※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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第五十三話 アレックス、女に逃げられる

 

 

 2週間ばかりの休暇とはいえ隊長職ともなれば書類仕事から逃れられない。いつものように書類相手に格闘していたアレックスは、整備スタッフに呼び出され格納庫に来ていた。

 

 実働部隊と違い整備スタッフは、作戦終了後の機材をオーバーホールする仕事がある。その為休暇は短く時期もずれている。その事に対するクレームではなかろうか、と一瞬思ったが、格納庫に来れば整備スタッフは全員油まみれ煤まみれで生き生きと仕事に励んでいた。

 

 三度の飯より機械いじりが好きな彼らには、そういう心配は無用らしい。

 

 それはそれとして呼び出しておいて無視させるのもなんなので、27式の下に潜り込んでガサゴソやっている整備班長の後ろに回り、アレックスはコンコン、と床をタップした。

 

「ん? 誰だこの忙しい時に……」

 

「やあ、整備班長。人を呼び出しておいて悠長だな」

 

「ち、中尉! これは失礼いたしました!」

 

 整備班長が慌てて立ち上がるのに合わせて、他のスタッフも集まって整列する。それをいいよいいよと宥めつつ、アレックスはさっさと話を進めた。

 

「で、何? 呼び出したって事は報告があるんだろ?」

 

「はっ。27式の事なのですが……大分、状態が悪いようで……」

 

「ああ……。まあ、そりゃ、仕方ないよな……」

 

 整備班長の言葉に、アレックスも納得せざるを得ない。普段から大分無理無茶している上に、直前の任務では着艦装置を使えずに格納庫に不時着、セーフティーネットにひっかけて止まったあり様だ。いくら人類軍の車輛が全環境に適応しいかなる不整地も走破できるよう頑丈に作られているといっても、流石に限度がある。

 

 

「具体的には?」

 

「メインシャフトに歪みが見られます。他にもフレーム自体にも歪みが。できうる限り対応はしますが、今までのような完全気密は保てないかと。もし次に、前の作戦のような事故があれば、下手をすれば廃車になる可能性もあります」

 

「……まいったな。車輛を乗り潰したからとすぐに次を用意してもらえるような権限はないんだけどな」

 

「勿論、こちらでも可能な限りの対処はします。が、若干操作性等にも影響が出るかと……」

 

「分かった、ミリシアにもこちらから言っておく。というか、あいつの運転もちょっとは影響あるだろうしな……」

 

 異星生物を轢き逃げしたり、どうやってるのか知らないが無限軌道でドリフトしたり。腕がいいのは間違いないのだが、機体の設計要綱にない負担をかけている気がする。

 

 が、整備班長の意見は違うようだった。

 

「いやいや、ヴァディス二等兵の操縦技術だからなんとかなってるんですよ。これが並みの奴だったらとっくに2、3回廃車になってます。まあ、ぱっと見の操縦は確かに大分荒っぽいんですが……私ら技術屋からしてもためになる話が聞けるレベルです」

 

「なるほど。となると本当にどうしようもないか……上に陳情を掛け合ってみる」

 

「よろしくお願いします」

 

「ああ。とはいえ流石に二台目の27式とかは期待するなよ? 仮にも最新車輛だからな」

 

「ははは。個人的には海兵隊の使う重突撃車輛とか気になってるんですが」

 

「無茶苦茶言うな」

 

 整備班長の冗談に思わずつっこむ。

 

 ここでいう重突撃車輛とは、かつてザーバン基地奪還戦で海兵隊が用いていた兵員輸送車輛ではなく、もっとゴツい戦車みたいなやつだ。内部に重パワードスーツを収納するために砲塔を持たず、主武装のターボレーザーを車体の横に懸架しているのが特徴だ。特筆すべきはその装甲厚で、兵員ハッチのある真正面と上部の装甲は陸軍の一般的なMBTのAPFSDSでも抜けず、味方の制圧砲撃下を砲撃を跳ね返しながら侵攻する事が可能なほどであるという。ゴリ押しの権化ともいうべき車輛でその圧倒的な突破性能に比例してコストが尋常ではなく、使用されている合金が一部再生産できない(産出する資源惑星が異星生物に制圧された)為、海兵隊全体でも100輌も存在せず滅多に前線に投入される事もない。投入すれば確実に戦線を押し返せると言われるものの投入した話をアレックスですら聞かないレア中のレア車輛で、その活躍はもっぱら軍の広報雑誌のプロパガンダ写真が大半とさえ言われている。

