未来も希望もない戦場で必死に生き残ってたらモテモテになった件(ハーメルン版) 作:SIS
<戦場のひみつ:アニクラッド事件とは、銀河歴3145年に起きた事件。自称環境活動家による異星生物との戦争を批判するデモを装った暴動を、特殊部隊が軍事力をもって鎮圧した。参加者は装甲盾に囲まれた檻の中で、フレイマーによって遺伝子の一欠けらも残さず灰にされた。このような対応になったのは自称環境活動家の背後に、とある星間連合の働きかけがあったからとされている。異星生物による戦争が長引いた今、この手のデモは人類に対する反逆行為と認定され参加者の血縁に至るまで族滅するのが通例となっている。>
今回の訓練は、大規模演習への参加だ。
第77独立遊撃小隊は文字通り、遊撃を主任務とする部隊だ。状況に応じて隊長であるアレックスの判断で、斥候や強行偵察、敵迎撃を適宜行う。基本的には司令部からの指示に従う、というのは一般的な部隊のそれと変わらない。
だがそれとは別に、主力部隊からの要請があれば、自らの持つ権限と照らし合わせて行動を決める必要もある。成果を出せなければ弾劾される恐れがある一方で、敵との交戦以外でも自分達の身を守るための行動を起こす必要もある。
これは独立遊撃小隊だからこその悩みだ。普通の部隊は大きな大隊に属し、その指揮下の元で活動する。なのでその生存は後ろ盾になる部隊によって配慮されているし、そこの命令だけ聞いておけばいい。
だが独立遊撃小隊は、小隊で完結し、戦場から戦場へと渡る部隊。作戦においては司令本部の指揮下に組み込まれるが、低いとはいえ独自の指揮権を持った部隊として扱われる。つまり基本的によそ者扱いであり、戦場の塵と散っても気にかけてくれる者はいない。それに加え、直属の部隊がないという事は、あちこちから要請が送られてくるという事であり、それを取捨選択しなければならない。あっちを取ればこっちを取らず。作戦の成功に貢献したとしても、要請を断られた部隊から恨みを買う事もあるだろう。
特に、主力部隊は別動隊を自分達の被害を減らすための囮みたいに思ってる節があるので、ただ生真面目に要請を受けているだけだと早晩いいように使いつぶされるだけなので注意が必要になる。軍人は戦って死ぬのが仕事ではあるが、可能な限り生存し続ける事もまた義務である。
実質的に貧乏くじを引くことになる部隊なのだ。なのでそういった経験を積み本番に備えるためにも、別部隊の演習に混ぜてもらうのは良い経験になる。
もちろん、飛び入り参加ではなく事前に書類を提出してある。何事も段取りと根回しが大事だ。
「こちら第77独立遊撃小隊から第4213戦車大隊へ。こちら、演習への参加を希望する」
基地郊外に展開している戦車大隊の陣地に近づきながら、通信を繋ぐ。前回もめたのとは別の戦車大隊だ。そう無下にされる事はないはずではあるが、念のため警戒して丘陵の裏を迂回しながら接近する。
やや間をおいて、ノイズ交じりの通信が返ってくる。
『こちら第4213戦車大隊作戦本部より第77独立遊撃小隊へ。ようこそ、歓迎する。演習開始時刻までまだ幾分か時間がある。演習内容を戦術ネットワークに挙げてあるので、今のうちに確認してほしい』
「了解した」
通信が途切れる。その後数秒の沈黙を挟んでから、クズノハ砲手が口を開いた。
「……なんか、独立小隊って結構独特な動きをするんですね」
「面倒くさいからな、基本的に。どこにも属さないけど、作戦上は必ずどこかに属して動くし。何度か前線で共闘した事もあるが、基本的に侵攻準備してる所にやってきて穴埋めしてたな。扱いとしては傭兵に近いだろう、扱いの軽さも含めて」
まあ例外はあるが、と内心でつぶやく。高い権限を後ろ盾にした、ある種の特務部隊等が作戦に参加してきた事もそれなりにある。その場合は逆に本隊が囮にされる事もあるし、彼らの作戦行動が本隊の害になったとして文句も言えない。
そのせいで戦場では独立部隊そのものがますます嫌われる傾向がある。まさか自分がその立場になるとは思ってもみなかったが。
「つまりやる事は火消しや偵察ですか。なかなかしんどそうですね」
