「はぁ…!はぁ…!すげっすげぇよ〇〇!こんなのっ…!」
「ちょっと、声が大きいよ、大地…!」
僕の部屋。唯一の親友である大地と一緒に、昨日の動画を観ていた。
今朝、ニヤニヤする翔太の視線を避けながらそそくさと朝食を済ませ、登校した僕の顔色がよっぽど酷かったのだろう。大地はとても心配してくれて、あれこれと世話を焼きながら原因を訪ねてきた。
申し訳なくなった僕は、大地に例の動画の件を話した。僕に並ぶムッツリエロ少年である大地は当然興味深々で、放課後すぐに僕の部屋で上映会となったのだった。
「あぁぁ…羨ましい…羨ましすぎる…俺もこんな可愛い子とベロチューしてえよぉ!」
大地の眼は詩穂の舌に釘付けだ。ズボンはかわいそうなくらいに突きあがっている。
僕はと言えば昨日散々に観た動画だ。隣で興奮しすぎの人間がいることもあり、多少は冷静さを保ちながら観ていられる。
「はぁぁ…女の子の唾ってどんな味がするんだろうなぁ…匂いとか…こんな可愛い子なら、やっぱり凄く良い匂いなんだろうなぁ~」
「そんな訳ないよ…唾だし…きっと臭いよ」
「なんだよ~夢がないなぁお前は」
本音を言えば僕もいい匂いがするだろうと思っているが何となく同意するのは気恥ずかしかった。
そうして場面が僕と詩穂のシーンに移り変わる。
「…コロス…コロス…」
「目が本気になってるよ…」
息を荒げる大地を横に、微かな優越感に浸る。もちろん分かっている。これが本当は自分ではないことは。だが、遺伝子的には?翔太と自分は完全に同一人物である。
つまり実質的には自分と詩穂のセックスであると言えなくもないのだ。もし二人に子供が出来れば、それは自分の子供でもあるのだ。
悍ましい思考、だがそう考えることで、ぎりぎりの所で、自分は心を保っているのだった。
たっぷり3周分見終わって、ようやく大地は満足したようだ。
「ふぅ~、興奮しすぎて喉乾いたな、なんかない?」
「僕も…あ、ごめん、今水しかないや」
「んじゃそこの自販機で何か買ってくるか…じゃんけんしようぜ!負けた方が奢りな!」
「しょうがないなぁ」
結果、僕の勝ち。ジュースを頼んだ大地が部屋を出て行って10分以上経過したが、まだ大地は帰ってこない。
(おかしいな、5分もかからない距離なのに…あ)
スマホにメッセージ。急用が入ってしまってすぐに家に帰るとのことだった。
「なにそれ、ジュース代が払えなかったの?」
冗談交じりの返信を行ったが、返事はなし。よほど急いでいるようだ。
「しょうがないなぁ…」
じっとスマホを、動画ファイルを見つめる。悔しさを抱えながら再び再生し、思う存分自慰に耽った。
その後に飲んだ水はとても美味しかった。
その日の夜中。
再び翔太からプレゼント動画が届いた。届いてしまった。
たっぷり5分はファイルを見つめていたと思う。もうこんなものは拒否するべきだ。これを観続けていたら、自分の何かが致命的に壊れてしまう。
そんな思いとは裏腹に、体は勝手にイヤフォンを手繰り寄せ、再生の準備を完了していた。
いいんだ、だってこれは、自分のえっちな動画なんだから…
後悔と、僅かな期待を胸に、動画を再生した──
◇
「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁぁっ!!」
「よっ兄ちゃん観てるか~?昨日の動画は楽しんでもらえたみたいだな!」
──なんだ、これは──
画面に翔太が映っている。それは、いい。覚悟していたことだ。
(どうして…大地が一緒にいるんだ…!?)
本当に、意味が分からない。大地と翔太には何ら接点はないはずだ。名前も知らないだろう。
「いや~実はさ~、俺も今朝の兄ちゃんの様子見てちょっと悪いことしちゃったなぁと思ってさぁ。やっぱ観てるだけってのは流石に辛かったよな?それでさ、まぁ、本番は流石にダメだけど、ベロチューくらいは兄ちゃんにもさせてやろうって思って、詩穂と一緒に放課後兄ちゃんを迎えに行ったんだよ」
(え…?え…!?僕が…しぃちゃんと…!?本物の…!!)