 

 冗談にしてもちょっと現実味が無さすぎる。

 

「いっくらウチが海兵隊と陸軍の合同部隊だからってそりゃあねえよ。っていうかどんな作戦ならアレが駆り出されるんだよ、逆に嫌だぞ配備されたら。もれなく地獄確定じゃないか」

 

「うーん、これで戦争を終わらせる最終作戦とか、ですかねえ?」

 

「現実みろー? 物語じゃないんだから、そんな都合のいい銀の弾丸が在る訳ないだろ、全く」

 

「ははは、わかりませんよ。異星生物の親玉みたいなのが存在しない、とはだれにも断言できない訳ですから」

 

「……まあ、そうだが」

 

 所詮冗談ですから、と明るい無責任な希望を口にする班長に、アレックスは言葉を濁す。

 

 仮に、本当に仮にそんなものがいたとしても、そう簡単に戦争は終わらないだろう。人類と異星生物の戦争に隠れて暗躍する”堕ちた星見”。奴らの影響力を完全に排除しない限り、どんな乾坤一擲の大作戦も妨害されて成り立たないだろう。

 

 機密故、情報の共有を許されているのは現場の人員のみで、整備班は含まれていない。正直知らぬが仏にすぎる情報なので、アレックスも共有するつもりはない。なにせ、知ってしまったが最後、こんな無責任な冗談すら楽しめなくなるのだから。

 

 おそらくこれからも堕ちた星見に関する作戦は真相は伏せて、表向きのカバーストーリーだけ伝える事になるのだろう。同じ部隊としては、それが少し申し訳なかった。

 

「とにかく、変な期待するんじゃないぞ。期待は裏切られるもんだからな」

 

「心得ておきますよ」

 

 

 

「やれやれ……どう上に陳情すっかなぁ……」

 

 格納庫を後にしたアレックスは、食堂のテーブルでメニューを選びつつ頭を捻っていた。

 

 何か権限を約束されている訳ではないが、一応ある種の特殊部隊である事をふまえ、それなりの陳情書の書き方というものがある。これまで通りにはいくまい。

 

 とはいえそういう書類の書き方は知識外だ。惑星総督の跡継ぎとして教育された知識でこれまでやってこれたが、ここは素直にアドバイザーを頼るしかあるまい。

 

「フォンブラウ少佐、今手が空いてるかな……。空いてたら助かるんだが……」

 

 顔なじみ、といったら不敬にあたるか? 何度も顔を合わせた佐官の青年の顔を思い返す。そういえばここ最近顔を合わせていない。いや、独立愚連隊の中尉如きがそう司令部付きの少佐と何度も顔を合わせるほうがおかしいといえばおかしかったのだが。

 

「中尉、中尉ね……。俺も随分遠くに来たもんだ。変な巡り合わせには恵まれたな」

 

 一兵卒からここまで出世したのは俺ぐらいなもんだろうな、と嘆息する。

 

 ちなみにアレックスの認識が狂ってるのは言うまでもない。

 

 そもそも惑星総督の後継なんぞ普通は徴兵対象にすらならないVIPであり、もし士官する事になったら最低限佐官からだ。それも士官教育を受けた上で、まず前線に配備されない後方勤務が前提である。よほど優秀であれば前線に配備されるが、その場合でも精鋭部隊を率いる事になるはずだ。兵士は等しく水とカルシウムとタンパク質とアミノ酸の混合物と言い切る軍であっても、付けられたタグが理解できないほど狂ってはいない。

 

 アレックスの場合は悪意に満ちた叛逆者の陰謀により、一兵卒でそれも苛めのような目にあっただけだ。これに関しては人類軍に無視できない貢献を続けてきた植民惑星と軍の関係悪化、貴重な人材を無為に使いつぶすという悪意に満ちた愉悦、そういった叛逆者どもの目論見があったものと考えられる。

 

 が、そのあたりをアレックスはまだイマイチ理解していなかった。最前線を渡り歩いた彼は軍内での兵の扱いを他に知らないので仕方ない。周りもまさかそんな風に考えているとは思っていないので誰も訂正しない。負の循環である。

 

「……まあ、変な巡り合わせといえばこれもそうか」

 

