大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「なんていうか、やっぱ空気が……はあ」
次の日。
約束通り部活動見学に行った。
行く前はルンルンだった白石だったが、部室を出て電車に乗ると大きなため息をついた。
「入部届、出さなかったな」
「だってムリでしょ。話しかけても「はい」か「いいえ」か無視しかしない先輩と一緒にボードゲーム楽しむとか。はあ、ボードゲームしたかったなあ」
「そんなに好きなのか、そのボードゲームってやつ」
「まあね。地元が田舎でさ、東京みたいに近所にたくさんいろんなお店があるわけじゃないからさ、遊ぶってなったらゲームとかスポーツとかしかすることないのさ」
周り畑か牛だから。
白石は笑いながら言う。
「で、ボードゲームに詳しい友達に誘われてやってみたらハマってさ、こっちでもやりたいなあって思ったのさ」
電車から降りてマンションへ。
「楠木もやってみな、絶対にハマるから」
「確かに聞いてたら面白そうだな」
「結構ね、ボードゲームって種類あるからハマったらずっと遊べてさ」
それからもボードゲームの魅力を聞かされ続け、気付くと住んでいるマンションへ。
部屋に向かうと、
「あっ」
玄関の前で奈菜が待っていた。
奈菜は俺と白石を見て口を大きく開ける。
「あれ、どうしたんだ」
「メッセージ送ったんだけど見てなかった?」
「ん……あっ、本当だ」
「もう。今度、合鍵作ってこよ」
ため息をついて立ち上がると、奈菜は白石を見る。
隣に住んでることとかは説明したが、こうして実際に面と向かって顔を合わせるのは初めてだ。
引っ越し当日に家へ来たときも顔を出してなかったから。
「ど、どうも」
白石が少しおどおどしながら挨拶すると、
「こんばんは! あれだよね、祐輔の隣の席の」
「あ、うん」
「家も席も隣なんて運命だね、あはは」
ナチュラルに運命とか使った、凄いな。
「私は祐輔の幼馴染で、2組の朝田奈菜だよ」
「えっと、あたしは白石楓……です」
「楓ちゃんね! よろしく楓ちゃん、あっ、私のことも奈菜って呼んでいいからね」
「は、はあ」
自称人見知りしない幼馴染、相手がギャルでも初対面でも勢いが凄いな。
「そういえば部活見学行ってきたんだっけ、どうだったの?」
「まあ、あんまりって感じだったらしい」
「あらら、二人が気に入ったら私も見学行こうかなって思ってたんだけどなあ」
「ん、お前、テニス部に入るとか言ってなかったか?」
「そうだけど部活動見学は自由でしょ? 祐輔が部活してるときに顔出して遊ぼうかなって」
「お前な……」
「それにボードゲームって中学校の頃から興味あったんだよね」
「え?」
奈菜の一言に白石が目を光らせる。
「本当?」
「うん! あっ、ボードゲームって三人で遊べるのある?」
「う、うん、ある」
「じゃあこれから三人でしようよ! あっ、でも物が無いと駄目か……」
「ボードゲームなら、あたし、持ってる!」
「ほんと? じゃあこれから祐輔ん家で遊びたい! ついでに楓ちゃんも一緒にどう、ご飯」
「いいの?」
「うん、いつでもウェルカムだよ!」
スーパーの袋を持ち上げにっこりと微笑む奈菜。
白石も「男の家に入るとか無理!」とか言わず、素直に頷き着替えたら行くって言って急いで部屋に入っていった。
俺だったら絶対に断られてるだろう。
これがコミュ力オバケと俺の差なのか。
俺と奈菜も家に入る。
「楓ちゃん美人だね!」
「そうだな」
「狙ってるんでしょ?」
買った食材を冷蔵庫に入れながら、笑みを浮かべて聞かれる。
「彼氏持ちだぞ」
「彼氏? こっちにいるの?」
「いや、遠距離恋愛だってさ」
「遠距離恋愛ねえ……私って現実的に物事を考えるタイプだから、遠距離恋愛って続かないと思うんだよね。しかも高校生で、北海道と東京でしょ?」
「まあな」
「でも、現実主義だけど遠距離恋愛の漫画とか好きなんだよね。だから応援はする!」
「どっちだよ」
結局のところ遠距離恋愛は実らないと考えながらも、そういう恋もいいなって思ってるというわけだろう。
まあ、そういうデリケートなことは本人に聞かない方がいいって奈菜もわかってるだろうから、端から応援する分にはいいだろう。
♦
「楓ちゃんって遠距離恋愛してるって本当なの?」
「「え?」」
ご飯を食べて、ボードゲームを少し始めたら急に奈菜が白石に聞き出した。
部屋の空気が凍り付くみたいな、白石は俺をジッと睨み付ける。
「あんた、言ったの……?」
「いやあ、どうだったかなあ」
「あんたねえ……」
「まあまあ。祐輔なんかほっといてさ、どうなのどうなの。恋ばなしようよ!」
俺を生贄に奈菜は白石との距離を詰める。
「えっと、まあ……うん」
「へえ、凄いなあ! 二人って中学校の同級生?」
「う、うん」
「どっちから告ったの?」
「えっと、向こうから……」
「そうなんだそうなんだ」
楽し気に聞く奈菜。
だが聞かれている白石の方は、聞かれて恥ずかしがっているというか──なんか、悲しそうにしている感じだった。
「北海道と東京の遠距離恋愛かあ。遠距離でも上手くいってるなんて凄いね!」
「うん……」
「じゃあ、毎日メッセージでやり取りして、夜中とか電話で話したりしてるの?」
「……」
なんとなく、嫌な予感がした。
「おい、奈菜……」
「え?」
気付いていない奈菜に声をかけると、奈菜は首を傾げる。
すると、白石の啜り泣きが聞こえた。
「え、え? ど、どうしたの楓ちゃん……」
問いかけると、白石は小さな声を吐き出した。
「……別れたいって、ずっと言われてるの」
「……え」
「遠距離は無理だから、別れたいって」
その瞬間、俺と奈菜は顔を見合わせて”やってしまった”という顔をした。