「そしたらこいつが家から飛び出してきてさ、俺達の事見てめっちゃくちゃ驚いてんの。流石におかしいと思って問い詰めたら…兄ちゃん、あの動画見せたな?詩穂があんなに嫌だって言ってたのに…」
(あ…あ、そんな…そんなつもりじゃ…でも、そうだった…)
凄まじい後悔、懺悔。画面に映る弟の視線から目をそらす。
「…なんてなっ!いや、別に俺は怒ってないんだけどさ。でも詩穂がちょっとな~?だから、罰ってことで、詩穂とのベロチューはなし!」
猛烈な吐き気。口の中の酸っぱさを何とか押し込める。人生の中で、これ以上の後悔はなかった。
その後押し寄せたのは猛烈な悪寒。なぜ、大地がそこにいる?
「んでさ~、こいつと話してたら、こいつ詩穂のやつにべた惚れしてんの。俺がいるのに詩穂に告白した挙句、ベロチューさせてくれって!やべぇだろお前の友達」
けらけらと笑う翔太。いったい何がおかしいんだ。僕たちの詩穂にちょっかいをかけられているのに。
「すげぇ笑えたし、兄ちゃんの友達だからさ。じゃあ、こいつでもいいかなって」
今度こそ我慢できずにゴミ箱に向けて胃液を吐き出した。嘔吐く間も動画が続いていく。
「はぁ、はぁ!ほ、ほんとにいいの!?しほちゃん、いやじゃないの!?」
「あぁ、詩穂には俺が明日一日なんでも言うこと聞く代わりに、今日は俺の言いなりになるって約束してるからな。ただし、ベロチューだけだぞ?本番しようとしたらぶん殴るからな?」
「わかった!はぁぁ!わかった!ぜったいしない!べろちゅー!べろちゅーだけ!!」
「よしよし、んじゃ詩穂、やってやんな。俺と兄ちゃんがばっちり見てるからな」
「…うぅぅ…うー…」
詩穂はかなり躊躇っている。
(当然だ…当たり前だ!何考えてんだよ翔太!しぃちゃんは僕たちの彼女なんだぞ!しぃちゃんも絶対断るに決まってる…)
「詩穂、なんでもだぞ?なんでもしてやるぞ~?」
「…ん…分かった…んぁ~~…♡」
詩穂が、大地に向かって、舌を突き出した。
(──ぁ…?ぁ…ぁ…──)
「っ!!しほちゃん!!ぶちゅぅぅぅ!」
「んんん!?ひょ、ひょっと…ゆっくり…んんんっ」
大地の唇が詩穂の舌を咥えこむと、まるで食べているかのように搾り、唾液を吸い込んでいる。
「あぁぁ!しほちゃん!すごい!べろ!もっとちょうだい!すぅぅぅぅ!うあぁぁ…」
「おひふいて…ひゃんと、ひてあげるからぁ…」
「うわぁ…」
大地は一通り舌を味わった後、今度は鼻を舌に押し付け、唾液ごと詩穂の吐息を吸い込み続ける。
その後は舌を絡め合ったり、舌を差し込んで思うがままに這いずり回せたり、およそ考えつく限りのキスを試そうとしているようだ。
翔太は引き笑い。その余裕が信じられない。
息継ぎの為にようやく顔を離したところで、翔太が話しかける。
「必死すぎだろ…顔中べったべたじゃん。大丈夫か?」
「はぁっ!すごい!いい匂い!甘いっ!しほちゃん、すごい!」
「いやいい匂いはねーだろ流石に。臭いだろそれは」
翔太の冷めた返答に詩穂が傷ついた声を出す。
「く、臭くないよ…ないよね…?翔太くん、そんなふうに思ってたの…?」
「いや~流石になぁ、でもすげぇ興奮する匂いだよ?俺詩穂とベロチューするの好きだし。それでいいだろ?」
「うー…臭くないよぉ…」
「臭くないっ!」
涙目の詩穂に大地が叫ぶ。
「しほちゃんは凄くいい匂いだよ!こんなに好きな匂いは初めてだ!唾の味も、息も、何もかも大好きだ!しほちゃん!結婚してっ!!」
「えっえっえっ…え、えへへ…♡あ、ありがと…」
大地の勢いに少し呆気に取られていた詩穂だったが、やがて笑顔を見せた。そして…
「…♡」
「ぁ…しほちゃん…?」
詩穂は優しく大地の頭を抱えると、ゆっくりとベッドに押し倒し
「…れぇろ…れぇ~♡」
大きく舌を突き出し、大地の鼻先でれろれろと挑発的に動かした。
「!!!!!」
微かに取り戻していた冷静さを一気に彼方へ吹き飛ばし、その舌を迎えようと口を開ける大地に対して
「んっんっ♡ぅれぇぇ~♡あむっ」
「ぉっぉ…」
詩穂は伸ばした舌を差し込むように大地の口へ突き入れた。唇をべったりと己の唇で覆い、微かな隙間から唾液が溢れている。
「あ~あ…詩穂、キス魔だからなぁ~。こうなると長いんだよ」
撮影に専念していた翔太が画面に顔を出す。その顔は…何故か、軽い申し訳なさを示していた。
「ごめんな兄ちゃん、こりゃもう本番は無理だ。今日は一日中べろべろ地獄だな。あいつには頑張って付き合ってもらわないとな」
本番はまた今度撮るから、勘弁な!
