※この作品はR-18です。

未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版)   作:SIS

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<戦場のひみつ:ヘルストライクは巡洋艦数隻分のサイズを誇る、超大型の恒星間誘導弾である。実態としてはミサイルというより超大型の無人輸送機に近い。非常識な量のペイロードを持ち、そこに惑星地表全てを焼き払う量の爆雷を搭載したノヴァ・クラスター弾頭等のバリエーションが存在する。>



第七十五話 大提督と大将軍

 

 俄かに艦橋に緊張が走る。誰の顔を見たいか、などと確認するまでもない。

 

 のそり、とLORDが自主的に前に出た。思わず身を引くアリステラ司令官と入れ替わるように通信の前に出る。

 

 LORDの複数の目と、大提督の視線が交錯する。

 

 その様子を、アレックスは背後に控えながら見守りつつ、ごくりと唾を飲んだ。

 

 アレックスやマイク、アリステラ司令やレオンハルトは割り切っているが、そもそもLORDは異星生物の司令官として、過去に人類に大被害をもたらした張本人である。そもそも異星生物との戦争の始まりに大いなる齟齬があった事、敢えて言うなら人類側に問題があったとしても、結果的に数億、いや数兆の人命を奪った事に変わりは無いのだ。

 

 実際に触れ合ったら思ったよりも遥かにフレンドリーだとか、ノリがいいとか、ちょっとお茶目とかは何の言い訳にもならない。人類に絶大な被害をもたらした、その一点で恨みぬいている者も居るはずだ。

 

 勿論今回の作戦、異星生物側の助けが無ければ成功の確率は限りなく低い。だがそれはあくまでアレックス達の理屈にすぎない。

 

『ふむ……。話に聞いていたLORDというのは貴様だな? 我々は開戦以降の記録を完全な形で全て保有している。貴様の指揮下によって、どれだけの被害が発生し、どれだけの人命が失われたかを我々は正確に把握している』

 

「GRRR」

 

『……ふっ。そう警戒するな。我々にはここで事を荒立てるつもりはない。少なくとも、絶対防衛戦隊に被害が出ていない以上、個人的にお前を恨む者はおるまいよ』

 

 ふっ、と艦橋に安堵の空気が漏れた。アレックスも内心胸を撫でおろす。

 

『全く。殿下も妙な星の元におられるものだ。まさか人類と異星生物が肩を並べて戦う日がこようとは』

 

「ははは、それは全くだが、それを齎した男は私ではないよ。奇特な運命の元にいるのはまた別の男だ」

 

『の、ようですな』

 

 話の流れで大提督の視線を向けられ、ビシィ! と最敬礼の姿勢で硬直するアレックス。自分はたかが中尉、相手は大提督だ。階級差があるどころの話ではない、僅かにでも気分を損ねるのはただの自殺である。

 

『そう畏まらなくともよい、アレックス・ウィンザード中尉。我々は君の事もある程度把握している。なかなか面白い人生を送っているようだな?』

 

「は……はっ!」

 

『今回の作戦は使える者は全て使う、小規模であっても総力戦になる。君の活躍も期待している。……そういう意味では、種族は違えど最高峰の司令官をこの場に招く事が出来たのは幸運といえよう』

 

 後半の言葉はLORDに向けられたものだ。

 

 確かに、見方を変えればLORDはおよそ人類史にもない大戦果を挙げた司令官という事でもある。遺恨が無い訳ではないが、あくまで任務における能力面のみを見て割り切る、それが大提督の判断であるようだった。まあ、ちょっと聞き逃せない単語がぽろっと漏れたような気がするが、誰も指摘しないのでそれは皆スルーする事にした。藪を突いたら龍が出てきそうな気がしたので。

 

『さて、友好を深めるための談話はここまでにして、仕事の話をしよう。アリステラ司令官、進行を頼む』

 

「はっ。……それではまず、目的地について説明させていただく。我々が堕ちた星見の本拠と判断しているのは、ノーザリー銀河に存在するボルドゲルド星系第四惑星、バール・ゼプツェーンだ」

 

 空中にホログラフィックで星系図が表示される。アレックスの知らない星系だ。まあ、文字通り星の数ほど存在する天体図の全てを把握できるはずもないが、少なくとも人類の主要生息圏からは大きく外れているようだ。

 

