※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:異星生物艦は単艦での性能は人類軍のそれに劣っているとされ、実際にそうであるが、かといって戦力として弱い訳ではない。どちらかというと集団行動に合わせて特化した構造をしており、精密さや単体の火力よりも攻撃範囲や投射量を重視している。もし彼らが人類のように単一の意思によって統率された艦隊運動を行った場合、そのもたらす被害は今現在の比ではないだろう。>


第七十一話 亡霊の強襲

 

 

 

「一度皆情報を整理しようぜ。ていうか、なんか邪神の存在を前提に話してるけどおかしいって! フィクションじゃないんだぞ? 邪神とかありえないじゃんか。もっと現実的に物を考えようぜ。なあ」

 

「アレックス中尉。君の言いたい事は分かる。わかるが……現状は、あまりにも常識というものを置き去りにしている。君だってわかっているだろう? 司令部で堕ちた星見が変じた死体と鉄くずの化け物。あんなもの、我々の知る物理法則の元では存在しない。ならば認めるしかないだろう……」

 

「まあ、まあ。もとはと言えば、私が神だの邪神だの、という言葉を使ったのが悪いのですし……。適切な使い方ではありませんでしたね。単純に事実だけいえば、堕ちた星見の仕組んでいた策謀で宇宙規模の混乱が起きており、それに対応するには異星生物と協力して敵本拠地を叩く必要がある。今、認識しておくべきはこれだけでいいでしょう」

 

 シルバが簡潔にまとめてくれる。随分分かりやすくなった、と思うと同時に、最初からそういってくれれば……とアレックスは思わなくもなかった。勿論、そんな風にはしょってしまうと事態の深刻さが伝わらなかったかもしれないが……。

 

「しかし、どうする。異星生物と協働作戦を行うにも、協議が出来ていない。何より今の人類軍の混乱具合を見ると、そもそも必要な戦力が用意できるかわからないぞ」

 

「混乱が収まるのを待つ……ってのも下策な気がするぜ。時間をかければかけるほどやばい気がする」

 

 それについてはアレックスも同感だ。今現在宇宙規模で起きている混乱は大変なものだが、かといってこれで人類が絶滅に追い込まれるような事は、おそらくない。総司令部は失われたが、それでも防衛艦隊など大部隊が独自に動いて事態の収拾にあたっているはずだ。時間はかかるだろうが、ある程度治安を取り戻す事はできるだろう。

 

 つまり、今の状況そのものが目的ではない。堕ちた星見が全てを終わらせるつもりなら、この混乱に乗じて最後の一手を用意しているはずだ。

 

「……戦力の宛は、ある」

 

 一同の目が一斉にフォンブラウ少佐に向けられた。彼は傷の痛みにか荒い息を吐きながらも、すがるような視線を真正面から受け止めて見せた。

 

「少し時間が必要だし、そう多くは用意できないが、それでも今の状況でも招聘できる戦力のアテがある。そもそも私はそのつもりで、恥を忍んでここまで来た。それがなければ、ザラガ総司令に殉死すべき身だ」

 

「……少佐の貴方にそんな権限があるとは思えませんが」

 

「階級ではなく、個人的なツテがある。信じてもらえないかもしれないが……」

 

「いえ、いいでしょう。どの道、選択肢は他にはない。貴方のツテとやら、頼りにさせてもらいましょう」

 

 アリステラ司令官が頷き、アレックスらに視線をむける。

 

「それでよろしいかな」

 

「まあ、異論はないけど……」

 

「右に同じく。まあ俺達はもともと10人前後の少数部隊でいつも動いてるからな。逆さに振っても予備戦力なんてでてこねえ」

 

 マイクが苦笑するが、アレックスの第77独立遊撃隊も似たようなものなので何とも言えない。というか、このスクリームに部隊全員が乗り込んでいるかも実はまだ把握していない。緊急事態という事で取る物もとらずここに集められたので、軍服も血でガビガビのままなのだ。

 

 話がまとまったなら自分の部隊の把握をしたいところである。特にミリシアは、昏睡から目覚めたばかりだ。体調の方は大丈夫なのか気がかりである。

 

