未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:普通の部隊は、セカンドテラ及びにそこを守護する黄金卿の一派とはかかわりを持たない。ただアリステラは例外的に、任務の必要上関わる事があるため知古である場合もある。彼らの取り締まる人類内部の不穏分子には、セカンドテラへのテロを目論む者も時折存在する為、最低限の情報をやりとりしているらしい。>
耳障りなブザーの音で、アレックスの意識は覚醒した。
身を起こすなり、即座に意識が鮮明に覚醒する。戦場暮らしの長い彼は、寝起きで微睡むという事はない。動き始めた瞬間に意識が切り替わる。
聞きなれないブザーの音源は、机の上にある無線端末だった。今までお世話になった事のないそれを手に取り、耳に当てる。
『ウィンザード中尉か。休んでいるところ、すまないな』
通話の主はフォンブラウ少佐だった。言われてちらりと時計に目を向けると、起床ラッパがなるよりもかなり早い。夜は眠るのはフォンブラウ少佐も同じはずだが……まあ、あちらにはあちらの事情と仕事と生活サイクルがあるだろう。本番に差し支えなければ問題はない。
「いえ。何の御用でしょうか」
『事前に伝えていた援軍が到着する。悪いが急いでブリッジに来てくれ』
「! 了解しました」
隣で眠るミリシアを起こさないようにベッドから出る。シャワーを浴びている暇はなく、手早く軍服に袖を通す。ハンドガンは腰の裏に。一瞬ためらってから、ロッカーの横に立てかけてあるザラガ総司令の形見であるパワーソードも腰に下げる。返却を願い出たが却下され、持っているように言われたからだ。
場合によっては儀礼刀としても扱われるそれを自分が佩いているのはどうにも分不相応であるのは否めなかったが、この艦において上司にあたる人物皆から言われてしまっては仕方がない。
軽く身なりを整え、顔が不健康そうに見えないかだけチェックすると書置きを残し、アレックスはブリッジへと向かった。
向かう道中、数人のアリステラ隊員とすれ違う。普段闇の中に潜んでいる彼らが慌ただしく動いているというだけで、事態が急速に動いている事を実感する。事前に説明を受けた通りに迷路のようになっているスクリーム艦内を移動する。時折照明の完全に消え去ったエリアをまたぐ時は、少し警戒が必要だった。この艦に点在する小鬼の気配は今も健在で、隙あらばちょっかいをかけてくる気満々である。よくもまあこの中で仕事ができるな、とアレックスはアリステラ隊員達に呆れのような感情を抱いた。
「アレックス・ウィンザード中尉です。お呼びに預かり参上しました」
「来たか。入ってくれ」
言われてブリッジに入室すると、薄暗い環境にはすでに皆揃っているようだった。
いつも通りガスマスクのアリステラ司令官に、パワードスーツのヘルメットだけ外したマイク、そして最近は会議に加わるようになったLORDだ。彼は何の冗談なのか、頭にグリーンのベレー帽をひっかけている。誰に貰ったかは知らないが、なんだか気に入ってしまったようだ。
そしてあとはフォンブラウ少佐だが、少佐だけいつも恰好が違っていた。やたらと金色の装飾の多い白地の軍服で、少佐階級が付けるような礼服には見えない。いってはなんだが、大佐以上、下手したら将官クラスでようやくつり合いが取れるような格好に見える。
マジマジと見つめるような失礼をするアレックスではないが、いつもより感心の強い視線に気が付いたのだろう。フォンブラウ少佐は苦みの強い笑みを浮かべた。
「気になるだろうが、理由はすぐにわかる」
「あ、いえ。失礼しました」
敬礼を返し、いそいそと一行の後ろに並ぶ。あくまで一介の中尉ごとき、後ろに引っ込んでいた方がいいだろうという判断だったが、マイクがその肩を掴んで前に引っ張ってくる。
「え、ちょ」
「いいから。兄弟はここ」
困ったようにアリステラ司令とフォンブラウ少佐に視線で訊ねるが、彼らも頷き返すだけだ。しぶしぶ、司令官と特殊部隊隊長と少佐の間に交じって立つ。