「この星系は、宙域全体に赤い星系物質が大量に存在しており、赤い川のようにみえる事から“ブラッドバレー”の異名を持っている。この赤い星系物質が厄介で、ショックポイント航法の妨げになる事、星系の惑星に居住環境が整った惑星も資源惑星も存在しない事から最低限の観測が行われた後は、ほぼ放置されていた。公式でも非公式でも人類の施設は存在していないはずだが、以前から行われていた調査の結果、堕ちた星見に与していた者達の中からこの惑星に向けて資源が横流しされていた事が発覚している。また近年の星見の協力もあり、この星系であちら側の力が繰り返し強く行使されているのも記録されている。そして極めつけが、異星生物側の調査でもこの星系を怪しい、と睨んでいる事だ。ここまで条件が揃えば、ここ以外に奴らの拠点が存在するとは考えにくい」

 

 語りながらアリステラ司令官が向けてくる視線に、うんうん、と頷くLORD。大提督が凄く微妙かつ複雑そうな視線でそれを見ているのにアレックスは気が付いたが、スルーした。気持ちは分かる。

 

「作戦の目標は、この惑星、バール・ゼプツェーンの完全破壊だ。制圧できる程の人でもないし、常軌を逸した力を振るう堕ちた星見相手にそのような悠長な真似をしている余裕があるとは思えない。異星生物以上に相容れない相手として、徹底的に絶滅させる。その為には、”金色の夜明け”の協力が必要だ」

 

『うむ。我々の旗艦、インビンシブル・ハンドには“惑星破砕砲(プラネットデストラクター)”が搭載されている。故にやる事は単純だ。我々はバール・ゼプツェーンの衛星軌道上にショックポイント航法で強襲を仕掛け、速やかに惑星破砕砲を発射。敵拠点を破壊し、離脱する。……上手くいけばの話だがな』

 

「あちらも最大限警戒をしているだろう。衛星軌道上には多数の敵艦隊が存在すると思われる、そう簡単に惑星破砕砲を使わせてくれるとは思えない。また敵戦力は非常識なレベルの白兵戦能力を持ち合わせている、こちらの艦に接舷し、艦内戦闘が発生する可能性も考えられる。現地で合流予定の異星生物艦隊の支援を受けられるとしても、乗り込まれた場合、対処には深刻な流血が想定される。最悪、艦のシステムを乗っ取られる事もありえるだろう。その場合は当初のプラン通り、特務艦のみで事態に対応する事になる。その場合は第77独立遊撃隊お呼びに特務兵団“レオニダスの兄弟”に惑星に降下、マーカーを設定してもらう事になる」

 

「ずっと訓練してた手はず通りに、という事ですね」

 

「ああ、マーカーの設置を確認し次第、我々アリステラの拠点に設置された恒星間誘導弾“ヘルストライク”が発射される。発射されたヘルストライク弾頭はショックポイント航法を併用しておよそ30分後に惑星上に到達、マーカーによって最終誘導を行った後に、バール・ゼプツェーンの惑星核を破壊、惑星を消滅させる。……残念ながら、それまでに撤収できなければ、現場の人間は見捨てる形になる。我々含めてな」

 

『最初から見捨てる、という話ではない。ヘルストライクを用いた惑星破砕は二次被害があまりにも大きい。飛散した惑星片によって、ボルドゲルド星系そのものが破壊されることになる。惑星軌道上にいる艦艇も一溜まりもない。……故に、ヘルストライクによる惑星破砕は最終手段だ。その時は、我々の艦隊も最後まで残り、諸君らを支援する。……これまでで何か質問は?』

 

「……その、質問よろしいでしょうか。ヘルストライクを用いた惑星破壊が危険、というのは聞いていましたが、プラネットデストラクター? の方は、大丈夫なんですか?」

 

『ああ。こちらは、ヘルストライクよりも効率が良い。メガレーザーで惑星の核を一瞬で消滅させる、あくまで破砕にとどまるヘルストライクとは出力の桁が違うのでな。……言われなくてもわかると思うが、我が戦隊のみが人類の技術絶頂期から保有しつづけている特級機密事項だ、生き残っても口外しないようにな』

 

「は、はひ……」

 

 戦艦に搭載可能な惑星破壊兵器とかちょっと恐ろしすぎる話である。さっきから惑星破壊というパワーワードがぽんぽん飛び交ってなんだかクラクラしてきたアレックスだ。根は小心者だ、というのが彼の持論である。

 

