未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:大気圏突入時に発生する超高熱は、一説によれば5万度を超えるという。この超高熱は断熱圧縮で発生するものだが、これを軽減するため大気圏突入時にショックウェーブを発生、圧を分散することで温度上昇を軽減するというものがある。この機構を搭載する事で大気圏突入の危険度は大幅に低下するが、依然としてほんのわずかな不運で全滅に直結する非常に危険な工程である事は変わっていない。>
進路変更したコスモホークが、NEUROの控える敵艦隊中央に接近する。
すでに敵艦隊の全容が見える距離を通り過ぎ、視界の全てが敵艦で埋め尽くされている。実際にはまだ距離があり、艦同士も数十キロの距離を開けて展開しているにも関わらず、艦影が重なり合って向こう側が半分も見えない。
「敵対空砲の射程圏内に近づいています」
「できるだけNEUROに近いコースを通る。あいつが部下をどのぐらい管制できてるかわからないからな」
「こっちに気が付きますかね……?」
「気が付いてなきゃお陀仏だな」
ここまで来て今更やっぱ無しは通らない。不安をかみ殺してアレックスはNEUROを見上げた。
近くで見るとやはり信じられない大きさだ。ここまで近づくと、視界に全容が収まらない。
表面が化石化している一般的な異星生物艦と比べて、NEUROはどこかこう、質感が生っぽい。超巨大な頭蓋骨が薄皮を纏って漂っているような印象を受ける。体表にはドクドクと波打つ血管のようなものが盛り上がっていて、このサイズの生命体の血流を送り出す心臓ってどんなサイズだろうな、とアレックスはぼんやりと考えた。まあ、異星生物なので心臓があるかわからないし、見えているのも血管とは限らないが。
そういえば、こいつは目があるのだろうか?
この距離まで近づいてふと疑問に思う。機体に一応描いた第77独立遊撃隊のマークだが、そもそも相手に視力がなかったらただの取り越し苦労だ。なんとはなしに確認のつもりで、アレックスはNEUROの頭部、眼窩だと思われるあたりに目を向けた。
それらしき部分は、NEUROの全体に比べれば異常に小さい。全体的な形状は爬虫類……いや、むしろ鳥類か? それに近いが、アレックスの知るそれと比べると、くちばし部分に口と目と鼻と顎が全部あって、あとは全部脳みそ、みたいな配分だ。頭脳部分が異常に肥大化したようにも見える。
ちょうど鳥の鼻の孔あたりが目かな、とアレックスは視線を向けて、“目が合った”。
「……な」
数キロ四方の立方体の巨大な怪物の、直径100m以上ある巨大な深紅の瞳。それが、近くを通り抜けようとするコスモホークをしっかりと見ていた。
勘違いではない。ただ同じ方向を見ていたというだけではない、しっかりと視線と視線が重なり合っていた。
ぞわり、と背筋が総毛だった。色々経験してきたが、こんな巨大な生命体に関心を浴びる事なんて想像だにもしなかった。いかなる物理的な圧力も生じていないのに、この怪物に注意を払われているというだけで心がへし折れそうになる。
恐怖に心が砕け散る前に、アレックスはぎゅっと胸元を握りしめた。
強く強く、心の中で念じる。
自分が何をしに来たのか。
「……ミリシア」
ぎゅ、とむしろ相手を睨み返す。
俺の、邪魔を、するな。
その小さな生き物の憤慨する様を、あまりにも巨大な怪物は一体、どう思ったのだろうか。
「敵艦の対空砲射程内に入りました。……発砲、ありません」
「……よし、通過するぞ。砲手、迂闊に発砲するなよ」
念のため注意を呼びかけつつ、NEUROの脇、控える敵艦の頭上すれすれを飛び越えるように移動する。眼下では灰色の装甲表面が、恐ろしい速度で背後に向かって流れていくのが見えた。
その間も、NEUROからの視線は途切れない。じっと黙したまま、アレックスを見つめている。
ついに、その真横を通り抜ける。
最後まで、敵艦からの攻撃はなかった。
「抜けた……! 他の連中は!?」
「海兵隊部隊はそれぞれ、NEUROの存在する敵陣中央を避け大きく迂回しているようです。到着予定時刻は30分以上差が出ると思われます」
「そうか……」
それが果たして吉か凶かはわからない。ミリシア救出と敵異星生物司令存在との接触はあくまで第77独立遊撃隊のみに与えられた任務だ。他の海兵隊の作戦行動が邪魔になりうる可能性もあるが、同時に彼らの存在が囮として機能する事も考えられるからだ。
