未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:人類は星見の言う高次元を機械的に観測する事がいまだ出来ていないでいる。厳密にはそれらしきものは観測できており、だからこそ高次元視座を利用したショックポイント航法が実現したのだが、機械的に観測した数値の基準を設定する事などは星見の協力を得て行った事であり、今だ『数式は完成したがところどころに挿入される仮定Xについて理解不足』の状態が続いている。>
「す、すいません……」
一同の注目を浴びたイオリが顔を真っ赤にして銃を拾いなおす。肩を落として小さくなってしまった彼女に苦笑を一つ零して、アレックスは共通体に向き直った。
少し、肩が軽くなった気がする。
「いきなり爆弾をぶち込まないでくれよ……それで、停戦って本気か? この戦争が終わるのか?」
『完全に期待に応えられる訳ではありません。あくまで限定的な停戦であり、人類との交戦の大多数は継続されると考えられます』
「どういう事だ?」
『我々における……基準……人類の認識における物理世界における、我々の意思決定のシステム上の理由になります。先ほどの質問の回答にもなりますが、我々全体が物理世界での行動を全て管理する事は難しいため、我々は我々を元に我々を作り出し、物理世界に意思決定要素として配置しました』
「……頭痛が痛いみたいな言い回しだが、意味は通じる。ようは、視野や認識を大きく限定した異星生物の一部……人格の一部? ペルソナといったほうがいいか……それを用意したんだな? 俺達がエージェント個体と呼んでいるのがそいつらか」
異星生物本体は万能に近いからこそ動けない。だからその一部を、特定の目的にそって複写か何かで矮小化した自我をもった存在を現場指揮官として作り出した、それがエージェント個体と人類が呼ぶものの正体。
例えばDEATHは暗殺や破壊工作に特化した個体。LORDは一定規模の部隊を率いて人類と交戦するための司令官。NERUOはおそらく、異星生物本体の膨大な力のごく一部を物理世界に反映するためのハブポイント。
そしてもともとは異星生物であっても、切り出されて単体の個体として成立した時点でそれらは異星生物本体そのものとは違う、一個の生命体となる。当初目的が同じだったとしても、その達成方法や、目指す最終目標は変わってくるという訳だ。
全く同じ遺伝子から作られたクローンでさえも、大本の人間と同じにはならない。あくまで一部分を切り出した存在ならなおさらの事だろう。
「つまり、異星生物も今やいろんな派閥があって一筋縄ではないけど、少なくとも今、こうして話してるお前の派閥は停戦に応じられる、そういう解釈でいいのか」
『ご理解いただけたようです』
「なんか思ったよりも人間みたいだな……いや、人間と戦ってきてそれに対応しようっていうんだから当たり前か」
敵と戦うために、相手を理解しようとするのは当然の事だ。そうして影響を受けるのもまた。
人類とて、今の人権をかなぐり捨てて兵員を確保するやり方は、ある意味異星生物のそれに近づいていると言えなくもない。
「それで、条件ってのはなんだ? まさかザラガ総司令を暗殺しろとかじゃないだろうな。そういうのだったら流石に頷けないぞ」
『とある対象の排除に協力していただきたい。異星生物でも、人類軍でもない』
「……?」
戦争をしているのは異星生物と人類軍だ。それ以外? もしかして異星生物は、人類軍以外とも戦争状態にあるのか? まあ宇宙は広い、発覚した異星生物の正体を考えると、人類のそれより広い領域を支配している異星生物が、違う脅威に直面しているというのも考えられなくはない。だがそんな相手に人類が何か役に立つのか?
