未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:地球の生命はいわゆる、二重螺旋構造のDNAを持つが、宇宙に進出した今はそれとは違う遺伝子構造、あるいは遺伝子とよべる物を持たない生物も多数発見されている。それにより生物の定義そのものが大きく見直される事になったが、それでも地球における分類学は分類の基本的な考えとして今でも使われている。>
不意に、尋問室のドアがノックされた。
尋問官が硬直する。彼は血走った目をアレックスに一度だけ向けると、襟首をつかんでいた手を離した。誰か分からないが、来客の前で暴力を振るわないだけの分別はまだ残っていたようだ。
「……なんだ。こちらはいま取り調べ中だ」
「そうか、それは邪魔をしたな」
聞き覚えのある低い声。
まさかと思ってアレックスは項垂れていた顔を上げた。
ガチャリとドアが開け放たれ、特徴的なガスマスクの兵士が押し入ってくる。その物々しい雰囲気に気圧されて、尋問官が壁まで下がる。そんな彼に銃を突き付けて制圧するアリステラが合図をすると、彼らより一回り以上背の高い偉丈夫が部屋に入ってきた。
高級そうな黒コートに、胸元に飾られた大量の勲章。そして機械化された片目。
「……ザラガ総司令官?!」
「うむ。まだ生きているようだな」
ザラガはアレックスの様子に満足そうに頷くと、ついで、尋問官に目をむけた。アレックスにむける視線はどこか暖かいものがあったのに対し、尋問官に向けるそれは冷えた鉄のようだった。
「そういう訳でコイツの身柄は私が預かる」
「あ……いえ、しかし手続きが……艦長の許可も……」
「艦長の許可は要らんぞ。もう存在しないものの許可は出せんだろう?」
キュィイ、と義眼が音を立てて光った。西方軍の兵士なら、ザラガの義眼がレーザーを発射するとか、裏切り者はそれで処刑されるとか、そういう噂は聞いたことがあるだろう(噂じゃないのをアレックスは実際に知っているが)。尋問官は震え上がった。
「ひ……っ! わ、わかりました、あ、あとはごゆっくりどうぞ……!」
壁をはいずるようにして、尋問官が部屋から出ていく。恥も外聞もなく、足音を立てて走り去るその後ろ姿を心底つまらなさそうに見送って、ザラガは深いため息をついた。
「つまらん。横紙破りをしているのはこちらなのだからもうちょっと強気にでるべきだろう」
「それは無茶な話と思われますが……」
相変わらず公平なんだけど無茶苦茶いってんなあこの人、と肩を落とすアレックスの元にアリステラ隊員が近づき、拘束を解除する。久しぶりに自由になった手足を軽く動かして調子を確かめると、アレックスはザラガの前で膝をついて平伏した。
「お久しぶりでございます、閣下」
「うむ。……言っておくが、何かのついでではなくお前の救助に来たのだが、何か他に言う事はないのか? うん?」
「お手を煩わせて申し訳ありません。ですが、何も閣下が直々にいらっしゃる事もなかったはずです。御身をあまり安売りするべきではないかと」
「ほっほう、言いおるわ。これこれ、お前らも見習えよ。ちょっとムカつくが、こういう苦言を受け入れない奴は器が知れておるわ」
ニヤニヤ嬉しそうにザラガが傍らのアリステラ隊員を小突く。ガスマスクで見えないが、彼ないし彼女が心の底から困ったような顔を浮かべているのがアレックスにはありありと予想できた。
人格面も公正さも見習うべき絵に描いたような理想の上司なのだが……あまりそれが過ぎると周りは困るという話である。
「まあ、お前の言う事も尤もだ。私とて、己の責務に自覚が無い訳ではない。が、それを押してでも動かねばならなかった、それだけの事態だったという事だ。シルバ星見から連絡が来た時は血の気が引いたぞ」
「……どういう事です?」
アレックスは、どれだけ貴重な技能の持ち主といっても一兵士だ。彼自身の価値は、総司令を動かすほどではない、いくらなんでもそこまでうぬぼれてはいない。
