未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
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LORD。異星生物最強の大将軍。どうやったのか死を逃れ、健在な姿を見せるその存在は、平時であれば人類軍にとって絶望の象徴であった。
だが今は3mを越える巨体を揚陸管の中で狭苦しそうに屈みこんでそこにいる。まるで「早く入れてくれよぉ」と言いたげに、大人しく順番待ちをしているのはなんというか、ひどくシュールな光景だった。恐竜がお手をするとか、人食いサメがボール芸をするとか、そういう感じだろうか。
「……………………」
流石のアレックスも数秒沈黙する。そして数秒考え込んで、彼はうむ、と頷いた。
「少佐ー。こういう場合、どうするんでしたっけ? LORDの奴が泊まれるような部屋あります?」
人間が使者を送ったんだし、あちらも使者を送ってくるわな。アレックスは納得した。少佐が耐えきれず突っ込みを入れる。
「そういう問題じゃないだろぉ!?」
「これは……いわゆる全権大使、という奴になる、のか……? 確か宇宙国際法でも大使の扱いは厳しく定められていたと思うが……」
「艦長、正気に……いや正気ですよねすいません……え、どうすればいいんですこれ?」
混乱する士官達。居合わせたアリステラ達も、レーザーライフルを反射的に抜いたものの撃っていいのか判断しかねて困惑している。冷静なのはレオニダスの兄弟達ぐらいだが、彼らはマイクにどうやら判断を全投げするつもりのようだ。じっと見つめてくる部下達の視線に、マイクはあきれ返りながら首を横に振った。
人間達の混沌をよそにLORDはのっそりとゲートをくぐると軽く伸びをして手足を伸ばし、そのままハッチの横で小さくなった。まるで「お話が済むまで待っています」といわんばかりの態度である。少なくとも暴れるつもりは微塵もなさそうだ。
困惑する人類側だが、幸いにして反発や過剰な警戒心を抱いた者はいないようだった。彼ら彼女らからすれば異星生物は言葉も通じず襲い掛かってくる理不尽な怪物であり、言語をしゃべらないものの意思疎通が可能でありかつ社会的な“気遣い”ができるその態度が、異星生物への敵意と結びつかなかったのかもしれない。
いや、あるいは直接言葉が通じないからこそだったかもしれない。同じ人類であった場合、やむを得ない事情があったとしても昨日まで殺し合い、今も大局的には戦争中の相手と突然仲良くする、というのは難しいだろう。どれだけ堪えても皮肉や怒りが言葉になって漏れ出てしまうはずだ。
そういう意味では、第77独立遊撃隊、その中でも古参メンバーが真っ先に警戒を解いたのは自然な流れだったかもしれない。彼らは大義ではなく、あくまで生き残る為に戦っている。個人的な怨恨も、敬愛する部隊長の元で戦うために捨ててきた。異星生物と今は仲良くするのがこの先生き残るのに必要ならそれに従うまでというある種すがすがしいまでの割り切りで、正直居合わせていた他の部隊の指揮官がちょっと困惑するまであった。
「…………ごくり」
「あ、ちょ、イオリ、どうする気よ?!」
「いや、なんか、友好的みたいだしハンドシェイクでも……あ、ども。……ほわー。ほんのりあったかい……」
大混乱に陥る人類首脳部をよそに、窓の外では異星生物艦が揚陸管を切り離し、艦から距離をとっていくのがみえた。まだほかにもエージェント個体が残っているのか、残存異星生物艦は統率された動きで整列し、一斉に速度を上げて飛び去って行った。宇宙の向こうで彼らが重力トンネルに入ったエフェクトがちらりと輝き、それきりレーダーからも消失する。
そうして二度目の人類と異星生物のコンタクトは、大きな進歩と局地的な混乱を齎して終わったのだった。
「誰だよ異星生物に知性がないって言いだした奴……めっちゃフレンドリーなんですけど。サインの概念通じるかな……」
「いや流石に緩みすぎだから。まだ人類、異星生物とバリバリ戦争中だからね? はいしゃっきりする!」
『GAO』
混乱から司令部が立ち直ったあと、LORDを交えての今後の展開についての会議が行われた。皆、チラチラとLORDに視線を向けつつ落ち着かない感じではあったが、とりあえずの予定は確定した。
フォンブラウ少佐が己のツテで増援を要請しても、結果が出るまで最速で三日かかる。その間は敵拠点に近い宙域に移動しつつ、異星生物軍との連携訓練に励むことになる。
