未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:佐官クラスは、腰に帯剣を許される。基本的には儀礼用の代物で、そうそう佐官クラスが直接戦闘を行う事はないが、勿論実用品である。特に直接戦闘の発生を考慮している実戦派は、高性能なエネルギーソードを好んで装備する事が多い。>
執務室は、むせ返るような血の匂いに満ちていた。
部屋の中央の高級そうなテーブルは叩き割られ、無残な残骸になっている。壁際の棚は粉々に砕け、飾られていたウィスキーがその中身を絨毯に吸わせていた。
その棚に埋まるようにして、フォンブラウ少佐が倒れている。かすかに肩が上下しているので息はあるようだが、気を失っているようだ。
フォンブラウ少佐を見下ろすようにして、部屋の中央に立つ薄汚れた鎧の人物。モルガンヴェールで交戦した、堕ちた星見の戦闘員、騎士だ。その片手に握られた刃は、どす黒い血で汚れて、今もぽたぽたと滴を滴らせていた。
その、騎士の向こう側。床に倒れ込んだ、大柄な男の姿があった。
愛用の執務机にもたれかかるようにして頽れる隻眼の男。西方人類軍最高司令官、ザラガ・クロッカスその人に間違いはなく。
そして、かつて自信と力に満ち満ちていたその巨躯は、今やぴくりともしない。
呼吸も、鼓動も。何一つ。
「閣下ぁ!! よくもっ!!」
騎士に向けてアレックスがハンドガンを連射する。騎士は身じろぎもせず、ただその眼前で空中で火花が散っただけ。
あの時と同じ不可視の防御壁。
「!」
マイクが腰だめにライフルを連射した。ハンドガンとは比較にならない連射速度で大口径弾が叩き込まれる。そのうち殆どは先ほどと同じように弾かれたが、何発か、原形をとどめた弾丸が騎士の眼前で空中で停止した。まるで、見えない壁に食い込んだかのように。
その直後、その数発の弾丸が一斉に起爆した。時限信管式の炸裂弾。本来なら肉体に突き刺さったあと内部で爆発する、大型の異星生物用に用いられる非人道的弾丸。それは本来の用途とは違うものの、射手の意図どおりに機能してみせた。
防壁を抜けた爆風に煽られ、騎士がよろめくように後退する。そこにマイクが雄たけびを上げてナイフを引き抜き、挑みかかった。
飛び掛かる巨体のパワードスーツに、おおよそ人体としては不自然な動きで騎士が剣を振りかざした。振り上げた剣を、唐突に炎が包み込む。まるで血が油のように燃え盛るのは明らかに異常な現象で、得体のしれない術によるものか。これがザラガ総司令の命を奪ったのは明らかだった。
関節を無視したようなぐにゃぐにゃとした太刀筋だが、その刃がマイクを切り裂く前にその刀身を衝撃が撃った。
騎士の歪んだ面頬の向こうで驚愕する気配。その視線が、ハンドガンを構えるアレックスに向けられる。
最後に騎士は何を思ったか。アレックスへの侮蔑か、呪いの言葉か。残念ながら、マイクは相手に辞世の句を詠ませてやるような慈悲は持ち合わせていない。
ドン、とナイフが騎士の首筋に突き立てられた。パワードスーツの剛力で一息で根本まで突き立てられたナイフが、ぐるりと捩じって引き抜かれる。
直後腐ったような真っ黒な血が噴水のように吹き上がり、執務室の天井を汚した。ぐしゃり、と騎士の巨躯がその場に倒れ込む。
その死体をまたいで二人はザラガ総司令の元に駆け寄った。
「司令!」
倒れ込む肉体を抱き起す。なんとか可能な限りの救命措置を行おうとしたアレックスだったが、数秒その体を精査していたマイクが首を振った。
「……手遅れだ。ザラガ総司令はすでに聖歴に御名を刻まれになられた」
「そんな……!」
口惜しくザラガ総司令の亡骸に目をむける。だが、どう見てもマイクの言う通り、手遅れを通り越している事をアレックスも認めざるを得ない。
