大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「バイト、ですか……?」
「そう、バイト。探してるんでしょ?」
「まあ」
「紹介してあげよっか。1時間なんと5000円のバイト」
「5000円!?」
なんだその、高校生が貰っちゃいけない時給。
というよりそんなバイトがあったんなら、35才のときにやりたかった。
でもまあ、
「からかわないでくださいよ」
「ん?」
「そんな割りのいいバイトあるわけないじゃないですか。高一でもそれぐらいわかります」
どうせからかってるだけだろ。
パパ活ならぬママ活か? 綺麗なママさん相手なら大歓迎だ!
「まあ、信じないよね普通。でも安心して、本当だから」
「……マグロ漁船?」
「乗せない。近くで働いてもらうから安心して」
「体の一部、失う……?」
「失わない。むしろ、バイト後はスッキリして帰れる」
「スッキリ?」
どういうことかわからない。
胡散臭いが、バイトを探しているのは事実だ。
とにかく詳しく聞いてみよう。だがその前に。
「ところで、名前を聞いてもいいですか?」
「あっ、自己紹介まだだったね。わたしは
「神帝……なんか、凄い名字ですね」
神帝。
ん、神帝?
この名前、どっかで聞いたことあったような……。
「とりあえずさ、説明だけ聞いていってよ」
「え、ああ、じゃあ」
「それじゃあ、善は急げということで会社に行こっか」
「会社に? え、はあ……」
ほらほら、早く行こう。
イこうって言われたらイクって付いて行っちゃう体になってしまった。
俺は頭の中に大量の疑問符を浮かべながら彼女の後ろを付いていく。
道中は雑談で、主にアリスとの件を聞かれた。
だけど深く話すまでもなく、あっという間に目的地に到着した。
「着いたよ。ささっ、入って入って」
「入ってって、ここ……」
案内されたのは都内にある大型ビル。
表にはいくつもの会社名が書かれていた。
ざっと数えて20社ぐらい。その全ての会社の頭に同じ名前が付いている。
「──神帝グループ。そうだ、神帝グループだ!」
神帝グループ。
その名前はこの時代ではなく、35才の頃の人生でめちゃくちゃ聞いた名前だ。
お店や職業の名前を適当に出したら「ああ、それうちの会社やってるよ!」とフランクに言われるほど、決まったジャンルとかはなく手広く手を付けている会社だ。
海外展開もしていて、今の時代でもかなり凄い会社だが、これから先の未来で神帝グループは日本を支える企業だと言われるほどに発展する。
「もしかして柑奈さん、いや……神帝さんは、神帝グループの親族の方ですか?」
エレベーターに乗りながら聞くと、彼女は苦笑いを浮かべる。
「柑奈でいいって、もう。まあ、そうなんだよね。神帝グループの第二チーム代表──
「……は、はあ」
その名前も聞いたことがあった。
一応、俺はタイムスリップしてきたのだけど、その知識をあまり使えてこなかった。
未成年だけどなんとかして競馬の馬券を買って大儲けしようかなって思った時期もあった。
だって勝つ馬がわかってるんだから、余裕で儲かるかなって……だけど、ギャンブルとかやったことないからそこまで記憶に残ってなくて駄目だった。
あまり過去の記憶を生かすことはできなかった。
だけどこれだけは覚えてる。神帝グループと、神帝麗美の名前は。
「じゃあ、入って」
「え、入ってって……」
神帝麗美は”とあるジャンル”で世界中に革命を起こした女性だ。
どこかのオフィスであろうフロアに到達すると、柑奈さんの顔を見るなり慌てて社員が集まってくる。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま。進捗は後で聞くから、お客さんに飲み物を用意して」
「かしこまりました」
大勢の女性社員に出迎えられ、柑奈さんは颯爽と奥へと歩いて行く。
後ろを付いて行く高校生の俺なんかにもしっかりと頭を下げてくれる、奇妙な光景。
そして通されたのは社長室らしき部屋。
柑奈さんは豪華そうな革製の椅子に学校のスクールバッグを置くと、椅子ではなくソファーに座った。
そして案の定、テーブルには商材であるあれが置かれていた。
「さて、何の説明からしよっか」
「その前に、えっと……神帝グループの第二チーム代表って言ってましたよね、お母さん」
「そうだよ。それがどうかした?」
「いえ」
神帝グループにはいくつものチームというのが存在する。
ビジネスや経営、ITに機械、建築や土木といった職種ごとに第〇チームと分類している。
その中でも、第一第二第三のチームは人間の三大欲求を担当すると言われていた。
第一は食欲。
第三は睡眠欲。
そして神帝麗美が代表を務める第二は──性欲だ。
「改めて、わたしはこの神帝グループの第二チーム代表の神帝麗美の娘で、その中の”避妊具メーカー部門”の代表をしているの」
そしてテーブルに置かれていたのは、コンドーム。
しかもそれは試作品のようで、アリスが俺に使ってと渡したコンドームと同じモノだった。
「バイトっていうのは、その……テスト、みたいな?」
「そうそう! 実は君に、今開発中のこの避妊具──”超うすうす♡ 生感コンドームX”のテスターになってほしいの!」
「……」
彼女の笑顔を見て、俺は大きくため息をつく。