大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「やめて、ください……」
「やめてだあ!? 俺はなんもしてないだろ、ああんッ!?」
「ひぃ!」
脅えた優那が後退る。
相手の男は苛立ち、詰め寄る。
ストーカーとか質の悪い変質者というよりも、
「人を汚物みたいな目で見やがって、テメェ……俺はなあ、俺はなあ!」
優那の態度が気に食わなかったという感じか。
何があったのかはわからないが、さすがに止めるべきだろう。
「おい、あんた」
俺は彼女の側に立ち寄ろうとしたが、
「ひぃ……や、やめてッ!?」
俺を男の仲間だと思ったのか、優那は今度は俺から離れるように後退る。
だが、
「あっ……」
逃げた先は階段で、彼女は足を踏み外した。
ゆっくりと落ちていく彼女。
俺は咄嗟に駆け出し、彼女を階段とは逆側に押し出した。
「やべっ!」
声を発した時には既に遅かった。
階段を転がり落ちる。
長く続く階段。止まったと思ったら、腕に痛みが生まれ意識が遠のく……。
♦
「入学早々、骨折とはねえ」
「ご愁傷様。でもまあ、骨折した理由が理由だから良かったんじゃない?」
「何が良かったんだよ」
次の日、自宅にて。
右腕をギブスで固定する俺を見て、奈菜と楓が笑っている。
──あれから俺は病院に運ばれた。
診断結果は右腕の骨折で、他は異常ないのだとか。
「まあ、一ヵ月程度で治るってお医者さんも言ってたから良かったね」
「良くない。右腕だぞ、右腕。利き腕を骨折したんだ、生活が不自由で仕方ない」
学校には通えるだろうが、書き物は難しく、食事も箸を持つことができない。
「それもそっか。まあ、治るまでわたしたちが面倒見てあげるから。ねっ、楓ちゃん」
「変なことして骨折したとかじゃなく人助けでの骨折だもん、仕方ないか」
「まったく……」
腕を骨折したのいつ以来だ。
痛みはもう大丈夫だけど、不便さが大変だ。
だがまあ……骨折したときしかできない楽しみ方もあるか。
「それじゃあ、早速こっちの世話してもらおうかな」
「あっ、ちょ、あんたね……っ!」
左腕で楓を抱き寄せると、楓は顔を真っ赤にさせた。
「仕方ないだろ、右腕を使えないんだから。いくら溜まってても、自分ですることができないんだ」
「だ、だからって……いや、左手ですればいいでしょ、そんなの」
「左手だと精度が落ちるだろ。なあ、奈菜」
「えっ、なんでわたしに聞くの? まあ、かもしれないけど」
「奈菜は手伝ってくれるだろ?」
そう聞くと、奈菜はベッドに座る俺の隣に座ると笑みを浮かべながら俺の太股を撫でる。
「まあ、いいよ。それに手が使えない祐輔とエッチするの、なんか新鮮だしね」
「ちょ、奈菜ちゃん!」
「いいじゃん楓ちゃん! いっつも責められるばっかだけど、この間だけはこっちが責めれるんだよ?」
「責める、って……」
顔を真っ赤にしながら、両サイドに座る二人に見つめられる。
一ヵ月間の甘々生活がこれから始まるのだった──。
──ピンポーン!
だが、インターホンが鳴った。
「誰だろ、勧誘?」
奈菜が玄関へ向かうと、話し声が聞こえる。
どうやら相手は女性らしい。
それから少しして、奈菜に連れられて部屋の中に入ってきた。
「し、しつれいします……」
かしこまった挨拶をしたのは、マジで俺が知らない大人の女性だった。
身長は160ほどで、年齢はたぶん三十代後半ほど。
茶色の長髪をゆるくウェーブさせた髪型で卵型ではなく丸顔。
おっとりとした感じで目が細く、化粧も濃くはないから、どこか幸薄そうな雰囲気。
それでも口もとのホクロがエロく、はっきり言って俺のタイプなエッチが上手そうな顔だ。
しかも服越しにもわかるほど、いい身体をしている。
そんな彼女は奈菜に案内されてテーブルを挟んで座る。
奈菜と楓は目配せすると「楓ちゃんの部屋にいるから何かあったら呼んで」と言って出て行く。
知らない大人の女性と部屋に二人っきり。
何を言われるのかと思っていると、彼女はテーブルに菓子折りを置いた。
「この度は、娘の橋田優那を助けてくださって、ありがとうございました」
丁寧なお辞儀だった。
「え、あ、娘……?」
左手を確認するが結婚指輪をしていなかった。
「は、はい。本来なら娘が直線来て謝罪させていただくべきだと思ったのですが、娘は、その……男性恐怖症で」
「男性恐怖症?」
話しづらそうにする彼女。
「えっと、それで代わりに私が──あっ、自己紹介が遅れました。私は優那の母親の
再びお辞儀をされ、俺は慌てて言葉を返す。
「えっと、自分は楠木祐輔といいます。わざわざ、ありがとうございます」
「いえ。それで怪我の具合どうでしょうか……?」
それからどれぐらいの怪我だったかとかを説明した。
終始、里音さんは申し訳なさそうにしていた。
「ちなみに、利き腕はどちらになりますでしょうか?」
「残念ながら、右ですね」
「そう、ですか……。生活はお一人で?」
「ええ、地元から離れて進学したので」
「……」
謎の沈黙が生まれる。
正座した里音さんは拳をギュッと握ると、
「慰謝料に関してはもちろん、お支払いさせていただきます」
「えっ、慰謝料?」
慰謝料なんて言われるとは思わなかった。
いや、怪我させたら慰謝料が発生するのは当然だけど、今回は少し違う。
形的には俺が里音さんの娘を庇ったといっても、怪我したのは娘が悪いわけではない。
だから慰謝料と言われても正直、困る。
そんな俺に、里音さんは言葉を続ける。
「それと骨折した腕、私に面倒を見させてもらえないでしょうか?」
「え……?」