そういう意味でも、LORDが乗艦してきたのは非常にありがたい話でもあった。少なくとも彼と連携が成立すれば、異星生物を作戦に組み込む事は理論上可能な話になる。出来れば事前に一言ぐらいあってもよかったんだけどな、とドッキリを食らった司令官達は思っていたが口には出さなかった。
そしてスクリームは単艦で活動する特務艦である。故に、艦内には当然、訓練のためのシミュレータールームがある。いつ増援と合流し作戦が始まっても良いように、実働部隊はさっそく訓練を開始した。休む暇などない。それだけ事態は逼迫しているのだから。
シミュレーターは立体映像を利用した本物の戦場さながらの臨場感を体感できる。世が世なら平和な事に使われていたであろう技術も、今現在ではごく一部の精鋭部隊にしか解放されていない。
設定次第ではいかなる状況も再現できるこの設備は、今回の作戦内容について考えればうってつけだからだ。なにせ、想定される敵戦力は、人類が未だかつて遭遇した事のない混成部隊になるであろうからだ。
今現在の設定区域は、冷えた溶岩地帯のような岩肌剥き出しの荒れ地。まだ風化していない岩石の凹凸は荒い粒子が表面に目立ち、素肌で触れれば怪我をする。一見すると滑りにくく移動しやすい地形に見えるが、岩は脆く崩れやすい上に凹凸が多く、ただ移動するだけでも体力を使う上に油断すれば転倒の危険性もある。
そんな人に不利な環境を、アレックス達独立遊撃隊は隊列を維持したまま前進していた。レンジャー技能に優れるアレックスが先導してルートを決定し、部下達がそれに続く。不規則に波打つような地形に的確に身を隠しながら淀みなく侵攻ルートを決定するには、ただ実戦経験があるだけでなく理論も抑えていなければならない。
2m近くある大岩の麓で、アレックスは足を止めた。この先は、身を隠すような場所がなく、短い距離とはいえ敵の視界に身を晒す恐れがある。隠密行動はここまでと判断して、後続が追いついてくるのを警戒しながら待機する。
ぱら、と小石が散る音がした。
はっとして岩の上を振り仰ぐアレックス。逆光の影の中で、動く影を見咎めた彼はすぐさまその場を離れた。
一瞬遅れて、アレックスが立っていた場所に覆いかぶさるように先兵級が飛び降りてくる。その無防備な姿にレーザーを撃ち込もうとしたアレックスだったが、訝し気に動きを止めて周囲を確認した。
その目に、横合いから強襲してきた騎士の姿が映る。死角から振るわれる錆びついた剣の一撃を転がって回避しつつ、ピンを抜いた手榴弾をその足元に転がす。爆発の衝撃で後退する騎士にレーザーを撃ち返しつつ、味方の侵攻ルートに後退する。
気が付けば周囲にわらわらと先兵級の姿が湧き出してきているところだった。そしてそれらに目を取られると死角になる場所に、騎士が身を潜めている。消耗しても惜しくない異星生物を全面に押し出し、気を取られた所で騎士が襲ってくる……そういうシチュエーションを想定しているようだ。
後退するアレックスを援護するようにレーザー照射される。それらは騎士に対しては殆ど効果が見込めないが、波のように押し寄せる先兵級には十分な効果を発揮した。味方が即席の塹壕にしている段差を確認したアレックスは飛び込むようにしてそこに身を寄せた。すぐさま副官のミリシアが声をかけてくる。
「周辺を囲まれています。どうしますか」
「作戦通りだ。海兵隊!」
「あいよー!」
元気な声を上げて海兵隊が荷物を展開する。パワードスーツをリヴァイアサンに置いてきてしまった彼女らは、装備の補給もままならずいまだ生身のままだ。だが、海兵隊が装備が足りない程度で弱音を吐くはずもなく、むしろそういった状況でこそ奮戦するのが彼女らだ。
4人で分割して背負っていた荷物が戦場にててきぱきと組み上げられる。10秒も経てば、一つの機関銃が組み上げられていた。本来パワードスーツで運用するそれに三脚をつけて運搬可能な小隊支援火器として運用するのは元々海兵隊の戦術ドクトリンに存在している。
三脚を起こして段差から機関銃が顔を出す。直後、重々しい唸り声をあげて機関銃の弾幕が迫りくる異星生物に降り注いだ。もともと大した防御力はない先兵級は掃射によってはじけ飛び、青白い肉片へと変えられている
その中を、騎士が猛然と突進してくる。不可視の防御壁で機関銃を跳ね返しながらの突進を止める手段はアレックス達にはない。なんだかんだで対処法があるとはいえ、適切に対応しなければ騎士達の防壁は依然として脅威だった。
