大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
奈菜と蘭華との三人での一泊二日の旅行が始まる。
そう思っていたのだが、不意に蘭華のスマホが音を鳴らす。
画面を見た彼女は「うっ」と表情を歪ませる。
「やばっ、待たせてるの忘れてた……。ごめん二人とも急いで」
急いで移動する蘭華に俺と奈菜は付いて行く。
向かった先は近くにある駐車場。蘭華が向かった車を見て、今度は俺が「うっ」と表情を歪ませた。
「マジか……」
だけど奈菜は何も知らず「左ハンドルってことは外国の車だよね、凄い!」と言っているだけ。
オレンジ色の車体の外車を見て恐怖している俺の気も知らず。
そして蘭華に手招きされ車の中へ。
「ちょっと蘭華、どんだけ待たせるのよ! あたし、夜から仕事なんですけどー?」
「ごめんごめん!」
「まったく……あっ、二人とも、はじめまして」
後部座席に座った俺と奈菜を見て、運転席の女性はサングラスを外して挨拶をする。
奈菜はぽかんと口を開けて彼女に見惚れていた、それほど綺麗な女性だった。
ウェーブした茶色の長髪に高い鼻。大きな瞳に長いまつ毛だが、化粧が濃いというよりむしろ薄い方で、おそらくすっぴんでも美人なタイプだ。
そして顔のパーツ全てが完璧なだけでなく、座った状態でもわかるほどスタイルがいい。
細い腕と脚に引き締まったお腹。けれど大きくて色気のある胸。
車の中でもわかる甘い匂いを漂わせた彼女は全て完璧だ──着ている地味な黒のジャージ以外。
「あたしはこの子の姉の
ウインクされ、奈菜が動揺しながら「よろしくお願いします!」と大声で挨拶をする。
同性も憧れるほどの美人な姉か。
何回か蘭華に会いに行って、両親とは何度か挨拶したけど姉がいることは初めて知った。
そしてお姉さんは俺をジッと見つめ、ニコリと微笑む。
「へえ、君が……」
すると、蘭華が慌てて止める。
「ちょ、ちょっと、おねえ!」
「あー、ごめんごめん。ふぅん、蘭華ってばこういう子がタイプなんだあ」
「おねえ!」
「はいはい。それじゃ、しゅっぱーつ!」
車は目的地も告げず走り出す。
「蘭華ちゃん、もしかしてお姉さんに付き添いお願いしたの?」
「えっと、うん。おねえ、ずっと前から東京に住んでるから、こういう地形とか詳しいやろなあって」
「そうそう、あたしが二人にいい家見つけてあげるからね」
「は、はい、よろしくお願いします!」
すると、バックミラー越しにお姉さんと目が合った。
「祐輔くん、どうかした?」
「いえ、すみません。この車ってロール・ロイス・ゴーストですよね?」
「へえ、知ってるんだ」
「ロール、ロール、ん、なにそれ祐輔」
「ロール・ロイス・ゴースト。高級車だよ。確かこの時期だと……2000万から3000万ぐらいした気が」
「「3000万!?」」
奈菜が驚くのは当然だとして、なぜか妹の蘭華まで驚いていた。
「お、おねえ、そ、そそそ、そんな車いつ買ったん!?」
「え、いつだったかな……忘れた。数か月じゃない?」
「数か月前!?」
「へえ、でもそんないい値段したんだ、知らなかった!」
もしかして。
「誰かに買ってもらった車なんですか?」
「ん、そうだよ。お店のお客さんからねえ」
それを聞いて、ああ、なるほどと思った。
「おねえはその、東京でキャバ嬢やってるんよ」
「ちっちっちー、あたしはただのキャバ嬢じゃないよ。No1キャバ嬢なの!」
それから蘭華がお姉さん──華怜さんのことを教えてくれた。
華怜さんは今年23才で、高校卒業と共にキャバ嬢になったのだとか。
で、元から完璧だったルックスをさらに磨き、人から好かれる性格で一気に人気キャバ嬢になった。
月の給料はうん千万ほど。
客からの貢物も凄く、今乗っているこの高級車も、数か月前まで乗っていた高級車も全て貢物だという。
マンションなんかもプレゼントされたらしいが、客から貰った家で住む気はなれないと言ってそこには住んでいないらしい。
「──だから東京には少し詳しいの。で、そんな姉を妹は運転手としてコキ使おうってわけ」
「べ、べつに、運転手にお願いしたけど……もう、うちがお願いしたら、素直にいいよって言ってくれたやん!」
「それはだって、ねえ……?」
華怜さんはバックミラーで俺を見て、クスッと笑った。
「あの恋愛に奥手だった蘭華が勉強合宿で男を作ってくるなんて……しかもママとパパに紹介までして。その相手がどんな男か、姉としては気になるじゃん?」
「もう、おねえ!」
「くすくす、運転手として雇われてあげるんだからそれぐらいいでしょ。でもまさか……」
今度は奈菜を見て、華怜さんはさっきよりも悪い笑みを浮かべる。
「まさか現地妻がいたなんて。話では”そういう男”だって聞いてたけど……ぷーくすくす、修羅場おもろっ!」
「おねえ!」
どうやらある程度の事情は知っているらしい。そして「妹をたぶらかすな!」みたいな固いことを言われることもないらしい。
どこか子供のおままごとみたいな感じで、俺たちの関係を傍観者として楽しんでいるようだった。
「……高校入学と共に始まる修羅場の三角関係。いや、もしかしたら高校でもっと女が増えて……あはっ、どっかのアニメみたいに刺されないように気を付けてね?」
奈菜は華怜さん寄りに面白がって笑い、蘭華は顔を真っ赤にさせて恥ずかしがって騒ぐ。
そして俺は、
「あはは……」
あるかもしれない未来だなと、変な笑い方をした。