「よし。とりあえずの情報交換はこのぐらいにしておこう。状況は予断を許さずすぐに動く必要はあるが、その前に現状を個々でしっかり把握していなければ動きようがない。一度解散し、1時間後に再びここに集まる事とする。具体的な話はそこでしよう」

 

「了解しました」

 

 他の隊長クラスも異論はないらしい。

 

 とりあえず会議も一段落した。そう皆が思ったタイミングをつくように、ブリッジにアラームが鳴り響いた。

 

 アリステラ司令官が素早く反応する。

 

「どうした」

 

「本艦を取り囲むようにショックアウトの予兆を確認。複数の艦船が出現します」

 

「なんだと? ……識別は」

 

 ショックアウト、つまり特異点を用いた航法であるならば人類軍の艦艇であるはず。だが、今のこの状況においては、人類軍であっても味方とは限らない。何より作戦行動中は司令部にも所在を伝えず、高いステルス能力を持つアリステラの艦を狙って出現するなど、常識的に考えて不可能だ。

 

「敵艦、現実世界に出現しました。識別を確認……コードに認証あり。いや、これは……」

 

「どうした」

 

「登録はあるのですが……これは既に過去、撃沈されたと思われる艦艇のものです。MIA判定だったので登録が残っていたようですが……」

 

「……ゴーストシップか」

 

 噂話ではありふれた話だ。撃墜されたはずの戦艦が、乗務員の死体を乗せたまま宇宙を漂流しているなどという話は、実例を含めても枚挙に暇がない。

 

 だがこの幽霊船は、ただ漂流しているだけなら不可能な跳躍航法を行ってきた。ましてや、さきほどまで会議していた内容が内容だ。状況証拠だけで敵と断定するには事足りる。

 

「出現した艦艇を敵艦と認定。第一種戦闘配備!」

 

「了解、第一種戦闘配備を発令」

 

「敵艦から照準されています! レールキャノンの稼働を確認」

 

「回避に専念しろ。反撃は考えるな」

 

 ごう、とスクリームが加速し、会議に集まっていた面々は各々手近な突起に掴まって衝撃をやりすごした。慌ただしくなったブリッジ要員の邪魔をしないよう、頭を低くしてアレックスはマイクに声をかけた。

 

「なあ、これってやっぱり……」

 

「堕ちた星見の連中が、漂流していた難破船を確保して戦力化したか……あるいはマジモンの幽霊船かもな。言葉通り」

 

「化け物の次は幽霊ってか。勘弁してくれ。なんでこっちの居場所がわかったんだ? この船は高度なステルス能力を持っているはず」

 

「お化けだからな、そういう道理は通じないんじゃないかね」

 

 そんな会話をかわしていると、一際大きな衝撃と共に艦が揺れた。あちこちで配線がスパークして火花が散り、女性の悲鳴が聞こえた。とっさに部下達を庇うように手を広げる。

 

「左サブエンジンに被弾! 切り離します!」

 

「敵艦の照準、振り切れません!」

 

「デコイを出せるだけ出せ! ジャミングは?!」

 

「最大出力でやってます!」

 

 艦橋に怒号が響く。アリステラらしくない感情を剥き出しにしたそれは、事態がいかに不味いかを物語っている。

 

「まあ、ステルス中のこっちを見つけられるんだから、照準も正確か……」

 

「いや冷静に考えてる場合じゃないだろ。やばいぜ兄弟、このままだと皆まとめて宇宙の藻屑だ。せめて情報をどこかに送信ぐらいできないと無駄死にだぜ」

 

「だからって何かできる事あるか、俺達に。シルバ、通信とかこないだみたいになんとかできたりするか?」

 

「……ちょっと無理ですね。明らかに堕ちた星見達の力が大幅に増大しています。何らかのバックアップがあるならともかく、私一人では」

 

「だろうな。さて、どうしたもんかな……」

 

 この状況でじたばたしてもしょうがない。ぼうっとしているよりはマシ、と頭を捻るアレックスの腕を、誰かがちょいちょいと引いた。

 

 ミリシアだ。彼女は何か躊躇うような様子でアレックスと目を合わせる。

 

「どうした?」

 

「その……上手く言えないんですけど。その。……来た、って声が」

 

「?」

 

 来た、って誰が、どこに?