手を合わせ軽く謝る翔太に心底からの怖気を感じた。同じ血を分けた、双子とは思えない。恋人のあの姿を見て、どうしてこうもいつも通りなのか。
「ずっとこれ見てても退屈だし…俺、ちょっと遊んでくるわ~。カメラは合わせとくから、兄ちゃんは好きなだけ見ててな~」
扉の音、本当に出て行ってしまった。カメラは位置を変更し、AVの主観視点のようになっている。
(しぃちゃん…)
詩穂は一度舌を口内に戻すと、大きく息を吐き、大地の口内から唾液を一気に吸い込んでいく。
(しぃちゃん…)
口内に溜まった唾液を、大地の面前でぐちゅぐちゅと頬を動かしながら攪拌している。
(しぃちゃん…!)
たっぷりと溜まった唾液。大きく膨らんだ頬を見せながら、大地を、こちらを見つめる詩穂。
(しぃちゃん…!!)
「しほちゃん…!」
「…♡ひっぱい、飲んでれ…れぇ~~♡」
「あぁぁぁ…!うまっじゅる!うまひよ…しほちゃん…!」
ごくごくと止めどなく動く大地の喉。そこからその量が窺える。
(…あぁ…"こいつ"は…僕がただの水を美味しいと飲んでいた時に…しぃちゃんの唾液をたっぷり飲んでたんだな…)
今の自分は、間違いなく生きた屍にしか見えないだろう。違いは滑稽なまでに一心不乱に自慰に耽っていることだけだ。
やがて大地と自分は同時に達した。僕が自分で必死に手を動かしていたのに対し、大地は詩穂の唾液のみをオカズにした至福の射精だ。
(もう…無理だ…無理だよ…)
前回の動画の時点で、本当に限界だったのだ。ただ、あのシーンのお陰で。画面に映る翔太の姿を自分であると思い込むことによって、どうにか心を保っていたのだ。
(あの時…あの時…!)
ジュースを賭けた、じゃんけん。
「あの時負けていれば…!負けて、いればぁ…僕だったのに!僕がしぃちゃんとぉぉ!」
もはや声を抑えることなど出来ない。泣き叫ぶ僕に仰天した両親が飛んでくるが、鍵を開ける気力もない。
翔太の声が聞こえる。どうやら何かしら理由をでっちあげてくれたようで、両親は戻っていった。
僕はそのまま…求めあう二人の水音をBGMにしたまま、気絶するように眠りについた。
◇
翌朝。翔太に軽く頷き、あからさまにこちらに気を遣う両親に努めて気づかないようにしながら、ふらふらと学校に向かう。
「よ、よう…」
「あぁ…」
大地が決まり悪げに声をかけてきた。
「あ~…ごめんな、昨日は…あ、これジュースな」
「…うん…いいよ…ありがとう…」
「…えぇと…その様子だと…見た?俺の…」
「見たよ…良かったね。おめでとう」
「お…おう!ほんとに!すごかったぜ!あ、そうだ、唾の味と匂い、教えてやるよ!〇〇も気になってただろ?」
「いいよ、僕は…」
「遠慮すんなって!唾ってさ~舌のどこにあるかで味が違うんだよ!んでな──」
興奮して捲し立てる大地。自分に話すという大義名分を得ながら大切な思い出を脳に焼き付けているのだろう。彼にはあの動画が送られていないから。自分ももう、決して見せない。
「匂いもさ~すげぇ興奮する匂いでさ!例えるなら~」
雑音だ。僕には、関係のない話だ。どうでもいい。
死んだ心と裏腹に、股間はズボンを必死に押し上げていた。
次回「同級生」に続く