 ちなみにヘルストライクはアレックスも見た事があるが、戦艦数隻分の超巨大ミサイルみたいなものである。一度、彼が戦っていた惑星に向けて発射されたがマシントラブルで不発に終わり、アレックスのいた戦域の真ん中に突き刺さっているのを見たのだ。この時は惑星破壊ではなく、あまりにも異星生物の勢力が拡大し阻止が不能になったため、離脱ついでに嫌がらせでぶち込んだという話だが……まあ今思うと色々と怪しい話である。

 

 ちなみにマイクは先ほどから思考を放棄している。彼はメガレーザーという単語が出てきた辺りから「あーあー俺は何も聞いてない! 聞いてないぞ! ターボレーザーの数万倍規模の理論が失われた軍技術局が知ったらどんな手段を使ってでも確保しようとする超兵器の話は聞いてない!!」的な状態に陥っている。裏の道も大変である。

 

「さて。我々人類軍はこのような計画を立てているが……異星生物の方はどうなのかね?」

 

「RGGR」

 

 LORDは応えるように唸ると、ホログラフィック投影装置に近づいた。

 

 腕の一つを掲げると、その掌を突き破るようにして有機的なコネクタが姿を顕す。息を飲む一同の目の前で、そのコネクタを投影装置の基盤に差し込んだ。

 

 ザッ、と投影装置の映像が乱れる。しばらく滅茶苦茶な映像を映し出していたそれは、突如として正常な動作に立ち戻り、しかし先ほどまでとは全く違う映像が映し出される。

 

「成程。この程度は容易い事、という訳か」

 

 映し出されているのは、広大な銀河方面のマップのようだった。そのマップ中に、夥しい数の光点が存在し、ゆっくりと移動しているのが見て取れる。ゆっくりといっても、マップの縮尺から考えれば恐るべき速度だ。重力トンネルを用いた航行中の異星生物艦隊とみて間違いないだろう。その全てが、ある一点を目指しているのも見て取れる。その向かう先の星系図は、今さっき見たばかりだ。

 

『契約通り、異星生物艦隊もバール・ゼプツェーンに向かっている、という事だな』

 

「GRRUR」

 

 映像が切り替わり、バール・ゼプツェーン近隣が拡大される。そこには惑星を中心として形成された無数の艦艇による防衛線が表示されている。そこに、近隣に出現した無数の異星生物艦隊が距離を置いて波状攻撃をしかける様子が映し出される。

 

 敵艦と交戦し、次から次に撃墜される異星生物艦隊だが、全方位から押し寄せるその攻撃が敵の防御陣形に大きな負担をかけているのは文字通り目に見て取れる。

 

 そこに、新たな艦影が現れる。

 

 スクリームと金色の夜明けの艦体。その攻撃によって、バール・ゼプツェーンが破壊される。敵の防御陣形は崩壊し、そこを異星生物艦隊が追撃し、殲滅する。

 

「お互いに目的と戦術の理解は十全、という事だな」

 

『堕ちた星見の干渉で緻密な連携を取る事が不可能なら、数にモノを言わせた雑なごり押し、という事か。どこまで惑星に近づけても配下の制御を失わずに済む?』

 

 大提督の質問に、惑星近辺に色違いのエリアが表示される。衛星軌道上より少し外側。そこまでが、LORDが配下の異星生物に対するコントロールの保証が出来る距離、という事のようだった。

 

 言葉がしゃべれないなりに、ほぼ完ぺきに意思疎通ができているのを見て、大提督がため息をついた。

 

『……報告で理解してはいたが。下手な人間よりよほど話が通じるな。全く』

 

「耳に痛い。ですが、そこにいるアレックス・ウィンザード中尉周りの数奇な運命が齎した偶然の産物でもあります。たら、れば、を語るのはそれこそ愚行でありましょう」

 

『そのようだ。失言だったな』

 

 ゴホン、とわざとらしく咳き込み、大提督は話を切り替えた。

 

『必要な情報は概ね共有できているようだ。あとは作戦時間やタイムスケジュールの予定を詰める。時間が惜しい、30分でまとめるぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、全ての準備を整え、作戦が開始された。

 

 オペレーション『エクソシスト』。見送る者もなく、人類の、否、宇宙の命運をかけた一大作戦は静かに決行された。

 

 この作戦において、アレックスはあくまで補助だ。万が一、惑星破砕砲が不発に終わった場合にのみ、スクリームと共に惑星地表に降下、陸戦隊として敵拠点に爆破マーカーを設置し、ヘルストライクの誘導を行う事になる。

 

 つまり、作戦が順調に推移する限りは出番はない。

 

 どちらかというと、異星生物の代表であるLORDの応対要員であるのが、現段階における彼の最大の役割だ。

 

