未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:惑星降下作戦などは基本的に海兵隊の職務だが、なんらかの機密事項等が絡む際に部外者である海兵隊の手を借りる事が出来ない作戦もしばしば発生する。そのため宇宙軍も陸軍も、そういった場合に単独で降下作戦を行う為の特殊部隊を抱えている。彼らは一般的な海兵隊のそれと比べてより潤沢な装備を施された最精鋭ではあるが、その戦果が表ざたになる事はないためどれほどの実力かは知られていない。>
「しかし、ミリシアのお嬢ちゃん抜きで27式は誰が動かすんですかい? それに惑星降下作戦となると、27式じゃとてもじゃないが無理がありますが」
「そこは問題ない。ザラガ総司令が既に動いている」
準備に追われる作戦参加艦の内部で、回廊を渡りながら整備班長を打ち合わせをする。もともと少人数で部隊を回していた中で、中核ともいっていい操縦手が抜けたのは部隊運用においてあまりにも痛い。
それに加え、惑星降下作戦となるとその為の機材がいる。当然ながらあくまで陸戦部隊である第77独立遊撃隊にはそれをこなせる装備がない。
しかもただ大気圏突入すればいいという訳でもない。作戦の都合上、味方に先んじる形で惑星に降下する必要があり、最悪脱出も自分達で行わなければならない。敵戦力を考慮すると制空権を確保できるかどうかというのはかなり怪しい面があり、ただ突入用ポッドを調達すればいいというものでもない。
それなり以上の装備を上に陳情する必要がある。
そして、総司令部はそんな作戦内容に充分な、少なくとも不足の無い装備を手配してくれていた。
格納庫、その全貌を見渡せる展望室に入ると、ちょうど手配されていた機材が運び込まれているところだった。
解放されたシャッターから除く宇宙空間。その深淵の闇を駆け抜けて、一機の航宙機が格納庫に入ってくる。軽やかな動きで減速し、ゆっくりと着地するその機体の姿を確認した班長が感嘆の声を上げる。
「コスモホークじゃないですか……! 海兵隊の機体ですよね、よくもまあ」
「それだけ上も本気で動いてるって事だろう」
アレックスもまじまじと海兵隊の汎用強襲輸送機を観察する。
以前、惑星ザーバンで救援にかけつけてくれたのもこの機体だった。だがあの時は上空を飛んでいるのを下から見上げただけで全貌はよくわからなかった。この距離からじっくり見るのは初めてだ。
コスモホークはいささか変わったデザインの航空機だ。
航空機というのは、基本的に空気抵抗などの兼ね合いでつるりとした流線形をしているのが基本的なデザインだ。だがコスモホークは四角く角ばった形状をしており、胴体は前方にむかって引き延ばされた長方形、機首は揚陸艇のフロントのようだし、翼は分厚い装甲版のような形状をしている。宇宙と地上を行き来するだけでなく、その直後に敵の対空砲火にさらされる事を想定し、必要に応じては強行突入も行う機体は空力学的な損失を踏まえた上でとにかく頑強に設計されたという。
どれぐらい頑丈かというと、最悪翼を対空砲でもぎ取られても、敵陣地に胴体着陸を行えれば目的は果たしたとする壮絶な運用に耐えうる程である。そもそもが海兵隊というのは他の軍ではまず行わない、行えない危険な上陸作戦に従事する部隊であるので、そこで調達される機材もまたまともではないのだ。
武装は機首の四問の重機関砲の他に、胴体部上部にターボレーザー砲が一門。あとは必要に応じて爆装も可能。武装レイアウトも戦車に似ているというか、戦車を飛ばそうとしたらこんな形状になったのではないか? と素人目線では思わせるデザインでもある。