「それはそうだが、頭に血の上った政治将校に後ろから撃たれないってメリットもあるぞ。後で無理難題だったって上を説得する自信があるなら、やばくなったら逃げられるし」
「それメリットっていうんですかね……?」
「いや時々いるんだよ。政治将校のくせに最前線をよく知らん奴……。明らかに罠だってわかってるところに突撃を強制して、戦略的撤退を敵前逃亡だと思ってるやつ。いちいち事故に見せかけて殺すのも面倒くさいんだよあれ……」
「隊長、やっぱ違う世界の最前線の話してません??」
そうかなぁ? と首を傾げるアレックス。彼としては別によくある事だと思っているのだが。まあそれはそれで、そもそもそんな地雷みたいな政治将校にあたらないにこした事はないので、ミリシア達が知らないのならそれでいいのだが。隊長である自分が理解して対処すればいい話だ。
「隊長、戦術ネットワークから演習内容を引き出しました。ご確認ください」
雑談に興じている間に、優秀な情報管理手がその仕事を果たしてくれていた。彼女から手渡しされた情報端末を手に、内容を記憶と照らし合わせながら確認する。
「事前に説明してたが、もう一回確認するぞ。今回の演習は、敵異星生物のオーガニック・フォートレス数体の存在を想定した攻勢任務訓練だな。第4213戦車大隊の重戦車“光の獅子”、“毒牙の蛇”、“アストライアの星”を中心とした対フォートレス攻撃陣形の連携訓練になる。本隊は重戦車を中心に護衛の主力戦車が12、さらに輸送車両や対空車両が6。対して仮想敵部隊は第7602戦車大隊が担当する。こっちの布陣ははっきりしてないが、アグレッサー部隊を引き出してないあたり、お互いにお互いを仮想敵として訓練やってるのか。どう思う、情報管理手」
「概ね間違っていない解釈かと。アグレッサー部隊の数に対して、ザーバンに駐留してる訓練部隊の数が多すぎますからね。ただ、訓練としてはどうなんですかね……」
「あくまで隊列維持訓練だろう。基本だが一番重要だ。大規模会戦だと隊列から脱落した奴から食われる。……話がそれたな。この演習だと、俺たち第77独立遊撃小隊の任務は斥候をまかされている。本隊に先行して敵部隊を発見し、発見後は戦況の推移を確認、状況に応じて攻撃を行う。いいか、本演習において我々の目標は、遊撃小隊として最低限機能する事を証明する事だ。狭い車内で数日缶詰になる。些細なトラブルが深刻な問題にならないよう、各自報告を怠るなよ」
「了解しました」
部下達が復唱し、演習内容を確認する。それを聞きながら、砲塔の覗き窓から第4213戦車大隊の陣地を目視する。
無数の戦闘車輌が黒い塊のように群れなしているのが見えた。その中に、一際大きな山のような機影が三つ。
動く砲撃陣地とも呼ばれる超大型重戦車、7式あるいはビッグセブンと呼ばれる車輌だ。装甲の分厚さは勿論、火力にも優れた決戦兵器だが、この車輌の最大の特徴はそんなカタログスペックではない。どんな素人でも、どんな軍事音痴でも、一目見ればこの重戦車が普通ではない事ははっきりと理解できる。
この車輛は、二足歩行で移動するのだ。
まるで子供向けのパルプフィクションに出てくるような、ずんぐりとした鉄の巨人のようなシルエット。それが大地を踏みしめ、荒れ地をゆっくりと移動しているのは常識とは何か疑いたくなってくる光景だ。世の中には、この車輛を戦場で目撃した事が引き金になって狂気に落ちてしまう兵士もいるらしい。気持ちはわかる。
しかし、もちろん伊達や酔狂でこんな形状をしているのではない。重装甲に加え、頭の悪いレベルの重火力を備えたこの機体は、当然重量も尋常ではない。そしてそれを効率よく移動させるシステムを、人類は持ち合わせていないのだ。
キャタピラにしろ動輪にしろ、重量を支えるのは横軸、シャフトだ。そして当然、大きければ大きいほど、重ければ重いほど、シャフトにかかる力は大きくなる。そして軸というのは、横からの力に弱い。どれだけ多数のキャタピラに重量を分散したところで限界はあり、それに加えキャタピラ自体も増やしただけ必要な動力は増えていく。仮に7式の全重量を受け止められるだけの横軸を用意した所で、今度はそれを動かすための動力が足りなくなる。何十世紀も前からでていた結論だ。横軸駆動は、効率は良いが限界がある。
