未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:異星生物による惑星への大規模降下は、地表で戦う兵士にとって絶望の光景である。それはすなわち、宇宙での制宙権が奪われたという事であり、一度異星生物に制圧された惑星を奪還する事はほぼ不可能な事から、事実上の人類側の敗北を示すからである。残された兵士に残された未来は、惑星を脱出し宇宙で待ち構える異星生物艦に撃墜されるか、地上で最後まで異星生物相手に戦って玉砕するか、そのどちらかである。とはいえ極まれに、異星生物の包囲網の薄い所をついて脱出に成功する部隊がいない訳ではない。>
投身自殺さながらの勢いで6式が空中に飛び出す。部隊を投下したスクリームはすぐさまスラスターを全開にし、急上昇でその場を離れていく。翼を持たない6式は自由落下で雲に突入し、すぐにそれを抜けて高度を落としていく。
その最中、高空からは惑星バール・ゼプツェーンの様相が一望できた。
空も大地も赤く染まり、地表からは長大な構造物が塔のように幾重にも聳え立っている。聳え立つ山々は無残にも切り崩され、欠けた刃物のような有様を示している。それらを、しとしとと降る赤い雨が血の色に染めていた。
何もかもが生理的な嫌悪感を抱かせる、悪夢のような展望がそこにあった。
予想外ではない。連中の本拠地だ、これぐらいの事はあるだろう。それよりも、と彼は事前に確認しておいた座標を目視で認識した。
見えた。
切り崩された山の合間に身を潜めるようにして、古びた寺院のような建物が見える。かつては人類の惑星調査拠点であり、ボルドゲルド星系に価値がないと見なされてからは放棄された、今は堕ちた星見の要塞寺院と化しているそれ。
惑星上に唯一確認された生活反応のある拠点であり、シルバ達星見が全ての原因とみなす場所。あそこに突入し、マーカーを設置する。別に敵を殲滅する必要もなく、これまで潜り抜けてきた任務からすればそう難しい話ではないように思える。
しかし、そう簡単にはいきそうもない。
こちらの存在を認識したのか、突如として要塞寺院からけたたましいまでの火線が上がった。一体どこにそれだけ隠していたのか、吹き上がる間欠泉のような対空砲の中に突っ込めるほど6式は頑丈ではない。すぐさまミリシアに指示をだし、山脈を盾に出来る限り近い位置に降下するようコースを変更する。
直接投下できれば楽だったのだが。まあそう楽はできないという事か。
アレックスは平静を維持したまま、先に飛び立ったステルス機はどうなったかを確認した。
彼らの姿はすぐに見つかった。アレックス達より低い高度を、身を捻るようにして飛行している。その飛行機雲を追うように、無数の影が空を飛んでいるのが見て取れた。
あまり大きくは無いが、数は多い。まるでコウモリのような何かが、高速飛行するステルス機を追い回している。そのせいで、マイク達は思うように要塞寺院に近づけないでいるようだ。
「ニーナ、迎撃準備をしろ! 何かが飛んでる!」
「隊長、地表からこちらに向かってくる飛翔体を確認!」
「撃て! 近づけるな!」
窓から確認する。赤い大地から、こちらめがけて急接近する霞のようなものが見て取れた。それはどんどん大きくなり、無数の怪生物の群れだという事がわかる。見た目がコウモリに似ている、そして恐らく異星生物由来ではない、それだけ確認してアレックスは詳細の認識を中断した。
堕ちた星見の関わる案件は、深入りすると正気を損なう。こちらに害意がある飛行生物が接近している、今はそれさえ分かっていれば十分だ。
6式上部に搭載された機銃が、車内からの遠隔操作で唸りを上げた。高速で連射する機銃弾が、群がってくる怪生物を次々と撃ち落す。が、数が数だ、すぐに機銃の弾は底を突き、無数に飛来した怪生物達は取り囲むように6式の周囲を飛び回った。
LORDが不快そうに刃を振り回して追い払うが、連中はその刃のぎりぎり届かない距離を維持して群がってくる。直接的な攻撃に移ってこないのは幸いだが、とにかく邪魔である。