ちなみに、搭載した戦闘員は機体下部の昇降ハッチの他に、機首正面の装甲ハッチからも展開が可能らしい。何に使うのかというと、敵要塞に首から突っ込んで乗り込むときに使うのだそうだ。異星生物戦争相手では機会がないものの、かつての人類同士のいざこざにおいてはしばしば見られた光景だったと記録にはある。ターボレーザーで敵戦艦の装甲に穴をあけてそこにぶちこみ、兵員を送り込むというわけだ。
海兵隊の連中って馬鹿じゃねーかなー、というのは正直なアレックスの感想である。
そんな馬鹿共の為の馬鹿機体であるコスホモークだが、性能そのものは堅実かつ優秀だ。運動性も航続距離も悪くない。今回の任務にこれ以上の適役はいないだろう。
また重量物の運搬能力もあり、今回は機体下部に27式を括り付けて運用する事になる。敵惑星上に存在する拠点がどのような形か分からない以上、選択肢は多いに越したことはない
最悪、強制ブースターを用いて27式を空挺投下する事になる。
「しかし、これ、誰が操縦するんですかい?」
「私だが」
「……え? 隊長、乗れるんですかい?」
「これでも航宙機の資格は取ってる、問題なく乗れるよ」
アレックスは元とはいえど惑星総督の後継者だ。宇宙船の一つや二つ、自分で乗りこなせなければ話にならない。これまでその資格が役にたった事はないが……。
「ハンドルをにぎるのは数年ぶりだが。ま、なんとかなるだろ」
「大丈夫ですかねぇ……」
大丈夫な訳あるものか、とアレックスは内心で毒づいた。それでもやらねばならない、それだけの話だ。
「塗装は好きにしていいって話だから、あとは班長にまかせるよ。出来るだけ大きく、第77独立遊撃隊のマークをかいといてくれ」
「はあ……いや別におかしな話ではないんですが、らしくないですな。隊長、そういうのあまりお好きではないと思っていたのですが。作戦時間まであまり猶予が無いですし」
「ああ、まあ、好きではないのは事実だな。悪目立ちしたくはないんだが、今回は話が別だ。むしろ、異星生物にこっちの存在を認識させられるかどうかが作戦の鍵になる」
「はあ……? それは、どういう……?」
「色々事情があるんだよ。とりあえず、よろしく頼むよ班長」
「まあ、ご命令とあれば異存はありませんけどね。わかりました、フロントにでっかく描いときますよ」
「よろしくぅ」
班長の肩を叩いて退室する。
部隊章を大きく描かせるのは言うまでもない、異星生物へのアピールだ。想定では異星生物の意思決定権を持つ何かがアレックス達を呼んでいるのは間違いないが、おそらく現地を防衛している異星生物達の挙動はおそらく完全には管理できていない。人間と違って本能で暴れるだけの異星生物軍が基本的に放し飼いなのはこれまでの戦訓で分かりきっていたことだ。
だが、流石に全くの無対策という事でもないはず。最低限、第77独立遊撃隊の存在位は刷り込んであるはずだ。でなければ意味がない。
部隊章でこちらの存在を認識すれば、本当に呼び寄せていたのなら攻撃を控えるぐらいはしてくれるだろう、というある意味、おまじないのようなものだ。信頼性でいえばおまじないよりはるかに低いが、やらないよりはマシだ。
続いて向かったのは、作戦に備えて装備の調整を行っている部下の元だ。
海兵隊四名に、女性士官が三人。結局、アヤカの代わりの補充要員は間に合わなかった。
アーマー類の調整を行う整備室に顔を出すと、全員が揃って装備の点検と説明を受けているところだった。アレックスに気が付いた全員が一斉に振り返って敬礼するのを手を上げてやめさせる。
