※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:人類軍艦艇の装甲には特殊な複合素材が使われており、デブリなどの衝突は勿論、有害な放射線を遮断する能力もある。かつてはそういった放射線を遮断するには分厚いコンクリートで減衰させるほかはなかったが、マテリアル技術の発達によって厚さ1m未満の隔壁でもそれらを遮断できるようになった。また最重要区画の防壁は、ニュートリノさえある程度遮断が可能という話である。>




第六十二話 精神要塞

 

 

 

 コスモホークが加速する。数値を見る限り、すでに機体は標準的な巡洋艦の巡航速度に迫る速度を出しているが、宇宙空間では比較対象が無さすぎて体感できない。それでも視界の中では、ゆっくりと異星生物艦のシルエットが大きくなっていくのが分かる。

 

 近づけば近づくほど加速度的にその艦影が巨大になり、通り過ぎるときは一瞬だ。つくづく、宇宙というのは人間の認識能力で適応できる世界ではないと実感せざるを得ない。

 

 他にも敵味方の攻撃が光の筋になって飛び交っているのが見える。視界の隅で、レールガンの直撃を受けたと思わしき敵艦が粉々になって飛散する様子が見えた。

 

 賑やかな事になっている視界とは裏腹に、機内は静寂に満ちている。安定して燃焼を続けるエンジンの振動音がするぐらいだ。真空である宇宙では、音も熱も伝わらない。

 

「隊長、航路算出システムからルートの更新がありました」

 

「変更してくれ」

 

「了解」

 

 端的なやりとりの後に、操縦席に指示される予定ルートが変更される。その指示に従い、ハンドルを切る。

 

 相対速度で超高速で行われる宇宙戦において、人間の感覚なんて当てにならない。少なくとも今この場においては、システムの指示に従わないやつから死んでいく。それでも流れ弾とかに当たったりする事はあるが、その時はもう運が無かったと諦めるしかない。そこだけは地上での戦いと一緒だ。

 

 気が付けば、すでに敵艦の表面がうっすらと目に見える程に近づいてきている。まだ距離があるが、真空である宇宙ではどれだけ距離があっても細部まで輪郭がくっきりと見える。視力さえ足りれば数万キロ先の物体だって見分けられるのが宇宙という環境の特殊さだ。それゆえに目測だと距離感を誤りやすい。

 

 異星生物艦は有機物の積層体であるのは知られている事だが、近づくとあまり生っぽい感じはしない。どちらかというと、空飛ぶ岩の塊のように見える。この岩のようなものは、化石化した骨格だという。

 

 人類のような二重らせん構造のDNAを持たない異星生物にとっても、放射線の吹き荒れる宇宙空間は過酷な環境である事に変わりはないらしい。そのため頑強な外骨格で艦体を覆い、内部の有機物を保護している。逆にいうとそういった工夫程度で宇宙に生身で進出できるのだから、彼らが人類よりも遥かに放射線に強い生命体であるのは事実なのだろう。その事は両者が保有する戦艦の数にも如実に現れている気がする。

 

 操縦席に警報。

 

「敵艦から対空砲火を確認。回避してください」

 

 ネルスの指示に従って回避機動を取る。やはり、そこいらの異星生物からすればアレックス達とそうでない者の区別などつかないようだ。幸い、対空射撃としては大分距離があるので危なげなく回避に成功する。艦から距離を取る様に動いたこちらを敵艦はそれ以上注視する事なく、何事もなかったかのように対艦ミサイルを放つのが見えた。彼らからすれば周りを鬱陶しいハエが飛んでいたので手を振って払った程度なのだろう。

 

 しかし、一度異星生物艦の艦隊の中に入ってしまうと、その数と密度に眩暈がする。はるか遠く距離がある状態で見た時はそれほどにも思えなかったのに、いざ近づいてみるとその圧倒的な質量が群れをなしている光景に愕然としてしまう。

 

 視界の右側を灰色がかった生体艦の外殻で占められるような状況では、とてもじゃないが自力では脱出経路を探し出せない。

 

 当初の通りシステムの提示したコースを通れば問題ないのだが、至近距離で目の当たりにする敵艦の威容にパニックを起こしコースを外れてしまう事故が経験の浅い者の間では起きるというのも納得できる話だ。ちなみに当然、そうなった者は脱出できずに敵艦に衝突するのがオチだ。ただでさえ宇宙という環境で距離感が狂っているのに、互いに宇宙速度を出しているので相対速度も大分イカれた事になっている。おまけに人間はデカイ物は遅いという謎の先入観に陥りがちだ。まだ距離があると思っていた壁が次の瞬間には目の前に迫っているような状況で勝手にコースを変えるのはただの自殺だ。

