大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
次の日の夜。
俺は風呂に入りながら考える。
中学生に戻った日から一日が経った。
「嫌われたわけじゃないよな」
考えているのは奈菜のことだった。
朝は普段通り迎えに来てくれたが目も合わせてくれず、どこか余所余所しい雰囲気があった。
そして今日の放課後。
再び家に誘ったのだが、
『ご、ごめん、今日は帰るね……』
と、断られてしまった。
嫌われたわけじゃないはずだ。
ただ恥ずかしくて避けられているだけだろう。
「とはいえ、このままがっつくのもな……」
押しに弱い奈菜なら頼めばヤれるかもしれないが、無理にというのは。
であれば奈菜に関しては少し時間を空けるのがいいかもしれない。
「であれば、次は……」
俺は中学時代を思い出し、笑みを浮かべる。
♦
次の日の放課後。
奈菜には相変わらず避けられてしまった俺は同級生の太一と遊ぶ約束をした。
「お前が
「たまには、な」
「ふーん、まあいいけど」
たぶん遊ぶのも何か月かぶりなんじゃないだろうか、それでも今日、太一と遊ぶ必要があった。
「げっ、母さん家にいんのかよ……」
家に着くなり太一は大きなため息をつく。
そんな後ろ姿を見ながら俺は逆に、心の中でガッツポーズをした。
その理由は、
「──ちょっと太一、お母さんが家にいたらダメなの?」
リビングから顔を出した女性は太一を睨み付けるが、すぐに俺の存在に気付いて目を大きく見開く。
「あら祐輔くん、久しぶりじゃない! 元気してた?」
「お久しぶりです、彩さん」
茶色に染めた髪を後ろで縛ったポニーテールに、目鼻立ちのいい美人な女性だ。
体型は細身だがTシャツを突きあげる大きな胸と、ぴっちりとしたジーパンから見える肉付きのいいお尻。
たしかこの頃はまだ32才ぐらいだったはずだけど、めちゃくちゃ見た目は若く、太一の姉と紹介されても疑わないだろう。
「祐輔くん、あんまり家に遊びに来てくれなかったから……お母さん寂しかったじゃない」
「すみません……」
「冗談冗談、ささっ、上がってちょうだい」
先に靴を脱いで家の中に入った太一が「母さん、ジュースとお菓子くれ!」と二階の自分の部屋に向かい、彩さんが「はいはい」とキッチンへ向かう。
太一が言うには彩さんは元ヤンだったらしい。それで高校在学中に今の旦那さんとの間に子供を授かって、若くに結婚したのだとか。
今の彩さんしか知らないが、ヤンチャな雰囲気とかは感じない。気さくなお姉さん、といった雰囲気だ。
「お父さんはまだ出張中なのか?」
「ん、そうだぜ」
鞄を置き即答する太一だが、すぐにニヤッとした笑いを浮かべた。
「……出張とか言って、きっと愛人とよろしくやってるんだぜ」
母親に聞かれないように小さな声で話す太一は楽し気だ。
太一のこの話は当時も聞いた気がする。たぶん今も冗談のつもりで言ったんだろうが、未来から来たから俺にはわかる。
これは本当だった。
旦那さんは出張の度に浮気をしていて、俺が高校生の時だったかな、太一から離婚したと聞かされた。
……まあ、離婚の理由は旦那さんの浮気だけが理由じゃないが。
「はい、おまたせ」
お菓子とジュースを持ってきてくれた彩さん。
「ねえねえ、祐輔くんはもう進路って決めたの?」
「進路ですか? はい、一応」
「偉いわね! 太一はまだ決めてないのよ。あーあ、太一も祐輔くんを見習ってほしいわ」
「はあ? うっせえよ。てかお菓子置いたなら部屋出てけよ!」
ムスッとする太一。
彩さんは「はいはい、それじゃあ祐輔くん、ゆっくりしていってね」と軽く流して部屋を出る。
「ったく、父さんが出張中だから寂しんだろうな、どーせ」
「俺は彩さんと話すの楽しいけど?」
「俺が嫌なんだよ。それよりゲームしようぜ!」
二十年近く昔だから遊ぶゲームもめちゃくちゃ古い。これでも最新機種なんだよな。
と、中学時代の友達とゲームを楽しむ、というのが今回ここへ来た目的じゃない。
「──太一、お母さんちょっと買い物に行ってくるから!」
家に遊びに来て少し経ってから、一階から彩さんの声が聞こえた。
太一は「うい」と返事をすると、彩さんが家を出て行ったのが音でわかった。
──それから数分後。
「あっ、そろそろ帰らないと」
「はあ? まだ家に来てそんな時間経ってないだろ」
「ごめんごめん、また遊びにくるから」
俺は逃げるように太一の家を出た。
自宅とは真逆の、賑わいのある街中へと向かう。
「──いた」
目当ての人物を見つけて安心した。
目に留まったのは、オシャレをした彩さんの姿だった。
カフェでコーヒーを飲んでいる彼女は誰かと待ち合わせしているのだろう、キョロキョロと左右を見る。
それから少しして、待ち合わせの相手が現れた。
「……こうも狙い通りに浮気現場に遭遇できるとはな」
俺はスマホを取り出しカメラを起動する。
映ったのは、彩さんが若い男性の腕を組み笑顔を浮かべる姿だった。