 

 答えはすぐに明らかになった。

 

「重力センサーに感! 局地的な重力変動……今度は異星生物のトンネルアウトの予兆! 出現まであと10秒!」

 

「なんだと!?」

 

「出現予測位置……本艦の前方です! 艦影、多数! 数えきれません!!」

 

 アレックスは顔を少し上げて、艦橋の窓から外を観察した。

 

 目に映るのは無限に広がる暗黒空間。闇の中にチカチカと瞬く星の光が、急にぐんにゃりと歪む。水に浮かべた絵具の膜をかき混ぜるようにして空間が捩じれ、臨界を越えた瞬間、光を放って元に戻る。元の底なしの闇に戻った宇宙空間に、さっきまで存在していなかった艦影が多数。

 

 異星生物の艦隊。軽く数えても20を超える灰色の生体艦が、スクリームの進路上に鎮座していた。

 

 こちらと距離を置いて包囲するように出現した幽霊艦隊はブリッジから目視できなかったが、こちらははっきりとその艦影が肉眼で確認できた。つまり、ほぼ真正面でかつ、そこまで遠くない位置に出現したことになる。

 

 数秒遅れてトンネルアウトに伴う重力震がスクリームの艦体を襲い、ぐらぐらとブリッジも揺れた。

 

「敵艦主砲に高エネルギー反応を確認……砲撃来ます!」

 

「総員、対ショック姿勢! 掴まれ!!」

 

 アリステラ司令官の警告が飛ぶ。

 

 だが、即座に反応できたのは数名だった。皆、ただでさえ危機的状況にあった中でのダメ押しに、希望と生きる意志を見失ってしまっていた。アリステラ隊員やレオニダスの兄弟のメンバーですらそうであり、無理もない、とアレックス自身諦め気味だった。

 

 確かに異星生物とは講和を進めていたが、まだ秘密裡の話だった。そもそも、末端には全く自我がないのが異星生物である。

 

 これで終わりか、という気持ちで茫然と攻撃態勢に入る異星生物艦を見やる。

 

 窓の向こうで生体プラズマ砲が青白く光っているのが分かる。いくら弾速が遅くてもこの距離、この速度での相対。数秒あれば灼熱のプラズマがスクリームの艦体に直撃し、粉微塵に粉砕するだろう。拡散するプラズマ砲が一斉に放たれ、見渡す限りの視界が青白い光に包まれた。

 

 あと3秒ぐらいの命か。

 

 アレックスは目算して目を瞑り、数秒を数えた。

 

「………?」

 

 だが、何ごとも起きる事なくその数秒は過ぎた。

 

 艦橋の窓を埋め尽くした青白い光はすぐに消え失せ、眼前には相変わらずこちらに向けて進行してくる異星生物艦の姿。こちらと直撃コースにあったそれらの艦体は、まるで道をゆずるかのように軌道を変更し左右に展開していく。異星生物艦の巨体がブリッジ一杯に迫り、相対速度差で認識できないほどの瞬く間に通り過ぎていった。

 

 困惑するような報告がブリッジに次々と上がる。

 

「い……異星生物艦隊の攻撃対象は我々ではありません! 6時方向の所属不明艦、プラズマ砲の直撃により轟沈! 続いて8時方向の所属不明艦、被弾により減速、包囲から脱落していきます!」

 

「異星生物艦隊がコースを変更……これは、我々の後方にて迎撃陣形……? 数隻がさらに進路変更、本艦と並んで同航するコースに侵入してきます!」

 

「なんだと……?」

 

 司令官のつぶやきはブリッジ全員の総意でもあった。

 

 ブリッジの窓から、スクリームに並走するように飛翔する異星生物艦が見えた。後方でUターンしてきたと思わしきそれらの艦はスクリームを守る様に周囲を固め、生体プラズマ砲で牽制射撃を行っている。