海兵隊はいつもの強襲用パワードスーツ。ただ今回は作戦内容に合わせてより火力を強化しているようだった。いつもは片腕だけの白兵戦用大型アームを両手に装備し、火器もアームの出力に合わせてより強力な物を装備。陣地に備え付けて運用するような大型機関砲を装備しており、その補充用弾倉を背中にカバンのように背負っている。さながら歩行する要塞といった有様だ。拙速こそを信条とする海兵隊の装備らしくはないが、今回は惑星降下後もそれなりの長距離移動が想定される。従来の装備は瞬発力こそあるが機動性そのものはスラスターまかせで航続距離は長くない、多少の即応性を犠牲に火力を確保するのは理にかなってはいる。
一方、普段はアーミージャケットにプラスティックアーマー程度の軽装備の歩兵チームも、今回は補助動力付きの軽機動アーマーを装備している。見た目は普段の野戦服と変わらないように見えるが、フレーム状の外骨格が服の下で肉体を補助しており、重量物の運搬や長距離移動を補助してくれるようになっている。言うまでもなく一般兵に支給されるような装備ではなく、本来は司令部付きの特殊部隊などに配備される装備だ。
「どうだ、新しい玩具の使い心地は?」
「問題ありません。思ったより馴染む感じで……長距離移動してもフレームが体に食い込む、みたいな心配はしなくてよさそうです」
「そりゃよかった。より強力な装備となると海兵隊みたいなパワードスーツがいいんだがな、あれはちょっと扱うには専門の訓練が必要だからな……。即興で戦力強化できるのはこれぐらいが関の山だ」
実際のところ戦力はいくらあっても足りない。司令部も人員以外ならいくらでも出す、とはいったが、かといって単純に高価な装備を支給されても使いこなせなければ意味がない。
「ん。それより、隊長もさっさと装備して慣らししておいた方がいいんじゃないです?」
「忙しいのは。わかるけど。隊長が一番ちゃちな装備じゃ。意味がない」
「わかってるって。そのためにこっち来たんだから。私の分を早く出してくれ」
「うっす。じゃあ寸法もう一度確認するっすよ」
新たに人類が発見した、異星生物の拠点と思われる惑星。
該当宙域ははるか以前に調査が行われ、星図も確定していた。過去の人類がこの惑星に気が付かなかった理由は判然としないが、しかし、今、その惑星が異星生物の拠点になっているであろう事は疑いようのない事実ではあった。
この惑星に総司令部はリヴァイアサンの名を設定した。地球時代の神話にでてくる、海に生きる巨大な怪物である。やがて殺されて食料となる運命の怪物の名をつけたのは、これがいかに巨大な敵拠点であろうと制圧してみせる、という人類軍の意気込みを語っているのかもしれない。
リヴァイアサン周辺の宙域は、異星生物の有機物船で守りが固められている。全長数キロにも及ぶ、有機体が蓄積した三角錐だ。生物的要素を持ち合わせた艦内では、生体プラズマ砲や強酸性の体液が詰まった卵巣、休眠状態の異星生物戦力が眠りについている揚陸管など、生物でありながら人類軍の艦艇と似たような対艦・対惑星攻撃能力が備わっている。
有効射程や破壊力そのものでは人類軍のそれに及ばないが、問題は数である。1隻ではかなわずとも2隻で、2隻でダメなら3隻と、圧倒的な数にモノを言わせて人類軍の戦線を浸透突破するのが異星生物艦隊の戦術だ。
今回も彼らはその数に物を言わせ、リヴァイアサン近辺に鉄壁の防御陣を形成していた。
とはいえ、彼らは意思を統一されている訳ではない。なんらかの要素によって、たまたまこの宙域に集合しているというのが実態だ。現に一定の距離を保ちつつもそれぞれの有機物船は好き勝手に宙域を漂っており、遠くから見ればシャーレの中の微生物の群れにも見えたかもしれない。
不意に、一隻の有機物船が動きを止め、回頭した。すると周囲にもそれが伝播し、有機物船達が次々と向きをそろえて宙域に留まる。