予定通りだ。
騎士には適切な相手をぶつけるまでである。アレックスの指示で機関銃が停止し、それに合わせたように一つの影が彼らの頭上を待った。
突撃してきた騎士がそれに気が付き頭上を見上げる。直後振り下ろされた刃を、錆びついた剣で防御する。体格差のある一撃に剣を弾かれバランスを崩した所で、ほとんど同時に繰り出された二刀がその体を串刺しにした。
『GRRR』
LORDの乱入である。アレックス達の仕事は彼が騎士対策に集中できるよう、取り巻きの排除にあった。そしてその肩には、黒いドレスを靡かせた魔女の姿がある。
銀色の雷が迸り、騎士達を打った。魔女の放った雷撃を受けた騎士は、膝をついて頽れる。親玉である髑髏面ならともかく、配下にすぎない騎士相手ならシルバの力は防壁をたやすく突き破る。
さらにLORDが雄たけびを上げ、青白い光を甲殻の隙間から輝かせる。直後、咆哮と共に噴き出した青白い奔流が、騎士数体を巻き込んで溶解させた。
一瞬にして形勢が逆転する。
と、そこで不自然に景色が明滅した。映し出される光景が乱れ、目に悪いノイズが混じる。
直後、隆起した岩肌が広がっていた光景は一点、無機質な蛍光緑一色で染められたアスレチック施設に変貌した。床は無数の細かい切れ目が入っており、それがブロックとして上下する事で複雑な地形を再現している。またあちこちに、仮想敵の実体を務めていた模擬標的ドローンが、風穴があいたり超常的な力で融解した状態で転がっていた。
ぎこちない動きで隆起が下がっていき、床が平面を戻っていくのを確認しながら、アレックスは顔に被っていたVRバイザーを取り外した。
「どうした?」
『申し訳ありません、異星生物由来のその……念動力? 超能力? とにかく高次元干渉波が機材に悪影響を与えたみたいです。星見の方のそれは十分にデータが存在したのですが、異星生物のソレはちょっと対策が不足していたようで……』
『GRRu……』
「あー。そうか、なんとかなりそうか?」
『しばしお時間をいただければ。対策自体は可能です、というより作戦に持ち込む機材に対策しておかないと駄目ですねこれは。訓練で発覚してよかった』
「まあな、問題点を洗い出すための訓練でもあるからな。まあ、だからそこのデカイの、あんましょぼくれるな。失敗も訓練の内だ」
『RGRGR……』
心なしか肩を落としているように見えるデカブツの背をぱんぱん叩くアレックス。反応は鈍いが、尻尾の先が落ち着かなさそうにぷるぷると揺れている。あれはどういう感情の発露なんだろうな、とアレックスは首を傾げた。
とりあえずは訓練は中止だ。解散、かいさーんとダラダラ歩いていく部下達に目を向ける。その中、こちらに背を向けるミリシアの姿に目を止める。
一見、なんという事はない。露骨に距離を取られている訳でもない。だがこれまでの関係を考えると、悪い意味で意識されているのは明白だった。隙さえあれば抱き着いてきた相手が、常に適切な距離を取る様になったら流石に露骨というものである。
「こっちも解決しておかないとな……」
作戦を前に、心残りは出来るだけ解消しておきたかった。
「ミリシア」
訓練終了後、ダラダラと皆が与えられた部隊区画に戻る帰り道、アレックスは彼女に声をかけた。
一人足早に道を急ぐ彼女の足が、ぴたりと止まる。だが、振り向いてはくれない。
「少し話がしたい。あとで俺の部屋に来てくれないか?」
「……それは、部隊長としてのご命令ですか?」
らしくもなく、硬い返事が返ってくる。その様子に、やはり、とアレックスは唇をかんだ。
周囲で様子を見守っていた部下達も困惑する。だが一人察しているらしいニーナが彼女らを引っ張り、その場を去る。皆が行こうとするのを見て自分もついていこうとするミリシアに、再度、声をかける。
「ミリシア」
「…………っ」
呼びかけられて足を止めてしまうミリシア。機を逸した彼女を置いて、皆はそのまま歩み去ってしまう。後には、ミリシアとアレックスだけが残された。
「……ミリシア。確かに部隊として、軍人としてけじめは必要だが。……そんな事、言わなきゃわからないほど浅い間柄でもないだろう、俺達」
「……」
「それとも、俺にいい加減愛想が尽きたか?」
「そんな訳ないです」
「だったら、何でだ?」
本当は部屋でしっかりと話がしたかったが、ニーナが作ってくれた機会をアレックスはちゃんと使わせてもらう事にした。ここで、今、問い詰めなければミリシアは本音を話してくれないだろうと感じた。