 そのため、作戦が開始し、艦隊がショックポイント航法の準備を進めている中でも彼の姿はブリッジにはない。ではどこで何をしているかというと、格納庫で新たに与えられた車輛の確認作業を行ってるところだった。

 

「で、こいつが今回の作戦で貸し与えられるうちの機体って事か」

 

 アレックスの目の前に鎮座しているのは、やや古めかしい作り方の重戦車のような車輛だった。

 

 6式重突撃輸送車輛、通称“コモドドラゴン”。かつての地球に存在したという大型爬虫類の名を持つこの車輛は、形式番号からわかるように非常に古い形式の車輛だ。ただ7式がビッグセブンと呼ばれ特別視されるように、ナンバーが古いからと性能が悪い訳ではない、

 

 だいたい10番までのナンバーをもつ車輛は、異星生物との戦争が開始された直後、それまで人類軍で使われていた従来兵器の性能不足を実感した軍部が、急遽開発投入した兵器群である。それまで人類間で内戦がなかった訳ではないが、絶滅戦争と化した異星生物とのそれに比べれば質も方向性も大きく違う。対レーザー防御を重視した高分子装甲は異星生物の怪力や強酸には紙に等しく、精度や効率を重視した兵器群はとにかく物量で圧倒的に押し寄せる怪物の群れには明らかに力不足だった。

 

 これに対抗するべく、戦争の形に合わせて新規開発されたのが、1式軽戦車から始まる現存の陸戦兵器群なのである。

 

 その設計要綱は単純明快、戦場で必要とされる能力を持ち、かつ、可能な限り構造は単純とする。急遽徴兵された兵士達は練度不足以上に知識不足であり、従来の高性能だが複雑化したシステム系統を現地で修理、運用するのは困難であったからだ。

 

 故に、6式は数千年ほどタイムスリップしたような、それこそ地球時代でみても時代錯誤極まる異様な風体をしている。砲塔のない戦車というか、箱の両側にキャタピラがついているというか。トランスミッションをはじめとする駆動部も異様に単純な構造で、居住性等を犠牲にとにかく頑丈さと耐久性、部品交換の簡易さを実現している。そこに、目的を果たすために過剰なまでの重装備が施されている。正面装甲左舷には二門の重レーザー砲、車体上部の銃座には大口径機銃、車体左右のスポンソンには収納も可能な重機関砲台座が存在する。それに加え、20人の兵士を内部に収容可能であり、敵陣に突撃しての突撃兵展開や、防御陣地における要撃戦闘まで幅広い任務に対応可能だ。そして構造の圧倒的単純さから、戦場で破損しても砲火の下で修復、整備が可能である。

 

 このように開戦直後の状況に適応した優秀な兵器であった6式だが、戦場に必要な物全てをつぎ込んだことは逆説的に無駄が多くもあった。対異星生物戦術が洗練され、より効率的に兵員を“消費”できるようになった後には、その調達コストも相まってより運用を明確化した後続の車輛に生産ラインを譲り、いつしか新規生産もうち止められ、その姿を見るのはよほどの後方に限られるようになっていった。これは一桁ナンバーに多く見られる末路であり、代替不可能な火力をもつ7式だけが例外的に現在も追加生産が続いている。

 

 それを今も万全の状態で運用可能なのは、物持ちがいいというか、なんというか。少数で様々な任務に従事するアリステラには6式は非常に都合の良い車輛であった為、後方の補給基地などで埃をかぶっていた機体を接収し、近代化改修や現状の生産ラインの部品に適合するよう改良を加え、運用していたという話だ。補給面で様々な特別扱いが許されるアリステラならでは、ともいえる。

 

 そんな車輛を突然ぽんと貸し与えられたアレックス達だが、流石というか、突然の新兵器に部隊運用が暗礁に乗り上げる事はなさそうであった。

 

 先ほども言ったように、6式のコンセプトはとにかく単純明快な運用のしやすさ。事実上の欠陥兵器であった22式や、最先端であるが故にマニュアルの熟読が必要であった27式と比べても、6式はとにかく動かしやすかった。

 

「という訳で、あとは操縦の面だが……いけそうか? ミリシア」

 

「全く問題ありません。ていうか実家、これのフレームを民間に卸した奴にエンジンとタイヤをつけて運搬車輛につかってたんで、もう自分の手足みたいなもんですよ、楽勝」

 

「へえ……民間に売り払った機体もあったのか」

 