 メニュー表をテーブルに戻し、ちらりと背後を盗み見る。

 

 兵士でごった返す時間帯の食堂。その人の波の合間に紛れて、襤褸のローブ姿がひょっこり覗いている。

 

 シルバだ。

 

 人目があるからか、いつもの露出度の高いドレスではなく薄汚れたローブをまとっているが、銀色の髪や人間離れした美貌は聊かも薄れていない。それでも周囲の人間はまるで彼女が見えていないかのように無反応だ。何かしらの不思議な力を使っているらしい……もしかすると面識のあるアレックスには美女の姿で見えているだけで、周囲からすると老婆の姿かもしれない。

 

 ちょっと不安になってくる話だ。流石に修羅場を共にした際の身のこなしからして美女の姿が本当なのだろうけど、ここまで人の認識を操作できるとなると老婆が美女の幻をまとっている、という可能性も頭によぎる。そういう妖怪だか怨霊だか、故郷の昔話に出てきたような気がする。

 

「いや、流石に失礼か……シルバ星見、そんな所に立ってないで、こっちこっち」

 

「!?」

 

 何の気なしに声をかけると、びく、とシルバは肩を跳ねさせた。青い瞳がこちらを向く……かと思ったら、視線を合わせる事なく、そそくさと彼女は人の流れに隠れてしまった。女性としては長身だが、あくまで女性としては、という話であり、男性兵士の列の中に紛れてしまうともう見えない。

 

 アピールのために振っていた手が思わず固まる。アレックスは苦笑いを張り付けて、がっくりと首を落とした。

 

「……え、ええ……?」

 

 避けられていた。間違いなく、誤解のしようがないレベルで拒絶された。

 

 おかしい。つい一週間ぐらい前まで、良好な関係を築けていたはずだ。何故、突然。

 

 脳裏にアレックスのトラウマじみた記憶がよみがえる。そう、部隊に合流してきた海兵隊のメンバーに、理由もわからず2mの距離を徹底して維持された一件。ミリシア達の想像よりも深く痛く、それは彼の脳裏に刻み込まれていた。

 

「え、えと。あれ? どういう事だ……?」

 

 そのまま、アレックスはそれこそ十年来付き合ってきた彼女に突然振られた彼氏の如く、テーブルの一画で茫然としていた。

 

 

 

 

 

「……うぅ。ちょっと露骨だったかしら……」

 

 一方、シルバはというと、人の中に身を潜めるようにして、食堂の隅でチマチマとダシ・ヌードルを口にしていた。小麦粉を練って作った極太の白いヌードルを控えめにちゅるちゅるとすすると、魚介類や海藻をベースにしたダシの奥深い味が口に広がる……のだが、今の彼女はそれを楽しむ余裕はなかった。

 

「流石に中尉さんもむっとしてしまったかも……で、でもでも、か、顔を合わせて、それで、どうしたら……」

 

 もじもじしながら独り言をつぶやく。大分不審者である。人目を避ける為に認識阻害を纏っている彼女ではあったが、もしいつものように老婆への偽装だけだと大分人目を集めていたかもしれない。それぐらい挙動不審だった。

 

「いやでも、同じ隊の仲間だし顔を合わせて食事するぐらいなら……で、でも、話の流れがそういう風になってしまったら……あぁ! か、覚悟、決めないといけないのかしら……」

 

 今度は何やら妄想で目を白黒させ始める。大分キている様子だった。

 

 そんな彼女だったが、あくまで認識阻害を受けているのは関係ない第三者にすぎない。つまり、同じ隊のメンバーからすれば、逆に滅茶苦茶目立つ存在である。

 

 ぽん、と誰かの手が肩におかれ、シルバは悲鳴をあげて文字通り飛び上がった。

 

「きゃい!?」

 

「わあ!?」

 

 ガシャン、と器が跳ねてスープが飛び散る。声をかけてきた人物が、特徴的な黒の三つ編みにスープを浴びて悲鳴を上げた。

 

「すすす、すいません! ネルスさん!」

 

「たはは……」

 

 頭からスープをひっかぶって苦笑を浮かべるネルスに、シルバがハンカチを取り出してそれを拭う。が、流石にハンカチ一枚では三つ編みにしみこんでしまったスープはどうにもならない。時間が経てばべとべとぎとぎとし始めるのは想像に難くない。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「いや、急に声をかけたこちらも悪いですし。まあ、シャワーの一つでも浴びれば綺麗になりますよ」