「宙域に重力震を確認。友軍艦のショックアウトの前兆とみられます」
「万が一の事もある。警戒を最大限に」
「了解」
現時点での座標はフォンブラウ少佐のツテ相手しか知らないとはいえ、一度堕ちた星見のゴーストシップに襲撃を受けた後だ。ブリッジには相応の緊張感が漂う。ちらりとアレックスがLORDに視線を向けると、彼は小さく首を振った。
「友軍艦、現実世界に出現します!」
艦橋から見える宇宙空間の景色が、ぐにゃりと歪む。幾光年先から届く星の光が捻じ曲げられ、まるでオーロラのような光景を作り出す。その光の膜を突き破るようにして、複数の艦艇が現実世界にショックアウトしてくる。
まず目についたのは、絢爛と輝く真鍮色の輝き。一瞬光のオーロラの影響で艦がそのような色合いに見えたのかと思ったアレックスだったが、すぐに違う事に気が付く。
出現したのは見た事のない、しかし壮麗な装飾を施された大型艦だった。真っ白な装甲に、真鍮色の彫刻のようなデザインがあしらわれている。まるで儀礼艦のようにも見えるが、艦を飾り立てる装飾と一体化するようにして壮絶な武装類が紛れている事に、恐らく多くの者は気が付くだろう。
それは実に美しいながらも、殺意の権化のような武装を秘めた実用艦であるのは間違いなかった。
「どこの船だ、これ……?」
技術系列的に人類軍の正規艦であるのは間違いない。だが、人類軍の艦艇といえば質実剛健、飾り立てる余裕があれば一発でも多く弾薬や燃料を積む、といった感じの代物だ。このように見る者を圧倒するような流麗さを持つことはない。かといってどこぞの金持ちが趣味で作らせたクルーザーとして見るには、武装やサイズが強力すぎる。軍に強い影響力を持つ資産家や惑星総督がいるにはいるが、彼らの調達できる艦艇は軍のそれに及ばないよう厳しい制限がかけられているはずだ。
この艦はそれどころか、一隻で人類軍の大型巡洋艦複数に匹敵する戦闘力があるととれる。単純にレールキャノンの本数が多いし、推進機も非常に大型だ。装飾と一体化していて分かりづらいが、何やらレールキャノン以外にも超大型の武装も搭載しているようだ。
困惑しているのはアレックスだけではない。アリステラ司令官もその戦艦に見入るように沈黙し、LORDも興味深そうに目を瞬かせながら尻尾をゆらしている。ブリッジにつめる士官達からも当惑の声が漏れていた。
その中にあって冷静さを保っていたのはフォンブラウ少佐のみだった。
「黄金卿直轄、セカンドテラ絶対防衛戦隊”金色の夜明け”」
「え……」
「諸君らが知らぬのも無理はない。あれらの艦艇は、存在自体が超一級の機密事項。常であればセカンドテラの防衛にあたり、母星の宙域を出てくる事は決してない艦なのだ」
すらすらと解説するフォンブラウ少佐。その内容は、あまりにも機密すぎて現実感が無い。
セカンドテラ。
人類軍が所属する経済圏の母星。数千、数万光年の旅を経て人類が見つけた新たなる故郷。たった一隻の船、たった数千人の人類から始まった新社会が、再び繁栄し宇宙に進出すると同時に、急激な発展の代償として酷く汚染されたその惑星は、今は環境再生の為に誰一人入れない聖域と化している。
経済圏のトップに立つ者すら住まう事を許されず、唯一例外の至高たる血筋を除いては近づく事を許されないその惑星を防衛するために莫大な軍事費が注ぎ込まれている、そういう噂はあった。ただあくまで噂であり、実態としては実戦経験もないお飾りのようなもので、ハリボテの艦隊だろうというのが一般的な見解だった。人類がセカンドテラを離れて久しく、かの惑星には象徴以上の意味合いはない、それが一般の解釈であったからだ。
だが現実は違ったらしい。
目の前に存在する艦の圧倒的な威容と、一糸乱れぬ艦隊運動を見ればそれがハリボテだとはとても思えない。
そして同時に当然の疑問も生じる。
その特殊な部隊に、いったいどうして一介の少佐が連絡を繋げ、あまつさえ持ち場を離れて援軍として呼びつける事が出来たのか? そもそもそれほどの機密を何故知っていたのか?