だから血の気が引いた、というのは、この艦で起きた事態の事だろう。
それはつまり、ザラガ総司令は、異星生物がミリシアを誘拐した事について、何らかの事情を把握しているという事になる。
おそらくアレックスが把握していなかった裏の事情があるのだ。
「それは……私にも教えていただける範囲の話なのですか?」
「安心しろ、ここまできて当事者に伝えずに話は進められん。お前がいくら物分かりのよい部下とはいえ、限度というものがあるわ。だがその前に……」
チラリとアレックスの全身を確認し、ザラガはため息をついた。
「まず、負傷の手当てと、あとシャワーでも浴びてこい。おい、そこの。中尉の介抱を頼む」
「はっ」
「あ、いや。一人で出来るので……」
「総司令の命令ですので……抵抗は控えて頂けると……(小声で)我々も困りますので……」
「アッハイ」
「いやその、流石にシャワーぐらい一人でできますので……」
「閣下のご命令ですので。ほらほら」
「わ、わぁ……」
綺麗に洗われてしまった。
傷の手当もしてもらい、独立遊撃隊の待機区画に向かう。
道中の艦内はなかなかに物々しかった。異星生物襲撃の混乱の興奮も冷めやらぬ中、武装した兵士が巡回している。通路の隅で集まって何ごとかを話している者達もいた。可能な限りトラブルを避けつつ、区画に戻ってきたアレックスは扉をくぐった途端、複数の女性士官に飛びつかれてよろめいた。ロックされた扉に押し付けられて押しくらまんじゅう状態になる。
「隊長ー!」
「隊長ぅぅうー!」
「アレックス隊長ー!」
「ちょ、落ち着けって、お前ら」
しがみついてくる部下達を苦笑しながら引きはがす。だってー、とか言いながら泣きべそをかいている彼女らに、愛を感じて胸が温かくなると同時に、ここにいない彼女の事を思い出してチクリと痛む。
「全く……。ああ、シルバ。色々と世話をかけた」
「いえいえ」
もみくちゃに参加せず、一歩引いた距離でこちらを見つめていたシルバに礼を告げると、彼女は嫋やかに微笑みながら頷いた。
「貴方の為ですもの。それに明らかに口封じでしたから、人類軍の一員としても対応しただけですわ」
「そうか……それでもありがとう」
実際、シルバが動いてくれなければ大分やばかったというか、完全に終わりだった。部下を人質に取られればアレックスとていつまでも口を閉じてはいられなかったし、総司令部に情報がいく事もなかったろう。まあ勿論、その時はその時で覚悟を決めて一暴れして脱走するつもりだったのだが。
「この埋め合わせは、また今度」
「ふふ。楽しみにしておきますわ」
嬉しそうに笑うシルバ。……そういえば、彼女は以前、露出の激しい水着と思うようなドレスを平然と着こなしていたが、今は露出が殆どない、体のラインは見せるものの肌を完全に隠すようなローブ姿だ。どういう心境の変化だろうか。
いや、まあ。それは今気にする事でもないだろう。
戦闘員だけでなく、整備班もこの場にはあつまっている。年配の整備班長に目くばせし、互いに頷き合う。彼に感しては言うまでもなくわかっているようだ。わかっていないのは比較的若年の裏方スタッフのようだ。
「ウッスラ二等兵、俺はこれからザラガ総司令と話をしてくるが、おそらくそれが終わり次第、艦を移って出撃になる。そのつもりで準備を進めておいてくれ」
「わ、わかりました」
「……出撃……って。何所にですか?」
「それはわからん。だが、ミリシアの誘拐は何やら大きな出来事の一環らしい。恐らく、俺達も駆り出されるし……それに」
「それに?」
「お呼びでなくても捻じ込むさ。ミリシアは必ず取り戻す。……だから、お前らも協力してくれ。頼む」
アレックスの嘆願に、イオリ、ニーナ、ネルスは一度目を見合わせて互いに頷き、
「……勿論です!」
迷いのない強い決意でもって返事を返した。