 

「すいません、本当にすいません……」

 

「だからそんなに謝らなくても……あ、じゃあ一つ、いいです?」

 

「そ、それは勿論。なんなりと」

 

「ほほーう? 安請け合いして大丈夫です? まあ、別に無茶な事を頼む訳じゃないんですけど……」

 

 ネルスは自らの三つ編みを摘まみながら苦笑する。

 

「ちょっと、背中流してもらえません?」

 

 

 

 その後のシャワールーム。

 

 ワシャワシャとネルスの髪を泡立てるシルバの姿があった。艦内の人員は交代制とはいえ今は昼時だ、人の姿は殆どない。時折やってくる者も、「なんだあれ」と変な物を見る目を向けてきても関心を持つ者はいないようだった。

 

「ふふ、かゆい所はありませんか?」

 

「ないですー。人に髪を洗ってもらうなんて久しぶりですねぇ……」

 

「はい、流しますよ」

 

 じゃわー、とシャワーで泡を押し流し、髪の毛の水を手で押すようにして切る。続けてリンスを手にしながら、シルバは楽しそうに笑った。

 

「私も人の髪を洗うのは久しぶりですね。里で弟や妹の髪をこうしてよく洗ったものです」

 

「おや、もしかして大家族でした?」

 

「少し、違いますね。前にも少し触れましたが、我々星見には一般的な意味での家族、という繋がりはありません。才能がある子が引き取られて星見の教育を受ける訳ですが、個々に教育される者もいれば多数をまとめて教育する事もあります。私は集団組出身で、年の近い者で集まっていると自然と姉や兄、妹や弟といった区別が生まれるものです」

 

「へえー」

 

「まあ、その後特別に才能を見出されて個別教育に移ったので、彼ら彼女らがどうなったかはよくわからないのですが……と」

 

 ネルスの髪によくリンスを馴染ませて、シルバは手を流した。これで汚してしまった髪の手入れは完了だ。

 

「はい、これで終わりです。どうですか?」

 

「ふふ、ありがとうございます。しかし変な気持ちですね、一度戦場に出たら泥まみれ油まみれ、何日もシャワーすら浴びれない事すらあるのにこうやってちょっとした汚れを気にしてシャワーを浴びるなんて」

 

「今は後方待機中だから気にする事はないのではないでしょうか? 前線に出たらできない事はいまのうちにやっておくべきだと思いますよ。まあ、第77独立遊撃隊が今までのような無茶な作戦に投入される事は今後減るとは思いますが。何せ司令部のお墨付きですからね」

 

「うーん。アレックス隊長から聞いた事はありますが、司令部からの強権を取り付けた精鋭遊撃部隊……そのポジションに自分がいるって凄く変な気持ちです。もしかして自分達がやばい時に要請したら一般部隊に支援してもらえたりするんですかね」

 

「もしかしなくてもそうなりますね。まあ、あまりやりすぎると嫌われますが。貴方も横から首をつっこんでくる上に権限が上の独立部隊って好きになれないでしょう?」

 

「うう……。確かに。あの時は色々不満に思ったけどいざその立場になってみるとこう……複雑な気分……」

 

 シルバに指摘されて、ネルスはもごもごとどう言っていいかわからぬ、という体の顔をする。そんな彼女に苦笑しつつ、手際よくシルバはタオルで彼女の髪の水分をとっていく。

 

「それで、この後どうするのです? 食堂で食べなおされますか?」

 

「あ、いえ。実は私はもう済ませたっていうか、シルバさんを探してたんですよ。ちょっと提案があったんですが……」

 

「あら、私を? 一体何の用事だったのですか?」

 

「いえ、その用事なんですが、状況が変わったというか……まあ、同じことかな?」

 

「???」

 

 きょとんと首を傾げるシルバ。

 

 そんな彼女に振り返って手を取りながら、ネルスは爆弾発言を放り込んだ。

 

「シルバさん。一緒にアレックス隊長のとこにいきません?」

 

「……ええと?」

 

 ネルスの発言の真意が掴めず数瞬困惑するシルバ。が、その意味合いをすぐに理解した彼女の顔に血が、ぶわと上がった。白い肌が忽ちのうちに赤く色づき、ネルスがおおーとその艶めかしさに目を奪われた。

 

 隊長のところにいく。

 