集まる疑問の視線にフォンブラウ少佐は鷹揚に頷き、一冊の冊子を懐から取り出した。
茶色い革張りの表紙の、質素だがよく手の行き届いた冊子。
「グレイヤード・フォンブラウ、という名は、私が一介の士官として人類軍で活動するための、仮の名に過ぎない。真実の名は、この冊子に刻まれたもので……少々長すぎる故、ここでは省略させてもらおう。省略部分をB,とするなら、私の本当の名は、グレイヤード・B・レオンハルトとなるのかな」
その名乗りに、ビク、と反応したのはアリステラ司令官だ。他の者はイマイチ、ピンとこなかった故、皆の視線が今度はアリステラ司令官に集中するのも道理だった。
代表してアレックスが訊ねる。
「心当たりが?」
「…………私の勘違いでなければ。レオンハルトというのは、黄金卿の一派だったはずだ」
「黄金卿?」
「まあ、一般兵には馴染みがあるまい。セカンドテラの衛星軌道上に存在する衛星都市に住む、人類軍の頂点に立つ者達の俗称のようなものだ。唯一無二の不可侵たるお方をお守りする、近衛のようなものだと思えばいい」
アリステラの司令官の説明にもアレックスは正直ピンとこなかったが、とにかく滅茶苦茶偉い家の苗字、だと彼は理解した。
いくら惑星総督とはいえ辺境の星。セカンドテラ周りの事情は知らないのである。なにせ彼の故郷ウィンザードからセカンドテラに行こうと思ったら、一体何度ショックポイント航法を繰り返せばいいのかわからない。恐らく人類のおよそ九割九分が、セカンドテラを取り巻く事情に触れずにその生涯を終えるはずだ。そもそも人類の歴史の大半は失われて久しい、人類がセカンドテラを母星にして新たな経済圏を構築し、それから千年以上の時間が流れたとされているが、その過程の大半は空白のままだ。セカンドテラ漂着後の人類の社会構造などを把握している者は殆どいない。
もう少し高い場所から政治的視点を持っていれば、それに意図的な物を察する事ができるだろうが、それはこの際関係ない。
「アリステラ司令官の言う通りだ。私は、黄金卿の次期後継者、その一人になる。その過程で、社会勉強というか、実績を積むために身分を偽り、人類軍に所属していた。……まあ偽った所で、西方総司令御付きの秘書官という事で、身の安全と配慮はされていたのだから、君達一般兵からすれば嘗めた話に聞こえるだろうな」
自嘲するようにいうフォンブラウ少佐、否、レオンハルトだが、アレックスは正直、別にそんな事はないと思うけどな、と考えるばかりだった。彼が総司令の代理としてあちこち飛び回り、時には銃片手に前線に出向いていた事を彼は知っている。例えば訓練惑星ザーバンの一件だって、彼が直接現地に赴いてくれたからアレックス達は助かったようなものなのだ。高貴な生まれならそれは当然配慮されるべきで、ちと潔癖というか、逆の意味で世間知らずっぽい言動では? というのがアレックスの抱いた正直な感想である。
「まあ、俺達現場の鉄砲玉にとっちゃ、そういうのは正直どうでもいいですわ」
そんな事を堂々と言うのはマイクだ。場合によっては不敬罪ともとられかねない言動だったが、彼は気兼ねする様子もない。
「必要なのは、今人類の命運が秒刻みで滅亡に向かっているという情報が真か、その大仰な艦隊が役に立つのか、それだけでいいはずですがね」
「ああ。全くもってその通りだ」
レオンハルトはマイクの言動に特に気を害した様子もなく頷いた。
「少なくとも、防衛艦隊の練度は最前線で戦う君らにも劣らないと自負しているし、彼らの装備は最新鋭のその先にあるものだ。そこは期待していい。それに、今回の件の危機感も共有できている。そうでなければ、セカンドテラの絶対防衛を守り、異星生物との戦争に不干渉を貫いてきた彼らが動くことはない。だが……」