 

 たまらないのは襲撃してきた所属不明艦の方だ。単艦での性能は確かにこちらの方が上だが、異星生物艦の数が多すぎる。さらにそれらの艦は、まるで歴戦の艦隊司令に指揮されているかのように淀みなく有機的な動きを繰り返し、お手本のような機動による火力の集中から各個撃破を徹底している。その猛攻の前に、瞬く間に所属不明艦は数を減らしていく。

 

 まるで自分より大きな獲物を襲う猟犬の狩りだ。

 

「何が起きてる? 異星生物艦の動きじゃないぞ。こいつらこんな戦術行動が取れるなんて」

 

「いや……この動きを俺は知ってるぜ」

 

 マイクのつぶやきにブリッジ皆の視線が集まる。

 

「人類軍の防衛線が後退する時は、必ず妙な動きをする群れがあった。それを率いるのは、100年近い戦闘経験を持ち常に人類を脅かしてきた異星生物最強の存在。戦士としても強力だったが、そいつの真に恐ろしいのは司令官としての力だ。奴がいるだけで、周囲の異星生物はただの暴徒から訓練された精鋭に化ける」

 

「おい、それって……」

 

「ああ」

 

 マイクは先導するように飛翔する異星生物艦に目をむけて頷いた。

 

「LORD。あいつが生きてやがったんだ」

 

 

 

 

 

 

 異星生物艦隊が所属不明艦を退けるのに一時間もいらなかった。

 

 最後の所属不明艦の末路は哀れなものだった。多数の異星生物艦に囲まれ、四方八方からプラズマ砲を浴びせかけられ、高エネルギーの海の中で泡立つようにして分解されていく様は、敵ながら多少の憐れみを抱かない事もなかった。わずかな被害で敵勢力を殲滅した異星生物艦は、スクリームを取り囲むようにして展開、追従した。

 

 見ようによっては包囲殲滅の構えにも見える。先ほどまさにそうやって蒸発させられた敵艦の最後を思い返した何名かがごくりと唾を飲んだ。

 

 その中でアレックスは特に気にする様子もなく、アリステラ司令官に状況を確認した。

 

 やるつもりならとっくにやっている筈だ。彼はそのあたりの割り切りが聊か極端ともいえる。

 

「異星生物艦から何かしらのコンタクトはあるか?」

 

「コンタクトといわれても……向こうはこちらの無線周波数も知らないだろう? そもそも何をどうやってこちらと連絡を取るのだ?」

 

 いいながら、司令官の視線がミリシアに向く。彼も一連の流れの中、彼女は異星生物のメッセンジャーとして機能している事を把握していた。だが、彼女は首を横に振る。

 

「すいません。私に伝わってくるのはすごい漠然としたイメージみたいなものなので……」

 

「そうか」

 

「レーザー通信とか、光信号とか、そういうのはないのか?」

 

「レーザー? 何故そんな断定できる?」

 

「やつらはレーザー兵器を扱う。光の性質を利用できるほど把握しているなら、人類が短距離ではレーザー通信を多用している事も把握しているはずだ」

 

「ふむ。……通信手、どうだ?」

 

「今確認していますが……確かに、短距離レーザー通信みたいな発光信号が送られてきています。内容は聊か不明瞭ですが……」

 

「……こちらからも送り返せるか? せめて相対距離を合わせるだけの情報のやり取りが欲しい」

 

「やれと言われればやりますが、相対距離? どうするんです?」

 

「通話ができればよし。不可能なら直接あちらの艦に行って話をする」

 

 何を言ってるんだコイツ、という視線がアレックスに集中する。だが彼はそれを気にせず艦橋の窓の向こう、並列して飛翔する異星生物艦に目を向けた。

 

「所属不明艦を撃退しても撤退しないなら、俺達にも用事があるって事だろう。多分、通訳できる奴を連れてきているはずだ」

 

「アレックス中尉の言う通りにしてくれ。責任は私が、というより西方司令部がとる」

 