ただ現状は、第77独立遊撃隊だけで敵惑星に降下する事になりそうだ。
まだ先には敵第三陣が控えている。だが流石にこれだけ後方は敵艦の配置も閑散としていて、少なくともコスモホーク単体であれば降下する上で障害にはならないだろう。
先ほどからどうにもアレックスに都合の良い展開が続いている。これは幸運か、偶然か、それとも全て意図されたものなのか。
アレックスには判断しかねる事ではあったが、ただ一つ言える事があった。
異星生物の思惑がどうであれ、人類軍の思惑がどうであれ、今が好機だと。
眼前には、目的地である惑星リヴァイアサンの姿。わずかに薄緑色がかかった、クリーム色の大気に覆われた惑星。ここまで近づけば、惑星表層に大陸のようなものが存在しているのも見て取れる。少なくとも、生物の……ミリシアが生存できるような環境ではあるようだ。
「このまま惑星に降下する! 大気圏突入準備!!」
「了解。大気圏突入準備!」
「……アレックス様。惑星上に、少し気になるポイントを発見しました。そちらに降下できるよう設定できますか?」
「場所は?」
後ろから身を乗り出してきたシルバが、カタカタと手早くコンソールを操作する。出血で普段にもまして白い横顔が、ぼんやりとコンソールの光に照らし出された。
「……ここです。ここに、強い高次元視座への干渉を感じます」
「わかった、信じよう」
「隊長、大気圏突入に備えて、爆装を排除します」
結局使わなかった翼下のミサイルを切り離す。もったいないなー、と思うのは流石に貧乏性というか空気を読めてない気がしたので、アレックスは黙ってミサイル達を見送った。
「大気圏突入シークエンス開始します。ショックウェーブ展開!」
鷲の名を関する航空機が、赤い炎の尾を引いてリヴァイアサンに落ちていく。その様子を確認して、NEUROは眼前に展開する人類軍艦隊に向き直った。
……彼の力をもってすれば、ここにいる人類軍を全滅させるのはたやすい。だが、それは同時にこちらのリソースも大きく損なわれる。何より、大量の流血は今後の展開に大きく差し支えるとして、きつく“彼女”から言い含められている。
異星生物のエージェントである彼に、年功序列や新参者への反感といった感情はない。
ただ、己の任務を遂行するのみだ。逆に言えば、任務達成のためであれば、リソースの支払いに頓着がない悪癖もあるのだが、彼自身は自覚が無かった。
撤退する程の決定的痛打を与えてもいけない。かといって、相手が勢いに乗って攻めてくるのを許すほど手加減してもいけない。
ある意味では単に全滅させるよりも困難な任務を達成すべく、NEUROは再び己の神経系をバックアップのマインドへ接続を開始した。
大気圏への突入は、アレックスをして肝が冷える体験だった。
大型艦や降下用ドロップポッドと違い、今乗っているのは航空機の類だ。乗員保護の為キャノピーが装甲版で閉鎖された真っ暗な操縦席で、計器の数値と感覚を頼りに操縦桿を手繰る、というのは、一歩間違えば機体もろとも大気圏の塵になる、というのが実感できてしまう。操縦桿を通して伝わってくる大気圏の圧力、機体の落下速度、そういったものが鈍い挙動を通して把握できてしまう。
さらには機内の温度も急上昇してくる。温度計ですでに40度を越えて50度に達しようという機内温度に、自分が何か間違えているかもしれないという不安が浮かび、それが操縦桿の操作を誤らせようとしてくる。
これに対するには、とにかく人類の理論と科学を信じる事だ。システムの誘導を信用し、個人的な恐怖や不安はかみ砕く。鉄の論理こそが真に正しいのだと信仰する。それ以外にはない。
だから徐々に機体を襲う振動と熱波が和らぎ、キャノピーを閉鎖していた装甲版が排除された時はそれこそ人生で最も解放感を感じた瞬間だったといってもよいだろう。
「危険域突破しました。機体温度、外部内部共に低下中。大気成分検出中……酸素濃度、成分共に人類の生存可能範囲です」
ネルスが淡々と報告する内容に耳を傾けながら、アレックスは汗ばんだ襟元を緩めて息を吐いた。機体が安定するのを見計らって高度を急いで下げる。この惑星の防衛戦力がどうなっているのかは分からないが、少なくとものんびり高空を飛んでいては高射砲のレーザーの的だ。最低限、山脈を盾にできるぐらいまでは高度を落とさなければならない。迅速にだ。
