大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
夏休み中に毎年決まって行われる勉強合宿。
日程は八月十日から十七日までの七日間。東京にあるホテルを貸し切って行われる。
参加する生徒は、北は北海道から南は沖縄まで、全国各地から訪れる。
そして勉強合宿当日、ロビーにて。
「えー、今回の勉強合宿では多くのことを学び、勉学だけでなく交友関係も──」
ロビーには、全国各地から訪れた中学生およそ五百人ほどが集まっていた。
その全員が三年生であり、今年受験を受ける年になっている。
ここへ来る学生のほとんどが貴重な夏休みを捨てて今年の受験に全てを捧げている。
額に『第一志望校合格!』というハチマキを付けている学生までいて、当時の俺もこんな感じだったなーとか思った。
「あーあ、かったりいなあ……」
念を押すようだけど、みんなここには夏休み返上で来ている。全員が全員、本気で勉強しに来ている。
が、中には場違いな雰囲気の学生もいる。
地元では勉強ばっかしてきたクソ真面目のがり勉なくせに、こうして同い年ばっかいる場所に来たからってイキって不良ぶる奴。
口は悪そうにするけど、態度や雰囲気、特にワックスをべったり付けた髪型はどことなく背伸び感が抜けてない。
こういう奴らは、周りから煙たがられていることに気付いていないのだろう。
「勉強する気ないなら帰ればいいのに。ねえ?」
隣に座る奈菜が小さな声で俺に言う。
俺は笑って「そうだな」と返す。まあ、俺もはっきり言ってやる気ないんだけど。
それから勉強合宿が始まった。
午前と午後の部に分かれ、ひたすら勉強漬け。
場所を自宅からホテルに変えたところで、勉強効率はそんなに変わらない。ただ変わるのは、周りに自分と同じ受験生が大勢いるということだけ。
サボれないようにみんなで頑張ろうと、それだけなのに自然と勉強する気になってくる。
「これから七日間よろしくね」
部屋は一人部屋ではなく二人部屋だ。
俺と相部屋になったのは、北海道から来ている常磐悠斗。
悠斗はサッカー部にいそうな爽やかイケメンだけど、根は真面目で話しやすい性格だ。
相部屋相手としては大当たりだろう。
それから俺は悠斗と共に夕食へ。
大きな会場に大勢の参加者が集まるバイキング形式で、ホテルというだけあってかなり豪勢だ。
「祐輔は一人でここに?」
「いや、幼馴染の女子と一緒に来たんだ。悠斗は?」
「僕は一人でだよ。北海道から来てる人は何人かいるんだけど、あんまり仲良くないんだ。そもそも僕は塾に通っていたわけじゃないからね」
「そうなのか。ってことは、この勉強合宿だけの参加か?」
勉強合宿に参加している者には二種類いる。
一つは俺と奈菜のように普段から塾に通っている者。
もう一つは悠斗のように、塾には通っていないけど勉強合宿にだけ参加する者。
圧倒的に後者は少ないが、それでも二割程度はいる。そして勉強合宿でやる気の無いのは決まって、勉強合宿だけ参加している──いや、させられている組だ。
「そうなんだ。塾に通うか家庭教師を雇うか、それとも夏休みの間だけ勉強合宿に通うか……の三択を親に迫られてね。泣く泣く、勉強合宿に参加したってわけさ」
「なるほど、そればご愁傷様だ」
「ほんとにね。祐輔は普段から塾に通っているのかい?」
「まあな。やることないし、親も行けって言うからな」
と、そんな話をしていると奈菜の姿が見えた。
彼女は俺に気付くと小走りで駆け寄ってくる。
「祐輔も来てたんだ」
「ああ。一緒に食べるか?」
「いいの? じゃあ……」
奈菜は悠斗の存在に気付き自己紹介をする。
二人とも人見知りしないタイプで良かった。
「あっ、ちょっと待ってて」
奈菜は小走りで料理コーナーへと向かう。
そして戻ってくると、奈菜はお皿一杯に盛った料理を手にした彼女──
「この子ね、同部屋の子。小日向蘭華ちゃんっていうの。一緒にいい?」
胸元まで伸ばした茶色の巻き髪の蘭華を見て、俺も悠斗も「どうぞ」と頷く。
「どうもどうもー。って、なになに、一緒にご飯食べたいって男の子なん? へえ、どっちが奈菜ちゃんの彼氏なん?」
「ちょ、何言ってんのさ蘭華! いいから座って!」
「もう、照れちゃって! 部屋に帰ったらうちにも聞かせてなあ?」
「いいから座ってって!」
蘭華はイスに座ると、俺と悠斗に笑顔を向ける。
「うちは小日向蘭華。群馬の中学から来てるんよ。二人ともよろしく」
「群馬? 関西出身だと思ったよ」
「あー、喋り方? うちのおとんとおかんが大阪と京都の人で、喋り方とかが変に移っちゃったんよ。まあ、エセ関西弁やから、嫌やったら言ってなあ」
そうやって明るく笑う彼女。
大きな瞳に長いまつ毛。左目の下に見える泣きぼくろ。
160ぐらいと中学生にしては大きな身長で、制服であるYシャツからでもわかる大きな胸にくびれた腰。
中学生とは思えないほどのモデルのような大人びたルックス。
「祐輔ね、蘭華と同じ高校目指してるんだって」
「へえ、そうなんや。じゃあもしかしたら、うちら同級生になるかもやんな。よろしく、祐輔」
俺も「よろしく」と言葉を返す。
ああ、知ってるさ。
当時の俺も、蘭華と仲良かったからな。