 フォンブラウ少佐が許可を出す。アリステラ司令官はしばし考え込むように少佐と睨み合っていたが、やがて肩を落とした。

 

「他に手はなさそうだな。わかった。通信手、何とか頼む」

 

「了解しました」

 

 そこから通信手の悪戦苦闘が始まった。門外漢のアレックスにはわからないが、光の点滅のみで異星生物とコンタクトを取るのは相当な苦行であったらしい。操舵手と協力し合ってなんとか異星生物と相対速度を合わせた頃には彼は完全に疲弊しきっており、「できたぁ!」と叫んだあとそのまま背後に転倒し、仲間に担架で医療室に運び込まれていった。

 

 アレックスはそっと彼に両手を合わせた。

 

「……それで、どうする? 異星生物艦に接舷したとして、誰が乗り込む?」

 

「というか……艦の内部は、人間が滞在できるような環境なのか?」

 

 アリステラ司令官の言葉に、一同が沈黙する。

 

 異星生物艦は、生体艦である。つまりナマモノである。その内部構造がどうなっているかはちょっとわからないにしても想像は容易い。少なくとも快適な空間ではあるまい。

 

「とりあえず言い出した奴は確定だな」

 

「う゛っ。……いや、まあ、そりゃそうだけどさ……」

 

「そう気を落とすなって、兄弟。しょうがないから俺達もついていくさ。なっ、お前ら」

 

「普通に嫌だが」

 

「えっ」

 

 つまりそういう事になった。

 

 

 

 ガンッ、と接舷ハッチの向こうで異星生物艦側の揚陸管が接続される。横の覗き窓から見てみると、異星生物艦からにゅるにゅると伸びた腸のような管が、スクリームの艦体にくっついているのが見て取れる。ただ、普段は固く閉じて艦の装甲を貫く超硬質の衝角は大きく開かれ、スクリームの艦体に傷をつけないように気が使われていた。

 

 普段は人類軍の艦艇に砲弾のように撃ち込まれ、内部を通して異星生物軍を送り込む揚陸管。それが今現在は、人類の貴賓を受け入れるための連絡通路として使われている。事情を知っているアリステラの隊員達も、その事実に困惑と興奮を隠せない。当然ながら艦に乗り込んでくる先兵級や猟兵級を迎撃した事はあっても、逆に乗り込んだ記録など人類軍の記録をどれだけ漁っても皆無だからだ。歴史的な瞬間と言えよう。

 

 ただ、今からそれに乗り込む事になるアレックスとマイクは大分げんなりとしていた。見ただけでも揚陸管はぬるぬるの粘液に覆われており、その内部がどうなっているかなんて考えるまでもないからだ。

 

 ちなみに流石にアレックスも今ばかりは頼み込んでアリステラの装備を借り受けている。全身を覆う防護服にガスマスク。背中には照明を兼ねたカメラが取り付けられている。これでスクリーム側に残った人間も一応異星生物とのコンタクトに参加できるわけだ。それだったらついてこいよ、と憤懣やるかたないアレックスだったが、立場と同調圧力には勝てなかった。

 

 まあ、マイクも割と似たような感じだったが。

 

「俺達のパワードスーツ、強酸や爪に耐える為であって、ぬるぬる内臓旅行の為にあるんじゃないんだけどなあ……」

 

「もうしょうがないぜ兄弟。ようは気の持ちようだ、異星生物艦に貴賓として呼ばれるなんてあとにも先にも俺達だけだぜ。オンリーワンだ」

 

「思うんだけどさ、意外とアンタいつもやけっぱちになってないか兄弟?」

 

 ズシュン、と重たい音を立ててハッチが開閉される。いくつもの隔壁が順々に解放されて、接舷ハッチが完全に開いた。通常であれば、相手側の通路の灯が差し込んでくるのだが、今回は違う。ハッチの向こうに広がっているのは赤黒いぬめぬめとした内臓のような空間であり、そこには一切の明かりが無い。ぽとぽとと粘液が雨漏れのように滴ってるのを見て、アレックスが心底嫌そうに呻いた。