「ほぼほぼスクラップでしたけどね。左後方がなんか溶けたみたいにまるっとなかったですし」

 

「そ、そっか……」

 

 作戦に備え、操縦手であるミリシアを打ち合わせる。応対する彼女の顔には、先までの不穏な陰はない。少なくとも内面的な問題は解消できたようだ、とアレックスは胸を撫でおろした。まあ、その方法については、他の恋人達から聊か白い目で見られたが、必要経費だと割り切るしかない。

 

 ちなみにアレックスの知らない所で結ばれたシルバと恋人達の淑女協定については、もうしょうがないから全員孕ませてもらう事で隊長に責任を取ってもらう方向で話がまとまっていたのだが、幸いというべきかまだアレックスはその事を知らない。

 

 代わりにこれ以上の増員は勘弁と睨みがきかされており、海兵隊のメンツはちょっと居心地が悪かった。

 

「ただその……いくらコモドドラゴン? 6式? のペイロードに余裕があると言っても、今回の運用はちょっと無茶なんじゃないですかね?」

 

「うーん、まあ、その、なんだ。しゃーないね」

 

「まあなんとかしますけど……」

 

 ちょっとした不安を共有し、二人そろってため息をついた、その時だった。

 

『ブリッジから艦内各所に通達。これより本艦はショックポイント航法に突入する。全ての作業員は所定の位置につき、関係各所はスタッフの安全を確保せよ。繰り返す……』

 

「あー、いよいよ、ですね」

 

「だな。おーい! 皆、6式に乗り込んでくれ。時間だ」

 

 アレックスの指示で、それぞれの仕事に従事していた隊員達が集まってくる。今回は海兵隊も含め、皆統一された装備なのでヘルメットを被っているといっぱしの部隊のようにも見えて少し頼もしく感じる。

 

 武装についても、アリステラから可能な限り最新鋭の強力な物を提供されている。バックパックからケーブルがレーザーガンに繋がれたタイプの強化レーザーガン。本来のレーザーガンの売りである取扱いの良さや補給性、汎用性を犠牲にしても基本性能を向上させたこのタイプは特務部隊向けのモデルだ。一般兵がお世話になる事は殆どない。戦場での補給が面倒なのが最大の欠点ではあるが、今回の作戦は短期決戦、出番があったとしても問題にはならないだろう。

 

 テキパキと皆が車内の所定の位置につき、アレックスも車長席に腰を預ける。流石にアリステラ仕様とあって原型から多少の改良がしてあり、座席は曲げた鉄板ではなくちゃんとクッションが備え付けられ、ステータスモニタの類が増設されていた。勿論シートベルトもちゃんとある。

 

 艦内に赤色灯の警告灯が点滅する。そろそろショックポイント航法の開始だ。

 

「ちゃんと機体は固定してあるな? 現実宇宙への再出現時に急激な姿勢変更する事もある」

 

「そこはぬかりありませんよ。死因・横転は勘弁ですからね」

 

 最終確認も問題なし。やがて赤色灯が点滅し、艦内の電気が落とされた。高次元への移動が開始されたのだ。とはいえ、内部にいる人間にはそう影響はない。少し揺れたかな、といった程度だ。

 

「ショックアウトしたら即座に作戦開始だ、覚悟はしとけよ。とはいえ、今回、俺達の出番はそう期待できそうにないな」

 

「珍しいですね、隊長がそういう楽観論言うの」

 

「楽観論じゃなくて、事実だからな。少佐のツテで合流した黄金の夜明け戦隊の装備、あれのおかげで作戦の前提段階が大幅に楽になった。基本的には惑星上に強襲しかけてぶっぱなすだけだ、一応サブプランとして俺達の突入も作戦に残されてるけど、普通に考えてその必要はない。むしろ俺達の突入が必要になったらそれは作戦の失敗も同然だ。多少感覚がマヒしてるけどな、本来作戦ってのは勝つ前提で組むもんだ。それに、マイクの連中もいるしな。地面を走るしかないこっちと違って、あっちは空を飛ぶ上にステルス機だ。サブプラン発動しても、俺達がチンタラ走ってる間にあいつらが終わらせてくれるだろうよ」

 

「私達は囮って事ですね」

 

「ま、そー言う事だから過剰に気負うなよ」

 

 アレックスからしても、本作戦の前提は隙が見当たらないものだ。単艦突入ならともかく、すでに座標が判明している惑星軌道上に突入するだけ、しかも異星生物艦隊の支援もアリと来た。堕ちた星見がどれだけの備えをしているかはわからないが、どう考えたって失敗する理由が存在しない。