それに対し二脚歩行はというと、実は単純な耐過重なら横軸とは比較にならないほど高い。軸は横からの力に弱いが、逆にいうと縦からの力には凄まじく強い。二本足というのは極論、ただの二本の棒なので、その構成素材の限界を超える重量でなければ、とりあえず乗せる事はできる。とにかく重い物を乗せるだけなら、割と理にかなった形状ではあるのだ。
問題は移動時の効率の悪さである。7式は移動は当然歩行するのだが、歩行といっても脚の形状を変化させる事によって移動する静移動方式になり、人間のように“歩く”訳ではない。その重量を支えながら駆動する関節部分を作れなかったのだ。そのためエネルギー効率が悪く、行軍が非常に遅い。
人類の英知を結集して作られた、効率度外視のキワモノ兵器。それが7式、ビッグセブンの実態だ。
そこまでして得た大火力と重装甲は、それだけの価値がある。だからこそ、大きな問題を抱えながらも運用され続けている。勿論、それを効果的に発揮できる手腕あってこその話だが。
お手並み拝見と行きますかね、と内心でつぶやき、車内に視線を戻す。
「作戦指示内容を確認し、訓練エリアに侵入する。ここからはお喋りはなしだ。各自、各々の役割を全うせよ」
今回の訓練は、近隣の荒野で行われる。敵部隊の進軍を想定し、動きが鈍く的になりやすい超重戦車を渓谷に隠しながら進軍し可能であれば側撃、それが不可能であってもできうるかぎり優位な条件で迎え撃つ。そういう内容だ。
戦場となる荒野は中心部に砂漠地帯が存在し、その周囲に広大な丘陵地帯が広がっている。全体からすれば砂漠はごく一部だが、その全体が非常に広いため砂漠も車輛で横断するには数日かかるほど広い。その砂漠では身を隠す場所が存在せず、部隊の展開そのものはしやすいが無防備になるため、基本的に部隊は丘陵地帯に身を隠しながら進軍する事になる。
その上で問題なのは敵の侵攻ルートを把握する事だ。敵と全く違うルートを進めばかち合う事なく自陣への侵入を許してしまうし、遭遇戦になれば被害が無駄に大きくなってしまう。敵のルートを把握しその側面をつき一方的に先制攻撃をしかけるのが勝負のカギだ。
そのために重要なのは、中心にある砂漠を抑える事である。戦場としては適さないが、偵察の起点としては非常に有力なポイントだ。どちらの部隊の斥候がこの地点を抑えるかが、局面を左右する要素の一つになるだろう。
そして独立遊撃隊ほど、こういった任務に適した部隊は存在しない。当然、アレックス達は他の斥候部隊と轍を並べて荒野を行く事になった。
枯れ切った荒野を、三台の軽車輛が砂埃を上げながら疾駆する。最後尾から周囲を見回しながら、アレックスは落ち着いた気持ちで風景に見入っていた。
何事もないとそれなりに暇であるが、かといって気を抜く訳にもいかない。ある程度の警戒を残しつつ脱力するのは、長く戦場で生きていくには必須のスキルだ。ちらり、と先をいく二台の車輌に目を向ける。17式ほど小型化されてないが、それでも主力戦闘車輌に比べればやや小柄の動輪車。小回りも居住性もよいが、戦闘力という一点のみではこちらに劣るが悪い車種ではない。問題は乗っている人員の能力だ。
斥候部隊は、本隊から離れて動く事が多いため、もともと独立部隊の気が強い。また、直接戦闘を任務としない関係上、新兵が戦場に慣れるために配備される事も多く、アレックスの経験上では質にばらつきがある。
確かに、斥候部隊の目は戦局を左右する。が、そもそも広い戦場を、斥候部隊だけで目が行き届くはずがない。よって、彼らの働きは作戦を立案する参謀本部の能力によって決められる。僅かな情報、戦略的判断から敵の侵攻ルートを把握し、適切に目を配置する。基本的に、兵士が現場で考えて判断を下すように軍隊というのはできていないのだ。最低限、言われた事を理解できるだけの知性があれば、斥候は成立する。
勿論、ただそれだけの斥候は使い捨てになる。要は価値観の違いなのだ。かつての、兵士一人一人が貴重であった時代は、単独敵地に潜り込み生還する必要があった斥候部隊や偵察は精兵である必要があった。今は違う、という、それだけの事。