彼らは皆、同じ方向を向いて微動だにしない。何かの予兆を感じ取った証。
やがて、彼らの注目する方向の宇宙空間に、いくつもの歪みが生じた。完全な真空であるはずの宇宙に水の波紋のような歪みが広がり、遠くから届く星の光が歪められ、オーロラのような輝きが生じる。
宇宙に輝く緑白色のカーテン。その向こうに、いくつもの影が垣間見えた。
ショックアウト。
カーテンを突き破り、いくつもの艦影がその姿を顕す。人類の行うショックポイント航法。次から次に、無数の戦艦がこの宙域に集結する。総数では異星生物側に劣るとはいえ、一度の作戦に投入される数としては規格外の艦隊だ。手の空いている艦を片っ端から投入したと思われるが、その陣形に淀みや乱れはない。普段からの彼らの訓練と高い意識がなせる業だ。
ショックアウト直後から既に、全ての艦艇が戦闘態勢にあった。砲塔が旋回し、眼前の異星生物艦に狙いを定める。堂々と真正面から奇襲を行った人類軍艦艇が、一斉に砲撃を開始した。
オペレーション『タイダルウェイブ』の始まりである。
まず先手を取ったのは人類軍側だった。
戦艦の主砲であるレールキャノンが質量弾を投射する。発射された砲弾は内蔵したロケットモーターで二次加速を行い、超高速で異星生物の艦隊に襲い掛かった。
その攻撃で何隻かの異星生物艦が轟沈する。いくら頑丈とはいえ、宇宙空間という条件であらゆる枷を取り払われた高速飛翔体の直撃を受けては、理論上原型をとどめている事など不可能である。
しかしながら、命中した攻撃は発射された砲撃のうち何割かに過ぎない。宇宙空間においては全ての距離と速度がインフレじみた事になる。一見するとゆっくり動いている物体が、実際には音速の数倍という超高速で動いている世界なのだ。戦艦も同じく、静止しているという事はなく実際には相対距離を維持しながら高速で飛び回っており、その中で生物故の不規則で気まぐれな軌道変更を繰り返す異星生物艦の位置を正確に捕捉し続けるのは困難な作業なのだ。
続けて、やはり人類軍艦艇の第二次攻撃が行われる。大電力を瞬間的に消耗するレールキャノンは連射が不可能であり、再チャージが行われる傍ら、超高速誘導弾による攻撃が行われる。超高速といってもレールガンのそれに比べれば非常に遅く、数十万キロの距離を挟んで行われる艦隊戦においては弾着まで何十分もかかってしまう。だがレールキャノンと違い、速度が遅いという事は軌道の修正も容易いという事だ。攻撃が届きさえすれば命中率は高く見込める。
レールキャノンの先制攻撃で出鼻を挫き、続けてミサイルの飽和攻撃で制圧する。これが艦隊戦における人類軍の基本戦術である。
それに対し、異星生物艦も応射を開始する。
彼らの主砲は生体プラズマ砲だ。異星の生体器官が放射する超高温のプラズマ体が、青白く発光しながら投射される。見た目が非常に派手だが、弾速は目に見えて遅い。宇宙空間だから、という事を差し引いても、実際に低速である。超高速の運動弾を主力とする人類軍のそれと比べると、いっそ止まって見えるほどだ。もし単艦同士の戦いであったらまず命中なぞ見込めず、人類軍側が一方的に叩きのめして終わりだろう。
だが、それを人類軍艦艇の数倍、いや数十倍の数を誇る異星生物艦が一斉発射したらどうだ? さらに放射されたプラズマは長距離においては広く拡散し、数千キロの範囲に渡って巻き込んだものを破壊する。砲撃というより投げ網じみた攻撃が、人類軍艦艇の全面に展開される。発射された超高速誘導弾のいくつかが、拡散したプラズマに巻き込まれて消失、宇宙に小さな光を生み出した。