 

「ま、すぐにわかる事だ。……。…………? うん?」

 

「どうしました、隊長?」

 

「……いや。その、なんだ。……長すぎないか??」

 

 艦内の照明は消えたままだ。それはまだ艦が高次元に滞在している事を示すが、しかし、本来ショックポイント航法は一瞬で終了するものだ。現実世界では数十光年を飛び越え、また若干の時間を要する事もあるが、基本的に主観時間では高次元に滞在するのは一瞬だ。別に高次元の方を移動してショートカットするとかではなく、一時高次元に移動する事そのものに意味があるのだ。

 

 暗がりの中、補助席に座っているシルバに目をむける。こういう事態のプロフェッショナルであるはずの彼女も、困惑したように首を振った。

 

「いえ、確かにおかしいです。これだけの長期間、高次元に滞在する理由も必要性も……」

 

 彼女が見解を述べている最中、激しい振動が艦を襲った。下から突き上げるような衝撃に会話が途切れ、車内に小さな悲鳴があがる。アレックスも座席にしがみつきながらステータスモニタを確認した。

 

 何かの警告は出ていない。艦内の問題ではない。

 

「なんだ!? 何が起きている!? くそ、ブリッジ、応答せよ! こちら第77独立遊撃隊ウィンザード中尉だ! この振動はなんだ!?」

 

 アレックスは慌ててブリッジに通信をつないだ。

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 高次元に突入を開始したブリッジでは、皆が静かに所定の位置についていた。彼らにとってショックポイント航法を行うのは日常的な事であり、特筆すべき感慨はない。

 

 例外はLORDぐらいだろうか? 異星生物は重力トンネルによる航法を行う為、彼にとっては目新しいものらしい。何やらきょろきょろと目を動かして周囲を興味深そうに観察している。

 

 正直アリステラ司令官はこの数秒でどれだけ人類軍の情報を抜かれたかを想像して具合が悪くなってきたが、しかし、今後を考えてもLORDをブリッジから締め出すわけにはいかない。そのあたりを配慮してくれる相手ではあるはずだと考え直し、視線を正面に戻す。

 

 その途端に、LORDが物々しい態度で身を起こした。司令官は普通に吃驚した。

 

「ど、どうした?」

 

「司令、緊急報告です! 演算装置に、異常な過負荷を確認! 入力数値に大幅なズレが生じている模様!」

 

「なんだと!?」

 

 ブリッジから上がる報告に血の気が引く司令官。同時に、艦橋にビービーと姦しい警告音が鳴り響く。

 

 ショックポイント航法において、高次元に移動した後にトラブルが起きるなど今までなかった事だし、理論的にもあり得てはいけない事だった。問題が起きるとしたら、あくまで開始時だ。ただしい鍵によって扉を開けるか否か、という話であり、開けた扉の向こうに問題があるはずがない。

 

 混乱する人間達をよそに、LORDが素早く動いた。彼は有無を言わさずコンソールにとびつくと、生体コネクタを突き刺して何やら介入を始めた。画面に表示されていた真っ赤な文字が、凄まじい勢いで書き換えられていく。それにともない、警告音も消失する。

 

 突然の事に対応が遅れたブリッジ要員だが、すぐに状況を理解してLORDにまかせ、それぞれが己の職務に対応した。

 

 しかし、それで事態は収束しなかった。

 

 どずん、と艦をそこから突き上げるような振動が襲った。悲鳴が上がり、艦が傾く。操舵手が舵にしがみつき、艦を制御しようと試みる。

 

「何だこれは?! 何が起きている?!」

 

「わ、わかりません! 所感でいうなら、高次元に何かしらの異常が……障壁!? 妨害だとでもいうの?!」

 

「妨害……? !」

 

 はっと我に返った司令官が指示を飛ばした。

 

「緊急浮上! 現実世界に復帰せよ! ……これは連中の罠だ!」

 

 

 









<戦場のひみつ:人類の使うショックポイント航法中の主観時間は、短くて数秒、長くても数分といった所である。厳密には高次元においては移動という概念が働いていないため、この経過時間は現実宇宙からの離脱と再突入における演算処理に要する時間とされており、もしこの計算問題が解決すれば文字通り一瞬で済むとされている。ちなみに高次元世界の光景は人類に理解できるものではない上に脳に異常な過負荷をかけるため、航法中は全ての窓が閉鎖され光学的に閉ざされる。>




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