そんな風に考えていたアレックスに、共通体は今日何度目かになる爆弾を投下した。
『貴方達人類が堕ちた星見、あるいは柱の信者と呼ぶ一派。その排除に人類の手を借りたい。正しくは、特記戦力アレックス・ウィンザード中尉と、星見観測者シルバの協力を希望する』
ここでその名前を聞くとは思わなかった。
いや、確かにLORDが堕ちた星見を標的にしていた疑惑は強かったが、異星生物側からしてもそこまで重要視している案件だとは思っていなかったというべきか。確かに彼らは人類軍の中で散々暗躍したが、さしもの異星生物相手にまで謀略を巡らせていた訳ではないだろう。何故そこまで敵視するのか。
「……なんでだ? 確かに連中は俺達人類から見たら不倶戴天の仇だけど、お前たち異星生物からみれば人類も信者どもも同じだろう?」
『情報に差異があるようです。情報公開の申請……許諾しました。そもそも、何故我々と人類が争う事になったのか、そこに理由があります。不審に思う事ができるはずです。何故、開拓者達は何の得にもならない、むしろ自分達の首を絞めるだけの原住生物の虐殺を行ったのか? それもいくつもの惑星で、同時に』
「……そりゃあ、確かにそれは変だが……」
口にして、アレックスは気が付く。
そういう、妙な話には心当たりがある。まかり通ってはいけない事が、誰にも問題とされずに横行していた悪夢のような事態。
「おいまさか……それも!?」
『堕ちた星見は、異なるワープ時空に物理世界のリソースを流入させるために行動している。彼らは我々と人類の間に戦争を引き起こし、双方のアストラルリソースを収奪するために虐殺を先導したと我々は解答を出した。故に、今後の人類との関係を模索する前に、これらを殲滅する事が必定と判断している』
異星生物の言う事は半分もわからない。恐らく人類よりも高い次元で高次元視座理論を理解している彼らには、堕ちた星見の目的と行動がより高い精度で解釈できているのだろう。
だが、今はそこは問題ではない。必然たる事実だけが今は問題だ。
この戦争は、ごく一部の者の悪意によって引き起こされたという事実こそが。
「……解せないな。堕ちた星見も、一応は人間だ。異星生物から見れば一緒じゃないのか? ありがたいが、俺達人類に都合が良すぎる話の展開を正直疑っている」
『同じではない』
「?」
『堕ちた星見はもはや人類と同等の存在として認識する事ができない。彼らは異なるワープ時空の影響を受けすぎた。彼らは物理世界に存在しながら非物理世界に近しい存在になっている。彼らは、この宇宙に存在するあらゆる知的生命体にとって有害である。故に、駆除の必要がある』
どうやら異星生物からしても、堕ちた星見は憎たらしい存在であるらしい。駆除、と来たからには随分と嫌われているようだ。LORDを直々に派遣してきたのがその現れだったと思えば納得もいく。
『互いに血を流しすぎた。問題を解決してもすぐに停戦、というのは不可能であるのは了承している。我々も、我々自身の全てを管理下に置いている訳ではない。だが、だからといってどちらかが亡びるまで未来永劫戦争を続けるのは、非効率であると考える。……どうだろうか、アレックス・ウィンザード中尉。貴方は我々の提案を受け入れるか』
「いや、俺は単なる中尉で、軍の行動の決定権はないんだが……」
『我々にとって人類軍の中でのアレックス・ウィンザードの階級は関係ない。一つの知的生命体として、我々の存在を許容するのか、否か問うている』
困惑するアレックス。何故、異星生物がたった一人の人間にここまで関心を示すのか。
返答以前に状況が呑み込めないアレックスに、シルバがそっと耳打ちをした。
「そうおかしな話ではないと思われます、アレックス様。自覚があまりおありで無いようですが、貴方は異星生物からすれば初めて自分達とつながった別種の知的生命体なのです。執着するのも当然の事」
言われて、右手の甲に視線を落とす。今もゼノファージの増殖は活発なようで、手の甲に何か複雑な文様のようなものが形成されつつある。
「……お気づきになっていらっしゃらないようですが、先ほどから相手の話す言葉は、半分も私達には伝わっていません。いえ、周囲の皆さまはおそらく、何を言っているのかすらわからないと思われますよ」
「え」
シルバに言われて部下達に問いかけると、魔女の言う通りの答えが返ってきた。
「ええ、はい。私達からみると、隊長がなんか一人でそこの異星生物? と喋ってるように見えたと言いますか……」
「気が触れたかな。と思ったけど。シルバが何も言わないので。静観」
「え、テレパシーで会話してるんだから話が聞こえないの当り前じゃない? え、なんでって……こういう場合テレパシーで会話してくるもんだろ、宇宙人って。違う? 宇宙人じゃない?」
割とそれぞれ勝手な認識をしていたようだ。
