「……あ。その。……たいちょうは?」
そっ、とミリシアの手が、ギンギンに張り詰めた逸物にトランクスの上から触れる。その刺激にそれはびくりと震えるが、アレックスは意識して表情に出さなかった。
「俺はまあ、割と満足かな。ミリシアの可愛いところ、見られたし」
「…………」
「どうした?」
実際問題、男の方の欲求なんて処理にそう困るものでもない。出せばそれで終わりだ。今回はあくまで、ミリシアの気持ちを解くのが最優先である。彼女がここで終わりにしたいのなら、それでよい。だが、そうでないのなら。
勿論、アレックスは分かった上で尋ねている。だが、ここは敢えて彼女から言わせるのが肝要だ。
「……うぅ」
言わなければ、アレックスが本当にこれで終わらせるつもりだと理解したのだろう。ミリシアは荒い息を零しながらも、おずおずとアレックスの腕を掴む。やがて意を決したように、最後まで残されていたショーツに手をかけた。
ショーツはもはや下着としての体をなしていなかった。分泌液でぐっしょりと濡れ黒く染まったそれを、ずるりと下ろす。濡れたくしゃくしゃの布と、露になった秘所との間に、濃い粘液が糸を引いた。
きちんと手入れをされている恥丘。だからそのせいで、使い込まれて僅かに黒く変色した陰唇も、ぷっくりと膨らんで皮からはみ出している豆もよく見える。それを露にするミリシアの顔は完全に真っ赤で、息は乱れに乱れて途切れがちだ。もしかすると今までは貪られるままで、こうやって自分から恥ずかしい部分を晒しだすのは少なかったのかもしれない。
僅かに触れるミリシアの肌は、クールダウンどころかこれまで以上に熱く火照っているのを伝えてくる。女性の熱は、男のそれと違って上がりにくいが、下がりにくい。恥辱という燃料を投下された彼女の躰は、再び貪欲に性を求めているのが見て取れるようだった。
「お願い……します。最後まで……してください」
「ん」
頷いて、脱ぎ掛けのショーツを完全に脱がす。足から引き抜いたそれを床に落とし、ミリシアの足を割り開いて間に入る。自分のトランクスも脱いで、反り返った下半身を露にした。ミリシアはというと、ちょっと過呼吸が心配になるほど顔を真っ赤にして息を荒げたまま、アレックスに視線を向けている。
「じゃあ、始めるよ」
ガチガチのそれを手で押さえて、ミリシアの秘所に近づける。くちゅり、と触れ合った瞬間、びくりとミリシアの躰が震えた。無意識だろう、彼女の腰が引けて逃げていくのに苦笑しつつも、ぐっ、と挿入した。
「~~~っ!」
ミリシアが全身を弓なりに逸らして強張らせる。入れただけでいった、という訳ではないだろうが、相当に強い快楽を覚えたようだ。
彼女の中は、きゅうきゅうに締め付けてくるも、貪欲に奥へと引き込んでくるようだ。久しぶりの女体に喜ぶ分身が鉤のように反り返るのを、腰の角度を調整しながらゆっくりと奥まで突き込んでいく。が、反り返った角度がきつくて、抵抗が大きい。
「ふぅっ! うっ! あっ!」
「ごめん、ちょっときついかも。……少し腰を抱えるよ」
「んぃっ!」
ミリシアを寝かせたままでは難しくて、細い腰に手をまわして抱え上げる。その瞬間、ずるりと奥まで全てが届き、ごり、と彼女の子宮を押し上げる感触がした。悲鳴のような嬌声が上がる。
「っ?! あっ!?」
「ん、最後まで入ったよ。……はい、しっかりする」
「ぃいっ!」
意識はあるけど、何も見えてないし何も聞こえてない様子のミリシア。未知の領域に触れて飛んでいる彼女の尻を、窘めるように軽く叩く。パチン、と良い音が鳴り、ミリシアの中がきゅっと閉まる。
「ひぃっ、あっ、は……っ」
「ちょっと意識戻ってきた? でもいっぱいいっぱいかな……。はい、しっかりしがみついててね。スパートかけるよ」
「ひっ、あっ、はいっ」
話かけても、どこか上の空。胎内の存在に、もう意識のほとんどを持っていかれてるらしい。優しく声をかけて手を引いてやり、対面座位の姿勢でミリシアを抱きかかえ、抱きつかせる。今の彼女には、正常位よりこっちの方がむしろ楽だろう。
本当を言うともう少し時間をかけてやりたかったが、当のミリシアがもう大分限界だ。女性器はそれなりにこなれているのに、快感を楽しむ余裕がミリシアの方に全然ない。これまでの彼女の扱いがそこから透けて見えるというか、彼女を今まで抱いてきた連中のクソ下手っぷりに殺意さえ沸いてくる。これだけの美人を抱いといて、自分の性欲を満たす事しか考えなかったとか、男の風上にもおけない。
