※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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第七話 隠す秘め事(ミリシア イオリ)

 一日の訓練が終わる頃には、すっかり日が暮れていた。

 

 今日の訓練内容は、ここ数日続けていた部隊としての習熟訓練だ。初日のようなトラブルに見舞われる事なく、各々が新しい環境で徐々に能力を発揮しつつある。朝食の場ではあんな感じだった情報管理手も、訓練になればいつもの仕事人ぶりを発揮し、部隊を支えていた。

 

 そして夕食を終えて解散後の自由時間。クズノハは特にする事もなく、自室のベッドに転がっていた。

 

 ちらりと対面のベッドに視線を向ければ、そこには同じように寛いでいるミリシアの姿。彼女は何らかの広報誌を手に取り、その内容に目を通しているところだった。表紙から察するに、戦地での女性兵士のおしゃれに関するものらしい。その視線は真剣だ。

 

「ミリシア」

 

「ん?」

 

「今日は行かないの? 隊長さんとの……その、打ち合わせ」

 

 ここ最近、ほとんど毎晩のようにミリシアは消灯時間直前まで出かけている。名目は、隊長であるアレックスとの部隊運営の相談。

 

 ミリシアは遊撃隊内では副官のポジションにいるので、別におかしい話ではない。整備もそうだが、部隊運営のための書類仕事や砲弾などの消耗品の管理も遊撃隊では大変だ。人類総力戦と化したこの戦争においては、戦闘要員と事務要員はある程度切り離されているとはいえ、夜毎隊長と副官が顔を突き合わせて机を囲むのは、むしろ当たり前の話である。

 

「……そうね。ちょっといってくる」

 

 広報を置いて、ミリシアが軽くジャケットを羽織る。手鏡で軽く髪を整えると、彼女はいそいそと部屋を出て行った。その足取りは軽く、仕事というより合瀬に向かうかのようだった。

 

 バタンと閉じたドアを見送って、クズノハはベッドに転がったまま、枕元に転がした時計の秒針に目を向ける。カチコチと針が時を刻み、ちょうど一分が過ぎたのを見計らって、むくりと身を起こした。

 

 身だしなみを軽く整えて、ドアを開けて外の様子をうかがう。日は完全に落ち、基地の照明だけが暗闇にぼんやりと浮かび上がっている。周辺に誰もいないのを確認して外に出た。

 

 ちらりとほかの二人の部屋に目を向ける。ドアは閉じたままだが、内部からは生活の気配。少なくとも、すぐに出てくる様子は無い。

 

 周辺に誰もいない事を確認して、クズノハは反対側の隣室……完全に空室になっている部屋のドアを開いた。普通、無人の部屋は鍵がかかっているはずだが、何故かここは掛かっていない。いや、何故かというと、理由はだいたいわかっている。

 

 部屋の中には何もない。ドアを閉じてしまうと、あとにはただ真っ暗なだけの空間が残される。箱のような室内で、明かりも付けずに息をひそめる。

 

 やがて外に人の気配。彼らはクズノハの潜む部屋ではなく、その隣……もう一つの空き部屋へと入っていく。

 

 ひそひそと忍ぶように囁く声。一人は男、もう一人は若い女。

 

 一見すると若い男女の逢引のようで……実際、その通りだという事をクズノハは知っている。男は部隊長、女は同室の女性士官、ミリシアだという事も。

 

 クズノハが二人の関係に気が付いたのは、ミリシアが面談を受けてから三日目ぐらいの事。正しくは確信を得たのがそのぐらいで、疑惑は面談の翌日ぐらいからあった。なんせ、隊長を見る目が違う。それまではあくまでビジネスライクな、実力のある上司を品定めしてる感じの目だったのに、ふと気が付いたら恋する乙女のような熱の籠った視線で隙あらば隊長を追っているのだから、むしろ隠す気があったのか怪しいレベルだというものだ。

 

 それに気が付いて普段の行動を注視していれば、夜な夜な隊長の所に出かけて行って、消灯前にきちんと帰ってくる。口では任務だ打ち合わせだ相談だといっているが、出かけていく時のあのスキップするような歩調に、戻ってきたときの同性でもぐっとくるような色気。そりゃもう察するなという方が無理だ。

 

 ミリシアの過去の経歴には風の噂程度とはいえ聞いていたので、隊長が権力を盾に迫ったというなら軽蔑せざるを得ないが、あんな幸せオーラを振りまいていれば、まあそうじゃない事は明白である。というか多分、ミリシアから迫ったんだろうなあ、とクズノハは分析していた。彼女からは同類の匂いがする。

 

