※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:基本的にレーザーガンは同一出力のものが運用されているが、時折高出力だったり連射型だったり、全体的に性能が高い上位互換のものが混じっている事がある。それはどこかの工業惑星の試作品だったり、軍の開発部の先進的な実験機だったり、大抵何かしらの謂れがあるもので量産されていない物が殆どである。>




第五十五話 魔女は標的を狙う

 

 

「~~♪」

 

 その日、鼻歌を歌いながら上機嫌に艦内の通路を行くアレックスの姿があった。ここ最近としては珍しく、部下達の姿が隣にはない。

 

 時折すれ違う他の士官に挨拶を交わしながら、のんびりと訓練室に向かう。休暇中とはいえ腕をさび付かせないためにある程度の訓練は必要であり、そろそろ休暇も終わって訓練期間に入るので徐々に身体を慣らしていかなければならない。

 

 実をいうとアレックスはこの切り替えが苦手だった。ただし、普通と理由が逆、ではあるが。

 

 なにせ休暇? 訓練? 何それ? といった感じの超劣悪環境に何年もいたので、戦場にいるほうが日常になっていたのだ。そこから休暇を取っていいよと言われてもどうしたらいいのか困る。ようやく慣れて休めるようになった所で、休暇終わりで訓練開始、といった感じだ。そうすると半端な状態で訓練に臨む事になってしまう。ある種のPTSDというか、ワーカーホリックというか。

 

 なので本来は煩わしいだけのはずである休暇中の訓練はアレックスにとって気持ちを整理できるよい機会だった。

 

 何人目かの士官とまたすれ違う。挨拶だけして通り過ぎようとしたアレックスは、相手が足を止めてこちらに近づいてくるのを認識して首を傾げた。

 

「……うん?」

 

「どうも」

 

 声をかけてきたのは、茶色いローブを被った見慣れない男だった。ローブの下には見慣れない民族衣装のようなものを纏っているのが見て取れる。

 

 足を止めたアレックスに、男は小さく会釈をし端的に名前を述べる。

 

「第266機甲師団にお世話になっている、星見のクワイエットと申します」

 

「ああ、ほかの隊の星見でしたか。どうも、私は第77独立遊撃隊隊長、アレックス・ウィンザード中尉と申します。まあ、ご存知でしょうけど」

 

「ええ。御高名はかねがね」

 

 御高名ねえ、とアレックスは表情に出さずに心中でつぶやいた。アレックスなりに頑張ってはいるつもりだが、客観的にて第77独立遊撃隊は何やってんだかよくわからないクセに上からの支援が手厚い謎の部隊だ。主要メンバーが見目麗しい女性士官ばかりというのもあって、外から好意的な目で見られているとは到底考え難いのだが。

 

 まあ、社交辞令にいちいちつっかかってもしょうがない。ここは大人の対応に終始すべきだ。

 

「他隊の星見にそういってもらえるとは光栄です。それで、いかなご用事ですか?」

 

「いえ、アレックス中尉に個人的な贈呈品がありまして」

 

 そう言ってクワイエット星見が差し出してきたのは、手のひらに収まる程度の琥珀色の瓶。蓋は硬く閉じてあり、受け取って軽く振ってみると内部で粘性の液体が揺れる感触があった。

 

「これは?」

 

「シルバ星見に聞けば教えていただけるでしょう。私の口から説明してもよろしいのですが、いくら星見を名乗っていても今日初対面の知らぬ相手から言われた事は信頼できないのでは?」

 

「それはまあ、はい。確かに」

 

 納得して小瓶を懐に収める。堕ちた星見の事もある、確かに軍の立場で敵か味方か判別できないという事情を抱えている今、人類軍の所属だからと信用してはならないのは事実だ。まあ、本当に信頼できない相手は自分からそういう事を言い出さないだろうから、あくまでこちらの立場や事情を配慮しての気遣いというのもわかる。そしてこういう事を言い出した以上、このクワイエット星見も裏の件に通じた人物なのだろう。

 

 もしかすると今後お世話になるかもしれない。この人の事は覚えておこう。

 

「確かにお預かりました。このお詫びは、そのうち」

 

「それでは私はこれで」

 

 要は済んだと言わんばかりに足早に去っていくクワイエット星見。無駄話が嫌いなのか、あるいはアレックスに小瓶を渡す事だけが目的で、噂の遊撃隊長本人には興味が無いのか。早々に歩み去る後ろ姿からはその本音を窺い知る事はできない。