どうやら、思ったよりも自分の役割は重大らしい、とアレックスは認識して肩が重くなった。唯一直接的な意思疎通が可能な人類となると、その思惑とは別に全人類の代表として異星生物と会話している事になる。アレックスが人類に対しそんな責任を持てなくても、異星生物から見ればそんな事は関係ないのだ。
なんだか急にお腹が痛くなってきた。
『(ほれ、言っただろう? いつまでも呑気な下士官なんぞさせてはおれんと)』
脳裏でザラガ総司令が呵々と笑う様がなんだかよぎったアレックスだった。
なんだか、たかが中尉の身分を遥かに超えた問題を背負わされつつある。
なんでこうなったんだ、と頭痛を覚えながらアレックスは腕の中でずっと眠りこけているミリシアに視線を落とした。気持ちよさそうに眠っていて全く呑気なものだ。
そもそも俺はお前を助けに来ただけのつもりだったんだけどなあ、とアレックスは哀愁に満ちたため息をつく。
「わかったよ。そっちの言い分は分かった。だが私はあくまで人類軍の一兵士に過ぎない。ザラガ総司令に話は繋いでおくから、それ以上の細かい打ち合わせはその返答次第にしてくれ」
『……了解した』
「ていうかそういう話なら、俺を呼び出すためにこんな大げさな事にしなくてもよかったんじゃないのか? お互いに無駄に死人を増やすのはよくない事だと思うが」
アレックスは上を指さしながらぼやいた。今も、宇宙では消極的ながらも戦闘状態が維持されているはずだ。お互いの出血もそう少なくはないはずである。
『遺憾ながら人類軍という勢力は信用に値しない。直接、アレックス・ウィンザードに話を通す必要があった』
それを言われたらぐうの音もでない。
そもそもこの戦争の始まりからして、人類が堕ちた星見に唆された結果だというのが本当なら、人類軍を一緒くたにして殲滅するつもりでもおかしくはない。相手の事情を慮って停戦交渉をしてくる異星生物の方が知的生命体としては大分冷静かもしれない。少なくとも人類は歴史上、似たような状況になった場合報復のお題目をかかげてここぞとばかりに虐殺に勤しんできた歴史がある。
「まあそれはそうだが。じゃあどうやってこの場を収めるんだ? 俺が上に話を通してもじゃあはいおしまい、とはいかないのは分かってもらえると思うんだが」
『問題ない。どのような帰結に至ったにしても、この状況を収めるのは容易い。そちらの手を煩わせる事はしない』
アフターケアもばっちりと来ている。どうやら誠意、という概念も異星生物は学習済みのようだ。まあその結果が人類に有益かどうかは終わってみないと分からないが。
「……それならいい。で、これで話は全部終わりか? 帰っていいのか、我々全員?」
『必要な情報は伝達した。これ以上の滞在は、互いにとって不利益を生ずると判断する』
「わかった。……その、共通体だったか? それはこの後どうなるんだ?」
目の前の、極力人型に似せて作られたと思わしき個体を凝視する。
異星生物が個体を使い捨てるのはどうでもいいが、目の前の共通体とかいう存在は、アレックスとミリシアの子を元に作り出された存在だという。恐らく人間としては既に死亡してるも同然で、そもそも軍属である以上中絶処理が妥当だっただろうが、それでも我が子だった存在の死後を、人道を解さない存在に弄ばれているような不快感は拭えない。しかし一方で、死すべき定めだった命が、いびつな形とはいえ存在し続けている事を喜ぶ気持ちも少しある。
矛盾しているが、感情とはそういうものだ。
『あくまでアレックス・ウィンザードと交信する為、我々の意思を人類に合わせて調整するのが共通体の役割である。故に、共通体は我々の一部ではあるが、同時に人類と同じ思考スケールを持ち合わせた存在である』
「……?」
『我々と共通体は限りなく同一であるが同時に明確に分かたれた個である。その唯一性を我々は尊重する』
異星生物の言い回しは正直、非常に分かりづらい。それでも、少なくとも共通体を生み出した責任を取るつもりであるらしい事は理解できたので、アレックスとしてはもうこれ以上言う事はなかった。
「……よし。撤収するぞ、お前たち。俺達の仕事はこれで終わりだ」
「それはわかりましたけど……どうやって撤収するんです?」
「そりゃあ勿論、降りてきた海兵隊の部隊と合流してだな……」
「……どうやって説得するんです? 異星生物と停戦交渉を行ったのでその成果を司令部に持ち帰りたい、だなんていっても、相手に話が通ってなかったら、狂ったと思われてその場で処理されません?」
「む」
言われてみればその通りだ。
考えてみれば第77独立遊撃隊に与えられた特務は総司令直々の機密度合いが高いものであり、人類軍としてのメインプランはこの惑星の制圧ないし調査だだ。海兵隊もその為に降りてきているのだし、いくら司令部つきの特殊部隊だといっても、海兵隊も仕事をせずに引き上げる事はしないだろう。調査内容を伝えれば済むかもしれないが、その内容を信じてくれるかどうかはとても微妙だ。何より異星生物との停戦協定が結べるかもしれないという情報は過激かつデリケートな話題だ。うかつに関係者以外に広めてはどうなるかわからない。
