大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
男の方はよくいるやんちゃに憧れた背の小さい男の子って感じ。
女の方は都会のJKに憧れて背伸びをしようとしているけど、まだ垢ぬけない感じ。ファッションもゴスロリ系だ。
同い年だろう。
とはいえ、楓の方がずっと見た目も雰囲気も大人っぽい。
これが東京デビューした違いだろうか。
「知り合い?」
なんとなくわかっているけど聞いた。
すると、楓は気まずそうな表情を浮かべながら頷く。
「えっと、中学の時の……友達」
繋いだ手は離そうとする意思を示すように指先を伸ばしていた。だけど俺が繋いだままだから、友達の前でも恋人繋ぎしたままだ。
すると、男の方が繋いだ手に視線を落とす。
「……元気、してんだな」
「うん、まあ……。そっちも、元気そうじゃん」
ぎこちない雰囲気。
明らかにこの二人に何かあったのがわかる。
「あっ、もしかして、かえちゃん彼氏と北海道旅行中!?」
空気が読めていない女が無駄に明るい声で楓に聞く。
楓は目を泳がせ、答えた。
「まあ、うん」
「へえ、彼氏できたんだ~。ってことは、しゅんくんと別れてすぐ~?」
「……えっと」
「あっ、ごめんごめん、言いにくかったよね。でもお互い、新しい相手がいるんだから過去は水に流してさ~!」
女が彼氏の腕にひっつく。
見せつけるように、顔はまだ幼いが大きく育った胸を彼氏に押し当てていた。
「そうだ、かえちゃん! これからしゅんくんとカラオケ行くんだけど、かえちゃんたちもどう?」
「え、それは……」
「せっかく久しぶりに会えたんだしさ、ねえねえ、いいでしょ? 彼氏くんもいいよね!? 東京でのかえちゃんの話も聞きたいし、彼氏くんもこっちにいた時のかえちゃんの話を聞きたいでしょ?」
急に話を振られた。
楓が断りそうな雰囲気をしていたから、彼氏である俺に話を振ったということか。
断って、という楓の視線を受けたが、俺は笑顔で返す。
「いいね、行こうか!」
「やった、ノリいい彼氏くんだね~! じゃあいこいこっ!」
前を歩くカップル。
俺と楓はその後ろを付いて行く。
「なんで話に乗っちゃうのさ」
手を繋ぎながら、楓は不機嫌そうに繋いだ手に力を入れる。
「あれ、元カレだろ? なんとなく面白そうだなって」
「はあ? こっちはなんも面白くないんですけど……しかも、杏もいるし」
「あの女か? もしかして仲悪いの?」
「別に。仲良いわけでも仲悪いわけでもない。ただ苦手なだけ」
それを嫌いって言うんだと思うが、まあ、女の友達関係なんて表一割裏九割の関係だからな。
「ってか、あたしと別れてすぐに俊太と付き合ったとか、どんだけ性格悪いのあの子……」
「知らなかったのか?」
「うん。まあ、あの子のことだからやりそうとは思ったけど」
仲良さげなカップルの背中を睨む楓。
どうやら友達でも、複雑な友達関係のようだ。
「あの子、水原杏《みずはらあん》って言って、まあ、一言で表せば”人のモノが好きな子”なの」
「あー、なるほど」
「小学生の頃も中学生の頃もずっと。あの子が付き合った男、基本的に誰かが付き合っていた男か誰かと現在進行形で付き合っている男だけなの」
「それはまた、なんともいい性格してんな」
俺も人のモノって好きだから気持ちはわかるぞと、うんうん頷く。
楓の横腹を小突かれた。
「そういうタイプの友達からしたら最悪なの。『あの人いいよね~』なんて話したら、数日後に『彼氏できちゃった♡』ってその人を紹介されるの。最悪でしょ、ほんと」
「それは確かにそうだな。じゃあ、喧嘩すればいいだろ」
「東京に比べて同級生も少ない、三年間クラス替えがないような閉鎖的な学校じゃ簡単にいかないの。しかも、あの子って外面だけはいいから。先生にも大人気」
「そういうタイプっぽいな」
会って間もないが楓の言いたいことはなんとなくわかった。
と、そこでカラオケ店に着いたようだ。
受付を彼氏に任せ、水原杏がこちらへ近づいてくる。
「そういえば自己紹介まだだったよね。はじめまして、水原杏です。杏か、杏ちゃんって呼んでね?」
「え、じゃあ、杏?」
「うんうん、かえちゃんの彼氏くんの名前は?」
「俺は楠木祐輔。だから──」
「ゆうくん? ゆうくんって呼んでいい!?」
「まあ」
いきなり自分を名前で呼ばせるのもなかなかだし、友達の彼氏をゆうくんと呼んでくるのもなかなかだ。
それに何が一番ヤバいって、まだ大して話してもいないのに笑いながらめちゃくちゃボディタッチしてくるところだろう。
お陰で楓の機嫌がめっちゃ悪い。
「……杏、部屋の用意できたって」
「うん、ありがと、しゅんくん! じゃあ、行こっか!」
彼氏は彼女のこの態度になんも言わんのか。
よくわからないが、とりあえず部屋へ。
L字のイスに、それぞれのカップルが腰掛ける。
L字とはいえ、端と端の楓と俊太の位置は遠い。
逆に俺と杏の距離はかなり近い、おそらく意図的にそういうセッティングになっている気がした。
「はい、ゆうくん、メニュー」
「ああ、ありがとう」
「なに飲むの?」
「そうだな、このオレンジジュースを」
「じゃあ、杏も同じのにしよっと。しゅんくん、注文お願い!」
これは俺の勘違いじゃないと思うが、たぶん──。
「ねえねえ、ゆうくんって同い年だよね……?」
俺、狙われてね?