「数が問題ですな」
言い淀んだレオンハルトの言葉を、アリステラ司令官が引き継いだ。
「彼らが仮に、一般的な人類軍艦艇の3倍の戦力を持っていても、我々と合わせて20隻にも満たない。数値的には平均的な戦艦60隻の戦力だとみても、得体のしれない敵本拠地に殴り込むには、聊か頼りない」
60隻というのは大げさな数に聞こえるが、例えば直前に行われたリヴァイアサン攻略戦では500隻を超える戦艦が投入された。その結果が、敵の新戦力に阻まれ殆どの戦力が惑星降下に失敗した有様である。同様の危険度を誇る作戦に投入するには、余りにも頼りない戦力と言える。
恐らく異星生物からも増援の艦隊が派遣されるはずだが、LORDにより管制が行き届かなければ彼らは烏合の衆もよい所だ。戦力に数えるには聊か信用できない、というのが人類軍の見解であり、ほかならぬLORDもそれは共有できる認識のようであった(本人? は非常に不服そうではあったが)。
「その通りだ。だが、やるしかない」
「まあ、まったく増援が無いよりはましですかね。少なくとも、総司令部の名をつかっても一隻も出せない一般の部隊よりはよほど頼りになりそうだ」
「通信や指揮系統の混乱で、もうむっちゃくちゃですからね……」
今現在、人類軍は混乱の極みにある。時間をおけば落ち着くどころか、火のついた油のように状況は重篤さを増す一方だ。惑星上で起きた大規模な反乱を鎮圧に出た部隊が、そのまま別の反乱部隊となるとか、鎮圧部隊を反乱部隊と誤認して攻撃した結果同士討ちが起きていたりとか、非常に頭が痛い事になっている。その状況で総司令の名で命令を下しても、数少ない秩序を維持した部隊は慎重に動くあまり、様子見に入っている。
まあ、説明が足りないというのもあるが、邪神がどうの、宇宙の危機がどうの、説明しても理解してもらえるかわからない。当事者として怪奇現象に遭遇してなければアレックスも狂ったと思うし、現時点でも正直悪い夢を見ている気分である。
むしろ、金色の夜明け、とやらもよく動いてくれたものだ。
「危機感を共有しているというのは、あちらにも星見が?」
「ああ。というより、彼らは西方人類軍のみならず、東西南北全ての人類軍の機密情報に無条件でアクセスできる。これまで起きた全てを、我々すら把握していない情報に至るまで統括して考えた結果、今が尋常ならざる危機にあると認識しているようだ。つまり、今起きているトンチキ騒ぎが、決してただの偶然や悪い夢ではない事が、高次元視座関係なく理論的に補強された事になる。実に頭が痛い話だな」
それは正直、絶望的な現実が補強されただけの話である。現実主義者からみても宇宙やべえ、と言われているという事なので、分かっていた事だが本当に後がないという推論が補強されるばかりでアレックスは頭がクラクラしてきた。
正直、なんでこんな事に、と思わざるを得ない。
自分は唯の一般兵にすぎなかったはずである。別にただの一兵卒として前線で有象無象の一部として肉塊になり果てたかった訳ではないが、だからといって宇宙と人類の命運を背負って戦いたかった訳でもない。人には相応の立場というものがある。
「司令。“金色の夜明け”旗艦、“インビンシブル・ハンド”から通信が入っています」
「応じてくれ。……あー。それとアレックス中尉とレオニダスの兄弟諸氏。ちょっと大変だと思うが、頑張って最敬礼の姿勢を維持してくれ」
「え?」
アリステラ司令の意味深な感じの忠告に、アレックスとマイクが意表を突かれる。何の事か確認する前に通信が繋がり、艦橋に立体映像が表示されたので彼らは疑問を飲み込み、言われた通りに最敬礼の姿勢を取った。