「ああもう、うざい! 隊長、落下位置調整をかねて強制スラスターで振り払います!」
「許可する。スラスターを使いすぎるなよ」
アレックスの許可を受けて、ミリシアがスラスターを点火した。姿勢制御と着地時の制動のために備え付けられていたスラスターが炎を噴き、周辺を飛び回っていた怪生物を焼き払う。さらに機動制御をおこなった機体の突進に巻き込まれて、数匹が装甲の染みと化した。
その瞬間を逃さず、LORDが六本の刃を振るう。すれ違いざまに何匹かが切り裂かれて血飛沫と散った。
「ふぅ。これでなんとかなったか?」
「……ん。これからが本番みたいです。隊長、あれを」
言われて操縦席の窓を覗き込むと、地表から蚊柱のように、細い竜巻のように巻き上がるものが見えた。それらが全て、今しがた襲ってきた怪生物の群れであるのを見て取って、アレックスは顔をしかめた。
「……とうてい構っていられんな。LORD! そっちはどうなってる!?」
装甲ごしに異星生物の指揮官に呼びかける。すぐに返事の唸り声は返ってきたが、考えてみればその意味をアレックスは判別できないのだった。しまった、と頭を抑える。
「……いえ、予定通りです。問題ありません、アレックス様、空を」
シルバの指摘で頭上を見上げる。投下された時は自分達より下にあった赤い雲だが、今はずいぶんと上にある。
その赤い雨雲を突き破って、いくつもの石灰色の物体が、断熱圧縮の赤を纏って惑星に降下してくる。
異星生物のドロップポッド。それらは空中で砕けるように分離しながら、加速してアレックス達を追い抜いていく。雨のように降り注ぐ投下物に怪生物達が戸惑ったように隊列を乱した所に、礫のように、爆撃のように異星生物の降下部隊が降り注いだ。地表にいくつものクレーターが穿たれ、恐らくは地上で待ち構えていたであろう迎撃戦力も粉砕されたはずだ。
空を見上げれば、赤い空に燃える幾筋もの流星。アレックスにとっては何度も見た光景だが、その心情は常とは全く逆だ。
「は、いつもいつも良いタイミングで降ってきやがる……!」
異星生物の、惑星降下強襲。
いつもであれば人類軍にとって絶望の光景だが、一転して味方になってしまえばこれほど頼もしいものはない。なにせ物量に関しては無尽蔵の彼らは、多少の損害など気にする必要もない。人類のように事前に念入りな対空砲の排除も必要も無く、砲弾と降下部隊の区別なく雨霰と降らせればよい。たまたま生き残った戦力がいれば、それが増殖しながら地表を蹂躙してくれる。大雑把で効率が悪いやり方ではあるが、だからこそ手に負えない。
その豪雨に紛れながら、6式も地上に降下する。強制スラスターによる空挺降下は着地時の減速が極めて危険な瞬間だが、地表に降り注ぐ異星生物軍の相手で敵はそれどころではない。落着で生じる大規模な噴煙に紛れるようにして、高度を落とす。不自然にクレーターの合間に道のように残された平坦な場所にスラスターで減速しながら降下し、一度大きくバウンドしたものの、そのまま疾走を開始する。いざ地上に降りてしまえば6式の走破性は大したものだ。
そして凸凹になった地面をものともせずにつっぱしる。向かう先は敵の要塞寺院。その行く先を、支援するように異星生物のドロップポッドが降り注ぎ、爆発と衝撃で6式を敵の目から隠す。人類軍であれば誤射もやむなし、という滅茶苦茶な攻撃だが、異星生物にとっては朝飯前の芸当であるようだ。一応時折破片が6式の装甲をノックするが、装甲を凹ませる程度もできない程度の被害にすぎない。完全に、無数に降り注ぐ落下物の落下コースを制御しているのは明らかだった。
つくづく、LORDが率いる地上部隊とかち合う事がなくてよかったとアレックスは心底思った。とてもじゃないが生き残れる気がしない。
何割かのドロップポッドは敵拠点への直接攻撃に使われているようで、降り注いだ落下物が対空砲に撃墜され、空中で大きな炎をまき散らすのが見える。雨のような落下物を迎撃しきっているあたり、要塞寺院の防御は鉄壁だ。あのまま突入しなかったのは正解と見える。