 

 一般人とは文字通り視点が違うせいなのだろう。気にしても詮無い事だ。

 

「……最近はシルバもなんか言動が変だしなあ……。星見の人とうまくやっていくのはなかなか大変だわ」

 

 見送るのも程ほどにして、アレックスは道程を急いだ。お喋りしていたせいであまり余裕がない。

 

 

 

 本日の訓練は射撃訓練だ。アリステラの艦にも似たような設備があったが、こちらのそれは常に人がごった返す人気設備のような様である。

 

 一般兵の武器はレーザーガンであり、無反動・光速のそれは実弾のそれと比べても遥かに扱いが簡便で、訓練期間がほぼ無くても実戦に投入できる。とはいえ、訓練をちゃんと積んだ兵はやはり一線を画する。標的をちゃんと狙う、高速で動く物体に照準を合わせ続ける、といった技能は訓練を重ねなければ鍛えられない。人間は思っているよりも全然、自分の身体を正確には動かせないからだ。

 

「……あっ、くそっ!」

 

「うーん……80点てとこかなあ」

 

 独立遊撃隊の女性メンバーも、レーザーガンを手に射撃訓練に勤しんでいるが戦績は思わしくないようだ。

 

「何やってんだお前ら。たるんでるぞ全く」

 

「うぅ……すいません」

 

「本体は軽量、反動もない、光速でまっすぐ飛ぶ! これだけの要素が揃っていて外すのは単なる普段の訓練不足だ。コースBを100%でクリアするまで今日は上がるんじゃないぞ!」

 

 部下に檄を飛ばしながらも、アレックス本人は最高難度のシュミレーションを片手間にこなす。戦場の塹壕戦、こちらの弾幕を異星生物が突破し肉薄された時を想定したもので、猟兵級を模したターゲットが複数、バラバラの速度で加減速しながら向かってくる。的確に優先度を設定し速やかに排除しなければ猟兵級に飛びつかれたと見なされて失格になるというものだが、その程度の状況、アレックスにとっては両手両足を使っても数えきれないほど経験したものだ。部下を監督する傍らでも、バシバシ処理して100%を叩きだす。

 

「た、隊長も最近レーザーガン使ってないのにそれですか」

 

「できなきゃこの場に立ってないからな。ったく、休暇に浮かれるのもいいがそれまでのスキルを失ってたら意味がないだろうが。全く」

 

「面目次第もございませんー……」

 

 普段は優しいアレックスにガミガミ怒られて涙目で訓練を再開する一同。まあ、本当にだらけていた訳ではなく射撃を続けるうちに急速にスキルが復旧しているのを見て、まあこのあたりにしておくかとアレックスも怒りを収めた。その間でも横目で訓練の二周目を開始し、再び片っ端から撃ち抜いていく。ちなみにバッテリーをそのまま使いまわしているので、どこかで交換する必要がある。その隙を窺うのも訓練と、セルフ難易度上げである。そもそも実戦ではこんなお行儀よく並んで猟兵級が襲い掛かってくる事もない。変な小細工などせず全力疾走で向かってくる彼らを的確に射撃で対応するのはアレックスでも2~3匹が限界だ。結局、人数をそろえて弾幕をはるのが一番なのである。

 

 そういう意味ではいくら高難度といっても実戦に役に立つ訓練なのかどうか。実戦のアレを本当にやったら訓練にもならないのは分かるが、本番に備えて死ねるだけ死んでおくのも訓練のはずである。機会があったら上に具申してみるか、とアレックスは心のメモに書きとどめた。

 

 そんな風に賑やかに訓練していた遊撃隊の元に、新たなチャレンジャーがやってきた。気が付いたアレックスが射撃訓練を続けたまま振り返り、その人物に声をかける。

 

「シルバ星見? 珍しいですね、こんな所に来るなんて」

 

「……はい。お邪魔しています、中尉さん」

 

 素顔を隠すように濃紫色のフードを被ったシルバは、訓練場に他部隊の人員がいないのを確認するとそっとフードをめくって微笑んだ。何度か見慣れてきているはずなのに、アレックスの心臓がドキリと跳ねる。その拍子にレーザーガンの照準がずれて、ターゲットが失敗エリアに入り込んだ。

 

 ブザーがなって訓練が中止される。横に並ぶ部隊員からの白い視線を浴びて、アレックスはあちゃーと肩を落とした。

 