 

 勿論、そんな事はアレックスも心得ている。心がざわつかない訳ではないが、理論をもって自身の動揺を鎮め、冷静に操縦桿を操作する。

 

 ほぅ、と息を吐いてシルバが出発してから口を開いた。思えば出撃以降、彼女はどこか硬い感じで口を閉ざしていた。もしかして、ガラにもなく緊張しているのだろうか?

 

「いい感じですね、アレックス様。このままいけば、敵の第一陣を抜けられそうです」

 

「その後第四陣まであるんだっけ。敵がこちらにあまり関心を払っていないのは助かるな」

 

「宇宙において航空機なんて大した脅威じゃありませんからね。でも惑星への降下コースを塞いでいる第三陣は流石に見逃してくれないでしょう。……正直、敵が本当に私達を呼んでいるかなんて半信半疑です。人類軍をおびき寄せて一網打尽にしたかった、と考えた方が道理が通るような気がしてきました」

 

「言いたい事は分かるが、それならミリシアのコードを使う必要もなかったはずだし、今、このタイミングである理由もない。……不安になるのはいいが、疑うなよ? 疑ったら成せる事も成せなくなる」

 

「……了解しました」

 

 いかんな、とアレックスは内心舌打ちをした。

 

 自分自身、異星生物の艦隊を前に冷静さを失っていたのと同じように、部下達にも心理的動揺が広がっている。

 

 宇宙での戦いはこれだから好かない。人間の認識できる範囲をはるかに超えたスケールで展開されるから、つい己の判断を疑いがいがちになる。

 

 それとも、宇宙という人類にとっても今だ危険かつ未知にあふれた環境がそうさせるのか。宇宙の底なしの深淵に、人は未だ恐怖を見ているが故に。

 

「現状では何の問題もないんだ。落ち着いていこう」

 

「はい。……いえ、待ってください、隊長。艦隊司令から警告……敵第二陣中央に、大規模な重力変動を観測との事です」

 

「なんだと?」

 

 いまからまさに突入しようという敵陣に目をむける。まだ数万キロ以上の距離があるはずの敵艦の陣形が、徐々に変化している。実際には猛烈な速度で動いているのだろうが、密集陣形だった敵艦が散開し、まるで何かに道をあけるように中央部分を空けている。

 

 これで通りやすくなったと考えるほどアレックスは馬鹿ではない。次の瞬間に起きる事を想定してシステムに進路変更のための条件入力を行う。

 

 そうこうしている内に、敵第二陣中央が紫色の光を伴って、発光した。星の光を捻じ曲げて、何もない空間に超重力の波が入り乱れる。

 

 トンネルアウト。

 

 異星生物艦の長距離航行手段である重力トンネルを越えて、巨大な質量が突如として戦場に出現した。重力トンネル航法の余波で近隣の空間に無差別な重力嵐が吹き荒れ、アレックス達の乗るコスモホークもその風に掴まって揺さぶられた。不自然に機体がぐらつき、機体がギシギシと軋む。

 

「ダメージは?」

 

「ほとんど軽微です。フレームの頑強なコスモホークで助かりました、そこらの連絡艇ではねじ切られていたかもですね」

 

「そんなチャチな船で突入なんてしないからそこは安心しろ。で、あれはなんだ?」

 

 アレックスは敵第二陣に突如として出現した巨大構造物を目にして眉を潜めた。

 

 異星生物艦、なのはまあ、想像できる。だが見た事のない代物だ。

 

 サイズとしては周囲を取り囲む異星生物艦と比べると、質量でおよそ10倍以上。

 

 一言でいうと、巨大な頭蓋骨……なのだろうか? 頭蓋骨としてもバランスが変だ。大型爬虫類の脳を、数百倍に大きくしたような。人間の頭蓋骨の鼻孔を削り落として、そこに爬虫類の頭蓋骨の、眼窩から先をくっつけたらちかい形になるだろうか?