空を見上げると、後続の降下部隊が次から次へと降ってくる。ほぼ無尽蔵の数に見えるが、この星域に集結した異星生物艦隊の数を考えると、5%ほどが惑星強襲に参加している程度と考えるべきだろう。どうやら軌道上での戦いは大分こちらに不利らしい。もたもたしていると支援も底をついてしまうとみるべきか。
一方、降下している部隊のほとんどは実質的な質量弾という話だ。ただ惑星に放ってもコントロールできない以上、最悪敵が増えるだけ。故に投下された戦力は全て休眠状態にあり……それを叩き起こすのが、LORDの仕事だ。
「GRRRRRU!!」
LORDが戦場に咆哮を轟かせる。
その雄たけびは直ぐに降り注ぐ落下物の爆音にかき消されてしまうが、数秒も経てば、直ぐにその結果が表れた。
迎撃されずに地表に落ち、その衝撃に耐えて原型をとどめているもの。それらの内部から、次々と異星生物が姿を顕す。先兵級、猟兵級、なかには制圧級の姿まである。それら多種多様な異星の兵士が、列を成して行軍に加わる。6式を避けるようにして進行する異星生物の群れに、アレックスは思わず車内で喝采を上げた。
「ははは! なんだなんだ、この光景! 生きてる内にこんな景色が拝めるとは思わなかった!」
普段であればあまりにも恐ろしい異星生物。だがそれが味方になれば、まさに圧倒的だ。底なしの数とも思える怪物達が、一心不乱にわき目もふらず敵拠点に殺到する。堕ちた星見の戦力がどのぐらいかは知らないが、数限りなくこれと戦ってきた身としてアレックスは断言する。
札を伏せておいて凌げる攻撃ではない。堕ちた星見がまだ手札をもっているなら、ここで切るべきだ。そうでなければ、そのまま物量に圧殺されるだけである。
見渡す戦場に変化が生じる。異星生物の濁流が、何かに堰き止められる。地表を覆う異星生物の軍勢を押し返すように、深紅の軍勢が滲み出るようにそこかしこに湧き出した。
「……来たか」
「なんです、これ。異星生物……?」
困惑したようにネルスがつぶやく。彼女の混乱も無理はない、ここにきて姿を見せた堕ちた星見の軍勢は、あまりにも混沌とした有象無象の群れであったからだ。
大半を占めるのは赤く変色した異星生物と思わしきそれ。話にあったコントロールを奪われたであろうそれらは、歪に肉体が変化し、ねじくれ、一目で尋常な状態にない事が判別できた。動きもぎこちなく、変異によってむしろ戦闘力は低下している。
だが他にも雑多な戦力が入り乱れて異星生物と交戦状態にある。ボロボロの布切れを纏い白目をむいた狂人の集団、翼のない蝙蝠のような奇怪な怪物、機械と有機物の混合物が獣の姿を模した何か、そして毎度おなじみとなった歪んだ鎧姿の騎士達。
見覚えのある敵も無い敵も、ごちゃごちゃにまじりあいながら手近な敵に襲い掛かるそれは、さながら混沌の軍勢であった。
兵の質も極端で、大半がただの間に合わせのようではあるが、騎士や混合物の怪物のような一騎当千の存在も混じっていて、通常の戦場のような優先順位をつけての排除が難しい。
異星生物側は全体的に押してはいるが、足止めされているのは事実だ。さらに敵味方入り乱れての乱戦になった事で、軌道上からの支援が止まってしまった。雑兵を巻き込む事に異星生物は躊躇いはしないだろうが、乱戦の中、アレックス達を誤爆しない、とは言い切れなくなったのだろう。
狙っての事か、それともただの偶然か。こちらの強力な札を一つ封じられたのを見て取り、アレックスが舌打ちする。
「手当たり次第、って感じだな。狙いはこちらの足止めか」
「! 隊長、前方に敵大型戦力を確認!」
正面に躍り出てくるのは、金属の四肢をもった獣のような怪物だ。形状こそいささか違うが、総司令部で堕ちた星見が自らと一体化した化け物に似ている、とアレックスは感じた。恐らく同様の攻撃能力と、しぶとさを持ち合わせているだろう。厄介な相手だ。
その怪物は砲身そのものと化している頭部を6式にむけると、そこに怪しい輝きを収束した。それと見て取ったLORDが一声上げると、並走していた制圧級が盾になるように前に出る。