さらに異星生物艦艇は、生体ミサイルを大量に発射した。これは、子弾となる飛行生物の巣であり、内部に蓄えたガスを順次解放し、最終的には馬鹿にできない速度まで加速する。高速で艦隊に接近したミサイルからは、強酸性の体液をもった飛行生物が熱源に反応して艦隊に飛翔、自爆特攻でダメージを与えてくるほか、場合によっては艦内に侵入し人員を殺傷する。
これに対し、人類軍空母は護衛戦闘機を展開。接近してくる飛行生物への迎撃準備を開始する。
惑星上での戦いにおいては空母は強大な火力投射能力を誇る空母ではあるが、宇宙空間というあまりに広大な空間では勝手が変わってくる。艦載機では速度や燃料、搭載可能な火力の質などの問題で、対艦攻撃には適さないのだ。適材適所、という奴だ。
その頃になって先ほど人類軍艦艇が放った超高速誘導弾が着弾し、無数の異星生物艦が炎に包まれる。だが、発射された数を考えると、驚くほど異星生物側の被害が少ない。誘導弾の命中率を考えると、あちらもあちらで何かしらの迎撃手段を持っているのは間違いなかった。
人類側の誘導弾の命中から遅れて、ほぼ同時にプラズマ砲の攻撃と生体ミサイルの攻撃が殺到する。恐らく偶然ではなく意図された波状攻撃であり、大半の攻撃は回避運動で射線上から退避しているが、どうしても回避しきれない攻撃が出てくる。何隻かの人類軍戦艦が青白いヴェールによって装甲を炙られ青白く燃え上がりながらも、致命的なダメージの回避には成功した。同時に、艦隊のあちこちで小さな爆発が無数に起きる。飛来した敵生体ミサイルと護衛機が戦闘を開始したのだ。
一連の攻防が終わり、冷却を完了したレールキャノンが照準を行う。
再び、両軍が火力投射を開始する。そうやって、人類軍が回避しきれなくなるか、異星生物艦が戦線を維持できないまで数を減らすか、というのが、基本的な宇宙での戦闘の経緯になる。
まだ、宇宙での戦闘は火蓋を切ったばかりである……。
ドズン、という振動が艦を揺るがし、その拍子に入力していた数字を打ち間違えたアレックスは、しかめつらをして入力を初期化した。
貸与されたコスモホークは、今現在発進準備の真っ最中である。格納庫内は他にも出撃準備を進める機体で非常に騒がしく、整備員が何ごとかを叫びながら走り回り、リフトが上下しては格納庫の機材を運んでいる。
「作戦は順調に進んでいるようですね」
副操縦席に座るネルスが端末片手に話しかけてくる。彼女は自分の仕事を既に終わらせているようで、艦内ネットワークに目をむけているようだった。
背後の補助席には、シルバが腰かけている。星見である彼女は、私には機械の心得はありませんので、と黙ってアレックス達が準備しているのを眺めている。
「基本的に人類軍は守勢で、こうして異星生物の拠点に攻撃をしかける作戦はあまりないので心配でしたが……今の所被害は最小限、まずは異星生物の戦力の切り崩しを行っているようです」
「それは何よりだ。で、脆弱点を見つけたらそこに艦隊を楔陣形で突入させ、敵防衛線を分断。各個撃破する……と。上手くいくと思うか?」
「そこは断言しかねますね。まあ、私達はその突入時に発進する事になっていますから、そこまではうまくいってくれないと困るんですが」
「最近の異星生物は軍備拡大に熱心だからな。新種が出てきても困る」
アレックスがぼやくと、それに合わせたように艦が揺れた。操縦席においていた小物が、カタン、と跳ねて音を立てる。
「……被弾が増えてきたな。そろそろか?」
『ブリッジより通達。これより本艦は予定通り敵陣に突入を開始する。各員所定の位置で待機せよ。繰り返す……』
「どんぴしゃですね」
「だな。他の連中はどうだ?」
