大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「それじゃあ、行くか」
「あ、うん……」
──木曜日の放課後。
ホームルームが終わった教室の騒がしさを背に、俺と奈菜は廊下を歩く。
『学校帰り一緒に遊ばないか?』
と誘った結果、奈菜は短く『うん、いいよ』と返事をくれた。
相変わらず学校では俺を避けている様子はあるが、それでもちゃんと隣を歩き付いてきてくれる。
ただその表情は暗い、というよりも固い。
「もしかして体調でも悪い?」
「え、ううん……大丈夫」
と言うが、奈菜の表情は変わらない。
おそらく、あの手コキをしてくれた日から俺を意識しているのだろう。
「そういえば、今日って何処に行くの……?」
「ああ、まだ言ってなかったか。見に行きたい映画があるんだ」
「映画? そう、なんだ……映画か。久しぶりだね、映画館に行くの」
少しだけ表情が明るくなった奈菜。
もしかして、そのまま俺の家に連れて行かれると予想していたのだろうか。
まあ、それでも良かったんだけど……。
「祐輔が映画館で映画見たいって言うなんて珍しいね」
「CM見てて面白そうだなって思ったのがあってさ。前から見たいなって思っていたけど、一人で行くのもなあって」
「それで私を誘ったんだ」
「奈菜なら一緒に見に行ってくれるかなって」
「なにそれ。私は便利屋じゃないんですけど?」
「だけど一緒に来てくれるだろ?」
「まあ、行くけどさ、もう。それで、なんて映画なの?」
久しぶりの会話。
なんだか奈菜の楽しそうな顔を見たのも懐かしく感じる。
そして俺たちは映画館へ。
俺の見たいと言った映画はそこまで人気がなく、一日に一回しか上映されない。
「10分後か……祐輔、何か買っていく?」
「飲み物は一応……ポップコーンとかいるか?」
「うん、一緒に食べよ!」
映画館なんて何年ぶりだろうか。
もちろん、35年生きてきた方での記憶でだ。それぐらい懐かしい感じがする。
このLサイズの飲み物とバケツぐらいの大きさのポップコーンを持ちながら始まるのを待つ。
「うわ、人いないね……」
「ああ」
平日の16時ということもあって俺たち以外に客は数人だけ。
「……祐輔、あっちかな」
小声で話す奈菜に付いて行き、俺たちは後ろの席へ向かう。
「なんだか貸切みたいだね」
「だな。こんなに人気なかったのか」
「祐輔から聞くまで私もこの映画のこと知らなかったから、そんなに人気ないんじゃない? ほんとにCMやってたの?」
「うん、たぶん……」
実際はCMを見たのも20年前の記憶で、俺はこの映画を見たことがない。
今どんな映画があるのか調べているときに、当時見たかったけど見れなかったこの映画を選んだ。
だから面白いかどうかわからない。もしかしたら外れかもしれない、そんな嫌な予感がした。
「あっ、始まった」
辺りが真っ暗になり、上映開始を告げるブザーが鳴った。
♦
──30分後。
「……」
「……」
まだ上映中だがわかる、これは絶望的に面白くないクソ映画だ。
隣に座る奈菜もどこか退屈そうにしていて、少し眠たそうにも見えた。
「……奈菜」
「……ん」
体を寄せて小声で会話をする。
「想像以上に、あれだな」
「えっと、うん……たまにあるよね、CMだけ面白そうな映画って」
「ごめんな、こんな映画に誘って」
そう伝えると、奈菜は首を左右に振った。
「ううん、大丈夫」
申し訳ない気持ちを抱えながら周囲に視線を向けると、他のお客さんも退屈そうにしているのが目に入った。中には途中で席を立って帰っていく姿も。
これは想定外だ。
どうする、早めに切り上げて移動するか。
「早いけど、もう出るか?」
「え、せっかくお金払ったのにもったいないよ」
「そうだけど」
「いいよ、たまにはこうやってボーっとするの。あっ、肩貸して」
俺の肩に頭を乗せる奈菜。
「なんか眠たくなってきちゃった」
「寝るなよ?」
「ふふ、約束はできないかな」
今にも寝るんじゃないかという姿勢。
誰にも聞かれないほど小さな声で世間話をする俺と奈菜。
そんな彼女に俺は少し攻めた話題を振った。
「そういえばこの前さ、奈菜に変なことさせてごめんな」
「──え!?」
大きな声を出した奈菜は、慌てて口に手を当てる。
「きゅ、急に、どうしたの……?」
「あの後、自分で調べたんだよ」
「……そう、なんだ」
お互いに顔は見てはいない。
たださっきまで肩に乗せていた奈菜の頭が離れてしまった。
「変なことさせてごめんな」
「……ううん」
「俺のこと嫌いになったよな」
「なんで……?」
「だって奈菜、あの後から俺のことずっと避けてたから」
「違う、あれは……」
少し間を空け、
「あれが嫌だったからとか、祐輔が嫌いだからとかで避けてたわけじゃない……」
「じゃあ、なんで避けてたんだ?」
「それは……」
この返答や間からも、俺のことをどうして避けていたのかはわかった。
であればここは押すべきだろう。
「実はあれから……奈菜のことばっか考えてるんだ」
「え!?」
「それに奈菜に手でしてもらってからここも変なんだ。奈菜を見るたびに、その……」
「あの、ね……その、祐輔」
「奈菜……」
「な、なに!?」
「もう一回、してくれないか?」
「え、えええ!?」
俺の今日一日の想定とは異なる展開だ。
だけど映画館で他の客にばれずにエッチするというのは、誰しも憧れるシチュエーションだ。