直後、収束された光が放射された。高出力レーザーともターボレーザーとも違う得体のしれない輝きは、盾になった制圧級を燃え上がらせ、ドロドロに溶かした。戦車砲の直撃を受けても原型をとどめる強靭な甲殻も役に立たない。
光る有機物のヘドロと化した制圧級の死体を避けながら、6式を操るミリシアはひるまず怪物めがけてハンドルを切った。光の一撃を防がれた怪物がどこから出しているのか分からない雄たけびを上げ、爪を剥き出しにして飛び掛かってくる。
その常人であれば恐怖に身が竦むであろう光景を目の当たりにして、運転手のミリシアは一言、軽蔑と侮蔑に満ちた感想を述べた。
「捻りも独創性もない無様な動き。イオリ?」
「ん。主砲を向ける手間が省けた」
その真正面に、容赦なく主砲のターボレーザーが唸りをあげた。一瞬で怪物の半身を消し飛ばし、バランスを崩して横転する怪物の残り半分を、6式の鋼鉄の履帯が踏みつぶした。鋭い花崗岩や黒曜石の岩肌も削りながら進撃する鋼鉄の履帯は、歪んだ肉とスクラップの混合物を容赦なく踏みつけにしながら問題なく通過した。あとにはぺしゃんこになった残骸が残るのみ。
自分達が死ぬほど苦戦した怪物をあっさり処理する手際の良さに思わずアレックスが苦笑する。まあ確かに得体のしれない怪物といえど物理的に粉砕されれば死ぬしかない。合理的ではあるが、よくわからんものへの恐れとかは部下達にはないらしい。
「あんな得体のしれないもの、怖く無いわけ?」
「? 敵は敵、でしょ? だったら排除するまでです」
軽く振り返って淡々とミリシアが答える。
「ええ。敵は殺します。私達と隊長の未来を阻むのは全部、殺します。神でもなんでも殺します。殺す……」
「そ、そっか。頼もしいな。うん」
なんだか変なスイッチが入っているミリシアから目を逸らす。メンタルケアのつもりでやったのが、変なアクセルを入れてしまったかもしれない。
と、至近距離での爆発が6式の車輛を揺らした。座席にしがみつきながら確認すると、気が付けば随分要塞寺院に近づいたようだ。それはつまり、あちらからの迎撃も通しやすくなったという事でもある。軌道上からの投射攻撃も数が減った事で防衛設備に余力が出来たのか、寺院に見合わない無数の大砲が地上の標的に向けられているのが見えた。最前線に躍り出た制圧級がオーガニックウェポンで攻撃を開始するが、直後に無数の砲撃で粉微塵に消し飛ばされる。無数の制圧級や猟兵級が防壁を乗り越えて内部に侵入し、飛来してきた攻撃機級が生体ミサイルを投射し砲台を破壊するが、数が多すぎて対処が間に合っていない。
いくつかの砲台がこちらを捉えているのを察知してアレックスは舌打ちした。異星生物の軍勢と合流し紛れているとはいえ、結局6式は一台だ。探し出して火力を集中させるのは難しい事ではない。
「ミリシア、一旦後退する! 煙幕を……」
「GRRRRR!!」
「え、何だ?!」
「了解! このまま直進するよ!」
「えぇ?!」
アレックスの指示に車上のLORDが何ごとか吠え叫ぶ。何をしゃべっているのか分からないアレックスがきき返すが、何やらミリシアは意図を理解できたらしくそのままアクセルを踏み込んだ。
恋人と自分以上に以心伝心なLORDに一瞬嫉妬が沸くと同時に命令系統どこいったという困惑と大丈夫なのかという不安が一斉に発生してさしものアレックスも判断が遅れた。
そうこうする内に6式は敵要塞の射程圏に突入し、防衛砲台が一斉に火を放った。
「RRRGY!」
車上にしがみつくLORD、その頭殻が俄かに青白い光を帯び、発光する。
直後、6式は降り注いだ砲弾とそれの発した紅蓮の炎に飲み込まれ、その姿は粉塵の中に掻き消えた。
敵要塞寺院からの砲撃によって、戦場の一角が爆炎と煙に覆われる。舞い上がった赤い塵が炎と交じり合って血の噴水のように舞い上がった。
轟いた爆音が過ぎ去り、戦場に一瞬の静寂が横切る。
その静寂を引き裂いたのも、また砲火の轟きであった。
爆煙を突き破って伸びた光条が、横に薙ぎ払われる。大気中の大量の塵の影響で本来不可視なはずの熱光線が戦場を切り裂き、その軌跡上の一切合切を焼き払い崩壊させる様は、巨大な剣が戦場で振るわれたかのようだった。