部屋に呼びなおす間に、きっと理論武装を整えられてしまう。不意打ち気味の今だからこそ、彼女の柔らかい所に言葉が届く猶予がある、と。
別に、ミリシアがアレックスに冷たくしてくる訳ではない。愛想が尽きたなどと、そういう事はないだろう。だが、明らかに距離を置かれている。前は過剰なぐらいべたべたと触れてきたのに、今はアレックスが手を伸ばさない限り、触れようとはしてこない。
例外は、ただ一度。救援に来てくれた時、感極まった彼女が胸に飛び込んできたときだけ。あの時はまさに思わず、といった体だったが、それ以降、自分を制御できる範疇においては、ミリシアは節度を守った、言い換えれば距離を置いた態度を貫いている。
流石に気になった。
理由も大体、分かってはいる。
「……隊長が、そういうの、気にしないのは分かってます。ニーナを見てれば、わかります」
「ん」
「でも、“私が嫌”なんです」
そういって、背を向けたままミリシアは自分の躰をかき抱いた。
「異星生物に汚された私の躰に、これ以上隊長に触れてほしくない……」
「俺はそう思わない」
「だから、言ってるじゃないですか。私が、嫌、なんです……」
ミリシアは頑なに顔をこちらから隠そうとしている。だから今、彼女がどんな顔をしているのかは分からないが、しかしそれが予想できない訳ではない。
震える声で、ミリシアは氾濫しそうな感情をギリギリで抑え込んでいるようだった。
「ほんの少し、覚えているんです。私の体の中に入ってくる、人間じゃない存在の感触。なんとなく事情があったんだろうな、とは、異星生物だってそういうつもりでやったんじゃない、ってのもわかってるんです。なんとなく。私とあの子はどこかでまだ繋がっているから、彼らが私に対して悪い事をした、というのを理解しているのも、感じます」
「共通体か」
意識を取り戻してから、ミリシアがずっとそんな感じの事を言っていたのには、概ね理屈がついている。双子のシンパシーとやらではないが、親と子、それも特殊な生まれをしたのであれば、何かしらの繋がりがあってもおかしくはないだろう。
異星生物が我が子を素材に共通体を作り出した事については、アレックスとてある程度の割り切りはできている。そもそも、本来は堕胎させる、させざるを得なかった子なのだ。それがどんな形であれ、命を繋いだことを悪く思うはずはない。それに、いくら排卵誘発剤で生理を復活させたとはいえ、もともと長期にわたってピルを呑み続けていたミリシアの躰が、本当に子を最後まで育めたか、というのは非常に怪しい所がある。
彼ら自身不本意な結果であった事をにおわせても居た。おおむね、流産か何かで命があやうくなり、彼らなりに命を繋ぐために手を尽くした結果だったのだろう。本来は人類軍に処理されないよう、自分達の所で赤子を確保した上で母子ともども健康に出産させた上で、今後の交渉などを行うつもりだったのだろう、というのはそう外れてはいない意見のはずだ。実際にシルバやフォンブラウ少佐とも意見のすり合わせを行い、客観性の確認もしている。
そして共通体の存在を認める以上、それと繋がりが残っているミリシアに関しても、少なくともこの艦に乗っているメンツにおいてはどうこうするつもりもない。むしろ窮地を二度も救うきっかけになった思しきその繋がりを、今更断とうとは思わない。
だがミリシア本人の考えは違うようだ。
有用なのはわかっている。
否定するべき事でもないのもわかっている。
だが、異星生物の混じった自分は、アレックスの恋人に相応しくはない……少なくとも、自分から求めてはいけない、そういう否定的な感情が彼女を支配している。
多分、理屈ではないのだ。自分が純粋ではなくなった、綺麗な存在ではなくなってしまった……そういう諦念だ。もともとミリシアにはそういう気があった。他の部下達と関係を持つのを嫌がるどころか推奨すらしていたのは、そもそも自分が清い体ではなかったから、という負い目があったから、というのも、アレックスはちゃんとわかっていた。
その上で、気にしなくていいよ、と接してきたつもりだったのだが。
小さくアレックスはため息をついた。それを聞いて、びくり、とミリシアの肩が小さく跳ねる。
「全く……」
足音を消さずに歩み寄って、背後から彼女を抱きしめる。ミリシアは逃げたり拒絶はしなかった。ただ、成されるがままにしている。