死因は、右肩から左腰への袈裟切り。ただの刀傷ではなく、なんらかの熱量が付与してあったらしく、傷口や衣服は焼けこげ、肉体の大半は煮えてしまっている。……タンパク質を主成分とする生物の肉体は、一定以上の熱にひどく弱い。治療をしようにも、細胞レベルで殺されてしまっていては、もはやどうする事もできない。
最後まで敵をにらみつけたのだろう。憤怒の形相で見上げるようにして事切れた瞳を閉じてやろうとするアレックスだったが、瞼も固まってしまっていてどうしようもなかった。仕方なく、ポーチから適当なガーゼを取り出し、せめて死に顔を覆った。
「……どうする。ザラガ総司令が亡くなられたのでは……」
「やむを得ん。せめてフォンブラウ少佐だけでも連れて脱出しよう」
「それしかないか」
気持ちを切り替えるしかない。ザラガ司令の亡骸に、最後の別れを告げる。
敵の強襲に、しかし臆さず反撃したのだろう。片手には恐らく愛用だったブレードが残されていた。熱で焼かれ、握っていられなくなったのだろう、柄を握りしめる指は開かれていた。
動力を内蔵し、敵を内部から焼き焦がしながら切断するエネルギーソード。その磨き抜かれた刀身は、鏡のように光を照り返している。
だからこそ、気が付けた。
アレックス達を背後から襲おうとしている、薄汚れた卑怯者の姿に。
「……!!」
咄嗟にブレードを拝借し、背後からの一撃を振り返る様に受け止める。刀身を覆う青いパワーフィールドが、炎を纏う錆びついた刃と拮抗して火花を散らした。
新手の奇襲、ではない。
生命であれば完全に絶命させるだけの傷を負わせたはず。にもかかわらず、何事もなかったかのように切りかかってきた騎士にアレックスが目を剥いた。
「こいつ……!」
拮抗は一瞬。遅れて反応したマイクのヤクザキックが、騎士を蹴り飛ばした。トラックにはねられたような勢いで吹っ飛ばされた騎士の巨体が床に転がり、剣が投げ出されて壁に突き刺さった。
今度こそやったか? 見守る二人の前で、投げ出された騎士の指がぴくり、と動いた。のっそりと緩慢な動きで再び立ち上がってくる騎士。だが蹴りの衝撃でロックが緩んだのか、首を傾けた表紙にごろん、と兜が外れて転がった。その下の素顔が露になる。
「な……」
思わずアレックスは息を飲む。
腫瘍で盛り上がった顔。耳は尖り、牙は唇を裂いて剥き出しになっている。瞳は赤く染まり、四角い瞳孔が収縮と拡大を繰り返しながらアレックスとマイクを捕らえている。見ている間にも変異は続き、コメカミから角のようにコブが膨れ上がっていく。
人種がどうとか、美醜がどうこうのレベルではない。
到底その様は、人間のそれではなかった。
「……冗談きついぜ」
マイクがアレックスを庇うように前にでる。
騎士が金切り声を上げてそんなマイクにむけて飛び掛かった。その叫びも挙動ももはや獣のそれであり、鎧は内側から膨れ上がる筋肉の隆起に押し上げられて変形を始め、振りかざした指は籠手を突き破って鋭い鉤爪が生えている。振り下ろされた爪と、パワードスーツの装甲がぶつかりあって、耳を劈く音が響き、血がしぶいた。
「ぐ……!」
苦しそうな声がヘルメットの下から零れる。爪を受けとめたマイクの腕からは滴る流血。信じがたい事に、銃撃にも耐えるパワードスーツの装甲をただの鉤爪が突き破ったのだ。強度も腕力ももはや人間のそれではない。
流血をみて興奮したように、騎士が牙を剥いて笑った。舌はトカゲのそれのように長く伸び、口元は耳まで裂けたそれを見て、もはやこれを人間と思う者は存在するまい。
もはや、司令部にひしめいていた怪物達と同じ怪異の一匹。怪異が、さらなる流血をもとめてもう片方の指を振り被った。こちらも同じように急激に発達した鉤爪が籠手を内側から突き破り、キシキシと血を求めて嘶き、マイクへと振り下ろされようとする。