「しまった……俺もまだ精進が足りない……」

 

「すいません。もしかして邪魔をしてしまいましたか……?」

 

「ああいえ。己の未熟のせいですので」

 

「……隊長?」

 

「うん全力で謝るからその目はやめてくれミリシア。夢に出る。それはそれとして、シルバ星見、何故ここに? 別に楽しいものではありませんよ」

 

「ああ、いえ。私も少し、身に覚えがありまして」

 

 銀色の髪を靡かせて、シルバがラックから訓練用のレーザーガンを手にする。慣れた手つきでバッテリーやトリガーを確認し、空いていた席に収まる。……民族衣装チックな星見の服装と武骨で現代的なレーザーガンの組み合わせが実にアンマッチである。

 

「銃器が使えるんですか?」

 

「それはそうですよ、従軍する以上最低限の嗜みはあります。それに私、こっちの方が好きなんです」

 

 にっこり笑うと、シルバはシミュレーターを起動させガンを構えた。自称するだけあって、その構えは様になっている。

 

『ミンションスタート』

 

 ガション、と30mほど先に人型のターゲットが展開される。その直後、シルバの放ったレーザーがその心臓部を打ち抜いた。命中を確認したターゲットが回収され、再び次のターゲットが展開される。それもまた刹那に、今度は眉間を打ち抜かれる。ターゲットは展開される度に位置が変わるので、早撃ちで初撃から命中させていくには高い射撃スキルが必要だ。射撃が下手でもレーザーを照射しつつ追随させれば連続で展開されるターゲットを撃ち抜く事が可能だが、最初からきっちり狙いを定め継続的に照射を行った方が殺傷力が高いのは言うまでもない。手慰み程度ではなく、本気でレーザーガンで戦える腕前だ。

 

「へえ……」

 

 感心するアレックス。背後でムキになって引き金を引いている部下達より、射撃の腕前は上かもしれない。

 

 が、一通りターゲットを処理したシルバは、不満げな視線をガンに向けた。

 

「やはり軽いですね。……ふむ、ここにあるのは……」

 

 その視線がガンラックに向く。生産惑星によって形状の違う多種多様なレーザーガンが並ぶ様を目で品定めしていたシルバだったが、ある銃を目にして席を離れる。使っていたレーザーガンを戻して、新しい銃を手に取った。

 

「ふむ。これはなかなか」

 

 彼女が手にしたのは、重レーザーガンと呼ばれるタイプの銃だ。名前通り、出力を強化したレーザーガンであり、急所を射抜かなくても先兵級を即死させる威力がある。が、出力を強化した結果排熱が追いつかなくなった事で連続照射可能時間は減少し正確な射撃を要求され、消費電力の増大から射撃回数も減少、大型化により重量が増加した為取り回しも悪く、さらにそこまでして得た高出力でも制圧級や戦車級には通じない。レーザーガン最大の売りである扱いの簡易さを犠牲にして得たメリットが釣り合っていないため、使う者はほとんどいない不遇なモデルである。というか、そんな物を訓練場に置くな、というのがアレックスの意見ですらある。

 

 そんな銃を、しかしシルバは気に入ったようだ。心なしかウキウキした感じで射撃位置に戻り、今度はアレックスがさっきまでやっていた最高難易度のシュミレーターを起動する。

 

「ほう?」

 

 記憶にある銃のスペックと訓練の内容を換算すると、絶対に途中でリロードが数回生じる。それに猟兵級に対し重レーザーはオーバースペックだ。普通に考えれば素人故の無謀な挑戦に見て取れるが、しかしシルバの様子を見るにそうではあるまい。勝算があるのだと判断し、お手並みを拝見する事にする。

 

『ミッションスタート』

 

 合図と共に、無数のターゲットが出現、かなりの速度でこっちに迫ってくる。この訓練の嫌らしいのは、刹那の内に優先順位が変わる事だ。具体的にいえば、さっきまで最速で先頭を走っていたターゲットが急に減速し、代わりに後ろにいたターゲットが急加速して前に出る、といった挙動を取るのだ。そうなると、さっきまで先頭だったからと最初のターゲットに目を奪われると、いつの間にか次のターゲットが急接近してくる事になる。それらへの対応が遅れればどんどん距離的猶予が失われ、やがては阻止限界点を越えて失格になる。

 

 これをクリアするコツは、常に複数のシチュエーションを想定し適宜対応を切り替える事だ。射撃の腕だけでなく、並列処理能力が問われる事になる。

 