高度を下げた機体が雲に突入し、しばし水蒸気のヴェールに洗われた後、視界が晴れた。
全てが、淡い緑色に覆われていた。
緑色の海。若葉色というには少し色の薄い黄緑色に覆われた大地に、ところどころ大きく突き出した山脈。惑星表層は、ごくありふれた未開惑星のように見える。だが、地形を問わずうっすらと覆っている黄緑色の何かが気になった。普通植生というのは、地形によって左右されるもののはずだ。だが見た所、海岸から平原、山脈、渓谷にいたるまでが、うっすらと雪に覆われたかのようにソレに覆われている。色も相まって、カビに覆われた惑星、なんて感想が脳裏によぎった。
「いや、そんな訳はないか……」
流石にそれはないと思いつきを一蹴する。だがこの光景を生み出しているものは一体なんだ? これまで異星生物の支配下に落ちた惑星を見た事がない訳ではないが、このような有様は見たことが無い。それとも異星生物とは何の関係もなく、この惑星の固有種なのだろうか。
深く考える事ではないだろう。だが、頭の片隅には入れておいた方がいい気がする。
「シルバ、目的地と現在位置のズレを教えてくれ。大気圏突入はささいなズレでも着地地点が大きく狂う」
「……おっしゃる通り、少しずれていますね。距離的には100キロ程度ですが」
「それなら誤差みたいなもんだな。飛んでいけばすぐだ……っと、エンジンの調子がよくないな」
不意に姿勢を崩しかけた機体の制御を取り戻しつつ、赤く点滅するステータスランプを確認する。不手際はなかったと思うが、それでも万全とはいかないらしい。
とはいえ、残りの距離を飛ぶだけなら大丈夫だろう。問題はミリシア救出後、惑星を脱出する時だが……その頃には海兵隊の連中も降りてきているだろうし、最悪そちらに乗せてもらうという手もある。
とにかく今はまっすぐシルバの示した目的地に向かうべきだ。そう考えてアレックスは操縦桿を握っていたが。
「! 4時方向に高熱源反応! 回避を……」
ネルスの警告は決して遅くなかった。だがそれでも、文字通り光速で飛来する高射砲の攻撃の前には、僅かに機体を捻る猶予があったかどうか。
一筋のレーザーが、コスモホークの右翼を射抜いた。
「ぐぅ……?!」
警告に反応して咄嗟に機体を捻ったが、それは即死を致命傷に軽減できた程度に終わった。鋼鉄も融解させる収束レーザーが、コスモホークの頑強な翼の中央に大穴を開けていた。航空機としては非常識なレベルで頑強に作られているコスモホークとはいえ、構成素材の融点を越える熱量を一点に集中させられればとても持たない。大気圏突入を行った直後で、機体の熱処理システムが限界近かったのも災いした。
「ダメージコントロール!」
「機内にダメージなし、機体制御システム60%ですが機能中! 若干ですが姿勢制御回復可能!」
「次弾は!?」
「照射地点の熱源、徐々に低下中!」
「くっそ、どっちだ……?!」
惑星の防衛戦力がアレックスを認識していないのか、それとも認識した上で撃ってきたのか、あるいは何かのトラブルか。
迷いながらも、アレックスは次の攻撃が無い事を信じて操縦桿を握った。思うように動かない機体を目的地へのコースに乗せる。
だがエンジンの不調に加え主翼を破壊された機体はみるみるうちに高度を落としていく。さっきまでのように攻撃を警戒して高度を落としていたのとは違う、もはやこれは滑空、あるいは墜落だ。
システムは無慈悲に目的地までとどかない事を示している。
地上がどんどん迫ってくるのが、操縦席から嫌でも確認できた。このままでは本当に墜落してしまう。
「総員衝撃に備えろ! 胴体着陸を行う! シルバは急いで席に戻ってシートベルトを! イオリ、聞こえてるか?!」
『こちら砲手、聞こえています!』
「私が今から指示するタイミングで、ターボレーザーを正面にむかってぶっぱなせ! わかるな!?」
『ちょ、ターボーレーザーでもあくまでレーザーですよ!? 反動で機体制御とかはできませんよ!』
「わーってる! 狙いは別だ! いいか、真正面だぞ! 勝手に上空とかに狙いを逸らすな! いいな!」
『りょ、了解!!』
通信を切って、高度計と速度計、そして眼前に迫る光景に全ての精神を集中させる。
コスモホークは今辛うじて墜落を免れており、もはや滑空とも言い難いあり様だ。このままでは胴体着陸も叶わず、機首から地面に突っ込んだあげくバラバラだ。いくら頑丈といっても、制御した上で敵艦にぶち込むのと制御を失って墜落するのは天と地ほどの違いがある。