 

「やだもうお家帰る……」

 

「残念ながら俺らに帰る家はないだろ。ほら、覚悟決めていくぞ」

 

 マイクに背中を小突かれて、アレックスは嫌々通路に踏み出した。ぬめっとした粘液に覆われた揚陸管内部に足をつける。

 

「ん……意外としっかりしてるな。あとべとべとしてるかと思ったらそうでもないな……」

 

「めっちゃ滑るって事もないな。見た目より安定してるし」

 

 意外となんともないぜ、という体の二人だが、あきらかに口数が増えている。通路を進んでいくうちに、やがて今度は逆にどんどん口数が減っていくあたり、彼らの内心は分かりやすい。

 

 照明がないので、アレックスの背負ったライトとマイクのパワードスーツのサーチライトが行く先を照らす。その光が、やがて行き止まりを指し示した。肉がぎゅっと口をつむいだようなそれが、恐らく異星生物艦内への扉なのだろう。

 

 二人が見ている前で、ゆっくりとハッチが解放される。

 

 向こう側から光が差し込んできていて、怪訝に思いながらもアレックスは肉の扉をかがんで潜った。

 

「……おぉ。これは、意外……」

 

 ハッチを越えたアレックスの目の前に広がっていたのは、緑色の草原だった。

 

 ドーム状の空間に、びっしりと生い茂った緑色の繊毛が、そよそよと揺れている。空中には光を放つ羽虫のようなものが無数に飛び交っており、それが空間を明るく照らしている。

 

 足元に屈みこんで無数の繊毛を確認したアレックスは、それが惑星リヴァイアサンにびっしりと生い茂っていたそれと同じものである事に気が付いた。繊毛ではなく、本当にコケか何かの類であるらしい。異星生物にとってこれは何か環境維持のために重要な存在なのだろう。

 

「こいつは意外だったな。てっきり内臓ぬらぬらの目に悪い空間が広がっていると思ったんだが」

 

「いや、考えてみればそうおかしな話ではないかもしれない。異星生物達は自分自身の現実における戦力を完全にコントロールしている訳じゃない。狭い肉壺に押し込められたら、ストレスやら何やらでまいっちまうだろう。異星生物はあくまで本体に生態系を利用されているのであって、生物兵器じゃない」

 

「なるほどねえ。リヴァイアサンもそうだったが、このコケみたいなのが異星生物にとって過ごしやすい環境なのかね」

 

「魚を飼う時の水草みたいなものなのかもな」

 

 二人して感想を言い合っていると、壁面がごぽごぽと脈打つのを感じた。

 

 思わず身構える二人の前で、壁の一部がうにょん、と穴を開き、その中から3mを越えるトゲトゲとした巨躯がぬるりと姿を顕した。

 

 二対の目に複数の腕、昆虫のような角や甲殻をもつ二足歩行の怪生物。

 

 LORDだ。

 

 その目に宿る明確な知性の輝きを見て取り、アレックスは間違いないと判断した。やはり、見た目が似ているだけの量産型達とは明らかに立ち振る舞いが違う。

 

 しかし、あのブラックホール爆発から本当に生き残っていたとは。あるいは、LORDを引き継いだ別個体なのか。

 

 ずんずんと歩いてきたLORDは、二人から10mほど距離を置いて歩みを止めた。武器を使うのが特徴の異星生物は、しかし今は無手だ。勿論その鉤爪だけでもアレックス達を引き裂くのはたやすい事だろうが、それでも最低限、交渉の意思を伝えてくるには十分だ。

 

『GRGGGG』

 

 喉の奥で唸り声をあげるLORD。そこにきて、はたとアレックスはこれからどうしたらいいのか、という事に思い当たった。

 

 てっきり共通体も一緒に出てくるかと思ったのだ。しかし出てきたのは言葉を話せないLORDのみ。これでは意思の疎通もままならないが。

 

 様子をうかがっていると、LORDの視線が、アレックスとマイクの間で往復し、最終的にアレックスに向けられた。正確には、肩に背負った照明兼カメラに向けられている、と彼は気づいた。

 

 じっとカメラを見つめているLORD。その目が、突然高速で発光し、点滅を繰り返した。

 

 まるで死にかけのステータスランプのように高速で点滅するそれに、アレックスは困惑した。なんだ? 何をしようとしている?