それそのものは静かに過ぎ去り、遅れて思い出したかのように防衛砲台が爆発する。火薬、あるいはバッテリーが、超高熱のターボレーザーによって引火し、弾け飛ぶ。ターボレーザーに焼き切られ、さらに自らの爆発によって要塞寺院の迎撃装置の一面が沈黙する。
それを確認したように、黒い煙の向こうでエンジン音が鳴り響く。煙を突き破って姿を顕した6式は、その主砲である正面左舷の二連ターボレーザーの砲身を赤熱に輝かせたまま突進する。その車上には、複腕でしがみついたLORDの姿。その頭殻が放っていた青白い輝きが、一仕事終えたといわんばかりに衰えて消失する。
何故砲撃をまともに浴びたはずの6式が無事なのか。話は簡単、LORDが防御したのだ。
LORD、及びにNEUROはPSYエネルギーとでも呼ぶべき力を活用する。攻撃に用いれば物質世界の存在を容易く崩壊させる恐るべき力だが、それは防御に回しても同じ事だ。これまで散々堕ちた星見が不可視の防壁でやりたい放題やっていたように、同じ事をLORDも行っただけだ。ましてやどれだけ変異してもある程度たかがしれている人間と違い、LORDの脳はその為の機能に特化し、脳細胞の総質量だけでも人間の何十倍を誇る。顕現できる防壁もけた違いだ。
勿論、連続して使えるものではない。
超常の力であれど、それを発揮するのは物質世界に存在する脳細胞の働きによるものだ。脳は生物において最もカロリーを消耗する器官であり、それは異星生物も変わらない。戦闘用に構築された生体兵器であれど、一度、二度の発動が限界だ。
だからこそそのタイミングをギリギリまで見計らい、防御によって得た機会を逃さず活用した。まあ大分事前連絡や意思疎通が足りなかったが、それでも辻褄を合わせたのは第77独立遊撃隊の練度の賜物、という奴だろう。伊達に同じ男を囲っていないのだ。
何はともあれ、一部とはいえ防衛設備を破壊し、迎撃網に隙間が出来た。そこを逃す手はない。
破壊し損ねたいくつかの設備に副砲で撃ち返しつつ、6式が突撃する。その横を追い抜くように猟兵級が駆け抜け、防衛設備に取りついて破壊する。さらに内部では浸透突破した異星生物軍と騎士達の白兵戦が発生しているようだ。
確かに騎士達は恐るべき戦闘力をもった、局地戦においてはインチキのような存在である。が、こと物量においては異星生物も大概だ。異星生物側に騎士を仕留める手段がなくとも、10匹、20匹とかかってくれば騎士を封じる事は容易い。例え防壁があったとしても、猟兵級の爪は脅威であるのは変わらないし、騎士一人に30匹をさいても残り70匹が防衛設備の破壊にかかる。
数以上の力はない。その心理を、ここぞと言わんばかりに異星生物が堕ちた星見へと教育しにかかる。
「いまのうちに突入する。イオリ、主砲は?」
「冷却完了。いつでも撃てます!」
「ミリシア、車上のLORDを退避させろ、ロケット弾も撃つ!」
「了解!」
ハンドルを握るミリシアが、トントンとコメカミを指で叩きながら念じる。すると、彼女の意思を把握したのか、LORDは猿のようにひらりと身を翻し、車輛後部に身を隠した。随伴兵用に備え付けられたグリップにしがみつき、6式の真後ろに身を隠す。
退避を確認して、車体上に備え付けたランチャーに火が入った。射撃位置まで搭載した多連装ランチャーがポップアップし、弾頭のロケットエンジンが煙を吹きだす。
「撃て!」
アレックスの指示に従い、まずは主砲のターボレーザーが火を噴いた。
要塞寺院の外周を守る防壁に、超高熱のレーザーが突き刺さる。バヂ、バヂッ、と乱反射を生じながら、特殊合金製の防壁が赤を通り越して黄色に焼けただれる。
そこにむけて、複数のロケット弾が発射された。
ミサイルのように高精度の終末誘導は行われないが、この距離ならそこまで精度は必要ない。何より命中させる事を念頭に置き、その容積の大部分がセンサーや制御装置であるミサイルと違い、ロケット弾は破壊力に念頭を置いた爆薬の塊だ。それが12発、赤熱した防壁に叩き込まれ、爆炎を咲かせた。