「マイクッ!?」
「こなくそ……っ!」
この体勢で二撃目は受けきれない。それが分かっていても、アレックスはとっさに体が動かなかった。騎士の、否、いまや獣と化した相手の異様さに呑まれてしまっている。
禍々しい鉤爪が振り下ろされ、マイクの首を切り裂こうとする、その瞬間……。
その腕を。
背後からの一閃が肩から断ち切った。
「ギィ……?!」
惚れ惚れするような、術理の通った一閃。それを繰り出したのは、気を失い倒れていたフォンブラウ少佐だ。手には剣が一振り。だが一撃繰り出すのが限界だったのか、彼は剣にすがるようにしながら膝をついた。それでも燃えるような視線がアレックスを一瞥する。
「中尉! 今だ!」
火花のような檄が飛ぶ。それに、訓練された兵士としての本能が反射的に答えた。マイクの脇を抜け、エネルギーソードを一閃する。
怪異の首が宙を舞った。
行く末を確認する事なく、返す刃で心臓を貫く。右足を押し当てて剣を引き抜くと同時に、床に怪異の肉体を転がした。そこにマイクの追撃が飛ぶ。パワードスーツの重量と強化された筋力を乗せたストンピングが、騎士の胴体を轟音と共にへしゃげさせた。さらに二度、三度と追撃し、物理的にもはや行動が不可能なまでに死体を破壊する。
その様を見ながら、アレックスは床に転がった生首に目を向けた。ハンドガンの一撃が、木っ端みじんにソレを粉砕する。
飛び散った血は、廃油のようなどす黒いそれだった。
「少佐!」
怪異の完全排除を確認し、アレックスは急いでフォンブラウ少佐の体を抱えた。軍服は血で染まり、出血が多いようだが意識ははっきりしているようだ。ザラガ総司令と違い、刀傷の類は見当たらない。治療が間に合えばまだ助かる見込みは高い。
「少佐、しっかりしてください」
「……中尉……。……総司令は……?」
「……残念ながら」
「そうか……」
口惜しそうに唇を噛む少佐。気持ちは分かるが、しかし、今はそれに構っていられる状況ではない。それに、恐らくフォンブラウ少佐も状況は把握できていないだろう。手早く緊急キットで応急処置を施しながら会話を続ける。
「だが、何故中尉達がここに……? 司令部の連中はどうした……?」
「司令部はほぼ壊滅状態です。得体のしれない化け物がそこら中で暴れまわってます」
「何……?」
「嘘じゃないぜ少佐。というかそんな状況だったんで、総司令が心配になって引き返してきたのさ。……ちょっと遅かったみたいだが。すまん」
「いや……私の任務は総司令の護衛も含まれていた。私が任務を果たせなかっただけだ……しかし、何が起きている? 怪物とはなんだ、異星生物とは違うのか?」
「断言はできかねますが、違います。そこに転がっているのが参考になるかと」
アレックスは床に転がる騎士だったものの死骸を指さす。首を刎ねて心臓を突き刺してさらに胴体を陥没するまで踏み砕いて、それでも起き上がってくるとは思えないが、それでも万が一という事でマイクがずっと警戒を続けている。
「騎士が大量に入り込んできたんじゃなくて、なんていうか、その。遺留品を見るに、司令部の人間が突如化け物に変じたように見えるといいますか……信じがたい話に聞こえると思いますが」
「……いや。今更君達の言葉を疑ったりはしない。だが、しかし、そうか……」
「どうします? 司令部の機能を回復しろ、っていうのは無理筋だとは言っておきますが」
「流石に私もそこまで愚かではないよ。……やむを得ん、状況も掴めない以上司令部を脱出する他ない。格納庫に向かってくれ」
「了解しました。さ、肩を預けてください」