いつも通りに想定外の事態に巻き込まれてなし崩しに撤収! ならどうとでもいいくるめられるが、今回のように無事に作戦完了かつ想定外の戦果を得て帰還する事の経験はアレックスにもない。こういう時はどうすればいいのだったかと考えても、そんな事は教えられてない。
というか、海兵隊の揚陸部隊、無事に降りられているのだろうか? 目的を考えると、アレックス以外の人類軍はお断りされている可能性の方が高い。アレックス達も、最初は容赦なく迎撃された訳であるし。
意外と難局に立たされている事を把握してアレックスは頭を抱えた。
「むむ……」
『帰りの手段なら問題ありません』
そこに助け船を出したのは、意外にも共通体だった。共通体は地上を指さすと、その手段を端的に説明した。
『ここにきている特務部隊は貴方達だけではないという事です』
「……何やってんだ、マイク?」
「…………。お、おう……奇遇だな……」
何が奇遇なんだか。アレックスは手にしたレーザーガンで肩をとんとん、と叩きながらじとりと視線を覚えのあるパワードスーツ隊に向けた。
共通体の指示の元、塔を脱出し言われた方向に向かうと、何やら大量の代行級に遠巻きに包囲されて困窮している部隊を発見した。周辺には凄惨な抵抗の跡が広がっていたが、基本的に代行級が付かず離れずで包囲を続けていたためどうしようもなく、その場で足止めされていたようだ。言うまでもなく、共通体がアレックス達の帰りの足として確保していたのだろう。
まあ、そもそもアレックス自身、今回の特務が上手くいくとは思っていなかったし、異星生物との交渉も半信半疑だった。最悪の場合でもなんとか情報を持ち帰る為に精鋭部隊をもう一枚伏せておくのは理に適っている。
問題はそれがモロバレした揚げ句帰りのタクシー代わりに確保されていた事である。
「お前らもよこされてたのか。ちょうどいい、今から司令部に帰るんで運んでってくれ」
「……いや、まあ。一応俺達、表向きには存在しない事になってる特殊部隊なんだけど……」
「いやあ、流石に自覚あるだろ? お前らが生きてるのは俺らの事あっての事だし、素直に従っとくべきだと思うぜ?」
「そりゃまあ、そうなんだろうが……」
マイクは破損して素顔が丸見えになっているヘルメットをかぶったまま、周囲をぐるりと見渡した。今の所、彼らの部隊に欠員はでていない。でていないが、それは彼らの実力によるものとは言い難いあり様だった。周囲の岩陰に数えるのも馬鹿らしい数の代行級が潜んでおり、足元には5,6体の代行級のなれ果てである黒いタール状の液体がどろどろと広がっている。
彼らがアレックス達を追尾して塔に近づこうとした瞬間に、多数の代行級が突如出現。まるでこの場に釘付けにするかのように消極的な包囲戦をしかけてくる相手に突破を試みたものの、一体一体が強力な上に数で勝る包囲を突破できずそのまま消耗……という流れで今に至る。
「仕方ない。異星生物の思惑通りっていうのは気に入らないが、そもそも俺達はあんたら独立遊撃隊に何かあった時のスペアだ。本命が戻ってきたならその護衛もやぶさかじゃあない。ついてきな、機体に案内する」
「助かる」
「それで? 今回はどんな爆弾案件持ち帰るんだ? 後ろで海兵隊がお姫様抱っこしてるあんたの部下と関係があるのか?」
「流石に言えない。まあすぐにわかるだろうよ」
「つれないねぇ……ってまじかよ、あんたどんだけVIP対応受けてんだよ?」
アレックスと話がまとまったのを確認してか、代行級達が包囲を解く。包囲殲滅からして一点して賓客を送り出すかのような対応に、血塗れのマイクは俺らの苦労は一体……と肩を落とした。
「そんじゃ案内頼むわ。そういえば、お前らは何でこの惑星に降下してきたんだ? コスモホーク?」
「機密に関わるから説明できねー。目隠しまではしないから、頼むから黙って乗ってくれ……」
「悪いね」
なんだかどっと疲れた様子で、マイクが先導する。その後を独立遊撃隊が追い、殿をマイクの部下達が務める。彼らは手にした大口径ライフルをしきりに代行級達に向けていたが、先ほどまで彼らに対し唸り声をあげるなり威嚇的な動作を繰り返していた彼らは、今は彫像のようにぴくりとも動かない。ただ視線だけが、静かに一行を見送っている。
理不尽な任務、不可解な任務に山ほど取り組んできた“レオニダスの兄弟”達も、流石に今回ばかりは居心地悪く、最後まで落ち着かなさそうにしながら、その場を離れる。
代行級がその後を追ってくる事は、なかった。
<戦場のひみつ:最近、立て続けに新種が発見された事で、人類軍は異星生物の脅威度の優先度設定に頭を抱えている。現場からすればかわらず猟兵級が最も恐ろしいのだが、それを遥かに凌駕する戦闘力を持ち高度な作戦行動を行う代行級、地下トンネルの掘削など戦略行動を担う上に単体でも高い戦闘力を誇る掘削級など、異星生物への理解が深まる度にその陣容の不可解さは増すばかりである。>