「まあ。自分の意思や意見をちゃんと発露する、ってのは大事だし。身を引く、というのもそりゃあ、選択肢としては許されるべきだろう。俺がどう思うかは別として、ミリシアにはミリシアの意思がある訳だからな。それは仕方ない」
「……ごめん、なさい」
「うん。だからそれを踏まえた上で言うけど……ごめんな」
「え? あっ」
強引にミリシアを振り向かせて、唇を奪う。そのまま、通路の壁に身動きが取れないよう、手首をつかんで抑え込む。彼女の股の間に足を割り入れて、完全に動きを封じる。
「んっ、あ……ん………」
少し抵抗するそぶりを見せるミリシアだったが、唇を重ね、舌を絡めて深いキスに移行するにつれて、目をとろんとさせて無抵抗になる。しばらくの交合を楽しんで口を話すと、銀の橋が互いの間につう……と糸を引いた。それがぷつりと切れるのを、ミリシアの緑の瞳がぼうっと見つめている。
想像以上によわよわでおもわずアレックスは苦笑した。そもそも本心からアレックスに触れたくないのなら、呼び止められても無視するべきだったのだ。そしたらアレックスとしても隊長としての立場を使わざるを得ないし、そうすればミリシアだって自分に言い訳がついただろうに。
ただのアレックスとミリシア、男と女として触れ合っただけで、もうこれだ。
「お前な。強引に迫られて秒で陥落するとか、もうちょっと拒絶のポーズだけでも頑張れよ」
「うっ……」
「口ではなんだかんだいっていつでも受け入れ態勢じゃないか。それで本当に俺から距離を置き続けるつもりだったのか? 耐えられる?」
「が、頑張るつもりだったんです……」
自分でも自覚はあったのだろう。目を逸らして否定するミリシアだったが、勢いがない。
「まあ、いいけどな。ミリシアがどう思ってたって、俺は絶対、お前を離さない。それがミリシアの自由意思を束縛する事だったとしても、手放すつもりはないし、自由になんてさせてやらない」
「た、たいちょ……」
「お前は、俺のものだ」
これまでベッドの上で独占欲を向けた事はある。だがこうして普段、恋人として触れ合ったときにこうした欲望を……独占というよりは所有欲を向けた事は今までなかった。あくまで恋人として対等の関係である、というのがアレックスの方針だったからだ。
だけど。ミリシアの方から距離を置こうというのなら。
ギラギラと欲望に満ちた視線を向けられて、ミリシアはごくりと唾を飲んだ。ふるり、と足がふるえる。
「今更、俺の元から離れるなんて許さない。なんで俺が危険を冒して、部下を道連れにしてまでお前を助けに行ったと思ってるんだ」
「あ……た、隊長……っ」
「それもナシな。隊長じゃなくて、アレックス、って呼べ」
「……あ、そ、そんな……。だって、私、部下ですし……。そんな風に、馴れ馴れしく……」
「何か勘違いしてるけど。これはお願いじゃなくて、命令だから。ミリシアがどう思うか、関係ないから。ミリシア?」
くらくらしながら、ミリシアは目の前の男を見る。
時折無茶をするけど、基本的には優しくて気遣いの出来る、いいとこの御曹司様。白馬の王子様と呼ぶには多少荒っぽいけど、それでも紳士だと認識していた青年。
それが、獣のような欲望と、侍従に向ける支配欲を剥き出しにして、ミリシアを奪おうとしている。恥も外聞もなく、理由を取り繕うこともなく、まっすぐ。
ミリシア・ヴァディスという個人が、欲しいと、強請っている。本当なら何一つ不自由しなかった生まれで、戦場においてもおおよそ比類する者のいないほどの男である、彼が。
ぐずり、と使用済みの子宮が疼いた。
「……アレックス……さん」
「……さんは余計だけど。まあ、合格としておこうか」
眉を顰めて苦笑するアレックス。だが合格と言いながらも、彼はすぐにミリシアを解放しなかった。
「この後、シャワーを浴びて身を清めたら、俺の部屋に来い。いいな?」
拒否権はない。ミリシアの自由意思など、関係ない。そんな命令に、ミリシアはこくり、と思考を放棄して頷いた。
「はい……」
<戦場のひみつ:アリステラはその任務の困難さから、訓練設備にも特別な配慮が行われている。立体シュミレーターが訓練室に組み込まれているのはその一つで、特殊な環境を再現できる特殊訓練室も存在する。ここはAR映像に加えて、訓練室内が実際に可変し地形を再現し、ドローンを用いた実体のある敵を用意する事が可能である。こういった施設を利用し実戦さながらの訓練を積み続ける事で、アリステラは高い練度を維持している。>