 そういう意味では、重レーザーはかなり不向きだ。弾数の少なさもあるし、重いので取り回しが悪い。反動のある実銃ならばともかく、無反動であるレーザーガンでは銃の重さは単なる減点材料だ。

 

 しかしながら、シルバは重レーザーならではの特徴をうまくいかし、次々とターゲットを屠っていた。その様子を隣で見ていたミリシアが、そんなのありか、と目を丸くしてつぶやいた。

 

「うっそ……一射で二体以上仕留めてる……」

 

 唸りを上げる重レーザーの閃光。先兵級であればどこを撃っても全身ウェルダンにしてしまうほどの熱量は、当然より防御の低い猟兵級にはオーバーキルだ。それをシルバは生かし、密集して接近してくる猟兵級を複数纏めてレーザーの加害範囲に巻き込む事で弾数の少なさをカバーしていた。システムがそれに対応し分散させてターゲットを差し向けてくると、今度は短くレーザーを薙ぎ払って始末する。通常のレーザーガンの出力では浅く薙いだ位では異星生物を殺せないが、重レーザーの出力なら掠っただけでも絶命する。照射時間は一秒未満と極めて短いので口で言うほど楽な扱いではないが、シルバは重い銃を的確に操り状況に合わせて直線貫通と薙ぎ払いを組み合わせて一定の距離からターゲットを寄せ付けない。

 

 だが、照射回数という物理的な要因は腕ではどうにもならない。レーザーガン側面のインジケータが赤く点灯し、バッテリー切れを表示する。まだ訓練は終わっておらず、ターゲットが素早く距離を詰めてくる。

 

 シルバはそれでも慌てる事なく、よどみない手つきでバッテリーを交換した。空になったバッテリーを床に落としつつ、予備バッテリーを速やかに装填。インジケータが緑に点灯するのを確認するなり、速やかに射撃を再開する。僅か1,2秒の早業であり、その間に距離を詰めていたターゲットは再開した精密な射撃によって殲滅される。

 

 そして訓練終了。

 

 たたき出したスコアは、アレックスがクリアした時とほぼ同値だった。つまりパーフェクトである。さらに実戦経験者からいれば、今のやり方は実戦でも十分に通じる。少なくともアレックスは、重レーザーの過剰出力で複数まとめて処理するという発想は完全に頭になかった。これは素直にシルバの腕前と発想をほめるしかない。

 

「おみごと」

 

 ぱちぱちと拍手を送る。シルバは観客に一礼すると、使用した重レーザーガンを抱えてガンラック近くの作業机に向かい、分解を始めた。戻す前に手入れをするらしい、マナーも万全だ。

 

「意外だったな。こういうのも得意だったのか。プラズマガン譲ってくれたからあまり得意じゃないのかと」

 

「あれはハンドガン規格でしたので。レーザーガンは割と好きなんです、シンプルだから。引き金を引けばレーザーが出るでしょう?」

 

 にっこり笑って答えるシルバに、うん? と首を傾げるアレックス。なんだかいささか話がかみ合っていない気がする。

 

 少し考えて、アレックスは一つ聞いてみた。

 

「ちょっといいかな。もしかして、銃は重たいほど良い派?」

 

「ええ。重たいという事は火力が強いという事ですからね。取り回しに問題が無ければ重ければ重たいほどいいと思います。火力は正義ですから」

 

 まさかの火力厨だった。ハンドガンが好きじゃないのは、軽くて威力が低いから、という事だろうか。

 

「ああ、でも中尉さんが持っていらっしゃるハンドガンというか、ハンドキャノンはちょっと惹かれますね。残念ながら私が使うと手首を痛めてしまうでしょう、残念です」

 

「そ、そうか……。いや、てっきり例の手品があるから、銃は持ち歩かないもんかと思ってたので」

 

「そんな事はありませんよ。ただ、お婆さんがレーザーガンを持ち歩いていたらおかしいでしょう? 今後偽装の必要が無くなりましたからガンガンもちあるきますよ。この子も、持ち出して構わないか掛け合ってみましょうか?」

 

 会話の間も迷うことなく重レーザーガンを分解整備しながらそんな事を宣うシルバ。まあ、ここにおいてある中でもダントツで不人気だったようだし、星見の立場があれば持ち出せるかもしれないが……。

 

「そ、そうか。武器にこだわるのはイマイチよくわからないが、好きなら別に結構」

 

