大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「……何、するん?」
何をするかぐらい話の流れから気付いているだろう。
それなのに話も聞かずにすぐ断るということをしないあたり、少なからず心が揺れている証拠だろう。
「それは──」
「──ごめん、待った!?」
だが話の途中で奈菜が戻ってきた。
彼女は俺と蘭華を見て「ん、どうしたの?」と聞く。
誤魔化すように首を左右に振ると、奈菜に連れられてナイトプールへ。
途中で話を遮られたのは残念だ。だがそれは俺だけじゃなく、俺に気付かれていないと思ってこちらをチラチラ見てくる蘭華もだろう。
それから俺たちはナイトプールで時間を過ごした。
俺の知っているプールでの遊びとは違い、写真を撮ったり飲み物を飲んだり、ビーチボールで遊んだかと思えばまたすぐに写真を撮り始める。
これの何が面白いんだか。
それでも俺は顔に出さず二人に付き合った。
…………。
……。
「ふう、やっぱ温泉っていいな」
ナイトプールから帰ってくると俺はすぐに温泉へ向かった。
それから部屋に戻ると、浴衣を着替えた俺はベッドに腰掛ける。
そしてすぐさま彼女にメッセージを送った。
『412号室に来て』
呼び付けるメッセージを送ると、すぐに返事がきた。
『イヤ』
たった二文字の冷たいメッセージ。
俺はジュースを飲みながら返事をする。
『悠斗は友達の部屋で今夜もゲーム大会だって言っていたから俺一人なんだよ』
『そんなんうちに関係ないから。奈菜を誘えばいいやろ、さっきからそわそわしてあんたに会いたがってるみたいよ』
『奈菜とはまた別日な。今は蘭華と話したいんだよ』
そう伝えると遅れて返事がくる。
『なんもしないから』
どうやらここですることを理解しているのだろう。俺は『わかった』と適当な返事をすると、十分ぐらいしたらドアがノックされた。
「意外と早かったな」
「……さっさと要件済ませて寝たかっただけ」
「そう、まあいいや。ほら入って」
すんなり部屋に入ってきた蘭華。
「髪、ストレートなのもいいな」
「……聞いてないから」
褒められて嬉しかったのか、髪で頬を隠す蘭華。
女性用の白とピンクの浴衣に羽織。
お風呂上りということもあって、特徴的な巻き髪はストレートになっていて別人のような感じがした。
彼女は備え付けのイスに座ると、俺はテーブルを隔てて正面のイスに座った。
「それで、あれから慶谷くんからメッセージは?」
「……来てる、けど、あんたには関係ないから」
「そう言うなって。せっかく相談してくれたんだから最後まで付き合うって」
「なんか言い方も軽いし。……はあ。早く返事しろって」
「まだ返事してなかったんだな」
蘭華は黙ったまま俯いてしまった。
「悩んでるんだろ、このままでいいのかって」
「……そう。悔しいけど、あんたが言ったようにうち、慶谷に依存してただけかもしれん。本当に好きなのかも、わからんくなって、それで悩んでるんよ……」
「メッセージじゃなくて直接話したりしたのか?」
「いや、話してへん。何度か声掛けられたけど、逃げて来た。こんな状態で話なんかしたら、もっとわけわからんなるから」
真面目に聞いていると、彼女は意外にも真剣に心の内を吐き出してくれた。
こんな薄情でヤリチンであっても、前にも言っていたがこんなことを話せる相手は俺しかいないのだろう。
「このままそいつとは距離を取る方がお前の為だと思うぞ」
「……うちも、そう思う。自分の気持ちがはっきりしないうちは、会わない方がいいって。だけど」
「だけど、慶谷とその彼女がいちゃいちゃしてるのを見たら寂しく思うかもしれない、だろ?」
「……」
図星だろう。
35才だった頃の仕事の同僚にアルコール依存症の奴がいたが、いくら酒を断っても、嫌なことがあったり、悲しいことがあったり、ふとイライラしたとき、無意識に酒を呑んでいたという。
依存体質の彼女がいくら幼馴染との距離を取ったところで、ふとした瞬間に冷めた想いが再燃して、元に戻ってしまうだろう。
それを彼女は恐れているんだろうな。
「だったら、依存相手を代えればいいんじゃないか?」
「え……?」
俺の言葉を聞いて全身をビクッと震わす蘭華。
言葉の意味を理解して、髪をペタペタと触って動揺を隠そうとしていた。
「バ、バカじゃないの……どうせ、俺に依存しろって言いたいんやろ。そんなことして、根本的な解決にはならんやろ」
「だけど彼女がいて相手にされてない幼馴染よりはマシだろ?」
「そ、そうやけど。いやいや、あんただって奈菜が」
「奈菜はお前たちの言うところのセフレだから気にしなくていい」
「……付き合う気ないん?」
「ないな。奈菜もこのままでいい感じだし」
「そう、なんや……で、でも」
俺が立ち上がると、蘭華はまた全身を震わせた。
そのままゆっくりと彼女の後ろから立ち抱きしめる。
「な、なにするん……や、やめて」
「嫌なら途中で止める。別に蘭華が弱っていて抱きやすそうだからこうしてるんじゃない。ただ単純に、お前が好きだからこうしてるんだ」
「……奈菜のことも抱いてるくせに、そんなこと言われて、はいそうですかって頷くと思ってるん?」
バカじゃないの?
と言いたげだが、俺を突き飛ばそうとしたり逃げようとはせず、浴衣越しに彼女の身体を抱かせてくれていた。
「嫌だったら途中で止める」
「……絶対に、止める気ないくせに」
「俺はレイプに興味ないから安心しろ。だからいいか?」
そう聞くと、蘭華は本当に小さく頷いた。