 

『中尉。動くな……いや、カメラにもっとLORDの目が映るようにしてくれ』

 

「え?」

 

『光信号だ。人類のそれに合わせているらしい、こっちで解析する』

 

 ぎょっとするアレックス。

 

 もしかして艦の相対速度を合わせた時のやり取りで解析したのか? あるいは長年人類と交戦するうちに理解したのか。共通体の念話よりよっぽど汎用性があるが、なるほど、異星生物がこちらの言語を理解していると判明したら根本的に人類側は戦略を見直す必要が出てくる。間違いなく異星生物にとって機密情報であり、それを隠さず用いてきた事が事態の緊急性を物語っている。

 

 というかこっちの通信とか作戦とか基本モロバレだったのなら、そりゃあLORDを誰も止められない訳である。異星生物の本体がどうこうとか以前に、もっと根本的な処で人類はアドバンテージを失っていたようだ。

 

『解析した内容を伝える。……やはり、異星生物側は堕ちた星見の本格的な蜂起を予測して人類側に共闘をもちかけたようだ。だが、彼らの想定よりも堕ちた星見が行動を起こすのが早かった……いや、異星生物の動きを察知して計画を速めたのか? 異星生物の観測によると、狂信者達はこれまで蓄積した膨大なリソースを用いて、高次元の存在を直接現実世界に顕現させようとしているらしい』

 

「……それが実現したらどうなるんです?」

 

『人類の知見では想像もできんな。異星生物達の見解だと、宇宙の物理法則に影響を及ぼすほどの大災害になるそうだ。確実に人類も異星生物もまとめて壊滅する事になる』

 

「いやいやいや、そんな事して堕ちた星見に何の得があんだよ!? 自分達も死ぬだろそれ!?」

 

 マイクが思わず、といった体で口をはさんでくるが、アレックスは頭を抱えながら指摘した。

 

「狂信者ってそういうもんだろ。総司令部で対面したアレ、自分の命を惜しんでるように見えたか?」

 

「……見えなかったな。くそ、世を儚んでの自殺なら誰にも迷惑をかけずに一人でやってくれよ」

 

 それに関してはアレックスも全くの同感である。

 

『話をつづけるぞ。連中が計画を行っている拠点は異星生物も把握しているようだ。だが、そこにまとまった戦力を投入できないのが問題になってこれまで手を出せなかったようだ』

 

「え、戦力なんかそれこそ有り余ってるんじゃ」

 

『どうやらその拠点の近くでは異星生物本体の力より、狂信者どもの崇める神の力の方が強くなるらしくてな。投入した異星生物群は制御を外れてただの野生生物に戻ってしまうどころか、連中の影響を受けて敵に回るらしい。異星生物の戦力で制御を失わずに済むのは、独立した自我を備えたエージェントとその影響に置かれたごく少数に限るようだ』

 

「ああ、それで人類の戦力が欲しかったのか。でも、大丈夫なんです? その人類側もおかしな事になってるようですけど、現状」

 

『本能しかない異星生物よりはマシ、という事だな。そのあたりの事情を理解した上で強い精神力で正気を維持すればなんとか、といったところか。現状の大混乱は、そうと知らずにいきなり種も仕掛けもない衝撃映像をぶち込まれたようなものだからな、実際アリステラ部隊にはその手の発狂者や変異した人間は一人もいない』

 

「まあ、連中常日頃から怪奇現象と同居してるしな……」

 

 アレックスはスクリームに今も潜むであろう小鬼どもの事を思い返す。

 

『? 何の事かわからんが……なんだ、司令。ささいな事? 気にすることはない? まあそう言われるならここは流すが……まあ、LORDが送ってきた情報はこのあたりだな。後はあちらの希望する作戦日程時刻についてだ。ん……』

 