「あら? 中尉さんは道具に拘らない方?」

 

「こだわるというか、一定以上の品質を満たしていればいいですかね。大抵長持ちしないので」

 

 ナイフなんかが良い例だ。いざという時の命綱なので品質は良いにこした事はないが、だいたい数戦ぐらいで砕けて無くなってしまう。独立遊撃隊を結成してからすでに二本は喪失した。いちいち愛着をもってはやってられない。

 

 そんな事を話してる間にシルバは分解整備を終えたらしい。パチン、と最後の部品を組み込んで胸に抱きかかえる。銃身につぶされて、むにゅりと豊かな旨の輪郭が歪んだ。

 

「まあ。それはいけませんわ……。最後の最後で、僅かな慣れの差が生死を分かつ事もあります。どうでしょう? この期に、中尉さんにとって理想的な得物を調達してみる、というのは?」

 

「そうは言われても、ツテがないものでして……」

 

「うふふ。清廉なのは美徳ですけど、それも過ぎると愚昧ですわ。貴方の目の前にいるツテを利用しない手はないのでは? ご覧の通り、多少の心得はあります。中尉さんの要望を理解して、必要なものをそろえる事、できましてよ……?」

 

 すぅ、とアレックスの胸元に気が付けば入り込んでくるシルバ。女性としては長身だが、アレックスの方がまだ少しだけ背が高い。そうなると自然、彼女を見下ろす事になり、肌が触れ合うような距離で目を合わせようとすると、どうしても豊満な彼女の谷間が目に入ってしまう。流石に失礼すぎる、と目を逸らすアレックスだが、シルバはそれをとがめるように、ふにゅん、と胸を押し当ててきた。衣服の上からでもわかる重量感に、びくっと肩が跳ねる。同時にそれを見ていた部下達もガタッ! と物音を立てた。

 

「ちょ、シルバさん……近いですって」

 

「別に、このぐらい男女のスキンシップでしょう? 聞かせていただきたいわ、中尉さんの、好みの話。大きい子がお好き? それとも敏感な子? もしかして手がかかる子が好きだったりするのかしら?」

 

「銃の話ですよね!?」

 

 妖艶に微笑みかけてくるシルバの様子に思わず腰が引けるアレックス。おかしい、ついこの間まではきちんと適正な距離感を保てていたはずなのに、と困惑する。嫌な訳じゃないが、この場においては背後の視線があまりにも怖い。

 

 視線に攻撃力があったら今頃射殺されているのは間違いない。

 

「そ、その、今は訓練中ですので……」

 

「そうですか? では、訓練を切り上げて私の部屋でお話はどうでしょう? 中尉さんは、訓練コースを終えられたのですよね? 他の部下の皆さんはまだのようですけど……」

 

 チラリ、とシルバが流し目でミリシア達を見る。どこか挑発するような成分を含んだその視線に、ギリィ、と彼女達が歯を食い縛った。ただ、その中でイオリだけが、そう来たかー、とでも言いたげな顔でうんうん頷いている。

 

「サボろうという訳ではなく、あくまで武装について、お仕事の話です。別にいいでしょう?」

 

「わ、私は部下の監督業務がありますので……!」

 

「そう。つれない人……ふふ」

 

 我ながらちょっと苦しい理由、と思いつつも、アレックスがなんとか絞り出した理由に、シルバはあっさりと身を離した。あれ、と拍子抜けするアレックスに、シルバは今まで通り数歩開けた適正な距離で佇まいを直す。睦言に誘うような雰囲気が一瞬の間に霧散していた。

 

「それでは、残念ですが、その話はまた今度に。私としても、これ以上中尉さんのお時間を奪うのは本意ではありませんわ」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

「それでは、私はこれで。そうそう、ミリシアさん。そのレーザーガンは貴方の手のサイズにあっていませんわ。なんなら中尉さんに選んでもらったらいかがかしら」

 

「え? あ、どうも」

 

「ふふふ。では……」

 

 最後にアドバイスを残して、すい、と訓練室から出ていくシルバ。……抱えていた銃をそのまま持って行ってしまったが、よほど気に入ったのだろうか。一応、持ち出し許可等については後で確認しておこう。

 

 それにしても一体何だったんだ、と謎に翻弄された疲労感を残して見送る一向。しばし弛緩した空気が漂うが、それをアレックスがパンパンと手を叩いて振り払った。

 