ザラガの指定したのは、艦内のサブブリッジの展望台だった。アリステラ隊員が警備する中を通り、展望窓から宇宙を眺めているザラガの横に向かう。
カッ、と足をそろえて敬礼し名乗りを上げると、ザラガ総司令は鷹揚に振り返った。
「来たか、アレックス中尉」
「は、お待たせいたしました、閣下」
「ふ。……もう少し部下といちゃいちゃしてもよかったのだぞ?」
「いや、それは……」
見透かしているような目で揶揄されて目を逸らす。やっぱ、部下との関係は知れ渡っていたらしい。別に問題がある行動ではないはずだが、ちょっと気まずい。
「まあ、その部下の一人が攫われたのだ。そういう気分にはなれんか」
「……その事ですが。司令は、今回の件をどこまで把握していらっしゃるのですか?」
「全体の数割、といったところだ。だが、人類側における事情は概ね心得ている。その事をお前に話す必要があるのは……まあ、我々の不手際の侘び、という面もある」
「先ほどもおっしゃっていましたが、それはどういう……?」
「司令部は、お前に一つ、嘘をついていた。覚えているか? DEATHと交戦した後、未知の感染症にかかったのを治療しただろう」
「ええ、まあ」
忘れるはずもない。いや、それ自体もなかなか強烈な体験だったが、なんせその後の療養生活でネルスと深い仲になった訳でもあるので。
「あの時、お前の体内に侵入したウィルスはほぼ死滅した、といったが……あれは嘘だ」
「えっ」
「ウィルスは今もお前の体内で少なくない数が生存している。バリバリ元気だ」
「えっ」
衝撃のカミングアウトである。自覚が全くなかったのもあって意表を突かれたアレックスが、壊れたスピーカーみたいな返事しか返せなくなっているのを見て、ザラガが渋い顔をした。
「いや本当にスマン。だが事情あっての事なのだ」
「……えーと……その。どういう事なのですか? あれ、確か結構ヤバいウィルスという話でしたよね? それも嘘だったんですか?」
「ううむ、半分は嘘、という事になるのだろうが……そもそもあのウィルスが何だったかという話になるんだが。時にアレックス中尉、生物学的に、異星生物は何をもって異星生物として分類されているか、わかるか?」
「生物学的に、ですか?」
言われて考え込む。軍人としては襲ってくる敵であれば異星生物認定でよいしそれで充分なのだが、まあ生物学的に、となるとそうもいかない。基本的に生物は真核細胞かそうでないか、みたいに基準を決めて分類するが、その分類でいうと、異星生物は……。
「……いや分かりません。あいつらバリエーションが豊かすぎるので。脊椎動物と無脊椎動物がごっちゃになってますし……」
「うむ。確かに、身体的特徴や代謝などで分類するとそうなるな。だが、人類軍の研究班は、ある点において既存の異星生物に共通点があるとし、それをもって異星生物として認定している」
「ある点? ですか?」
「これだ」
ザラガの義眼がチカチカと煌めき、空中に3Dホログラフィックを描き出した。こんな事もできるのかー、と感心しつつ、投影された3Dモデルを観察する。
鉄アレイ状の何か。ぱっと見、覚えがないが……なんとなく、ウィルスに似ている気もする。
「地球で言うウィルス、あるいはファージというものだな。研究班はゼノファージと呼称している。これを体内に持つのが、異星生物の共通要綱、と考えられている」
「それは初めて聞きますね。どうして表ざたになっていないのですか? 隠すような事でもないでしょう?」
「発表できるほど研究が進んでいないのだ。この50年以上、人類はこのゼノファージの解析に明け暮れてきたが、それで分かったのが、異星生物は地球でいう二重螺旋構造のDNAをもたない事、そしてこのゼノファージが地球出身の生物に適合していないという事、それだけだ。どういう訳かこのゼノファージはな、それそのものの培養は勿論、異星生物の肉片を用いた培養、それどころか生きたまま捕獲した異星生物の体内で繁殖させる事もできないのだ。いずれの場合も、速やかに活動を停止、酵素によって自己分解されてしまう。まるでゼノファージ自身に意思があり、人類軍に情報を渡すまいとしているようにな」