 まあ、隠しているので表向き触れるつもりはない。公私混同されては流石にそうもいかないが、隊長は少なくとも表向きそんなそぶりを一切みせないし、ミリシアの方も訓練に入ればキチンと切り替えて一人の兵士としてふるまっているからして、部隊に影響は全くといっていいほどない。

 

 そもそもクズノハ自身、かつて戦友と恋人関係にあった身だ。過酷な戦場で、心身を預ける事ができる喜びと心地よさはよく知っているし、雌として雄に依存してしまう気持ちもよくわかる。まだ知り合って短いが、隊長の甲斐性とか兵士としての強さとか、早い話が頼りがいは結構ある、と思う。

 

 特に危険を感知する嗅覚は特筆するべきものがあった。忘れもしない訓練初日のトラブル、隊長の判断で車体正面を向けていなければ最悪、薄い側面装甲を抜かれて死人が出ていたかもしれない。

 

 ただ、ずるいな、と思う気持ちが無いわけではない。

 

 ミリシアに疑惑を抱いた後、呼び出された時、何ていうか内心で期待と不安はあった。もしかして自分も、という気持ちがあって、迫られたらどうしよう、断れるかな、とドキドキもした。

 

 が、実際は隊長はあくまで紳士的かつ誠実に部下として対応しただけだった。前歴に傷の多い自分達の事を考慮し、信頼関係の醸成に努める、それ以上でも以下でもない。その事自体はいい。隊長として信頼できる。だがもやっとした。

 

 理不尽な言い掛かりなのはわかっている。だがミリシアには速攻で手を出しておいて、自分達には微塵も興味が無いですよ、というのは逆に失礼ではないだろうか。そんな事を考え、考えた自分にげんなりした。

 

 そんなごちゃごちゃした気持ちで二人を観察している内に、二人がどうも人目を避けて空き部屋で致しているらしい、と把握してからは、こうしてこっそり隣部屋に潜り込んで聞き耳を立てるようになってしまった。どうしてこんな事をしているのか、自分でもよくわからない。

 

 壁越しに聞こえる会話はよく内容までは聞き取れないが、普段の二人からは想像もできないほど甘ったるい雰囲気に聞こえる、ような気がする。特にわかりやすいのはミリシアで、語尾がもう媚び媚びだ。あくまで恋人同士ではなく肉体関係のみのセックスフレンド、というのがあの二人の関係を表現するに一番近いのだろうけど、ミリシアの向ける矢印はそういう領域にない気がする。

 

 耳を当てて詳細を知りたいけど、流石に今、そういう事をしたらバレる可能性が高い。音を立てないように軍服をはだけてその時を待つ。

 

 本当に自分でも何をやっているのだろう、と思う。戦友の行為をおかずにして致すとか、バレたら恥ずかしさのあまり死ねる自信がある。

 

「……っ」

 

 壁越しに聞こえる言葉が、途切れ途切れに途絶える。次のフェーズに入ったのを察して、静かに耳を当てる。ここで万が一にでも音を立てたら最悪の事態になる。

 

 集中のあまり、耳鳴りのようなものが聞こえる。それでも壁越しに、クズノハは男女が情熱的に口づけを交わす粘着音と、鼻にかかったような女の嬌声を聞いた。

 

 想像する。会話で気分を高めて、距離を縮め、男の腕の中に抱かれるミリシア。背中から抱きしめられているのだろうか、それとも正面から抱き留められ胸板にしがみついているのだろうか。口づけを交わし舌を絡めあい、形のよい胸を好きなように揉みしだかれ、乳首をつままれたり、あるいは想像だにしない事をしているのかも。

 

 妄想と、漏れ聞こえてくる嬌声に息を荒げながら、音を立てないように自分の衣服も緩める。タンクトップの上から指を這わせて、好きな部分に触れる。以前の彼氏に教え込まれた性感帯を、記憶を頼りに追いかけた。

 

「んっ……」

 

 思わず声が出る。が、足りない。同じように触っているはずなのに、何故だろう。単に、クズノハ自身が下手なのだろうか。……隊長は、どれぐらい上手なのだろうか?

