大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
──土曜の朝。
旅行の準備を済ました奈菜に叩き起こされ、急かされ、俺は東京へと向かった。
35才の頃は何年もここで暮らしていた。
人々が忙しなく生きるこの場所で、俺もその中の一人として生きてきた。
そう考えると、今の学生としての生活ってめちゃくちゃ楽だよな。
当時は学校に行って勉強するのめんどくさいとか思っても、毎日──たまに休日ですら出勤しなくちゃいけない社会人生活に比べれば楽ちんだ。
雲泥の差。
まあ、これも35年の経験があるから思うんだろうけど、何も知らない学生たちは早く学校を卒業して仕事したいとか言うんだろうな。
もちろん仕事していたら給料を貰えて人生は変わるけど、その分──。
「結局は、ないものねだりなんだよな、きっと」
「……祐輔、大丈夫? 電車で酔った?」
隣に座る奈菜に心配そうにされた。
お前も大人になったらいろいろ大変だぞ。仕事とか税金とか、あと結婚したら子供の高校大学の費用なんか……。
「ふっ」
「え、なんで私を見て鼻で笑ったの?」
大人の苦労をまだ何も知らない彼女にマウントをとって腕を組む。
「まあ、最近の祐輔が変なのはいまさらだけど。あっ、着いたよ!」
奈菜に連れられて電車を降りる。
土曜日の朝でも多くの人が駅のホームにいる。
隙間を探すのが苦労する人の波を俺はスルスルと避けれたが、奈菜はぶつかり「すみません!」と立ち止まって謝って、また誰かにぶつかりそうになっていた。
俺は手を伸ばし、彼女の手を繋ぐ。
「あっ……」
人の群れを抜けると、奈菜は大きく息を吐く。
「人、多すぎ……!」
「まあ、東京だからな」
「通勤ラッシュとかテレビで見て他人事みたいに笑ってたけど、これから三年間、この生活しないといけないなんて……やっていけるのかな?」
「大丈夫だろ」
最初は不安でも一年経たず適応する。俺がそうだったように、奈菜もそうだろう。
「でも、ありがと」
「ん?」
「手……祐輔にしては、女の子のことわかってたね。珍しい」
「珍しいって……」
奈菜は俺の手を繋いだまま嬉しそうに微笑む。
その表情に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。
上はV字の白のニットに、下は足下まで隠れるトレンチコート。
腕時計、綺麗なネックレス、黒のバッグ。踵の高いレースアップシューズを履く。
奈菜のことを何も知らなければ、彼女を中学生と思わないだろう。
清楚感もあった大人っぽい服装の彼女。
「……そういえば、今日の服似合ってるな」
「え、ほんと? ママと一緒に買い物行ったときに選んでもらったの。少しは大人っぽく、なれた……?」
上目遣いで聞かれて、俺はため息をつく。
計算でやっているのか知らないが、こんな大人びた中学生いてたまるか。
中学生なんてTシャツ短パンに、虫取り網でも持っておけ。
「かもな。だけど、奈菜が一番大人っぽくなるのは、ベッドの上で裸になったときだけどな?」
「も、もう! そういうのじゃないの!」
「ははっ。で、ここからどうすんだ?」
一泊二日のルートを俺は知らない。
高校進学したら一人暮らしする家を探す……とからしいけど、何処に向かうとかはわからない。
すると、奈菜はスマホの画面を見る。
「もうすぐ着くと思うんだけどなあ……」
「もうすぐ着く? ん、誰か来るのか?」
「えっとね──」
「──奈菜!」
こちらに向かって手を振る彼女は小走りで駆け寄ってくる。
「お、おまたせー、もしかして待った?」
「ううん、さっき着いたばっかだよ」
「そっかあ、良かった。あっ、祐輔も……久しぶりやね」
大きな瞳に長いまつ毛。左目の下に見える泣きぼくろ。
元から160ぐらいの身長のある彼女だったが、前に見た制服姿とは違って今は私服で、踵の高い靴を履いているから前に見たときよりも大きく感じる。
俺と並ぶと顔一つぐらい彼女の方が大きい。
中学生とは思えないほどモデルのような大人びたルックスで、服装も若干だがボーイッシュな感じだ。
少し大きめなグレーのパーカーに黒のショートパンツ。
以前は巻き髪だった茶色の髪は、胸元までストレートに伸ばし、鍔の長い帽子を被っている。
勉強合宿の時にいろいろあった
「ああ、久しぶり。メッセージのやり取りは何度もしてたけど、会うのはいつ以来だ?」
「えっと、その……たぶん、先月の終わりぐらいやと思う」
「そうだったな」
会いたい。
そう言われて彼女に会いに行き、何度も犯してやった先月の終わり。
何をしたのか、どんだけ乱れたのか、それを思い出したのか蘭華は若干だが涙目になりながら顔を背ける。
「奈菜が誘ったのか?」
「うん、そうだよ。蘭華ちゃんも来年から同じ高校に通うでしょ、で一人暮らしするから一緒に家探ししよって誘ったの。ねえ?」
「う、うん、そうなんよ」
堂々とした雰囲気の奈菜とは違い、蘭華はどこかよそよそしいというかぎこちない感じがする。
その理由を気になっていると、すぐに奈菜が教えてくれた。
蘭華の腕を組み、肩に頭を乗せ、
「良かったね、来年からは好きなときに祐輔とエッチできるよ」
「ちょっと、奈菜……ッ!?」
「もう、別に三人とも知ってるんだから恥ずかしがらなくていいのに」
動揺する蘭華を無視して奈菜がおちょくる。
俺と蘭華が合宿中にセックスしたことを奈菜は知っていた。それを蘭華に話したのか。
蘭華は恥ずかしさとか気まずさからぎこちない感じでいるが、奈菜は──まあ、他の女とセックスすることを許容しているから何も思わず楽しんでいる。
「本当は今日、祐輔とエッチできると思って期待してたくせに!」
「奈菜! 祐輔の前で言わんといてっ!」
「ぷぷぷっ、メッセージで虐めるより生の蘭華ちゃんの方が反応おもしろいね!」
顔を真っ赤にさせた蘭華を奈菜が虐めて楽しんでいる。
こうして一泊二日の旅行が始まった。