「……そこまで徹底してると余計に怪しいですね。そのゼノファージってのが、異星生物にとって重要な要素なのは間違いないようですが」
「うむ。そこで人類軍はありとあらゆる手段でゼノファージの培養や分析を進めてきた。が、その悉くが失敗に終わった。正直、もはや調べるだけ無駄であり、別アプローチを試みるべきだと考えてすらいたのだ。……だが、状況が変わった」
じろり、とザラガの残された肉眼がアレックスを見る。
「お前が鍵となってな。アレックス・ウィンザード中尉」
「え?」
「DEATHから感染した例のウィルス。あれは多少性質が変わってこそいたが、ゼノファージの一種である事は間違いなかった。そしてあろう事か、ゼノファージは最初こそ拒絶反応で死滅傾向にあったが、ある段階からそれが反転した。今現在でも、お前の体内に微量のゼノファージが存在し続けている」
「え……?!」
思わず自分の手の甲を見る。かつて変な痣ができていたそれは、今はすっかり消えている。だが、その根源となったウィルス……否、ゼノファージは未だ生きているという。
「ま、まってください! あれって人体に悪影響もあったはずですよね!? そんなの俺がファクターになって他の兵士に感染したら……!」
「感染したか?」
「あっ」
「つまりそういう事だ。研究過程で確認されたが、ゼノファージは人類の体内では繁殖しない、たった一つの例外であるお前を除いてな。一度はお前を冷凍保存してゼノファージの研究用媒体にするという意見もでたが、それをやって過去の例のようにゼノファージが自滅したら何の意味もない。なのであえて、研究班はお前を泳がせ、あわよくば人体適応型ゼノファージのキャリアーにならないかと観察していたのだ。……お前以外に感染者が出れば遠慮なく実験対象にできるしな。あと定期的に診察ついででサンプルも回収している」
「ひどくないです???」
「それは本当にすまん」
まあ、総司令という立場からすれば、兵士の一人の犠牲で異星生物の正体解明に近づくなら安い買い物だろう。もしかしてやたらと優遇されてたのもこのあたりの事情があったかもしれない。
しかしだ。
「でもそれとミリシアの誘拐に何の関係があるんです? あいつらが情報漏洩とか気にしてそのゼノファージ関連で動いた、っていうなら、それこそ私がターゲットでないのはおかしくないですか?」
「……ああ。私も最初はそう思っていたのだがな……ううむ。どういったらいいのか……」
ここにきてザラガは言い淀むように顎に手をあてて考え込んだ。が、この場に及んで躊躇ってもしかたない、とストレートに切り出す事にする。
「お前、ミリシア二等兵をはじめとする部下と関係をもっているよな?」
「ええ……。え、ちょっとまってください、まさか、粘膜接触で彼女に感染したっていうんですか……?!」
それはつまり、アレックス自身のせいで彼女が狙われた事になる。血相を変えるアレックスに、ザラガはしかし小さく首を振った。
「いや。そのあたりは裏で徹底的に調査していた。彼女達はゼノファージに適応していない。これは間違いない……現状、ゼノファージに適応する可能性があるのはアレックス中尉、君の“遺伝子”だけだ」
「じゃあ、どうして……」
「彼女が君の子供を妊娠していたからだ」
「…………妊、娠??」
アレックスの頭は真っ白になった。
気まずそうに、気の毒そうにしながらも、ザラガは説明を続ける。
「最後に彼女が相談していた医務官の証言だ。それに、彼女達の私室の物品を調査した結果、ピルケースの中に入っていたのは軍支給のピルではなく、排卵誘発剤だった。錠剤に微量の異星生物の痕跡が付着しているのも確認されている」
「え……うえ……?」