 

 別に本当に何かの生き物の頭蓋骨ではないだろう、あのサイズの頭蓋骨があったら本体は衛星ぐらいある巨大生物になってしまう。

 

 構造物の下にはいくつもの太い触手が生えているが、あれも遠目でわからないが一本当たり直径が数キロぐらいあるのかもしれない。正直、デカすぎて感覚でサイズがわからない。

 

「なんだあのでっかいの」

 

「データに無い異星生物艦ですね。いやな予感がします」

 

「そりゃあこの局面で出してくるんだからなあ……」

 

 ネルスとそんな危機感のない会話を交えていると、背後でガタン、と物音がした。

 

 振り返ってみると、席から立とうとしたらしいシルバが膝をついて座り込んでいた。傍らには杖が転がっており、彼女はひどい頭痛に耐えるように頭を右手で押さえながら、息も荒く突如出現した巨大異星生物艦をにらみつけている。

 

「シルバ、どうした!?」

 

「く、あ……ア、アレックス、様……! 早く、退避を……! アレは、不味い……!!」

 

「退避って……」

 

「とにかく、背後の艦隊と重ならないコースを……早く!」

 

 シルバとて、宇宙でのシステムによる誘導の重要性は分かっているはずだ。それでもなお強く言うからには理由があるのだろう。アレックスはシルバの警告に従い、軌道管理システムを一時的にオフにすると操縦桿を手繰った。コースを変えて、アレックス達から見て下側に潜り込むようなコースを取る。

 

 一方、出現後は漂っていただけの巨大異星生物艦。砲撃もせず、ただ佇んでいただけのように見えたそれの周囲が、俄かにうっすらと青白い光に覆われた。異星生物艦自体も発光をはじめ、まるで内部に巨大な光源があるかのように青白い光が艦のそこかしらから柱のように噴き出す。

 

 その直後、重力でも光でもなく、ある種の放射線でもない科学的物理的に証明できない何かが、巨大異星生物艦から人類軍艦艇に向けて放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 未知の巨大生物艦の放った、物理的科学的には存在しない衝撃波のような何か。

 

 その何かは数十万キロの距離をものともせず、一瞬で第一陣の友軍艦ごと何十隻という人類軍艦艇を飲み込んだ。不可視の力にさらされた艦内では、生きている人間全てが一瞬で絶命した。ある者は全身を沸騰させて青白い水たまりになり、ある者は一瞬で骨まで凍り付いた後に砂となった。人員の不条理な死にざまに反して艦のシステムには僅かなエラーが走ったのみにとどまり、攻撃された艦は制御コンピューターの判断に基づき後退を開始した。

 

 射線上に存在した異星生物艦はというと、完全に機能停止した様子でそのまま漂流を開始した。高速で動く艦隊から脱落し、宇宙の果てに流れていく。

 

 データリンクでおおよその状況を把握した人類軍の間に激震が走った。それは敵陣突破を試みているアレックス達も例外ではない。

 

「なんだ今の!? 光でも数秒かかる距離を発射と同時に着弾したように見えたぞ!?」

 

「内部の人間を殺傷したのに艦にはほとんど影響なし……?! 超高出力のニュートリノでも放射したっていうの……? おまけに味方ごと撃った……?」

 

 あまりに不条理な攻撃に混乱するアレックスだったが、すぐに思い直す。この機にはああいった不条理のスペシャリストがいるではないか。

 

「シルバ! 今の攻撃は……」

 

「う……く……っ」

 

 操縦席内に漂う赤いシャボン玉。それがシルバの血だと気が付くのに、アレックスは数秒の時間が必要だった。

 

「……シルバ!」

 

 素早くオート操縦に切り替えると操縦桿を手放し、飛びつくように彼女を抱える。力なく荒い呼吸を繰り返す彼女の顔の右半分が血で染まっていた。

 

 右の眼球が、無い。

 

「攻撃がかすめていたのか?! ……っ、ネルス、他の連中の確認を!」

 

「は、はい! テジレアさん、クズノハさん、そっちは大丈夫ですか?! 海兵隊チームは!?」

 

 機内通信を飛ばすネルス。アレックスは緊急キットを手早く準備し、止血剤をシルバにうつと同時に止血パッドを取り出した。だが、眼球の破裂なんかに使っていいのか判断がつかずに処置に手間取る。

 

 そんな彼の手を、弱弱しくシルバが握りしめた。はっとして腕の中の彼女に目を戻す。

 

「シルバ」

 

「大丈夫、です。包帯とガーゼは、あります、か? 自分で応急処置をしますので……」

 

「しかし……!」

 