足元もおぼつかない様子のフォンブラウ少佐の肩を担ぎ引き起こす。剣で切られた訳ではないようだが、棚にたたきつけられた際に砕けた破片やらなにやらで酷く体を傷つけたようだ。あまり悠長にしていると手遅れになる、と判断し、アレックスはマイクと顔を見合わせて互いに頷いた。
「俺が突破する。兄弟は可能な限り速足でついてきてくれ」
「ああ、頼む。少佐、苦しいかもしれないですが頑張ってください」
「流石に苦しいが……無理をせずにいられる局面でないのは分かっている。こちらこそ頼む、出来るだけ足はひっぱらないよう努力する」
「いや、無理はやめといてくださいよ少佐。命に係わるんで」
「はは、気をつけるよ」
軽口に答える程度の元気はまだあるらしい。引きずるように足を動かすフォンブラウ少佐を担ぐようにして、アレックスは先行するマイクの後を追って執務室を出る。その前に最後に一瞬だけ、残していく死者に目を向ける。
ザラガ総司令。一兵卒に過ぎないアレックスを何かと目にかけてくれた。その意図が一体どこにあったかはわからないが、ミリシア達と出会い、様々な運命と邂逅できたのは間違いなく彼のおかげだ。兵士と上官とは関係なく、ただ一人の人間として、彼の魂の冥福を祈る。
「……さらばです。ザラガ総司令」
格納庫に向かう道は静かなものだった。怪物と接敵する事はなく、三人の足音だけが静まり返った司令部に響く。
一見順調なように見えるが、格納庫に近づくにつれアレックス達の顔色は険しくなっていく。
惨劇の跡とかした指令室の通路。そこに飛び散る血痕が、まるで彼らの先導をするように格納庫に向かって続いている。通路沿いの部屋を覗き込んでも無残に転がっていた死体はどこにもなく、何者かが引きずっていった血の跡が残されているだけだ。
どう考えてもよくない展開が待ち受けている。それを分かっていても、格納庫に向かう以外の選択肢はアレックス達にはないのだが。
「……一つ所感をいいか、兄弟」
「なんだ」
「いつから俺達ホラー映画のキャストになったんだろうな」
「知るかよ。てかホラー映画なんぞ見た事あるのかお前」
少なくともアレックスの故郷には映画なんていう娯楽はない。
「あ、いや。俺もないんだがこう一般常識でな」
「開拓惑星の住人に都市の一般常識あてはめんなよ」
「あー、悪い」
くだらないやり取りだったが、アレックスは心なしかリラックスできたように思った。マイクの本心は分からないが、とりあえず気遣いはできる奴らしい、と彼の評価を内心上方修正する。その言動が全て偽りだとしても、だ。
別に珍しい話じゃない。魂の奥まで完全に教化された人間性のかけらもない特殊工作員が、悪目立ちしないために特定の人格を演じるというのは。マイクの場合、選んだペルソナがこう、ちょっとアレな気がしないでもないが。
「少佐。まだ荒事が待っていると思いますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫とは言えないだろう。精々足手まといにならないように努力するさ」
答える少佐の顔色は先ほどよりかは幾分良い。止血アンプルなどが効果が出てきた様子だ。内臓破裂などしていれば流石に緊急キットでもどうしようもないが、そうではない様子に安心する。棚にたたきつけられた事で破片などが突き刺さり出血を強いられたものの、同時にそれがクッションになり内臓や骨への致命傷は避けられたといった所か。
ただ、戦力としては到底カウントできない。
覚悟を決めて格納庫に突入する。
司令部の格納庫は、巡洋艦の格納庫と違って広々としている。スペースが実際に広いのもあるが、何より特徴的なのは、半透明の窓が大きくとられ宇宙が良く見えるようになっている事だ。ドーム状の超硬アクリルがはめ込まれた格納庫の天井からは、星々の輝く宇宙空間が良く見えて、いっそ怖いぐらいに解放感がある。
