大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
サテラさんはシャワーを浴び終えると、元の雰囲気に戻っていた。
「ゆうすけくん、シャワーどうぞ」
ニコリと微笑む彼女。
さっきまでの妖艶な笑みとは違う、母親の優しい表情だ。
だから俺も、さっきまでのことを引きずらずにいつも通りの対応をした。
それから俺とサテラさんは変わらず日本語の勉強の続きをした。
その時も彼女は何も変わらない。一切の余韻も感じさせない──けれど微かにだが、変化はある。
隣に座って、俺に執拗に胸を押し当てたり、吐息をわざと耳にかけたり。前までも無自覚にこういうことをしてきていたが、今は明らかにわざとそうしているのだと感じた。
誘われている。
まるで「このまま終わり? 呆気ないわね」と挑発されているようだった。
そして目が合うと、普段から細い目が笑っていたのがわかった。
その瞳に見つめられただけで、さっきの行為で味わった快感と屈辱が蘇って勃起しそうになる。
だが、幸か不幸か、勢いよく玄関の扉が開く。
「ただいま!」
練習から帰ってきたドロテアの明るい声が、リビングの悶々とした空気を晴らす。
「おかえり、練習おつかれさま」
「うん! ゆうすけとママは、えっと、おべんきょうちゅう……?」
「ええ、そうよ。とっても、のうこうなおべんきょうをしていたの」
「のうこう?」
首を傾げるドロテアに、サテラさんは秘密と返す。
それから三人で食事をして、俺はすぐ家に帰ることにした。
「ゆうすけ、その……おくる!」
今日は少ししか話せていなかったから、ドロテアは寂しがっているのだろうか。
暗くなった夜道を避け、ドロテアと二人で公園を歩いて帰ることにした。
「それでね、コーチがにほんご、じょうずになったねってほめてくれたの!」
隣を歩くドロテアは嬉しそうに今日あったことを話してくれた。
俺は彼女の話に相槌を打ったり返事をしていたのだが、どうやら心のうちを見抜かれていたようだ。
「……ママと、なにかあった?」
「え?」
心配そうに見つめられ、俺はすぐに何でもないと答えた。
「もしかして、ママのこと、えっと、すきになった?」
「なんでそうなるんだ?」
「だってママ、よくおとこのひとに、こえかけられてるから。ゆうすけも、そうかなって」
「それって……」
父親が亡くなってからのこと? と聞こうとして止めた。
だが俺の言いたいことを理解したのか、ドロテアは言葉を続ける。
「パパがいなくなってから、たくさん。それにおばあちゃんがいってた。ママ、アイドルのころ、すっごくにんきだったって」
「アイドル?」
これに関しては、今も前の記憶でも初めての情報だった。
サテラさんがアイドルをしていたなんて、テレビのインタビューでも話題に上がっていなかった。
ロシアでのみ活動して、向こうでだけ人気だったということだろうか。
それでも普通、娘がフィギュアスケートの選手として有名になったのだから、その母親がどんな人物なのか調べ、元アイドルの母親なんていう興味深い内容なら日本で話題に上がるのは当然だ。
なのに一切、話題にも上がらなかったのはなぜだ……?
そのことについて気になったが、どうやらドロテアもおばあちゃんからあまり詳しく聞いていないらしい。
サテラさんが元アイドルということと、多くの男性に人気があったことしか知らなかった。
──その後。
家に帰ってからネットとかで調べたけど、サテラさんがアイドルをしていた情報なんて出てこなかった。
そもそも、今の時代はサテラさんもドロテアも有名じゃないから、名前だけで何か出てくるわけがないのだが。
「……本人から詳しく聞くしかないか」
まあ、この情報がサテラさんを堕とす役に立つわけじゃないけど。
そんなことを考えながら、サテラさんの情報をボーっと眺めていると。
「これ……」
日本のページには彼女たちの情報は何もなかった。だがロシア語でズラッと記されたページの中に、気になるものがあった。
俺はサイトを確認して、目を大きく見開いた。
♦
「あら、いらっしゃい」
次の日。
俺は彼女たち家族の家に来た。
ドロテアは練習に行っていなかったので、サテラさんが出迎えてくれた。
「今日も勉強を教えに来ました」
そう伝えると、彼女は微笑み「ええ、よろしくね」と小さな声を漏らした。
おそらくは俺の表情から、今日は昨日のリベンジをしに来たのだとわかったのだろう。
「随分と余裕そうですね」
「そう? ただ、たのしみなだけよ」
「そうですか。じゃあ、さっそく始めましょうか」
何を? とは聞かれない。
廊下の壁に彼女を押し付け、強引に唇を奪う。
「ん、ちゅ……はあ、むっ♡」
拒むことなく俺の唇も舌も受け入れたサテラさん。
すっかりそのモードになっているのか、キスをしながら開いた目がジッと俺を見つめ離さない。
「(ふふっ、本気なのね)」
「ええ、もちろん。サテラさんだって期待していたんじゃないんですか?」
「(どうかしらね。でも、昨日よりも楽しませてちょうだいね?)」
「もちろん。だけどその前に、見てほしいものがあるんです」
彼女の身体から離れて寝室に向かう。
俺は家から持ってきていたノートパソコンを起動する。
「(祐輔くん、私に何を見せたいの?)」
「まあ、もう少し待ってください」
不思議そうにしているサテラさん。
俺は彼女に見せたかった”とある動画”を再生した。
「(こ、これ……どうして!?)」
さっきまでの余裕な表情が一瞬にして青ざめる。
食い入るように映像を見る彼女の肩に手を触れると、彼女の全身がビクンと震える。
「これ、アイドル時代のサテラさんですよね? この頃のサテラさんは随分と楽しんでいたんですね?」
ずっと前のものなので画質は悪いが、そこに映っていたのは目隠しされた若い女性が、三人の老人に身体を触られている映像だった。