一方で、ミリシアの躰の貪欲さにも舌を巻く。そんな扱いでも、あちこちの性感は歪ながらも開かれている。特に膣は、入口や半ばはさほどでもないが、最奥のポルチオが妙に発達してるのが反応から見て取れる。……ポルチオは敏感な分、開かれるまでは苦痛に感じるだけの場合が多いという。これまでの相手に力任せに突き上げられて奥だけが偏って刺激された結果だろうが、それまで彼女がどれだけの苦痛を味わってきたかは、男の身では想像するほかはない。
「今までよく頑張ったな……」
気が付けば、そんな言葉が口をついてでていた。ミリシアを抱き寄せて頭を優しく撫でてやる。
「あ……」
「痛かったろうな、苦しかっただろうな」
「……ん」
ぎゅぅ、としがみついてくる指に力が入る。同時に強張っていた躰から力が自然に抜けた、ような気がした。
「……このまま最後までいくよ。悪いけど、きつくても止めないからね」
「は、い。このまま最後までしてください……。あ、それと中は……」
「あ、嫌かい?」
基本的に女性士官はピルを支給されているので、中に出しても問題ないというか、避妊具をつけずに交わってる時点で危険度は変わらない。ただそれでも、単純に精液が嫌で出されたくない、というのもあるだろう。ちなみに言うまでもないがピルは避妊目的ではなく、生理不順などで体調を崩し戦力外にならないようにするための処置である。
「そうじゃなくて、出来れば、中に……」
「うん、わかった」
ミリシアの耳元に口を寄せて、囁く。
「一番奥までぐりぐり押し付けて、中に注いでほしいんだね?」
「っあ、はい、そうです……。して、滅茶苦茶にして……っ」
彼女の細い腰を掴み、腰の動きと合わせて突き上げる。反り返る傘で腹の裏側を擦り上げるように、かきむしるように。あるいは子宮を押し上げるように最奥をつき、胡麻を擦るようにぐりぐりとかき回す。同じ動きを続けるのではなく、数度続けたらパターンを切り替え、浅い深いも一定のリズムで切り替える。
「あっ、あ゛あっ! ひぃっ! すご……いっ! バラバラに、なるぅっ! あっ!」
悲鳴のような、断末魔のような嬌声が、途切れ途切れに奏でられる。その合間に辛うじて意味合いを聞き取れる、快楽を訴えるあるいは喜びを口走る言葉が混じる。
ただされるがままではなく、健気にもミリシアもこちらに合わせて腰を振ろうとして、しかしうまくいってないようだった。動きを合わせられれば体感的にストロークの快感は大きく延長されるが、それで逆に腰が砕けて動きが止まってしまう。せっかくその気があるのだし、とアレックスは彼女の動きを逆に読んで、大きく快楽が増幅されるように立ち回った。
「い、ぎっ……! あ゛……っ!」
何度目かの深い絶頂に、ミリシアが硬く身を戦慄かせる。だが交合自体にはよく慣れた彼女の秘所は柔らかく、達した締め付けの中でも動くのに支障はなかった。限界に達した彼女に、そこが限界ではないと教えるように、徹底して蹂躙する。
「っ、そろそろ、出すからな!」
そこでアレックスも、そろそろ限界が来る。自制を心掛けていたとしてもいささか早い。ミリシアの具合が良かったのもあるし、彼女を精神的にも上位にたって翻弄していた満足感もあってか、射精感が立ち上がってくる。もう技巧や気遣いも忘れ、ただその瞬間の為に我武者羅にストロークを繰り返す。
そして最後は言葉通りに、痙攣するミリシアの最奥に切っ先をめり込ませるようにして、猛りを吐き出した。
「……っ、ふう……」
久方ぶりの女体だからか、驚くほど長く続いた。吐き出しきって、満足気な声が漏れる。
ミリシアはというと、最後を迎えるだいぶ前から、完全に意識が飛んで失神していた。目は虚ろで光はなく、端正な顔が汗と涎と鼻水でもうぐちゃぐちゃで、見ようによっては無様だったが、それが愛おしい。
脱力しきってされるがままの体をベッドに横たえて、逸物を引き抜く。どろり、と特濃の白濁液が糸を引いた。2年ぶりぐらいに女体に注ぎ込まれた精液は半ばゼリーのような濃度で、奥から垂れてくる様子もない。
これで彼女を妊娠させる事ができないのが残念だ。
「まあ、結果オーライ、かな……」
本当は上官と部下として、会話を通して信頼関係を築くつもりが思わぬ方向に転がってしまった。しかし結果として、彼女の心に触れることができたと思う。
時間を確認すれば、消灯時間まで少しある。途中からもう時間を気にせずに楽しんでいたので、うっかり超過していなくてよかった。いきなり彼女を朝帰りさせたら部隊の空気がどんな事になっていたか考えただけで背筋がすーすーする。
幸いシャワーを浴びさせて部屋に戻すにしても、すこし猶予がある。あと5分くらいは安らかに眠らせてやろうと、アレックスはベッドの上を軽く整えミリシアを抱きかかえて毛布を被った。