「ほら、いつまでもぼっとしてないで、訓練訓練。あとミリシア、ちょっとそれ見せて。適当にレーザーガン選んだんじゃないだろうな」

 

「あー、その、すいません……」

 

 大人しく差し出されたレーザーガンを預かって、眉を潜める。指摘通り、それはミリシアの手のサイズに対してグリップが太すぎる。こういうのは、大きくても小さくても駄目なのだ。ちなみにアレックスの場合、少し手の甲が人より大きい比率の手の作りをしているため微妙になかなかサイズが合わないので、場合によってはグリップにダクトテープを巻いて調整している。

 

「ほら、やっぱりサイズあってないじゃないか。大きいんじゃ調整の仕様が無いから、もうちょっと小さいのを選んで来い。いや、こっちで選んだ方が早いな。このあたり、いいんじゃないか?」

 

 ガンラックから、手ごろなサイズのを選んでくる。軍では色んな工業惑星で作られたレーザーガンをごっちゃにして運用しているが、だからってサイズの合わないのを無理に使わせるという訳ではない。申請したところで通りはしないだろうが、同じ部隊の仲間で交換するとか、色々やりようはある。

 

「はい。慣れも大事だが、思考停止はもっとよくないぞ」

 

「すいません……」

 

 肩をしゅん、と落とすミリシア。なんだかその様子がかわいらしくて、気が付けばアレックスは手を彼女の頭において、ウェーブのかかったブラウンの髪を梳くように指を動かしていた。

 

「た、隊長……?」

 

「あ、いや、すまん。つい」

 

 完全に無意識の挙動だった。思わず手をひっこめようとすると、ミリシアがその手を押しとどめた。これもまた反射的な挙動だったらしく、ミリシア自身もびっくりしたように目を丸くしている。

 

「あ……」

 

「……あ」

 

 数秒、互いに何ともいえない空気が流れる。鼻をつくイオン臭漂う射撃訓練室に、一瞬だけ男女の甘やかな雰囲気が形作られたかに思えた。

 

 まあ直後にそれは空気を読まない大声に木っ端みじんに粉砕されたのだが。

 

「ちーっす、海兵隊でーす! ……どしたん?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

 闖入者の乱入に、はじかれたように手を離す二人。その瞬間を目撃してはいないが、妙な空気に、闖入者であるプラリネは首を傾げた。いやまあ、アレックスが声をかけたのだが。

 

 さらにその後ろから、ぞろぞろとアーミージャケットに袖を通した海兵隊のメンバーが入ってくる。

 

「ま、いっか。海兵隊一行、お呼ばれしましたー。スーツ無しの射撃精度を疑われちゃあ黙っていられませんぜー」

 

「色ボケどもには負けはしませんよ!」

 

「い、色ボケなんかしてないわよ!」

 

 今まさに色ボケしていたミリシアが顔を赤くして反論する。その後ろでは、他の三人が冷え切った視線を、じと~とミリシアの背に浴びせかけていた。

 

「はははは……。ま、それはともかく、海兵隊の連中も言うだけのもんは見せてくれよ? そうだ、なんだったら俺と勝負……」

 

「「「あ、それは勝ち目無いからいいです」」」

 

「なんでだよ?!」

 

「逆に聞くんですけど射撃訓練場の記録全部塗り替えてる奴に挑む訳ないでしょ!?」

 

「何やってるのさ隊長。ゲーセン荒らしじゃないんだから」

 

「ぐぅっ、いや、その。つい」

 

「……ゲーセンって何?」

 

「ん。お嬢様は知らない場所よ」

 

 やんややんや。

 

 女三人寄れば姦しく、というが、10人近い人間があつまればそうもなる。冷徹冷酷、兵士を消費資源として磨り潰す軍にあるまじき賑やかな時間だったが、アレックスはそう悪くは思わなかった。

 

「ほらほら、ふざけてないで訓練いくぞ。とりあえず、コースDを三周からだ!」

 

「鬼ぃー!?」

 

 

 

 アレックスが懐にいつの間にか収められていた手紙に気が付いたのは、訓練も終わって部屋に戻ってからの事だった。

 

 






<戦場のひみつ:レーザーガンは発振器とバッテリーといった射撃性能に関わる部分を除けば規格は特に定められていない事が多い。逆に言うと、見た目がどれだけ違っても基本性能に大差がない場合がほとんどである。性能が違う物であっても、バッテリーの規格だけは必ず一緒である事が前提である。>

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