首元の通信機に手をやり、部下達に連絡を繋ぐ。まず繋ぐのは砲手のイオリとニーナ。彼女らはいきなり主砲ターボレーザーを扱う事になり、色々四苦八苦していたはずだ。
「そっちはどうだ?」
『あ、隊長。各種設定、完了しました。いつでもいけます』
『ミサイルとかも。ばっちり。いつでも』
「そうか。惑星降下までそれなりに火線を交えるのが想定される。生物艦を落とせとは言わんが、それなりに活躍してもらうからな。期待している」
『了解でーす』
「海兵隊、そっちはどうだ?」
『こちらも問題なし。てか、コスモホークは家みたいなもんすからね。乗ってるのが四人しかいないってのもあって悠々自適にすごしておりますよー。むしろ隊長こそ大丈夫すか?』
「はっ。言ってくれるな、私の超絶テクに腰抜かすなよ?」
『……隊長』
「?」
『それはセクハラっす』
「え……いや違うって!? 違うからな!?」
『ハハハハハ、ウケるー。冗談に決まってるじゃないすか、はははは。ま、安全運転とかどうでもいいんで、かっとばすのよろしくっすー』
ケタケタ笑いを残して通信が切れる。アレックスはプルプル震えながら操縦桿を握ってため息をついた。
「……これ、いわゆる逆セクハラじゃないか??」
「いや、私に聞かれても」
ネルスに取り付く島もない対応を返されて肩を落とすアレックス。が、次の瞬間には気持ちを切り替えて、背筋を伸ばした。
ゴゥン、と機体が揺れる。リフトの順番が回ってきたのだ。上昇する視界の隅で、整備員達が敬礼しているのが見えた。
機体はそのまま運ばれ、減圧室へ。減圧が行われている間に、機体の最終チェックが行われる。気密よし、武装よし、エンジン出力よし。
『減圧完了しました。速やかにカタパルトデッキに移動してください』
「了解」
管制塔からの指示に従い、速やかにカタパルトに移動する。移動先では、つい今しがた海兵隊のコスモホークを打ち出したカタパルトが初期位置に戻っているのが見えた。指示に従って機体を所定の位置に固定する。ブラストリフレクターが展開され、カタパルトアームが機体を固定する。エンジンを点火、現時点では異常なし。
カタパルトからは、宇宙空間で繰り広げられている艦隊戦の一部を展望する事ができた。プラズマ弾やミサイル、レールキャノンの閃光が流れ星のように飛び交い、艦載機同士の戦いが無数の小さな火花を散らしている。この距離だと全長数キロの巨大異星生物艦も砂粒のようにしか見えないので、どこか現実味が薄いというのが正直な感想である。
宇宙戦の怖い所だ。そうして実感の薄いまま戦っていると、人間の認識能力をこえた速度で飛んできた砲撃で死ぬことになる。仮に気が付いたとして、見えてから回避していてはもう遅い。
そして艦隊の後ろ側に、緑色に光る惑星が一つ。あれが今回の標的、コードネーム“リヴァイアサン”だ。
『システムオールグリーン。第77独立遊撃隊、発進してください』
「了解。第77独立遊撃隊、出る」
シュォン、と掠れるような音を立てて機体が急激に加速する。リニアカタパルトの発進は驚くほどスムーズで揺れ一つ感じない。ある程度の慣性制御が行われているはずだが、それでも殺しきれない加速度で体が席に押し付けられる。慣性制御がなかったら人体なんてぺちゃんこになっているだろう。
砲弾のように機体が射出される。エンジンを最大加速に入れ、アレックスは砲撃飛び交う艦隊の狭間へと飛び込んだ。
<戦場のひみつ:滅多にある事ではないが、敵味方の艦隊が向かい合って撃ち合っている中に飛び込むのは相当な博打になる危険な行為である。いくらセンサーと自動制御が発達していても、宇宙速度で向かい合っている艦隊から、さらに高速で発射されるミサイルや砲弾の相対速度は根本的に対応できるものではない。>