「つまりだ。連中も君に興味をもっていて、さらに我々の考えの上を行ったのだ。奴らは待つのではなく、自ら作り出すよう誘導したのだ。ゼノファージに感染しつつも互いに適合した君の遺伝子を引き継ぎ、さらに受精卵の状態からゼノファージと共存する新生児……サンプルとしては一級品だ。人類軍にとっても……異星生物にとっても」
「え、ま、ちょっと、まっ……え?」
よろよろと後ずさるアレックス。その顔は真っ青だった。
立て続けに明かされる衝撃の事実に、意識が付いていかない。
そんな彼に気の毒そうな視線を向けながらも、ザラガは淡々と説明を続ける。
「恐らくすべては偶然だ、仕組まれていた事とは思えん。LORDが信者どもを攻撃した現場にたまたま貴様がいて、異星生物がDEATHを侵入させた船にたまたま貴様がいて、たまたま貴様がゼノファージに適合していた。それでDEATHは目的を人類軍への潜入破壊工作ではなく、唯一無二のサンプル奪取に切り替えた。それが司令部の見解だ」
「…………」
顔を掴むように抑えたまま、アレックスは何も言わない。言えない。
しばらくの沈黙の後に、アレックスは辛うじて声を絞り出した。
「ミリシアは、どこに?」
「艦を脱出した連絡艇は、ある程度離れた所で突如として姿を消したらしい。微弱な重力変動が確認されている事を考えると、奴らは光学迷彩機能をもった巡洋艦でも配備したらしいな。……その後、人類軍が調査を続けた所、ミリシア・ヴァディス二等兵の兵員コードで救難シグナルが発信されたのが確認された。調査部隊が向かった所、星系図にこれまで確認されていなかった未知の惑星が発見された。恐らく、その惑星にミリシア二等兵は捕らえられている」
「救難シグナル……?」
「司令部はおそらく、異星生物が発信したと考えている」
意味が分からない。
攫っておいて、その居場所を自分からばらす? 異星生物は一体何がしたいのか、アレックスにはさっぱりわからない。だがザラガはそんなアレックスを見下ろしてため息をついた。
「貴様も人の子、という事だな。冷静であればすぐに理解できるだろうに。いいか、異星生物は、奴らは、我々とコンタクトを取ろうとしているのだ。戦争が始まって100年以上、ただ殺し合うだけだった関係の、我々と。その鍵が、おそらくお前の遺伝子だ」
「……それは」
「我々が奴らを研究していたように、奴らも我々を研究していながら、しかしどうしても理解に及ばなかった。だがそこに、両者をつなぎ合わせうる共通記号が生まれた。異星生物のゼノファージと生まれながらにして共存するお前の子供というな。シグナルを発信したのは、おそらく、お前を呼んでいるのだ。奴らには、人類とコンタクトを取る準備が揃いつつある」
「じゃ、じゃあ。この戦争は終わる……?」
「上手くいけばな。だが話はそう簡単にはいかん」
「えっ」
「あくまでコンタクトを取れる可能性が生まれた、というだけだ。互いに意思疎通し、その上でやはり相容れぬと絶滅戦争が続行されるという可能性の方が大きい。仮にお互いに停戦の意思があっても、あまりにも多くの犠牲が払われ、あまりにも長い間続きすぎた。そう簡単に終わらせる事はできん。そもそも、迂闊に星に近づいた調査隊の艦艇は大規模な異星生物の艦隊の攻撃を受け壊滅した。人間のように細やかな指示が出来ない異星生物の性質を考えると、恐らくお前を呼んでいるのだろうが個々人の区別がついているとは言い難い。というか全てがこちらの思い違いで、奴らにはコンタクトを取るつもりもなければ、お前を呼んでいる訳ではない、という事もある。確実なのは、その惑星がやつらにとって重要な拠点の一つだろう、という事だ」
「つまり……ミリシアを助けるなら敵艦隊を強引に突破して、惑星に降下する必要がある、と」