 

 壁の向こうから聞こえてくる、ミリシアの静かな嬌声。何度か盗み聞きしているが、隊長はねちっこいというか、前戯を丁寧にするタイプだ。激しく性感帯を刺激するのではなく、じっくり丁寧に掘り出すように体の熱を高めて、出来上がった所を一気に決める。上手じゃないとできないやり方だ。

 

 女性は躰の刺激もそうだが気持ちも大事だし、ムードも大事。それになんだかんだで同じ所ばかり刺激されても慣れてしまって、30分ぐらいでつまんないなー、と天井を眺める感じになる。飽きさせないように、かつ、きちんと感じさせつつ、それでいて肉欲だけの関係じゃないと言葉や仕草でフォローしてやるとなると、余程の経験者じゃないと無理だ。すくなくとも、性的好奇心や欲求だけでくっついたような関係では、難しい。

 

 抱かれてる時のミリシアは、どうなのだろうか。普段は何考えてるのかよくわかんない感じで、言動も冷めてるというか、クールで。そのくせ興味をもった事への食いつきは割といい。間違いなく普通の関係だったら男を振り回すタイプだ。そんな彼女が、隊長の愛撫にとろとろに融かされている様を想像すると、レズではないクズノハでもちょっとドキドキする。

 

「くっ……ん。あっ、これ、いいかな……っ」

 

 ぐり、と浅くひっかいた指が、秘所の良いところに当たって腰が上がる。強くしすぎて痛くならないように優しくその場所を探りながら、起ってきた乳首を指で転がす。段々、体が出来上がってきた。乱れた息に熱がこもってくる。

 

「……?」

 

 ふいに、しばらくとなりの嬌声が途絶えている事に気が付いた。

 

 いいところだったのに、と思う一方、もしかしてバレた? という一抹の不安がよぎる。

 

「……」

 

 音を立てないように、衣服を寄せる。今にも隊長がドアを開けて入ってくるのでは? という想像が頭をよぎり、今更ながら自分のうかつな行動にじっとりと嫌な汗が滲む。

 

 一体何……と思っていると、不意に、ドン、と壁を叩く音がした。

 

 びくっと背が跳ねる。壁ドン?! なんで?! と混乱するクズノハの耳に、先ほどまでより大きく、ミリシアの声が聞こえてきた。単純に距離が近い、流石にかすかだが、今は何を言っているのかなんとか聞きとれる。

 

「その……本当にやるんですか? いえ、嫌じゃないですけど……」

 

 ちょっとためらいがちのミリシアの声。それでクズノハは気づく。これはもしかすると、壁に手をついていて……声の聞こえ方からすると、後背位の姿勢で壁に体を押し付けている、みたいな。

 

 どきりと心臓が跳ね上がる。ちょっとアブノーマルなプレイに居合わせたかもしれない。

 

「ん……わかりました。大丈夫です……んっ! あっ、ああっ!」

 

 不意に会話から悩まし気なそれにミリシアの声のトーンが変わる。何が起きたかは、彼女自身の口からすぐに語られた。

 

「っ、入って、来ますっ! たいちょうの、んあっ、おっき、すぎ、あ゛っ! まっ、ひっかかって、るぅ……あ、ダメ、無理に押し込んだら……ああ゛あっ!?」

 

「……っ、ふっ、んっ……」

 

 悩ましげな声で、身に起きている事を語り上げるミリシア。実況プレイですか、と引きながらも、クズノハは声に合わせて秘所を指で弄った。少しためらってから、深い所に指を伸ばす。

 

「んんっ……」

 

「あ゛、ひっ、だめ、たいちょうの、太すぎる……。女の子のあそこ、そんな太いの入るように、できてないんですよ……あっ、うっ! みちみち、してるぅ……。んっ、あっ、嘘、これで全部入ってないんですか……ああ゛っ!? まっ、無理に奥、んぎぃっ!」

 

「……うわあ」

 

 喜びの苦悶の声が、壁の向こうで起きていることをありありと伝えてくる。隊長のそんなに長くて太いのか、と思わず自分のお腹に手を当ててしまう。クズノハはかつての恋人のそれしか知らないが、奥まではいってもなお余る、というのは大きすぎるのではないだろうか。

 

「ひぃっ! あ゛あっ! あっ! んあっ!! っ、すいま、せん。ちゃんと言う、言いますから……んぃっ! これ、ヤバ……い、ですっ。たいちょうので、私のおなか、つりあげられて、るぅ! あ゛っ! あぁっ!」

 

 思わず唾を飲む。流石に大げさな表現だと思うが、釣り上げる、なんて表現がでてくるあたり、相当にハードな攻めが壁の向こうで行われてるらしい。

 

「ひぃっ! ああっ! あ゛あ゛っ! しきゅう、はねてっ。ゆれて、るぅっ! あっ! 奥、つぶれちゃう、あひぃあっ!」

 

 自身の体重で、収まりきらないはずの剛直を無理やり埋め込まれ、最奥の子宮を持ち上げられているミリシアの姿を想像する。もしかすると、お腹が入ってるものの形に膨らんでいるかもしれない。そしてそれが、1秒に数回、愛液を掻きだしながらストロークされる様を思い浮かべる。

 

 前戯に時間をかける訳だ。女体側への負担が大きすぎる。

 

「ん……ふぅ……。たいちょうの、どすけべ……」

 