腕時計に目を落とす。
今日はとにかく距離を稼ぐのが任務だ。一定時刻までに、規定のルートを通っていなければ作戦に支障がでる。アレックスの見積もりだと、多少、遅れているといっていい感じだった。
「操縦手、速度を上げろ。あちらとの相対距離を気にする必要はない」
「了解」
エンジン音が僅かに上がり、流れる視界が早くなる。それでも相変わらずミリシアの運転は見事なもので、クッションの類が絶無の軍用車輌にしては快適な乗り心地である。
遠目にみる他の車輌は、荒れ地に足をとられてしばしば大きく揺れている。いくら履帯でも、これだけ速度を出していればちょっとした石でもそれなりに大きな衝撃になる。かといって、動輪車のように細やかなドライビングができるわけでもないから、わかっていても避けられない。こちらの車輌が静かなのは、ひとえにミリシアの技量によるものが大きい。
と、こちらが速度を上げたのに気が付いてか、ほかの車輌も足を速めた。ガタガタゴトゴトと揺れながら速度を上げていくが、しかしこちらほど伸びていない。
それでもエンジン出力を上げ続ければすぐに追いつかれて並走状態に陥る。ヤケになって速度を上げているらしい同僚に、心の中で同情する。仕方ない事だが、乗り心地は最悪だろう。任務に差し支えなければよいのだが。
「……ん?」
不意に、並走する車輌に動きがあった。砲塔上部のハッチがゆっくりと開く。そこから顔を出したのは、車長と思しき顔に傷をもった白人兵士。彼は腕を大きく振り回してアピールすると、ぐっ、とこちらにむけて極めて下品なハンドサインを送ってきた。さらにあざ笑うように、主砲の砲身をこう、卑猥な感じに上下させる。
意訳すると、こんな感じだ。
ヨウ、コノタマナシヤロウ! オンナニカコマレテゴマンエツカ? タマガアルナラオッタテテミロヨ!
「ははーん?」
喧嘩を売られてるらしい。そう理解したアレックスの額にびきりと青筋が浮かぶ。が、しかし。買うべき喧嘩、買うべきでない喧嘩がある。部下の手前もあるし、ここは無視するのが一番ではないかと理性が判断する。小さく息を吐いてここはやり過ごそうと判断した、その時だった。
不意に、砲塔が90度旋回。挑発してきた不届きものへと砲身を向けると、空砲を発射した。びっくりしたあちらの車輛がハンドルを切り損ねてヨタヨタと蛇行する。
「?!」
突然急旋回した砲塔内部で振り回され、辛うじて椅子にしがみついたアレックスは、信じられない思いで砲手席を見下ろした。砲手席では空砲を排莢しながら、次を装填しているクズノハと情報管理手の姿がある。その目はかなり据わっていた。
「ま、まてクズノハ砲手! 勝手な事をするな、なんで撃った!?」
「挑戦を受けたから買ったまでです、サー!」
「右に同じく。あ、ちゃんと空砲を装填してますので」
「そんな自信満々に答えるなバカ! いいか、次やったら厳罰ものだからな!? 気持ちはうれしいけど、そう簡単に喧嘩を買うな!」
部下の突然の凶行に面食らいつつも、こちらも砲塔上部ハッチを開いて身を乗り出す。辛うじて自車のハッチにしがみついているらしいあちらの車長に、必死にハンドサインを送る。
意訳すると、こんな感じだ。
チョウハツシナイデ! コイツラオッカナイカラ!
ワカッタ! キヲツケロヨ!!
視線を合わせて、互いに頷く二人の車長。ここに、二人の心は一つだった。
ぐっ、とサムズアップをかわし、それぞれ車内に戻る。降りてきたアレックスにちらりとミリシアが視線を戻した。
「隊長。どうなりました?」
「問題ない。戦友が一人増えただけだ」
「はぁ……?」
その後はトラブルに見舞われる事なく、予定通り目的地へと到達したのだった。
<戦場のひみつ:戦場では兵士は食事に胃腸の活動を抑える薬剤を混ぜ込まれる。これにより食事量自体が減るのだが、そもそも古来から戦場での兵士の死因が腹部損傷からの感染症が非常に高い割合を占めている事を顧みればわかるように、あくまで兵士の事を思っての対処である。提供されるサプリメントも非常に厳しい基準を課されている。>