「問題、ありま、せん……。眼球が破裂しただけ、ですので……。それと、攻撃の被害の心配は、必要ありません……。今のは、私が、未熟だっただけ、ですので……」

 

「……わかった。手当するから、落ち着いたら説明を頼む」

 

 疑問は山ほどあるし、眼球の破裂は“だけ”で済む軽傷では絶対に無いが、今は彼女の手当てが先だ。眼窩にガーゼを詰めて包帯を巻く。一瞬だけシルバの体が苦痛に震えたが、彼女は悲鳴一つもらす事無く苦痛に耐えきった。

 

「……よし。とりあえずの応急処置だが」

 

「ありがとうございます。……私も落ち着きましたので、席にお戻りください」

 

「わかった」

 

 促されて操縦席に戻る。アレックスの着席を確認して、ネルスがちらちらとシルバを心配そうに振り返りながら報告した。

 

「機内に、他に影響を受けたメンバーはいないようです。皆無事だと」

 

「ありがとう。でもなんでシルバだけが……?」

 

「……あの巨大生体艦が、私達と同種の力をけた違いの規模でふるった為です。そのため、近い領域に繋がっていた私に逆流のような現象が発生しました。負傷はその為です」

 

 語るシルバの口調は、先ほどまでの苦痛に満ちた響きが消え去り、常の冷ややかな響きを取り戻している。やせ我慢かどうかはわからないが、あえて指摘せずアレックスは問い返した。

 

「同種の力、っていうのはどういう事だ?」

 

「以前、私や堕ちた星見が、高次元視座理論の応用でこの物質世界に干渉する様をご覧になられた事があるはずです。それと同じような事を、あの巨大生体艦が行ったのです。プロセスか何かが違うようで、私達がふるった場合と違う結論の発露になっているようですが」

 

 説明されて脳裏によぎったのは、モルガンヴェールでの戦いの事だ。不可思議な力場の守り、虚空から呼び出される怨霊の人魂、物理的距離を超越して出現する騎士達。

 

 魔法か超能力としか形容のできない力。

 

 それをよりによって異星生物が振るったという事に、アレックスの背筋に冷や汗がつたった。

 

「それってつまり……異星生物も高次元視座理論に通じてるって事……?」

 

「恐らくは。そしてあのような巨大なシステムを持ち出してきたという事は、下手をすれば我々星見よりもその道に通じてるかもしれません」

 

「ちょ、ちょっとまってくださいよ。あれって、星見の人たちが自前の脳みそで計算して現象を引き起こしてて、機械化できないみたいな感じなんですよね? じゃ、じゃあ、あれだけの規模でそれを引き起こした、あの巨大艦って、まさか……」

 

「恐らく、あれで一個の生命体なのでしょう」

 

「ウソだろ……」

 

 シルバの言葉を疑うつもりはないが、そうだとしたら全長数キロの超巨大生物である。特撮映画の巨大怪獣だってもうちょっと自重する。

 

 他の異星生物生体艦も確かに大きいが、言うまでもなくあれは複数の生命体が結合して作り出された、文字通りの生態そのものだ。当然、制御系する神経系は無数に独立して存在しており、一個の存在とはとても言えない。

 

 超強力な、群れでもって攻めてくる異星生物の戦略からかけ離れた、個。

 

 アレックスの脳裏にとても嫌な閃きがよぎった。

 

「……まさかだけどさ。あれ、サイズが異常にでかいだけで、もしかしてLORDやDEATHみたいな……」

 

「その可能性は非常に高いです。NEUROとでも呼びましょうか? 恐らくアレも、異星生物の特殊エージェント個体かと」

 

「ウッソだろ本当に勘弁してくれよ……」

 

「本邦初確認ですよやりましたね隊長」

 

「言っていい皮肉と言っちゃダメな奴があるからな!」

 

「いいじゃないですか一蓮托生なんですから私達……。それを言うなら隊長の隣で遭遇するの三度目ですよこれ」

 

「それは俺が悪いのか!? ……いや悪いかもしれん。すまん」

 

 否定しきれなくて急に弱気になるアレックスだった。こういう話になると彼も反論しにくい。

 

「しかしヤバイのがでてきたな。どうする? あれの近く、通って大丈夫なのか?」

 

 操縦席から見つめる先では、NEUROにむけて人類軍艦艇が集中砲撃を浴びせている。レールキャノンが火を噴き、超高速誘導弾が吸い寄せられるように殺到する。それに対しNEUROが再び発光すると、その周辺の空間が白く濁ったように変異する。人類側の攻撃は、通常の空間とNEUROの作り出した異空間の境界線で炸裂し、その向こう側に届かない。