「大丈夫そうです? さっきいってた戦力の兼ね合いとか」

 

『いや……なんとかする。異星生物側の認識では、人類揃って共倒れするまでの時間的猶予はあまりない。一刻も早く対応に動かなければならない状況で、急ぐのはこちらのほうだ』

 

「異星生物側にあわせるって事です? ……その、それは……」

 

 作戦に投入する人員の反発とか大丈夫なんですか、と尋ねようとして、アレックスは口を紡いだ。

 

 ただ彼の言わんとする事はフォンブラウ少佐もわかっているようで、苦笑交じりの言葉が返ってくる。

 

『言いたい事はわかる。が、こればっかりはもうしょうがないな。残念ながら事態は一分一秒を争う。後で問題になるかもしれないがこっち側のエゴを貫いている場合ではないよ。まあ心配するな、そのあたりの融通がきかない奴らに声をかけるつもりはない』

 

 それならアレックスとてこれ以上何かを言うつもりは無い。

 

 と、そこでこちらが情報の確認が終わったのを認めてか、LORDは光通信を終了した。唸り声を上げながら屈みこんでいた体を起こす。アレックスと彼では相当な体格差がある、いささか窮屈だったろう。

 

『ありがとう、中尉。必要な情報は取得できた、戻ってきてくれ』

 

「了解しました。……あー、うー、その、なんだ。お前もありがとな」

 

 ためらった揚げ句、アレックスはLORDにも声をかけた。

 

「共通体の奴によろしく。あんなんでも半分ぐらいは俺の娘? 息子? らしいし。雑な扱いするなよ」

 

『GRR』

 

「兄弟、なんていうか……お前ほんっと器デカいな」

 

「うるさいわい、ほっとけ」

 

「いや揶揄ってるとかじゃなくて本気の話な? 心から尊敬するぜ、いやホント。大物だわアンタ」

 

 日ごろから殺し合っていた相手に立場が変わったら即挨拶がかわせるというのはまあ政治家の仕事である。流石惑星総督の後継者、切り替えが早いわとマイクは感心しているがそれはイマイチアレックスに伝わっていないようだった。

 

「と、話がすんだらさっさと帰るか。遊んでる暇はないようだし」

 

「賛成だな」

 

 またねー、とLORDに手を振り、アレックスとマイクはつれたって揚陸管に再び乗り込んだ。行きと違って帰りは慣れたもの、さくさく歩みを進めて人類軍側のハッチまで戻ってくる。

 

 閉じたままのハッチをコンコンとノックする。反応が遅れてハッチが開く様に、異星生物側がドアをフルオープンだったのを思い返してアレックスは苦笑いした。どうも人間というのは狡賢いというか、自分側の理屈でしか考えられない人間なのだな、と自分自身もそうである事を含めて再確認する。まあ、それが悪いという事もないのだろうが。

 

「少佐、アレックス・ウィンザード中尉及びマイク……隊員帰還しました」

 

「うむ。ご苦労」

 

「……そういや階級いってなかったな。めんご」

 

「まあ、うん。今更だからな……」

 

 敷居をまたいで艦内に戻る。と、そこで突然、艦内で待っていた皆が一斉に一歩後ろに引いた。突然距離を置かれて困惑するアレックスとマイク。

 

「え、何?」

 

「なんだよ、何か俺達についてるってか? 粘液がちょっとついてるぐらいは勘弁してくれよ」

 

「そ、そうじゃなくて、う、うし、後ろ……! 後ろ!!」

 

「後ろぉ?」

 

 言われてのったりと振り返る二人。果たしてそこには……。

 

『GYA』

 

 LORDが居た。

 







<戦場のひみつ:人類が宇宙に進出するにあたって、もし他の知的生命体と遭遇した場合どう対処すればいいのか……当然、そういった事についても法律が定められている。もはや1000年以上昔の化石のような法律ではあるが、そもそも知的生命体と遭遇する事がなかったため変更される事もなくそれは今現在も有効である。当時の人は大まじめに定めたのだろうが、現在の人類はこの法律の事をなんかのジョークだと思っている。>






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