大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
「(ドロテア、ちゃんと着替えてから出て来なさい!)」
「(あっ!)」
慌てて脱衣所に戻っていくドロテア。
「(ご、ごめんなさいね、祐輔くん。普段は私しかいないから……)」
「(いえ、気にしないでください。日本ではよくあることなので)」
「(えっ、そ、そうなの……?)」
驚くサテラさんに、俺は真顔で答える。
「(日本では家族の裸は見せ合うのが一般的なんですよ。ほら、温泉とかも裸で入るって聞いたことありませんか?)」
「(確かに、聞いたことあるわね……。だけどその、出会って間もない男女だと、その……)」
「(まあ、少しはビックリしましたけど、日本には『仲の良い男女は裸の付き合いをしろ』ということわざもありますから。そこまで気にしなくて大丈夫ですよ)」
「(は、はあ……)」
自分で言っていて何を馬鹿なこと言ってんだって思うけど、ドロテアもサテラさんも日本に詳しくない。
行き過ぎないよう、少し適当なことを言っても問題ないだろう。
それにロシアと日本は違うんだということをわからせておいたほうが、後々この二人を喰いやすい。
「(あ、あの、祐輔……)」
着替えが終わったドロテアは恥ずかしそうに脱衣所から出て来る。
イスに座ると、三人で食事をしながら俺は話の続きをした。
「(その、さっきの話の続きだけど、祐輔……日本語を教えてくれるって本当?)」
「(ああ。今から二人が帰国するまでだと軽い挨拶から会話程度しか話せないかもしれないけど、それでも少しは話せたり聞き取れるようになったらいいかなって)」
「(嬉しい! ねっ、ママ!)」
「(ええ、そうね。だけど祐輔くんの迷惑にならないかしら?)」
「(いえいえ、俺のことは気にしないでください。言葉を誰かに教えてみたかったですし、なにより、二人には日本に来て良かったと思ってもらいたいですから)」
ドロテアもサテラさんも嬉しそうにしていた。
それから俺は二人に日本語を教える段取りを進めた。
ドロテアは日本の学校には通っていない。
午前中は公園なんかでトレーニングをして、午後からスケートリングで練習をするのだとか。
「(じゃあ、私は夜と……土曜日と日曜日ですね!)」
「(そう。それでサテラさんは俺が学校が終わってからで大丈夫ですか?)」
「(ええ、もちろん。でも祐輔くん、本当に大丈夫? 無理させてないかしら?)」
ドロテアは日本語を教えてもらえると嬉しそうにしていたが、サテラさんはどこか申し訳なさそうにしていた。
「(大丈夫ですよ)」
「(でも、何のお礼もしないのは申し訳なくて……)」
「(じゃあ──)」
と、思ったことを言いかけて止めた。
「(たまにでいいので、こうして三人で食事をしたいです。自分の両親は共働きであんまり家にいないので)」
「(そうなのね。それぐらいだったら、ええ、任せて! この子も祐輔くんと一緒にいられて嬉しいでしょうから)」
「(もう、ママ! でも……祐輔と、もっとお話したいです!)」
純粋な二人の笑顔を見て少しだけ苦しくなった。
下心丸出しだが俺を疑わないのは、違う国であり、本当に日本に来て誰とも話せないのが辛かったのだろう。
俺は二人の助けになろうと、心に誓った。
♦
それから二人の日本語講習は始まった。
平日の放課後はサテラさんと二人で。
スケートリングから帰ってきてからはドロテアと三人で。
土日も二人と過ごす時間が増えていった。
最初に教えた日から一週間とちょっとが経ち、二人の日本語は少しだけ上達した。
「あっ、えっと、えっと……お、おは、おはよ、ゆうすけっ!」
「ああ、おはよう、ドロテア!」
土曜日のお昼。
ウインドブレーカーを着たドロテアは、まだ片言だけどちゃんとした日本語の挨拶をしてくれた。
そして俺が挨拶を返すと、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「これから……えっと、れんしゅ、だから!」
「練習か、頑張って!」
「うん! また……えっと、えっと(夜に日本語を教えてね!)」
まだ言葉を覚えていない部分はロシア語だが、最初に会ったときよりも明るくなった気がする。
そして練習に向かったドロテアを見送り、俺はリビングに向かった。
「サテラさん、おはようございます」
「ゆうすけくん、おはよう」
ドロテアは練習で忙しいこともあって、俺はサテラさんと二人で日本語を教える機会が多い。
「きょうも、いちにち……ごしどう、えーっと、ごべんたつ? のほど、よろしくおねがいします!」
「そんな難しい言葉まで知ってるんですね。もう俺が教えることないんじゃないですか?」
娘よりも日本語が話せるようになっていたサテラさん。
言葉に詰まることはあっても、教えたこと以上に日本語を覚えていた。
俺がいるとき以外でも、ほとんどの時間を日本語の勉強に使っているらしい。正直なところ、日本で暮らす程度ならもう十分じゃないかってぐらいだけど、それでも彼女はまだまだ教わりたいのだとか。
「もっと、はなせるように、なりたいの!」
「わかりました。じゃあ今日もよろしくお願いします」
「はい、よろしく……おねがいします!」
隣同士に座って勉強を開始する。
ここまで長かった……。
ドロテアもサテラさんも警戒心が低く、勉強を教えるとき俺との距離が近い。
谷間を見せてきたり、腕に胸を押し当てたり。おそらく二人は無意識にしているんだろうけど、いい女二人と一緒にいたのにそれを我慢するのが辛かった。
だけど我慢は今日で終わりだ。
俺は今日──まずは母親のサテラさんと関係を進める。