大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「知っているんですか?」
もしかしたら別の話で、本当は何も蘭華から聞いていないのかもと思って曖昧な質問をした。いくら実の姉でも、望んでいないのにあのことを知られるのは嫌だろうから。
だが、
「あの幼馴染にセフレ扱いされてたことでしょ? うん、あの子から聞いた。勉強合宿から帰って何日か経ってからだけどね」
あの幼馴染というのは、蘭華の幼馴染であり、アカネという彼女とのセックスを蘭華に見せつけようとした慶谷のことだ。
そうか、蘭華は自分から話したのか。
「まあ、聞いたというよりも聞き出しただけど。本当は、あたしにも内緒にするつもりだったんだろうね。だけど勉強合宿から帰ってきて、急に『メイクの仕方教えて!』とか『うちに合う服選んで!』とか、前まで興味なかったくせに急にお洒落に目覚めたからしつこく聞いたのさ。きっと男ができたんだろうなって。姉としては、妹に男ができたってニュースは嬉しいから。だけどまさか……」
はあ、と大きくため息をつく。
そのため息は俺にではなく、幼馴染の男へ向けたため息だとすぐにわかった。
「あの子が、そんな状況だったとは思わなかったなあ……。言ってくれればなんとかしたけど、まあ、実の姉にも相談できないよね」
「……」
「だから良かった。あの子が君と出会って、幼馴染の呪縛から解放されて」
「セフレなのは変わってないですよ?」
「それでもだよ。だって学生時代の交際なんて、大人になって思い返してみればおままごとみたいなものだから。あたしとしては変に片思いを拗らせるより、いろんな人を好きになったり、多くの経験をした方が、恋愛においては学生として一番有意義だと思ってる」
まあ、実際に俺が関与しなかった35才の頃では、蘭華はその後──報われない人生を送った。
そうなったのもきっと、中学生時代の拗れた幼馴染との関係が原因だったはずだ。
それがわかっているから、なんとなくだが華怜さんが言ったことにも素直に頷けた。
「それにさ、同じセフレだとしても、相手のことを本気で好きなのか、その関係でもいいから一緒にいたいと思える相手かどうかで変わるでしょ。周りから『セフレとか恥ずかしい』って言われようが、結局のところは学生の間は多くの経験を積んで楽しんでくれれば姉としては満足なのよ。真面目な恋愛だとか結婚だとかを考えだすのは、ちゃんと仕事して稼いでから考えればいい。学生なんて好きに遊ぶべきでしょ!」
華怜さんはそう言った。
まあ、大人になってからわかるけど、中学生とか高校生の恋愛なんて華怜さんが言ったようにおままごとみたいなものだ。
大人の知識を持って中学生に戻った俺がいい例だ。
あの頃では絶対にしなかったようなことを、俺はこの体でたくさんしてきた。
それは経験だ。大人の経験があったから、そうできた。
華怜さんもきっと同じだろう。
大人だからそう思い、大人だから学生時代は好きにした方がいいと考える。
「そういえば知ってる? あの子、エセ関西弁を封じて標準語に戻そうとしてるのよ」
「そうなんですか?」
「そうそう、なんでかわかる?」
「いえ、なんでなんですか?」
「標準語の方が君の好みだと思ったんだって。それに可愛いからだとか。馬鹿よね、今のままでも十分可愛いのに」
ケラケラと笑う華怜さんは腕時計に目を向ける。
すると時間なのか、運転席に向かう。
「そうやって悩むだけでも、恋愛苦手なあの子が女として成長したってことでしょ。だから感謝してるよ、君にね」
「感謝されるようなことしてないですが、まあ、正当化してもらえるなら有難いですね」
「ふふっ、じゃああたしもう行くから。あの子のことよろしく。あっ、ホテルに面白いプレゼント置いておいたから使ってね」
面白いプレゼント?
首を傾げていると、華怜さんを乗せた車は走り出した。
♦
「うわあ……ほんとに、ここで合ってるの?」
「おねえから貰った位置情報は、このホテルで間違いないんやけど……」
「もしかしたらとは思っていたけど、ここまでか……」
あんな高級車を乗り回していた人が用意してくれたホテルだ、普通なわけない。が、予想を遥かに超えていた。
都内の一等地に建てられたホテル。
首が痛くなるほど見上げて、やっと天辺が見えるほど高い。
このホテルが決して中学生が泊まっていいホテルではないということだけはすぐにわかった。
というより、35才のときもこんなホテル泊まったことないぞ。一泊いくらすんだよ、このホテル。
そんな風に困惑していると、正装をしたドアマンがこちらへと近付いて来る。
「いらっしゃいませ。ご予約されたお客様ですか?」
「え、あ、あっと、えーっと」
「そ、その、おねえ、あっ、お姉ちゃんが」
初めての体験に挙動不審になった二人。
まあ、無理もない。
「すみません、小日向華怜で予約していると思うのですが」
「小日向華怜様ですね。確認しますので、どうぞこちらへ」
ドアマンに付いて行きロビーへ。
煌びやかなシャンデリアに高級感のあるクリーム色のタイルの床。
他の客も上品な人が多く、はっきり言って俺たちが場違いだと思い知らされる。
「──小日向華怜様のご予約で確認できました。お部屋までご案内します」
受付の女性に案内され、俺たちは華怜さんの用意した部屋へ向かう。
エレベーターに乗り、そわそわした奈菜が受付の女性が押したエレベーターの階層を見て目を見開く。
「……24階だって!」
興奮気味の奈菜。
エレベーターを降り、長い廊下を歩いていても変わらず、むしろ挙動不審に拍車をかける。
そして部屋の前に案内された。
華怜さんに渡されたカードキーをかざし、中に入ると──。
「「「え……ええ!?」」」
部屋を見て俺たちは驚愕した。