「ようし、これなら……」
「……駄目だ! 煙が壁の向こうに突き抜けてない!」
ターボレーザーに焼かれ、ロケット弾で爆破された防壁は、しかしいまだ貫通を許してはいなかった。表面の状態は炎と煙に遮られて見えないが、貫通していたならアレックスの言う通り、防壁の向こう側からも煙が上がるはずである。しかしその様子は見えない。
火力が足りなかったのだ。
ハンドルを握るミリシアが戸惑ったような声を上げる。貫通した所に突っ込む予定だったのだが、これではそうもいかない。一か八かで突っ込んで突き破るのもありだろうが、思ったよりも防壁が分厚かった場合、ぺしゃんこになるのはこちらだ。かといってこうする間にもどんどん壁は迫ってきている。進路変更するにしても猶予があまり残されていない。
「た、隊長……どうすれば……」
「このまま突っ込んで、ギリギリで止めろ! 爆弾を設置して発破する、今引いたら逆に危険だ! 異星生物が相手の対応力を飽和させている間になんとしても突破する。海兵隊チーム、緊急降車の準備をしろ!」
指示を下しながら、アレックスは車長席頭上のハッチに手をかけた。自分も降車して爆破作業の支援をする腹積もりだ。
そこに、副砲手として周囲の確認をしていたニーナからの報告が飛んだ。
「隊長。6時方向、頭上から接近する機影を確認。ステルス機」
「マイク達か……!?」
ハッチから顔を出して確認する。吹き付ける風と粒子は、防護ヘルメットが防いでくれるが、それでも透明なバイザーが瞬く間に曇っていく。
それを拭いながら見上げると、煙を吹きながら高度を落としてくる機影が見えた。覚えのある形状、間違いない。
マイク達の機体はエンジンの片方に不調をきたし、表面にいくらかの損傷を追った状態でフラフラと飛んでいた。それでも高度を落としながらも進路を安定させ、アレックス達の後方から全く同じコースでの突入進路に入る。機体底面のハッチが解放され、ミサイルが展開されるのを見たアレックスが、すぐさま指示を飛ばした。
「ネルス! こちらの最終射撃データを友軍機に送れ!」
「もうやってます。問題ありません」
「流石!」
判断の速さを褒めたたえる。直後、6式を追い抜いたステルス機がミサイルを発射した。発射されたミサイルは一発だったが、チラリと見えた弾頭はあきらかに対地攻撃用の大型弾頭。強力なエンジンで空を飛ぶ航空機は、極限まで機体そのものの防御力を犠牲にしてペイロードを確保している。地上で運用される機体よりも大火力、大質量の弾頭を運用しているのも決して珍しくはない。
慌ててハッチを閉じて車内にアレックスがひっこんだ直後、発射されたミサイルがアレックス達の攻撃した地点に寸分たがわず炸裂した。
それまでと明らかに質の違う爆風が巻き起こる。目に見えて防壁が崩壊し、煙と共に破片が要塞寺院内部へと飛び散った。
しかしそれと引き換えに、ステルス機に敵防空砲台の火力が集中する。怪生物の攻撃で損傷し、ステルス性が低下していたステルス機は敵の照準に捉えられ、繰り出される対空砲の破片がついに生き残っていたエンジンにとどめを刺した。
制御を失い、半ば回転するような形で体勢を崩したステルス機が急激に高度を落としていく。その姿が要塞寺院内部の建造物に隠れて消えた直後、一つの炎が天に吹き上がるのが見えた。
「隊長、友軍機が……!」
「大丈夫だ、墜落直前に飛び降りる人影が見えた! 連中はまだ生きてる!」
嘘ではない。もとよりあの状況ならアレックスとて撃墜覚悟で次に備えておく。そもそも最新鋭の装備を備えているであろう特殊部隊の機体だ、砲撃は自動操縦に任せて搭乗員は降下ハッチに移動しておくぐらいの事は出来るだろう。
「それより、周囲の確認をしっかりしろ! こうなったら頼れる機甲戦力は俺達だけだ、つまらない事で6式を失うんじゃないぞ!」
「隊長! このまま突っ込みます! 衝撃に備えて!」
ミリシアが警告を飛ばすと同時にエンジン出力を上げ、崩壊した防壁目掛けて車体を突っ込ませる。今だ黒煙がくすぶり炎が燃え盛る爆破地点を強引に突破するのは非常に危険が伴うが、だからこその6式だ。