エアブレーキを全開にすれば、一時的に機体を上向かせる事はできるだろう。だが、すぐにまた元に戻ってしまうのは目に見えている。そのタイミングは今ではない。
みるみる緑の大地が迫ってくる。
タイミングを見計らって、アレックスが叫んだ。
「今だ! 撃て!」
『ターボレーザー、撃ちます!』
コスモホークの主砲が光を放った。かつて惑星ザーバンで巻き込まれたそれとは規模が百分の一ぐらい違うが、それでも重レーザーをも凌駕する超高熱量が主砲から放たれる。
超高エネルギーを撃ち込まれた大地が一瞬で沸騰する。地表で水蒸気が爆発のような現象を起こし、瞬時にガラス化した大地が大気を焼き焦がした。それは大規模な大気の変動を生み出し、結果、着弾地点に爆発そのものの気圧変動が生じた。
アレックスが操縦桿を引き、仰け反るような姿勢になったコスモホークがその爆発を機首下部で受け止める。それにより、落下中だった機体の運動エネルギーが相殺される。普通の機体であったら逆方向のエネルギーの揉み合いにへしゃげてしまっていたかもしれないが、敵艦突貫などの蛮用に耐えうるよう設計されたコスモホークはその圧力にも耐え抜いた。
空力学用語ではなく、文字通りの失速した機体が、斜めに傾ぎながらゆっくりと大地に墜落した。流石に最後の最後まで制御しきる事はできず、無事な左翼から突っ込むようにして勢いを殺しきるまで滑走する。
最終的に大地を深く切り裂くような形で、コスモホークは着陸した。呆れた事に、100m近く地面に突き立てられたにもかかわらずその左翼はもぎ取れもせず健在なままだった。
「いちちち……被害報告を……」
操縦席で何度も体を揺さぶられて鞭打ち状態ながら、アレックスが辛うじて指示を出す。彼の呼びかけに、同じくボロボロの体で部下達が返信してくる。幸いにして、行動不能なほどの怪我をおった部下はいないようだった。
だが操縦席のコンソールは完全に火が消えていた。操縦桿を引いたり、再起動を試みてみるものの、うんともすんとも言わない。
「こりゃあ、駄目かな……」
「まあ、あの状況で助かっただけ御の字としましょう。27式の方は大丈夫でしょうか? 直接確認するしかなさそうですね」
「しかし、いやはや……アレックス様の無茶はいつもの事でしたが、今回はまた一段と紙一重でしたね。我々星見でも思いつきはしてもタイミングがシビアすぎてやりませんよ、あんなの。コツを教えていただけませんか?」
「一度ターボレーザーにぶっ飛ばされたら何となくわかるって」
「…………」
シルバが無言でネルスに視線を向ける。ネルスは全力で首を横に振った。銀の魔女はらしからぬ苦笑を浮かべた。
「とりあえず、降りるぞ。周辺に敵がいないか確認しなければならない」
墜落したコスモホークは、外から見るとなおのこと散々な有様だった。装甲は焦げ付き、ところどころが破断し、灼熱に焼けた熱がまだ残っている。耐熱性が極端に高く熱伝導性が非常に低いという事は、逆に一度加熱したらなかなか冷えないという事だ。まあ接触した対象への熱伝導も低いので、見た目とは裏腹に触れた所で火傷しないのだがこれはこれでなかなか実際に体験すると妙な気分になる。
心配していた燃料漏れなどの心配はなさそうだ。メインシステムがダウンしているものの、主砲の制御系などのサブシステムは無事。今海兵隊が行っている燃料の排出が終了すれば、簡易トーチカぐらいには役立ちそうだ。
部下も全員五体満足、敵地で撃墜されたにしては被害は軽微……であればよかったのだが、そこまで幸運は続かなかった事がすぐに判明した。
「27式が出せません」
「……マジか」
「マジです」
部下からの報告に天を仰ぐ。
27式はコスモホークの強襲兵収納スペースの一部を排除して搭載していた。機体下部に吊り下げるような形で固定した上で、大気圏突入時に機体を保護するカバーで覆われていたのだが、これがまるごと地面にめり込むような形で埋まってしまっている。
海兵隊のパワードスーツでどうにかならないかと苦慮したが、コスモホークはそこらの戦闘機と違って全面装甲張りの、つまり滅茶苦茶重い上に着地とそれまでの無茶の衝撃でフレームが歪んでおり、どうにもならない、というのが調査したネルスやイオリの意見だった。そもそもこのめり込み具合、カバーの下の27式も無事とは思えない。