 ふんふん、と鼻を鳴らしながらも、クズノハの行為も熱がこもってくる。ちょっと痛いぐらいに、胸を強く揉んだ。

 

 足りない。全然足りない。

 

 壁の向こうでミリシアが味わってる快楽には、到底……。

 

 気が付けば、妄想の中で攻め立てられてるのはミリシアではなく、クズノハ自身になっていた。壁に押し付けるようにして強直が奥にたたきつけられ、その度に長い髪を振り乱して絶叫する自分自身を想像する。恋人との優しい睦言ではなく、獣を躾けるような無遠慮で容赦のないセックスに、体がぐずぐずに溶けていく。

 

 ミリシアの声が、どんどん切羽詰まってくる。その時を感じさせる高ぶり方に、合わせてクズノハも自らを慰める指の動きを激しくした。

 

「あっ、ダメ、もう来ちゃう、来る、大きいのがくるっ。あっ、あっ、あああっ!」

 

「………っ」

 

「いっちゃ、う、ああっ、あああっ、ああーーーっ!」

 

 壁の向こうで声を絞り出されるミリシアと対照的に、クズノハはぐっと声を堪えて絶頂を迎えた。一人で妄想を糧にするよりもはるかに大きな快楽と、それとは比較にならない罪悪感が、彼女の胸に去来する。

 

 間違いなく気持ちよかった。だけど、男に実際に愛され声を殺す事もできないほど責められているのを肴に一人寂しく慰めるというのは、字面に起こしても空しい事このうえなかった。

 

「何やってるんだろ……私」

 

 小声でぼやく。顔の前にもってきた指には、見た事ないぐらい濃い愛液が糸を引いていた。

 

「ふぅ……はぁ……んっ……。ふぅ……。あ……たいちょう……すいません……。また、今回も先に……。ごめんなさい……」

 

「……えっ」

 

 もしかして終わってないの? ぎょっとするクズノハ。あれだけ激しくやっておいて、隊長の方はまだ全然、ビンビンらしい。

 

 もしかしてこのまま二回戦が始まるのか……と戦慄するクズノハをよそに、壁の向こうではごそごそと後片付けのような音が聞こえてきた。壁から離れたのだろう、ミリシアの声も聞こえない。

 

 やがて、ガチャンとドアを開け閉めする音が聞こえてきて、それきり静寂が空き部屋に戻った。

 

「……二回戦、戻ってするのかな。……いや、でもミリシア、もう息がへろへろだったよね……」

 

 多分、いつも念入りに前戯するからだろう。今日みたいにはっきり聞こえてくる事は今までなかったが、それでも挿入してからミリシアが果てるまではかなり早いし、声も限界をいつも訴えている。だから、てっきりちゃんと隊長も果てて終わっていたのだと思っていたのだが……もしかして、いつも隊長の側は不完全燃焼だったのだろうか。

 

 脳裏に、部屋に戻った後ベッドに押し倒され、声が枯れて出ないほどに攻め立てられるミリシアの姿が形作られた。妄想の中で彼女は挑発的でミステリアスな普段の目つきはどこへやら、顔をぐしゃぐしゃにして抵抗もできずに、玩具のように隊長に蹂躙されている。

 

 ぶんぶんと頭を振って妄想を振り払う。

 

 ミリシアは行為のあった翌朝も、何事もなかったかのように顔を出してる。考えなくても、翌朝に疲労を残さないように隊長はセーブしているのだろう。個室を与えられているのだから、自分で処理するのは問題ないだろうし……。

 

 しかしそうなると、隊長はどうしてミリシアと交わっているのだろうか? 自分だけ毎回我慢させられて辛くないのだろうか。

 

「…………」

 

 考えても仕方ない、他人は他人、とクズノハは思索を打ち切った。

 

 自分も身なりを整え、ドアを少しだけあけて周囲を伺う。

 

 周囲に人の姿はない。少し離れたところにある隊長の寮部屋に明かりがついているのが見える。多分、ミリシアがシャワーを浴びているのだろう。

 

 戻るなら今のうち、とクズノハは訓練で鍛えた抜き足差し足で、自分の部屋に急ぎ戻った。

 

 

 

 

 それから10分ぐらいして。

 

 無人に戻った空き部屋を、訪ねる姿があった。

 

 ミリシア。彼女は自分達が使った部屋ではなく、その隣の空き部屋をのぞき込む、すんすんと鼻をならすと、目を細めた。

 

「……ふぅん?」

 

 何か納得したように頷く。

 

 そしてどこか機嫌よさそうに、彼女は自分の部屋に戻った。

 

 その数分後、消灯時間を迎え、寮の明かりは全て消えた。

 

 

 

 

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