 

 さらにそれだけでなく、NEURO周辺の異星生物艦も普段の無秩序な動きが嘘のように、一糸乱れぬ艦隊運動で反撃に出る。回避軌道をとりながら火線を集中し、その圧力に耐えかねた人類軍艦艇が陣形を乱し、個々に被弾して被害が拡大していく様子が見て取れた。

 

「周辺の敵艦の動きも妙だ。まさか、指揮官もかねてるのか、あいつ?」

 

「……もしかすると、好機かもしれません」

 

「シルバ?」

 

 妙な事を言い出した星見にぎょっとするアレックス。何が好機なのかさっぱりわからない。見た所、人類軍にとって最悪の展開になっているようにしか見えないのだが。

 

 NEUROに集中させた火力を防がれたせいで、人類軍の火力投射サイクルが崩れており、数に勝る異星生物艦に撃ち負け始めている。それに加え、明らかな脅威であるNEUROへの対応をどうするかで、盤石なはずの指揮系統にも混乱が生じているようだ。数で劣る人類軍は単艦の性能と一糸乱れぬ連携で対抗してきたのに、その強みが全て失われてしまっている。

 

 このままでは下手をすれば撤退もありうる。

 

「いいえ。間違いなくこれは奇貨です。NEUROが一つの意思で動く存在なのは間違いないのです。奴がエージェントであるならば、アレックス様の事を把握しているはず! 異星生物の目的がアレックス様を呼び込む事なのであれば、NEUROの付近こそが活路です」

 

「なるほどな。奴が私に気が付いて通してくれる、ってのにかける訳か」

 

 しばし思案する。

 

 もっとも考えた所で、他に手段もなかったが。

 

「……進路変更! 奴の脇をすり抜ける! 防御領域に触れないよう相対距離には気をつけてくれ!」

 

 軌道計算システムを再び立ち上げ、コースを再設定する。コスモホークは翼を翻して、NEUROの元へと向かう。

 

 視界の中では、再度人類軍による砲撃が行われている。同じことの繰り返しに見えたが、よく確認すると砲撃に参加しているのは数隻だ。異星生物艦隊全体への攻撃へと方針を戻しつつ、NEUROを自由に動かさないための牽制砲撃を行っているようだ。

 

 それに対しNEUROは再び防御領域を展開しているようだが、それを貼り続けている事で疲弊しているように見えた。徐々に体内の発光現象が弱弱しくなっている。

 

「恐らく、司令部付きの星見の助言でしょう。あの防御領域は、相手の攻撃の強い弱いで負担が変わるようなものではない。そしてあの巨体ですが、おそらくほとんど全部が演算用の神経塊で奴そのものの耐久力は高くないはずです。常にレールキャノンを向けられていれば、攻撃に転じる余裕はないはず」

 

「てか、そのまま息切れしそうだな。拍子抜けというか、案外それで倒せそうじゃないか?」

 

「あちらもそれぐらいわかってるでしょう、対策はしてあるかと」

 

 シルバがすげなく言うのを証明するように、NEUROが動いた。触手を伸ばし、間近にいた異星生物艦の一隻を絡めとる。その装甲に触手の切っ先を容赦なく突き刺すと、ゴキュンゴキュンとその内容物を吸い上げ始めた。見る間に異星生物艦はボコボコに凹んだ残骸に成り下がり、反してNEUROは再び元気に青白い光をその身にまとった。

 

「共食いっていうか……非常食かよ……。味方ごと吹き飛ばすしインテリ系にみえて滅茶苦茶粗暴じゃねーかアイツ」

 

「ああ……それでわざわざ味方陣営のど真ん中に転移してきたんですね……」

 

「……星見は違いますからね? あれと一緒にしないでくださいね? ね?」

 

「わ、わかってるって……」

 

 

 

 







<戦場のひみつ:異星生物の友軍誤射は、実際の所珍しくもない。制圧級あたりはおおざっぱな狙いで生物兵器をぶちまけてくるので、しばしば先兵級や猟兵級が巻き込まれて燃やされたり溶かされてたりしている。とはいえ数十万といるうちの数匹を巻き込むのは誤差程度の判断でもおかしくはなく、実際に比率で言えば人類軍にはそれ以上の被害を与えている。>
 



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