大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
奈菜を一言で表せば”面倒見のいい幼馴染”だ。
彩さんを一言で表せば”エロくて綺麗な人妻”だ。
奈菜には奈菜の、彩さんには彩さんの良さがある。
こういうのを属性というのだろうか。二人には違った部分がある。
そして俺が次に狙うのは──。
「──あれ、ゆうくんじゃん!」
「こんばんは、愛華さん」
平日の夜遅く。
俺が近所を歩いていると、後ろから声をかけられた。
胸元まで伸ばした巻いた金色の長髪は、毛先に向かうにつれピンク色に染めている。
肌は日焼けなのかヒサロなのかわからないが小麦色で、目元の化粧は濃い。
首元や手首の装飾品は派手で、胸元をガバッと開けたYシャツからは豊満な胸の谷間と黒の下着が見え、太股までしかない短いスカートは今にもパンツが見えそうだ。
「ほおほお、こんな時間に外を出歩くなんて……ゆうくん、いつからそんな不良になったのかなあ?」
「不良って、ただの塾帰りですよ。愛華さんこそ、こんな時間にどうしたんですか?」
「うち? うちは彼氏ん
「仕事? あれ、彼氏さん大学生じゃなかったでしたっけ?」
「ん、それカズくんのこと? カズくんとは先週だったかな、別れちゃったの。んで、今はトラック運転手のトモくんと付き合ってんの」
「は、はあ……」
この時は確か高校二年生だったはず。
片方は優等生の中学生。片方は遊び歩いているギャル。
一見すると接点がなさそうだが、まあ、家が近所だから顔を会わせばこうして話す程度の関係だ。
帰り道が一緒ということもあって並走して歩く。
「ゆうくんは相変わらず勉強ばっかの生活?」
「まあ、そんなところですね」
「ふーん、勉強楽しい?」
「楽しくはないですね。ただ将来の為にやってる感じですね」
「さっすがあ、ゆうくん偉いね。うちなんか勉強しないで遊び歩いてばっかだよ。聞いて聞いて、今日もさあ──」
愛華さんは聞いてもいないのに、今日彼氏と何をしたかとかを話し始めた。
──当時中学生だった俺は愛華さんが嫌いだった。
まあ、優等生くんと不良ちゃんが相容れないのは必然だ。
会話らしい会話も、挨拶する程度だった気がする。
ただ、今は違う。
「でねでね、彼氏が……って、ゆうくんがうちの話し付き合ってくれるなんて珍しいね」
「そうですか?」
「だってえ、いつもは適当に流すじゃん」
「本人を目の前にそういうこと言わないでくださいよ」
「ごめんごめぇん。でも、あはは、何か新鮮!」
ほんと、こんないい女を毛嫌いしていた当時の自分を殴ってやりたい。
「ゆうくんって確か中三だったよね?」
「ええ、そうですね」
「じゃあ、来年は高校生かあ……もう進路は決めてんの?」
「一応ですけど、地元から離れた高校に通おうかなって思ってます」
「ほへえ、大人だねえ……うちなんて遊んでばっかでさあ……そうそう聞いてよ、またテストで赤点取っちゃって。次の追試で赤点取ったら留年だって言われちゃったあ」
少し話しただけでもわかるように、愛華さんは見た目通りお馬鹿だ。
そこまで彼女のことは詳しくないけど、確か今言ったように追試で赤点を取って高校を留年した。で、そのまま退学して、気付いたら風俗で働くようになったと、風の噂で聞いた。
「追試、なんとかなりそうなんですか……?」
「えー、わかんなぁい。うちだって勉強しないとなあって思うんだけど、彼氏に呼ばれたら断れないしさ……それに勉強って、何したらいいのかわかんないんだもん」
「まあ、今まで勉強してこなかったのに、いざやれってなったら難しいですよね」
「そうそう、勉強なんて本気でしたのいつだったかなあ……って感じだよお、もお」
と、そこで愛華さんは立ち止まりポンと手を叩く。
「そうだあ! ゆうくん、うちに勉強教えてよお!」
「……中学生にそれ頼むんですか?」
「だってぇ、うちの周りに頭いい人いないし! ゆうくんなら高校の勉強もしてるかなあって」
「まあ、今は大学で習う勉強までしてますけど」
「うそ、すっご! ねえねえ、お願いゆうくん!」
勉強したのは35年生きた方の記憶だけど。
まあ、高校生……それに愛華さんの通う学校レベルの追試問題なら簡単だろう。
──というより、こう頼まれるのは想定済みだ。
「そうですね、俺で良ければいいですよ」
「え、ほんと? やったーありがとありがと! これで留年せずに済んだあ」
「ただし、ちゃんと教えるんですから真面目に勉強してくださいよ?」
「はぁい! あっ、じゃあこれからゆうくんのこと”先生”って呼ばないとだねえ! よろしくお願いします、せんせぇ♡」
中学生だった当時も、愛華さんからこのお願いをされた。
だが当時は愛華さんを嫌っていたから、当然のように無視したんだ。
だからこれは、ゲームとかでいうところの”ルート分岐”だろうか。
愛華さんと関係を深めるか深めないか。そして俺は、愛華さんと関係を深めるルートを選択した。
「──じゃあ、先生になんかお礼しないと……だねえ」
「別にお礼なんて」
「あ、でもお金とかは無いんだあ……せんせぇ、うちに何かしてほしいことある?」
愛華さんは舌なめずりしながら、俺との距離を縮めた。
俺の次のターゲットはもちろん彼女だ。
奈菜と彩さんと同じように、愛華さんを一言で表すなら──”ビッチなギャル”だ。