大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
謝罪、骨折、人妻、罪悪感。
これらのワードから考えられる「私に面倒を見させてくれませんか?」の問いに、エロい妄想をしない男なんていない。
肉棒が反応しそうになったが、里音さんは思いだしたかのように名刺を取り出し、テーブルに置く。
「実は私、看護師をしているんです」
「看護師?」
俺が通う病院とは違うものの、里音さんは看護師として勤務しているそうだ。
なので骨折が治るまでの一ヵ月間、里音さんが俺の腕の──そして生活の面倒を見てくれるらしい。
「訪問介護などの経験もありますので安心してください」
高校生であり一人暮らし、利き腕を自由には使えない。
奈菜と楓にお願いしようとしていたことを里音さんが代わりにしてくれるということだろう。
「病院での勤務がない日であったり数時間ほどだけですが、楠木さんの生活のお手伝いをさせていただければなと……も、もちろん、楠木さんのご迷惑でなければの話なのですが」
そこまでしてもらうのは少し申し訳なく思ったが、断るという選択肢は出てこなかった。
なにせこんな美人な女性に面倒を見てもらえるのだ。
それに相手からの申し出、断る馬鹿な男なんていない。
「迷惑なんてとんでもない、是非お願いします!」
「良かった……」
それからは希望日のすり合わせ、そしてどんなことをしてほしいかなんかを聞かれた。
「では、明日からよろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「それとこの度は、娘がご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした……」
「いえ、気にしないでください」
そうして、里音さんと約束してその日は終わった。
♦
「楠木さん、こんにちは」
「こんにちは。どうぞ、入ってください」
「失礼します」
お昼前。
昨日のお洒落な格好とは違った服装の里音さん。
清潔感のある薄ピンク色のナース服は、太股までと丈が短く、白のストッキングに羽織ったカーディガン。
仕事モードといった感じがする恰好だが、ナース服はナース服、コスプレじゃない本職の看護師が着るナース服だ。
「痛みとかどうですか?」
「いえ、大丈夫です」
「良かった。食事はどうでしょう、とれてますか?」
「まあ、なんとか」
「難しいですよね。ではまず、食事の準備からしますね」
キッチンに立つ里音さんは、バックに入れたエプロンを付ける。
「それと一緒に、レンジで温めるだけで食べられる食事も作っておきますね」
「ありがとうございます」
里音さんはカーディガンを脱ぐ。
「あっ、すみません。実はこれから夜勤があって」
「夜勤あるのに俺の面倒をお願いしていいんですか?」
「はい、大丈夫です。普段は優那の食事を作ったりしてましたから」
「そうなんですね」
キッチンで料理を作っている里音さんに、気になることを聞いてみた。
「そういえば里音さん、娘さんは大丈夫ですか?」
「え、優那ですか……?」
「駅で変な男に絡まれていたので、あれから怖がってたりしてないかなって」
「はい、大丈夫です」
「男性恐怖症、でしたっけ?」
「え、ええ……」
少し声のトーンが下がった気がした。
「……あんまり聞かない方がいい話題でしたね、すみません」
なんとなく雰囲気を察して会話を止めた。
すると里音さんは苦笑いを浮かべた。
「理由とかは、その、ごめんなさい……」
「いえ、えっと……そういえば、里音さんたちも近所で暮らしてるんでしたよね?」
「はい、そうなんです」
少しだけ表情が明るくなった気がする。
それからも他愛もない会話をした。
看護師という職業柄か、会話は上手だった。変な気を使うことなく、沈黙が生まれることもなかった。
ただ、娘のことと──離婚した旦那のことになると、凄く話したく無さそうで気まずい感じになった。
それから作ってもらった食事を堪能した。
めちゃくちゃ美味しくて、作り置きの料理なんかも作ってくれた。
「それじゃあ、次はお部屋の掃除しますね」
「え、部屋の!?」
「利き手が使えないと掃除も難しいですし、できても時間がかかってしまいますから。楠木さんはベットに座っていてください」
部屋の掃除はさすがに……。
と思ったが、これぞプロ、なんの躊躇いも無く部屋の掃除をしてくれた。
しかも溜まっていた洗濯まで、何のお願いもしなくてもやってくれた。
里音さんは終始、利き手が不自由な俺ができないようなことをしてくれた。
彼女は「はい!」と笑顔で頷き、応えてくれる。おそらく看護師としてのプロ意識と、娘が骨折させてしまったという罪悪感からだろう。
ただどんなお願いでも聞いてもらえると、どうしても邪な考えを持ってしまう。
「掃除と洗濯、終わりましたので!」
「すみません、ありがとうございます」
「あとは……。楠木さん、あと何かしてほしいことありますか?」
「そうですね」
まだ会って間もないとはいえ、自分の欲望を押し殺すことなんてできない。
「実は、あんまりお風呂とか上手く入れなくて……」
ギブスを外したら駄目と医者に言われているから風呂に入りづらいからだけど、本当は奈菜や楓に風呂は手伝ってもらっている。
だから今すぐに風呂に入りたいとかはないけど、お願いできるならお願いしたい。
そして里音さんは、
「そうですよね。一人暮らしでギブス付いていたらお風呂とか入りづらいですもんね。わかりました」
何の嫌な顔もせず、俺のお願いに応えてくれた。