 字面だけなら普通の事だが、ネルスと隊長の関係を考えればそれだけの意味ではない。そこにわざわざシルバを連れていくというのは、まあつまりそういう事だ。

 

 同衾のお誘いである。

 

「ちょ、ちょちょ、ネルスさん、それはそのつまり?」

 

「つまりも何もストレートに。この後、私の番ですから」

 

「まだ真昼間ですよ!?」

 

 実際のところ宇宙空間を行く巡洋艦に昼夜はないのだが、まあ意味合いは通じる。だがネルスはそんな事ないですよー、と全く後ろめたい仕草はない。

 

「アレックス隊長のスケジュールは把握しています。今日に限っては、夜訪れるより昼からの方が負担にならない感じです。シルバさんも連れていくなら猶更ですね」

 

「ま、待ってください、その、私はそのあの……」

 

「どうどう。困惑するのもわかりますが、私の話を聞いてください。ここ数日観察していましたが、シルバさん、ちょっとアレックス隊長に声かけるの、ふんぎりがついてないでしょう?」

 

「う゛」

 

「理由も多分、恥ずかしいとかそういうのじゃなくて、ヴァディスさんやクズノハさん、ニーナさんの話を聞いたり様子を見たりして、自分の知らない世界に恐れをなしてる様子。あれですね、シルバさん、セックスをあくまで交渉とか義務ととらえていた口でしょう?」

 

「……うぅ。お恥ずかしながらその通りです。適当にまぐわって、出してもらえれば終わりと思ってました……」

 

 そう。シルバにとって、セックスは子供を作る行為、それ以上のものではなかった。その手はずについても、キスしたり胸を揉んだりして、起ったり濡れたりすればつっこんで前後して出しておしまい。それこそ動物の交配の延長線上のような認識だった。あれこれ道具や薬を見繕うのに協力していたのも、セックスが関係構築には大事と義務的な認識をした上で、普通にやってたらそこまで気持ちよくもないでしょう、というおせっかいからくるものだ。

 

 しかしながらその認識は、ここ1週間ほどで木っ端微塵に粉砕凍結されていた。

 

 ミリシア達の語る赤裸々な性体験。自律した精神を持っているはずの女性兵士達が、愛する男との夜を前に目の色を変える様。こっそり聞き耳を立てて聞こえてきた、断末魔と見まがうばかりの喜びに満ちた嬌声。

 

 どれもがシルバの価値観を変え、そして恐れを生むには十分すぎた。

 

「成程。あれですね、自慰とかで経験したつもりになって、ふーん、こんなもんかー、って思っていたら、セックスの快楽で文字通り人生観粉砕されて再構成されたのを目の当たりにして、自分がそうならない保証はないとしてとにかく未知の領域にびびりまくってると」

 

「うぐ」

 

 自分の心境を的確に言い当てられてたじろぐシルバ。

 

「その、ですね。嫌な訳じゃないんですが、とにかくその、想像もつかなくて怖いというか……」

 

「言いたい事はよーくわかります。なので、抱かれるかどうかはともかく、見学から初めては、というのが私からの提案です。今から私がアレックス隊長に抱かれにいきますので、それを隠れてみるというのは。もちろんそのまま本番なんて事にはさせませんし、一度間近から愛し合う、という事への理解を深めてみては」

 

「…………。……ネルスさんはいいのですか?」

 

 しばしの逡巡は、そんな恥知らずな事をする事への戸惑い。それでも未知への恐怖と恐れには抗えず、遠回しに了承する形になったシルバだが、気になるのはネルスの気持ちだ。

 

 他のメンバーは、せっかくの二人きりだからと、同衾を嫌がっていた。ネルスもそうなのではないか? と思うのは自然の流れだ。

 

 だがネルスは頬を染めながら目を逸らして、

 

「いや、私は病院船でこっそりお相手してもらってたから……他の三人より多分二人きりの時間多く貰ってるし、逆に誰かに見られながら、とか経験がなくて……」

 

「……3P以上とかは経験無いほうがマトモなんじゃないでしょうか?」

 

「私達の間ではそうじゃないからいいんです、ハイ。それで、どうします?」

 

 曖昧なのは許しませんよ、とはっきり断言を求めてくるネルス。それに対し、シルバは目をそらして随分と悩んだ結果、恥を捨てる事にした。

 

「……よろしくお願いします……」

 

 

 

 

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