大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
──土曜日。
俺は昼過ぎに萌香の家に来た。
「おじゃまします」
「あっ、どうぞどうぞ」
玄関まで迎えに来てくれた萌香。
そしてその隣には、紗奈恵さんの姿もあった。
「いらっしゃい、祐輔くん。ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます!」
笑顔でお辞儀をすると、紗奈恵さんは頬を少し赤らめながら笑顔を浮かべる。
「祐輔くん、お家でご飯は食べてきたの?」
「はい、食べてから来ました」
「そうなのね。じゃあ今なにか飲み物を持ってくるから、リビングに上がって」
「すみません、ありがとうございます」
萌香と二人でリビングへ。
紗奈恵さんが飲み物を持ってきてくれた。
「えっと、そういえば飯野さん」
「祐輔くん、妹も私も飯野よ。私の事は紗奈恵って呼んでいいから。私も祐輔くんって呼ばせてもらうわね」
「じゃあ、紗奈恵さん。今日は勉強を教えてもらえるって萌香さんから聞いたんですけど」
ちなみに、紗奈恵さんの前では萌香のことをさん付けするし敬語も使う。逆に萌香は俺に敬語は使わない。
おそらく年下らしく振る舞った方が事を運ぶのに適していると思ったからだ。
「え、ええ、私で良かったらなんだけど……」
「祐輔くん、お姉ちゃん家庭教師のバイトもしてたんだよ」
「へえ、そうなんですか。でもしてたってことは、もう辞めちゃったんですか?」
紗奈恵さんに質問すると、彼女はばつの悪そうに視線を背ける。
「えっと、いろいろあってね……それより、お菓子とか食べる? 何か持ってきてあげるね」
どうやらこの話題には触れてほしくないらしい。
それから三人で勉強を始めた。
あくまで中学生の男の子として、年上のお姉ちゃんとの勉強会を楽しんだ。
「あっ、祐輔くんごめんね。ちょって出掛けてきてもいいかな?」
「え、別に大丈夫ですけど」
萌香はスマホの画面を見て立ち上がる。
「お姉ちゃん、しばらくの間だけ祐輔くんのお勉強見てもらっていい?」
「え、ええ、いいけど」
動揺する紗奈恵さん。
萌香はわざと俺と紗奈恵さんに画面が見えるようにテーブルにスマホを置く。
画面には純平さんとのメッセージのやり取りが表示されていた。
『会いたい』『これから会おう』『わかった』
みたいな彼氏とのやり取りが見てわかった。
「二人ともごめんね。二時間ぐらいで帰ってくるから」
萌香はそう言って駆け足で家を出て行く。
残された俺と紗奈恵さんの間に沈黙が生まれる。
だがすぐに、紗奈恵さんが空気を明るくさせようと声をかけてくれた。
「えっと……随分と急いでいたけど、なんの用事なのかなー」
「……彼氏さんのとこじゃないですか」
トーンを下げてボソッと呟く。
「そ、そうなのかな」
「スマホのメッセージで彼氏さんと『会いたい』とか『今から会いに行く』とかやり取りしてましたから」
「……えっと、もしかして祐輔くんって萌香のこと?」
「……」
「あっ、ううん、なんでもないの。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
俺はしょんぼりしながら首を左右に振る。
「萌香さんに彼氏いることは知ってますから。……俺は、ただの暇潰しだって」
「祐輔くん……」
「紗奈恵さんは、俺と萌香さんの関係って知ってるんですよね。萌香さんが話したって言ってました」
「関係? えっと、その……セ、セフ……エ、エッチなこと、してるんだよね?」
「はい。……エッチしたら俺、付き合うものだと思ってたんです。だけど後から、萌香さんに彼氏がいること聞かされて。……俺とは、エッチするだけの暇潰しの関係だって言われました」
「そうなんだ。辛いよね、そんなこと言われたら」
俺の恥ずかしい告白に、紗奈恵さんは一緒になって悲しんで聞いてくれる。
その姿からも、紗奈恵さんの優しさが滲み出ている。
「エッチも、下手だって……。萌香さんに、下手だから男として見れないって言われました」
「そんなこと言われたの?」
「はい。やっぱりエッチが下手だと、男として駄目なんですよね」
「そんなことない!」
紗奈恵さんは俺の前に立ち手を握る。
その表情は真剣で、一切の恥ずかしさや馬鹿にするかんじはなかった。
「エッチが下手だからって男に見られないなんて、絶対にそんなことないのよ」
「ほ、本当、ですか……?」
「ええ、本当よ。妹のことで辛い思いをさせちゃってごめんね」
「紗奈恵さん……」
体を前に傾けると、紗奈恵さんは優しく抱きしめてくれた。
大きな胸に顔を寄せても怒らず、頭を撫でながら「辛かったね」と囁いてくれる。
まるで母親に甘やかされてるかのような安心感。
何十年前かに体験したような気がする。なんだかこういうのもいいな。
「紗奈恵さんも、エッチが下手な男は嫌いですか?」
「えっ、私は……ううん、嫌いじゃないよ。それよりも、一生懸命に頑張ってくれる方が好きかな?」
「そうなんですね。紗奈恵さんは、優しいですね……」
「ううん、そんなことないよ」
「──紗奈恵さん、お願いがあるんです」
「ん、なに?」
俺は上目遣いでお願いする。
「俺に、エッチの仕方を教えてくれませんか?」
「……え? エッチをって、その……それは、さすがに」
「紗奈恵さんにしか、こんなことを頼れる人いないんです。俺……萌香さんに男として見てもらいたいんです」
「そ、そう……そうなのね」
「やっぱり、駄目ですか?」
二度目の上目遣いでのお願い。
紗奈恵さんは少し迷ってから、
「……わかったよ。でも、萌香にはこのことは秘密。約束、守れる?」