司令部はただの軍事拠点ではなく、政治的な意味合いも兼ねているという事がよくわかる間取りだった。しかし普段はガヤガヤと騒音に満ちている格納庫も、今はすっかり静まり返っている。人のいない、鉄のような静寂だ。
果してそこに待ち受けていたのは……。
「うげっ」
「これはまた悪趣味な……」
格納庫にはいてまず最初に見えたのは、床の中央に堆く積み上げられた人の死骸だ。薪かなにかのように乱雑に積み上げられた肉塊からは今も血が染み出し、それを使って周囲に円陣のような模様が描かれていた。アレックスやマイクにその知識はないが、知っている者がみれば黒魔術の儀式のようだ、という印象を受けただろう。
その醜悪な供物の前に、ぼろぼろのローブ姿の何者かが立っていた。手には、先端に頭蓋骨がはめこまれた錫杖を持っている。レプリカやそういう飾りではなく、恐らく本当に人間のそれだ。
アレックス達の到着を悟ってか、鷹揚にローブ姿の怪人物が振り返る。
これまで遭遇してきた騎士と同じような全身甲冑に、鎧の上からローブを着込んでいる。兜の形状が他と違い、正面にYの字にスリットが刻み込まれ顔が覗くようになっていた。ただ、見えるはずの素顔は奇妙に闇に閉ざされていて確認できず、ただ爛々と赤く光る眼光が見て取れるだけだ。
頭目と思しき髑髏面ではないな、とアレックスは内心安堵した。ローブ姿にもしや、と思ったが恰好が違うし、放つオーラも違う。あの髑髏の頭目は相対しただけで震えが止まらなくなるような邪悪なオーラを放っていた。マイクがいくら強いと言ってもこの状況でアレが出てきたら到底勝ち目など微塵も存在しないので、それ自体は良いことだ。
問題は、それに劣るとはいえこの妖術師もまた尋常ではない雰囲気を放っている事だが。
『来たか。待ちかねていたぞ』
「……。お前が司令部襲撃の主犯という事でいいのか?」
『主犯。主犯か。……くくく』
小首をかしげておかしそうに笑う妖術師。
アレックスはいつでも撃てるように銃を構えながら相手の出方を窺う。
……まともな会話が通じるとは最初から思っていない。だが会話の流れ次第では隙を突ける可能性もある。あまり言葉というのをおざなりにするべきではない。
『貴様らは、この饗宴がここだけの催しだと思っているのか? 違うな。既に時は満ちた。死者の血は彼岸の川を満たし、怨恨の骨は橋を渡した。我らの宿願が叶う時が近づいている。これは、その前祝いに過ぎない。……そして貴様らこそが、この晩餐を彩るのだ!』
妖術師が高らかに杖を掲げ、何事か得体のしれない言葉をつぶやき始める。
不味い。判断を誤ったと言えよう。奴らにはそもそも会話をしているつもりなどなかったのだ。奴らがしゃべっているのは、相手のいる独り言に過ぎない。
好きなようにさせては何が起こるかわからない。
合図もなく、マイクとアレックスは火力を解き放った。大口径ライフルが唸りを上げ、プラズマガンが青白い輝きを放った。
妖術師は……抵抗も回避もせず、その攻撃をまともに受けた。
プラズマ弾が鎧の中央に風穴を開け、大口径ライフルの着弾が鎧を砕き、妖術師の肉体を欠損させる。明らかな致命傷。物理的にも行動は不可能、そのはずだった。
なのに妖術師の詠唱が止まらない。
砕けた兜の下で露になった口元が、血に塗れたままにやりと笑うのが見えた。
<戦場のひみつ:特異点を利用した人類のショックポイントドライブは、高次元を経由して長距離を一瞬で移動するものである。高次元への突入時、乗員の体感時間は無に等しいが、それは高次元において時間の在り方が根本的に違う為、人間の脳では時間の流れを認識できないから、と解釈されている。>