大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
絶対にこの女、めちゃくちゃにしてやる。
そう思っていたのだが。
「──そう、こうして……ほらクリアできた。ねっ、さっきのダンジョンでスキル変えておいた方が簡単だったでしょ?」
マンションの窓の外には綺麗な夕焼け空。
俺はリビングのソファーに座り、香山桃花は隣に座って俺の持つゲーム機を覗きこむ。
「ほら、次のダンジョン行くよ!」
最初こそ俺のことなんて見向きもしなかった彼女。
特に会話らしい会話もなかったから、暇つぶしに渡されたゲームで遊ぼうと思ったのだが、少ししたらなぜか彼女は隣に座りだした。
どんだけ同じとこで死んでんのさ。このゲームやったことない? じゃあ、教えてあげる。
と、音を出して遊んでいたから気になったのか、俺が同じステージで何度も死んでいることに気付いて攻略方法を教えてくれた。
どうせこのステージだけだろう。
そう思っていたのだが、かれこれ3時間も隣でゲームのレクチャーを受けている。
それに、いつの間にかお菓子とジュースまで用意されていて、気付くと俺は年相応の中学三年生の休日を楽しんでいた。
「香山さんって、ゲーム好きなんですか?」
「ん、まあ好きかな。暇なときとか一人で遊べるから。ってか、名字で呼ばれるの変な感じだから桃花さんって呼んでいいよ」
「じゃあ、桃花さん」
「うん。で、実家にいたときは弟とよくこうして一緒に遊んでたのさ」
「弟いるんですか?」
「そう、8つ下のね。君と同じぐらい? 少し上か」
「ですね。今は高校生ですもんね」
「そうそう。でも見た目とか……うん、同じ感じかな」
俺の全身を眺めてから何度か頷く桃花さん。
第一印象では彼氏大好き地雷系女子だったが、こうして話してみると普通に優しくて面倒見のいい姉のような感じだ。
「あっと、そろそろ夜ご飯の準備しないと……」
「えっ、桃花さん料理できるんですか?」
「ちょっと……人を見た目で判断するの良くないよ? お姉ちゃん感心しない」
やっぱり弟に接するような対応だ。
まあ、弟のように接することができたから、ここまで距離を縮められたともいえるか。
そして桃花さんはキッチンへ向かった。
愛用のエプロンを付け、鼻歌混じりに料理を始めた。
「俺も手伝いますよ」
「ううん、いい! 祐輔くんはゲームしてて。もう少しレベル上げてくれないと一緒に遊べないから!」
どうやら一緒に遊ぶつもりらしい。
そういえばこのゲーム、協力プレイ対応だったな。
彼女の鼻歌や料理をする心地いい音を聞きながら、ゲームを続けた。
……それから一時間。
「「いただきます」」
美味しそうなカレーに揚げたてのカツ。
サラダなんかもテーブルに並べられていた。
「これ桃花さんが作ったんですか?」
「他に誰がいんのよ。家政婦さんでも家に来てた?」
「いや……なんか、本当に料理できるんだってビックリしちゃって」
「まったく。これでも花嫁修業はしてるの。料理だって、仕事でどれだけ疲れててもちゃんと手料理を作ろうって決めてるんだから。それよりほら、早く食べてみて」
ニコニコとした笑みを浮かべながら見つめられ、俺はカレーを一口。
「……美味しい」
「ほんと? 良かった。トモくんカレーとお肉料理が好きだから、いっぱい練習したの。市販のルーだけじゃなくってスパイスとかもネットで調べて色々と試してみたんだよね」
「へえ」
誇らしげに語る桃花さんを見ながらパクパクと食べ続ける。
お世辞抜きに料理は美味しかった。
それに仕事で疲れててもちゃんと手料理を作ろうって決めてるって、相当凄いことだと思う。
35才の俺の妻なんて、レンジで温めるものばっかだし、ひどいときはカップ麺とお湯だけ置かれてたりしたし。
「そういえば、桃花さんってなんの仕事してるんですか?」
「ん、アパレル店員。いらっしゃいませー、どうですかー、お似合いですよー、って」
「ああ、っぽいです」
「でしょでしょ。モモね、服選びのセンスはピカイチなんだよ!」
桃花さんの喋りが止まらない。
自慢話が七割ほどと多いが、それでも楽し気に話す彼女を見ていると、不思議とつられて明るい気分になる。
だから初対面での食卓だというのに、居心地の悪さもなく明るい雰囲気で食事を楽しめた。
「ごちそうさまでした、めちゃくちゃ美味しかったです」
「そう言ってもらえて良かった。モモも久しぶりに誰かと一緒にご飯を食べれて楽し──」
そこで言葉を止め、あはは、と自分で吐いた言葉を消すように悲しそうに笑う。
もしかして俺が想像していた以上に二人の関係って終わっているのか?
そんな疑問が浮かび、桃花さんの一瞬だけ見せた悲し気な表情を見てしまったから、桃花さんが吐き出し途中で飲み込んだ言葉の意味を聞けなかった。
「お風呂沸かしておいたからどうぞ。あっそうだ、お姉ちゃんが背中流してあげよっか」
「えっ?」
食べ終わった食器を流し台に持っていくと、覗き込むように見てくる桃花さんと目が合った。
そして見つめ合うと、子供のような笑顔を浮かべて笑う。
「もしかして照れてる?」
「いや、別に」
「もう照れなくてもいいのに。あっ、皮剥けてないから恥ずかしいとか? ふふん、じゃあお姉ちゃんが剥くの手伝ってあげる!」
別に恥ずかしがっているわけでも、皮被っているわけでもないんだが、桃花さんは勝手に想像して楽しそうだった。
きっと彼女にとっては弟と一緒にお風呂に入るみたいな感覚なのだろう。年齢的にはそうなんだが、まあいいか。
「じゃあ一緒に入りますか」
「うん、いいよ!」
恥ずかしがるわけでもなくどこか嬉しそうな顔で笑った彼女を見て、素直に可愛いと思ってしまった。