大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
──次の日。
朝から始まる勉強合宿。
少し前まで大人として働いていたから、なんとかこの朝から夕方まで勉強漬けの生活に堪えられる。
中学生で、しかも夏休み中にこれって、地獄だろ。
「はあ、終わったあ」
だからこそ、夜になってからの自由時間は普段の一日よりも最高に感じる。
「まるで金曜日の仕事が終わったときみたいだな」
「えっ、仕事? 祐輔どうしたの、勉強のしすぎでおかしくなった?」
バイキングにて。
隣に座る奈菜は、俺の心の声を聞いて呆れた顔をする。
同部屋の悠斗は早々に食事を終えてまたゲームをしに友人の部屋へと向かった。
なのでここには俺と奈菜──そして蘭華の三人だけだ。
「蘭華からも祐輔に何か言ってよ……って、蘭華。どうかした?」
「えっ、ううん! なんでもない、ちょっと疲れただけ」
朝からボーッとしていた蘭華。
奈菜はその理由を知らないからいつもと変わらない感じで話しかけているけど、原因は奈菜にもあるんだよな。
「熱でもあるんじゃないのか?」
「別に平気」
優しく俺が声をかけると、蘭華は目も合わせずに答える。
随分と嫌われたもんだと悲しむ。
すると奈菜は空気を変えるように手を叩く。
「じゃあさ、今日こそナイトプール行ってみない?」
「え、ナイトプール……?」
「そうそう、昨日は人が多くて行けなかったからさ。ねっ、祐輔もいいでしょ?」
「俺は別に構わない」
俺と奈菜に見られた蘭華は、渋々といった感じで頷く。
…………。
……。
バイキングを食べ始めてからすぐに決定したということもあって、女性陣は「もういらない」と食べるのを止めた。
おそらくは水着になったときに見えるお腹を気にしてのことだろう。
そして、水着を借りて着替えに行った二人を待つこと十分。
そこそこ人で賑わいだしてきたナイトプールを眺めていると。
「祐輔、おまたせ!」
どうやら着替え終わったらしい。
奈菜は水玉模様のシンプルな水着で、蘭華は黒の生地に白のふりふりが付いた水着。
奈菜のは中学生っぽさがあったけど、蘭華のは少しだけ大人っぽさがあった。ただまあ、彩さんや愛華さんがしていた水着と比べると地味だが。
それでも中学生にしては凶悪な胸を持った二人だから、周りの性に好奇心を持った男子中学生の視線を集めていた。
「へえ、めちゃくちゃ似合ってるな。奈菜も蘭華も」
「へへっ、そう? レンタル水着だからこういうのしかなかったけど、祐輔にそう言ってもらえて良かった。ねっ、蘭華」
「うちは、別に……」
頬を微かに赤く染めた蘭華。
どうやら褒められて嫌なわけではないらしい。
「あっ、ごめん……スマホ忘れちゃって。ちょっと待ってて!」
「プールなのにスマホいらないだろ」
「撮影するんじゃん!」
小走りに戻っていく奈菜。
「あいつ、プールが泳ぐ為の施設って知らないのか?」
「あんたこそ、ナイトプールがどういう施設か知らんの?」
「なに?」
アゴでナイトプールを指す蘭華。
確かにまあ、泳いでる奴なんて一人もいない。
プールのフチで固まって写真を撮ったり飲み物を飲んだり。
「残念だ。めちゃくちゃ頭使ったから泳ぎたかったのに」
心の声を漏らすと、腕を組んだ蘭華は冗談っぽく言う。
「運動したいんだったら、また奈菜とセックスでもしたら?」
「まあ、それもありかもな」
「うわ、冗談で言ったのに。というより、昨日あんなにしたのにもうしたいわけ?」
「あんなに? たった一回中出ししただけだぞ? 朝までしてやっと満足するかどうかだろ」
「朝、って……」
俺は朝までセックスできる、という言葉の意味を理解して顔を赤くさせた蘭華は顔を背ける。
「勉強合宿がなければ毎日のようにしてたからな。別におかしくないだろ?」
「おかしいに決まってるやろ。朝までとか、毎日とか……奈菜も大変やな、あんたみたいなのに付き合わされて」
「別に無理させてるわけじゃないけどな。お前の大好きな慶谷くんと違って」
「──ッ!?」
拳をギュッと握る蘭華。だが言い返してこない。
「そういえば、あのメッセージの返事はしたのか?」
「……もう、あんたには関係ないやろ」
「そうもいかないな。もしもあの誘いに乗ったら、きっとお前はきっと苦しむことになる。そんなの見過ごせるわけないだろ」
「……なんやそれ。うちのこと、心配しとるん?」
さっきまで怒っていたというのに、意外にも乙女みたいな反応をした蘭華。
ああ、そういうことか。
俺は攻め方を変えて伝える。
「当たり前だろ。あんなメッセージを見せられて放っておけるわけないだろ」
「でも、これはうちの問題やから……」
「だとしてもだ。心配なんだよ、俺はな」
目を見てはっきり伝えると、蘭華は今にも泣き出しそうに瞳をうるうるさせる。
どうやら俺が想像していたよりも蘭華の精神状態は弱り切っているらしい。
まあ、それも仕方ないか。
大好きな幼馴染に相手にされていないことを自覚させられ、その相手からは彼女とのセックスを見ろと言われている。
おそらくは昨日の夜からも、催促のようなメッセージを貰ったのだろう。
そして本当に幼馴染を好きなのか疑問に思い始めたときに、初めて他人のセックスを見せられた。
自分でいうのもアレだが、俺のは常人のとは大きく違う。ましてや中学生には刺激が強すぎるだろう。
様々な理由から、蘭華は苦しむ代わりに、依存していた男から少しずつ気持ちが離れていっているのだろう。
このまま幼馴染への依存が消えれば、きっと蘭華は普通に幸せになれる。
だが、
「今夜、二人っきりで会えないか?」
「えっ、二人って……バ、バカやろ、冗談でもそんな」
「冗談じゃない。会えるのか会えないのか、どっちなんだ?」
「そ、そんなん……」
──依存が消えて幸せになってしまったら、俺が楽しめない。