大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「有栖川アリス様は、その……人に見られながらすると興奮する、ち、痴女だったのです!」
この話をした彼らの顔が火照って、呼吸も荒い。
男たちのそんな姿を見てもなんとも思わないが、その有栖川アリスという変態はこういう奴らに見られながらするのが好きということか。
「なんとなくわかった。理解は、できないけど……。で、俺に男優になってほしいって頼みだったけど、それどういう意味?」
こいつら相手に敬語を使うのは馬鹿らしいので普通に戻した。
「実は、有栖川アリス様の彼氏……退学になりまして」
「はあ。なんで?」
「……万引きしたそうで」
「しょうもなっ!」
話を聞くかぎりだとヤンキー系だと思ったら、結構な小物だった。
「それから、有栖川アリス様とも別れたらしく……部室にも、それっきり来てくれてないのです」
「まあ、ヤリ部屋として使っていただけだからな」
「そんな殺生なッ!」
「うわ、ビックリした」
いきなり机を叩かないで、びくんってなるから。
「我々は見たいのです! 有栖川アリス様が、また……また、ここで乱れる姿を!」
「はあ。じゃあ本人にそう言えば?」
「……そんな勇気ありません。そもそも”彼女のお眼鏡に適う相手”なんていませんよ」
「この中の誰かが、とか?」
「無理無理無理無理! 我々全員が束になろうとも、あの有栖川アリス様を満足させることはできません!」
「はあ」
どんなラスボスだよ。
「でも! あの裏サイトで『一年生対象! 誰が一番エロい女だ!?』選手権で二位に大差付けて優勝した白石楓様を堕とした楠木殿であれば、きっと有栖川アリス様も満足してくださるに違いません!」
その裏サイトで行われたという、エロい女選手権のことは後で詳しく聞くとして。もちろん、楓には秘密にして。
「俺、楓を堕としたとか誰にも言ってないけど」
楓だって誰かに俺と付き合ってるとか、セフレだとかも言ってない。
ただの友達。めちゃくちゃ仲良しな友達という認識だと思うんだけど。
「ちっちっち、甘いですぞ楠木殿。我々の目と耳は誤魔化せません」
「はあ」
「誰もいないクラスにて、二人でしているのをこっそり見ていたのです」
「は!?」
え、いつだ。
見られてる気配なんて一切なかったぞ。
「くくく、それは秘密です」
「もしかして、撮ってたのか?」
「……いいえ」
「今の間はなんだ」
「いや本当に。撮ろうかなとも思いましたが、その時、残念ながらカメラを忘れてしまって……」
「そうか。でも良かったな。もし撮っていたのが楓にバレてたらお前ら、殺されてたぞ」
もちろん俺も。
「ひえっ! そ、それは、恐ろしい……でも、体験してみたいですね。なあ?」
「あ、ああ!」
「むふん」
「なるほど、そういう変態属性も持っているわけか。で、要するに俺にその有栖川アリスと関係を持たせ、この部室に連れてきてセックスしているところを撮らせてほしいということか?」
ふんふん! と一斉に首を縦に振り始めた。
「まあ、言いたいことはわかったけど、その有栖川アリスって人は別れたばっかで傷心中なんだろ? 赤の他人の俺に「セックスしてくれ!」って頼まれて「はい、いいですよ」って言わせるの難しくないか?」
こいつら俺と同じ一年なら、まだ入学して二カ月しか経ってない。じゃあ彼氏が退学になったのも別れたのも、おそらく数週間前とか数日前とかのレベルだろ。
さすがに手を付けるのは無理な気が。
「言ったではありませんか」
すると、佐藤はドヤ顔を浮かべながら言い切った。
「有栖川アリス様は、正真正銘の痴女なのです……」
♦
あれから少し話したが「会ったらわかります」と言われるだけで、結局よくわからなかった。
だから実際に会ってみることにした、その有栖川アリス先輩とやらに。
「このクラスのはずなんだが」
三年生の教室がある階にやってくるなり彼女を探してみた。
とはいえ知っているのは名前だけで、顔もどんな子なのかも知らない。
気乗りはしないが仕方ない、先輩に訪ねてみるか。
「すみません」
「ん、一年生かい? この僕に何か用かな?」
優しそうな見た目だから声をかけたんだけど、なんかナルシストっぽい先輩だった。
なんかショックだけど、まあいいか。
「有栖川アリス先輩を探してるのですが、何処にいるかわかりますか?」
「──ッ!? ア、アリスさん!?」
三年生なんだから名前だけは知っていて普通だと思ったが、妙な反応をされた。
「さ、さあ、僕は知らないかな。じゃ!」
「え……なんだあれ」
仕方ないから他の人にも聞いてみた。
だが、
「ぼ、ぼくは、彼女とは何も無いんだ!」
「あーあー、聞こえない聞こえない!」
「もう思いださせないでくれ!」
誰も教えてくれなかった。
というより、誰一人としてまともな返事をしてくれなかった。
まるで名前を出してはいけないあの方、ヴォ〇デモートのような対応だ。
「ねえ、きみ。アリスちゃんのこと探してるの?」
教えてくれそうな人を探していると、ふと声をかけられた。
三年生の女子の先輩だ。
「はい、そうなんです。少し用があったので来たのですが、誰も教えてくれなくて」
「そりゃそうでしょ。だってきみが話を聞いたのってみんな、あの子に振られた男たちだもん」
「振られた?」
「そう。あれ、もしかしてアリスちゃんのあの噂知らない?」
「噂?」
よくわからなくて首を傾げると、先輩は誰にも聞かれないよう耳元で教えてくれた。
「アリスちゃんは誘われたら誰とでもエッチするような女の子。だけど美食家で、気に入らなかった男とは二回目以降は絶対にエッチしない……って噂」
「えっ、じゃあ振られたって……」
「お眼鏡に適わなかった男たち。アリスちゃんね、みんなから陰でこう呼ばれてるの──」
──味見のアリス、ってね。