通信の向こうは、旗艦インビンシブル・ハンドとやらの艦橋の様子が垣間見えた。戦艦の中とは思えぬ、鏡のように磨き抜かれた大理石の床や壁に、同じくピカピカの真鍮で誂えられた装飾品にしか見えない内装。その合間を、真っ白でパリパリにアイロンがかけられた制服を身に着けた士官が行きかっている。
その中央に、独りの壮年の男が佇んでいる。深く刻まれた皺に、整えたカイゼル髭。紫色の瞳は、年経た賢者のような思慮深さを思わせる輝きが宿っている。
服はただ白いだけでなく真珠のような独特な風合いを持ち、金の刺繍で豪華絢爛に彩られており、それこそどこかの式典にそのまま出張できそうである。だが恐らくはこれが彼らの普段の服装なのだろう。
かといってお飾り感はない。ザラガ総司令と同じ、死線を踏み越えてきた者特有の圧倒的な存在感を、アレックスは彼から見出し、息を飲んだ。
「こちら、アリステラ特務艦スクリーム。インビンシブル・ハンド、増援に感謝する」
『うむ。私はセカンドテラ絶対防衛戦隊“金色の夜明け”旗艦インビンシブル・ハンド艦長、“壮麗なる夜明けの護り手にしてインクィジウスの門を守りしオケアノスにて千の首を駆り竜の荒野にて慟哭する者にして膨張する水晶を見出す祭壇を崩す者にして皇帝の雷であり(20分ほど省略)100の獣を追放し者にして天から降る死の天使を目にする者にして救済の担い手であり(さらに20分ほど省略)永遠の門前にして悪魔の翼を折り地の底にて太陽を仰ぐ者、セカンダリスの孫であるクリストスの血を引く者であるアマデウスの恩寵を受けし者であるウェスパシアスの(さらにさらに10分ほど省略)カラルゴの子であるクィンシィ”大総督である』
長かった。
地獄の戦場を乗り越えてきたアレックスでさえ、その名乗りの間最敬礼を維持し続けるのは並大抵の事ではなかった。何が辛いって終わりが見えないのが辛すぎる。名乗りじゃなくて正直途中から何かの祈祷を聞かされている気分だった。
いや、確かに世の中には、先祖を大事にし、自分がどんな事をした誰の子孫なのか、という名乗りをする者も多くいる。別に変な話ではない。ただいくらなんでも長すぎた。
そして理解する。さきほど本をチラ見せして「長いから」で省略したレオンハルトの言葉の真意を。
きっとあの本にはびっしりと長文が刻まれていて、それが全部でレオンハルトの名前を示しているのだ……。意味不明な世界すぎてアレックスは気が遠くなった。それでいて相手は雲の上どころではないお偉いさんなので、態度に出すわけにもいかない。それこそ砲弾の雨に晒されている時より精神的にはきつかったかもしれない。
もしかしてあの艦に乗ってる全員、本名がこんな長いのだろうか……アレックスは想像しかけてとりやめた。考えたくない。
そんなアレックスとは裏腹に、アリステラ司令官は涼しい顔で頷き返し、何事もなかったかのように会話を続けた。……まあガスマスクをつけているので表情は実際のところ分からないのだが。
「ご拝謁に預かり、大変名誉の極みであります、大提督。それとも閣下の方がよろしいか?」
『ふん。閣下で構わぬよ、司令。市井の者には我が真の名は無暗に振舞うものでもない。何より今は一分一秒を争う』
「ご配慮、感謝いたします、閣下。それではさっそく、状況のすり合わせと、我々が果たすべき任について確認させて頂きたいと思いますが、いかがか」
『異論はない。……が、その前に一つ。顔を合わせておきたい者がいる。……わかるな?』
<戦場のひみつ:黄金卿と呼ばれる者達は、人類軍における総司令や総帥の上に立つ明確な上位存在である。が、あまり干渉してこないため、ある意味では明確な線引きがされており、総司令や総帥も伺いを建てる事なく好きにやっている。このような指揮系統になっているのはセカンドテラにたどり着いたときの軍部の指揮系統が理由らしいが、一般的にはその記録は失われている。>