「それも味方艦隊を出し抜く形でな。……未発見だった惑星が、近年人類軍の後背を脅かしてきた敵戦力の抽出点である可能性も高い。どちらにしろ、大規模な艦隊の動員が必要になってくる。そうなると軍としてはあくまで可能性にすぎない貴様の派遣よりも、確実に敵拠点の殲滅が優先度が高くなってくる」
司令部としても、異星生物とのコンタクトを重く見てはいる。もしかするとこの先の見えない戦争に何らかの展望をもたらす事ができるかもしれないと。だが、あくまで可能性にすぎず、何より一兵士に依存するような戦略を、軍は取る事ができない。何より、そもそもコンタクトが取れるかどうか、というのも可能性の話にすぎず、証拠と言えるモノは何もない。
より確実に結果を出せる戦略を選ぶのは、当然の事だ。
「第77独立遊撃隊に、西方総司令部からの特別任務を与える。これから120時間後に行われる、惑星X攻略作戦に参加、異星生物司令部と接触し、その意思を計れ。これは艦隊司令部にも共有されない極秘任務だ。真の意味での味方はいない、敵地への単独潜入任務になる。人類史において例を見ない危険な作戦になるが……それでも任務を受領するか?」
西方軍総司令部ザラガは、どのような死地に臨む任務であっても兵士に強制する事ができる。それでもなお、意思の確認をするからには、彼自身、任務達成の可能性は著しく低く、貴重な人員を使いつぶすだけになるという事を理解しているのだろう。
それだけ、無意味に終わる可能性が高い任務だと。
それでもお前は、この任務に臨むのかと。
改めて確認するでもない。アレックスの答えは、決まっていた。
腹はくくった。
だが、部下にまで強制するつもりはない。
確かに力を貸してくれとは言ったが、それはあくまで常識的な困難においてだ。異星生物の本拠地に単独降下なんていうただの自殺行為を強制するつもりはない。
120時間後の作戦開始まで時間がない。部下達を呼び集め、確認を取ろうとしたアレックスだったが、集った者達の目を見て口を閉じざるを得なかった。
目は口ほどにモノを言うとは、この事だろう。
「……いいのか?」
「まあ、いつもの事ですし」
「くそヤベー鉄火場にぶちこむんでしょ? アタシら海兵隊に異存はないっすよ」
「裏方にはあまり関係ないですしね。せいぜい乗ってる軍艦が落とされないようにお祈りするぐらいです」
「だいたい隊長、あんた整備班がそろって離脱言い出したらどうするつもりなんです? いくらなんでも一人で整備はできないでしょう?」
やんややんやと好き勝手言う部下達。いつものメンツに海兵隊に加え、裏方の事務班や整備班までそのつもりらしい。
本当に、改めて。よくもこんなに物好きが集まったものである。
「いやそうなんだがお前らな……せめて俺の説明聞いてから判断しろよ……」
「だって、あの隊長が、わざわざ西方総司令に呼び出されて直に受けた作戦でしょ? 生還確率スリーセブンより低いのはもう予想ついてるし?」
「それが分かってるのについてくる気まんまんなのかよ」
「そういう隊長こそ、最初から受けない、って考えなかったんでしょう」
「う」
言い負かされて黙り込む。どうにも今日は調子が狂いっぱなしだ。
どうにも言い淀んでばかりのアレックスに、一同を代表してイオリが言った。
「ミリシアを助けるんでしょ? いっておくけど、一度約束した事を危ないからって反故にするようなクズじゃないんで、私達」
「……全く。わかったよ、俺が悪かった」
「じゃあ、こう、言う事があるんじゃないですか? 作戦だからとか、隊長だからとか、以外にね」
「そうだな。改めてもう一度言わせてもらう。……ミリシアを救出する。頼む、皆の力を貸してくれ」
「「「了解!」」」
<艦隊司令部より通達:オペレーション『タイダルウェイブ』がザラガ・クロッカス西方軍総司令の名のもとに承認されました。全ての西方人類軍所属の艦艇は電送された命令ファイルを開封し、その内容に従う事。本作戦は30年ぶりの大規模な異星生物拠点への反抗作戦です。一兵卒に至るまで、人類の為奮闘するように>