もともと運用限界が近かったとはいえ、こんな形での脱落にアレックスはやりきれなさに天を仰いだ。
今回は全員が強化服を装備しているので、ここから目的地に向かうまでの行程は問題ないというのが、不幸の中のささやかな幸運だろうか。
「仕方ない、使えないものはどうしようもない。このまま目的地まで急ごう」
「いや、隊長。その前にお出迎えがいらっしゃったようですぜ」
「……流石に本拠地だけあって対応が早いな」
海兵隊の警告と同時にアレックスも感づいた。周辺の地形の凹凸に紛れて動いている影がある。咄嗟に全員で目くばせをしてコスモホークの残骸を背に防御陣形を組む。シルバがややぎこちない動きでレーザーライフルを構えてるのを見て、アレックスは彼女の右側のフォローに入った。今の彼女は片目を喪失している、平気な顔をしているがそんな訳はない。
「すいません」
「無理するなよ……来るぞ!」
アレックスの声に合わせたように、周辺からわっと異星生物の軍勢が押し寄せてきた。先兵級を中心としたいつもどおりの数で圧殺する構え。その中に致命的なアクセントとして猟兵級の黒光りする甲殻がまじっている。
「海兵隊、撃ち返せ! イオリ、ニーナは一旦機内に!」
圧倒的な物量に対し、海兵隊の弾幕が唸りを上げた。今回、瞬間的な突破能力と引き換えにしてでも総合戦闘能力を上げている彼女らは、こういう局面において特に輝く。墜落したコスモホークの機内からベルトリンクを引っ張ってきて、残りの弾数を気にする事なく撃ちまくる。本来なら小隊支援火器とか車載機銃として扱われる機関銃が唸りを上げ、かたっぱしから先兵級と猟兵級の区別なくミンチにする。
さらに機内に戻ったイオリとニーナが、コスモホークの主砲のシステムを立ち上げた。補助動力に火が入り、フレームを軋ませ火花を散らしながら旋回した主砲が、目を劈く閃光を放った。味方が近くにいるので最低出力に近いが、それでも十分すぎる威力だ。薙ぎ払うように振りぬかれたレーザーが、その射線上にいる物全てを焼き払う。
戦況としてはこちらが圧倒的に優位。だがアレックスは歯噛みした。
「こんなところで足止め食らってる場合じゃないんだがな……!」
アレックス達の目的はここの防衛ではなく突破だ。一刻も早くこの先にあるシルバが指定したポイントに移動しなくてはならない。だが、火力で薙ぎ払っても薙ぎ払っても後続が後から湧いてくる、この群れの中をつっきったらどれだけ犠牲者が出るかわからない。
「くっそ、どうすれば……!」
アレックスが判断を決めかねて歯噛みした時だった。
戦場に、雄たけびのような叫びが轟く。人のそれではない、獣の遠吠えのような。
異星生物も声帯は持たない。……いや、最近、それにも例外があるのを見た覚えがある。
周囲に群がる異星生物の群れ。その中に突如として空から黒い影が降ってきた。一つや二つではない。
アレックス達を包囲するように、8つの黒い影が突如として姿を顕した。空輸されてきたのか、それとも跳躍か。一瞬で警戒範囲外から現れたそれらの姿を前にした部隊に動揺が走る。
怪獣のような二足歩行の爬虫類じみた体格に、蟷螂を思わせる鎌を備えた四本の腕。知性を伺わせない瞳孔の無い瞳。
「げ、LORDの取り巻きかよ!?」
「こいつら、量産されてるのか!?」
肝心のLORDはとっくの昔に戦死したとはいえ、これらの怪物が堕ちた星見の一派と互角にやりあっているのをアレックス達は見ている。防御力場を抜く手段に乏しいのか決定打にはかけていたようだが、そもそもアレらと白兵戦でやりあって戦線を維持できるだけで十二分におかしな耐久力だ。通常の異星生物と混じって責め立てられたら非常に厄介……いや、現状の戦力では対応が不可能だ。
部隊長としてアレックスは決断を迫られる。このまま防戦するか、多大な被害が出る事を覚悟の上で強行突破するか。
だが、彼が決断するよりも早く、代行級達が動いた。
彼らは甲高い叫び声をあげ、巨大な鎌のような腕を振り上げると……。
周辺の異星生物の群れを、纏めて薙ぎ払った。
<戦場のひみつ:レーザーやターボレーザーなど、呼び方は一緒でもその内実は非常に多岐に分かれている。あくまで戦場で兵士がそういった細かいスペックを気にする必要がないのでおおざっぱに分類されているだけなのである。必然、型番や形式できちんと管理する必要がある事務方は割と地獄になる。>