煙につっこみ、黒煙で何も見えなくなる。破片に乗り上げたのか車体が激しく振動し、車内では小さな悲鳴が上がる。それに構わず、ミリシアは強引に突破した。
黒くすすけてはいるものの視界が開ける。
要塞寺院の内部は、無秩序に建造が推し進められた工場の拡張部分のような有様だ。基礎から無秩序に配管が突き出し、赤くさび付いたそれらはまるで生物の内臓のようだ。地面からも埋め込まれた無数の配管が晒されるままになっており、蓋をされた閉止配管が奇妙なキノコのように立ち並んでいる。
道路も平坦ではなく、激しい凹凸に車体がガタガタと揺れる。
「敵だ! 2時方向!」
と、物陰からゆらりと騎士どもが姿を見せる。剣を抜いて向かってくるその姿に、ニーナが副砲の機銃掃射を浴びせかける。携行火器とは比較にならない弾幕に、騎士が防壁ごしであっても足を止める。弾かれた流れ弾がどこかの配管を傷つけて緑色のガスが噴き出した。
と、そこで騎士達の背後に回り込む巨大な影があった。
LORDだ。
6式車体後方に隠れて炎や煙、爆発をやり過ごした彼は突入成功と同時に音もなく車体から離脱していた。機銃掃射に気を取られている騎士達の背後に回り込み、容赦なく複腕に握ったブレードをひらめかせる。
一瞬の後に騎士の首が宙を舞い、残された躰もそれぞれバラバラに手足を切り飛ばされ、多少動いてもくっつけないように胴体も遠くに消し飛ばされる。
オーバーキルにも程があるが、現状はこれぐらいしておかないと安心できない。LORDもよく分かっているようだ。
「助かった、LORD。このまま一気に目標地点に移動する、乗れ!」
「GRRG」
頷くのも惜しい、とばかりに巨体が軽々と宙を舞い、6式の車上に飛びのる。ミリシアがアクセルを踏み込み、凹凸を乗り越えて6式を進ませる。よく見れば、少しでも平坦な場所を選んで走らせているようだ。
運転は彼女にまかせ、アレックスは地図を広げる。
この要塞寺院は、もともと人類の調査拠点だった。惑星の調査が完了し、価値が無いと見なされた後は放棄されたが、放棄後10年程、民間人が入植していた記録がある。彼らは資源や新天地を求めたのではなく、人界から距離を置き、敢えて厳しい環境に身を晒す為にここに来たという。
所謂、修道士とか、そういうのだ。もっとも、宇宙移民後かつて信仰されていた神々は忘却の彼方に姿を消してしまった為、この場合は単純に世捨て人といっていいだろう。彼らは10年ほどは人界と連絡を保っていたが、その後途絶えた。厳しい環境に耐えられず絶滅したのか、堕ちた星見に滅ぼされたのか、それとも彼らこそが堕ちた星見だったのか。
その末路は分からないが、大事な事は一つ。その修道院の構造について、ここにこうして地図があるという事だ。これほどの規模の拠点を自分達だけでは改築しきれず、一度だけ業者が入った事があったようで、古い記録に残っていたのだ。
地図と比較すると一見すると原型を残さず変貌しているように見える要塞寺院だが、寺院だったころの基本的な構造は変わっていない。6式が通過し堆積した赤い塵が舞い上がれば、その下からかつての灰色の石畳が姿を垣間見せる。
「……よし、最低限、主要な道路はそのまま残ってるらしい。ネルス、ミリシアにデータを送れ」
「了解」
「……マイク達も向かっているといいのだが……」
一抹どころか数えきれないほどの不安を抱えながらも、6式は目的地へと進路を向けた。
目指すは、要塞寺院中枢部。
かつて、大ホールだった場所だ。
<戦場のひみつ:神々への信仰や伝承が失われても、神秘的なものへの憧れ、あるいは俗世から距離を置いた者達のコミュニティは必然として存在していた。由来は失われても必要から生じたそれらは、ある意味では宗教の再発見ともいえるのかもしれない。中には敢えて生存に適さない未開の惑星に集落を作る者達も居たという。その多くはそのまま途絶えるか、自然の無情さに屈し俗世へと立ち戻り惑星開拓の拠点になる等して、今では一つも残っていない。>