大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「え、あ、あの、な、なに、こ、これ……」
画面を見ていた優子は、すぐに視線を背ける。
真っ白な頬は赤く染まって、瞳は微かに潤んでいた。
「これ、委員長でしょ?」
「な、なに、バカなこと言ってるの? お、怒るよ、楠木くん」
「違う?」
「違うに決まってるでしょ。そ、そんな、エッチな動画、撮るわけないでしょ」
「そっか、人違いか」
俺はスマホをポケットにしまう。
優子はホッとしたように息を吐く。
「ごめんごめん、委員長に似てたから本人かなって」
「もう、そんなわけないでしょ」
「だよね。でも綺麗な人だったから──友達に紹介しよっかな、なんて」
「ッ!?」
優子は腕を抑え、視線を下げる。
「もちろん委員長に似てるとか言わないから、そこだけは安心して。ただこういうの好きな馬鹿なクラスメイトもいるから、たまに紹介し合ってるだけなんだよ」
「え、あ、その」
「男子ってそういう生き物だからさ、まっ、そこは目をつぶってよ。じゃあ、教室に戻るか」
そう言って教室を出ようとしたら、
「ま、待って!」
袖を掴まれた。
「ん、どうかした?」
「あ、あの、その……それ、みんなに見せないで、ほしい」
「なんで? 委員長に似てるとか言わないから安心してよ」
「いや、その」
「ふうん、やっぱりこれ、委員長なんだ」
開けようとした扉から離れ、優子のすぐ目の前に立つ。
動揺を隠すように握った右手を左手で触る。
「ち、ちがっ、私じゃ……私じゃ、ない!」
「じゃあ見せてもいいよね? 他人の動画なんて、別に委員長には関係ないでしょ?」
「そ、れは……それは」
そこでチャイムが鳴った。
昼休みが終わり、5時間目の授業が始まるチャイム。
「じゃあさ、放課後まで待つよ。もし本当のこと話してくれたら、この事は俺と委員長だけの秘密にする」
「ひ、秘密に……」
「でも、放課後になっても俺に隠すなら、誰かにこの動画見せて楽しむかな」
そして、耳元で告げる。
「この動画を投稿してるサイトで視聴するおっさんたちみたいに、委員長のオナニー動画をオカズにしてね」
じゃあ、放課後に声掛けてくれるの待ってるね!
そう言って教室を出た。
優子は5時間目が始まって10分経ってから戻ってきた。
顔色が悪く、泣いていたのか少し目元が赤い。
時間があればあの場で済ませられたのだが、かわいそうなことしたな、とは思う。
それから時間が経ち、放課後。
「ん、祐輔、帰んないの?」
「少しやることあるから今日は先に帰っててくれ」
「別に一緒に帰りたいなんて言ってないけど。じゃ」
なにその、ツン。
少しずつ教室にいる人数が減っていく。
そして優子も、まだ教室から出ていない。
少しずつ時が経ち。
教室には数名しかいなくなると、優子は帰る準備をして俺の机の前に立つ。
「……楠木くん、少しいい?」
小さな声だが、静かな教室だから声が響く。
他の生徒は驚いたようにこちらを見ていた。
俺は立ち上がり「ああ」と短く返事をすると、そのまま教室、そして学校を出た。
そのまま誰にも話を聞かれない場所に移動する。
とはいえそんなとこあまりなく、俺と優子はカラオケへ。
カラオケへ着くまで優子は一言も喋らず下を向いたままだった。
「委員長、なんか飲む?」
「あっ、ううん、大丈夫」
「そっか」
俺も頼むのを待った。
「──楠木くん」
優子は俺へと勢いよく頭を下げる。
「お、お願いします! こ、このことは、誰にも言わないでください!」
それだけ聞けば、あの動画に登場した彼女が本人だとわかった。
「あれ、やっぱ委員長だったんだ」
「……はい」
「そっか。わかったよ、誰にも言わない」
「ほんと!?」
「というか俺、まだ男友達いないから」
「え……?」
「だから、こんなことを話せる男友達はいないから誰にも言えないんだって」
自分で言ってて恥ずかしいけど、残念ながら本当のことなんだよ。
「委員長が隠すから、つい嘘ついたの」
「そ、そう、だったんだ……」
「まあ、安心しろって言っても信じれないだろうけど、口外しないから。でもさ、なんであんなの投稿したんだ?」
「それは……」
「隠すなら、誰かに話しちゃうかもなー」
「友達いないのに?」
「うるせ!」
バラされる心配をしなくて良くなったから、優子が笑ってくれた。
「絶対に、誰にも言わないでくれる?」
「言わない。言ったら委員長困るだろ。俺には、女を地獄に落として楽しむような嗜みはないからな」
「良かった」
まあ、別の用途には使うけど。
「えっと、その。何を言っても私のこと……軽蔑しないでくれる?」
「ああ、もちろん」
「私、その……誰かに見られてると思いながら、オ、オ、オナニーするの、好きなの」
わお。
「自分でも気持ち悪いのはわかってる! わかってるんだけど、スマホで撮影しながらするの、好きで、止まらなくて、それで……」
「撮影しながらオナニーして、気付いたらアダルト動画サイトに投稿してたと」
「……大勢に見られてると思いながらしたら、凄く、良くて……。気付いたら、その、投稿してて」
「なるほど」
撮影しながらするのが好きって人はたまにいる。誰かに見られながらするのが好きな人も。
投稿してしまったのは、おそらく”大勢に見られてる”というのをより強く認識する為だろう。
「お金の為とかではないんだ」
「収益は、もらってないの。振込されたとき、会社名とかが通帳に印字されたら危ないから。それに、家に変な手紙とか届いたら両親にバレるかもしれないから」
しっかりした考えだ。
いや、投稿してる時点でどうかわかんないけど。