大人の知識を持ったまま中学生に戻った俺は好き勝手に生きていく 作:柊咲
氷室佳香は眼鏡を外すと、テーブルに置いて長いため息をつく。
腰辺りまで伸ばした痛みの一切ない黒髪。
知的な雰囲気があって、吊り目は鋭く、事前に奈菜から話を聞いたからか第一印象はキツイ感じというイメージを持ってしまった。
160ほどの身長。
白のYシャツに、細身な体型通りの微かに膨らんだ胸元。
太股までと短い黒のスカートに、日焼け痕のない白い肌。
いつもは脚に目がいくことなんてないんだけど、胸の膨らみがこれまでの女性たちよりもないからか、美脚がより惹きつけられる。
「そこ、適当に座ってちょうだい」
俺の視線に気付いたわけではないが、沈んだ声のまま適当な丸イスに座るよう促される。
奈菜は「あ、はい」と、まだ緊張した感じでそそくさとイスに座る。
「奈菜ちゃんには何回も会ったことあるが、君とは初めてだね。はじめまして、私は氷室佳香。保健室で養護教諭をしている」
声に一切の明るさがなく、どこかロボットが話しているような感じの氷室先生。表情にも変化はなくて無表情だ。
「はじめまして。自分は──」
「楠木祐輔くん、だね。部活には入っておらず、生徒会の活動も特になし。成績は学年でも上位五名に入り、進学先は東京にある超名門校だとか」
既に調べていたのか、テーブルに貼ってあったメモ紙を見ながら話す彼女。
「ふむ」
そして話し終えると何か納得したのか、奈菜を見て初めて笑顔を見せた。
「優良物件を見つけたね、奈菜ちゃん」
「ちょ、佳香さん!?」
「ん、何か問題でもあるか?」
「優良物件って、なんか言い方が……」
「別に男女ともに言っても言われても悪い言葉ではないだろう。中学高校では男は顔や性格が大事だと思うかもしれないが、大人になれば、相手の男に求めるのは基本的に学歴や収入といった部分だ。早い段階から優良物件を見つけて唾を付けておくのはいいことだと思うがね」
「佳香さん……」
「男側としても、顔や性格といった生まれ持ったモノで評価されるよりも努力で左右される部分を評価されることは悪いことではないだろう。君もそう思わないかい?」
「えっと」
「佳香さん!」
頭に手を当て大きくため息をつく奈菜。
いやまあ、元35才の俺も彼女の意見には賛成だ。
生まれ持ったときから優劣がはっきりされている容姿ではなく、努力次第で変化される高学歴だとか高収入だとか、そういった部分で評価されるのは悪いことではない。
もちろん「男をそんな部分で評価するな!」と思う者もいるかもしれないが、それは努力してこなかった者の僻みだと俺は思う。
頑張れば頑張っただけ評価される。そうあるべきだと俺は考える。
ただまあ、中学生相手にそんなこと言う大人はどうかとも思うが。それに相手である俺を目の前にして遠慮なくはっきりとだ。
「だが」
笑顔だった表情が固まり、また無表情になると、俺をジッと見つめる。
「学校で性行為をするのは、あまり感心しないな」
どうやら本題に入るらしい。
眼鏡を付け、書くモノを用意すると、氷室先生は事情聴取するかのように淡々と質問する。
それは俺でなく、奈菜にだ。
「初セックスは彼と?」
「えっ、あの……」
「別に恥ずかしがる必要はない。生き物として性行為は誰だって行う行為なんだからね」
「だからって」
「じゃあ言い方を変えよう。これはただの養護教諭としてのヒアリングだ。何も問題なければ私は何も言わない。ただ二人はまだ中学生だ。知識や経験が乏しければ行っている性行為に間違いがあるかもしれない。膣の入口や膣内といった部分はデリケートだ。何かの間違いで傷を付けたりして後遺症を残す場合もある」
「ま、まあ、そうですけど」
「知識の無さや誤りがもしも二人にあるのであればちゃんと正さなければいけない。既に問題を抱えているのであれば、奈菜ちゃんのお母さんに報告と助言をしなければいけない。私が言いたいこと、わかるね?」
鋭い眼差しが奈菜を貫く。
好奇心からというよりも一人の大人として心配しているということか。
表情や声色から冷淡さが伺えるが、言っていることは中学生を相手にしているのであれば至極当然だ。
「……わかりました」
「では改めて。初めては彼とかい?」
「祐輔が初めてです」
「ふむ。それじゃあ、彼以外とはまだしたことない?」
「なっ、あるわけないじゃないですか!」
「別にそこまで動揺しなくてもいいと思うが。そもそも二人はちゃんと交際しているわけではないのだろう?」
「えっ、私たちはその」
付き合ってます。
そう奈菜が言おうとしたが「既に大体のことは調べてある。ここで嘘を付くと、自分たちの状況を悪化させるぞ?」と釘を刺された。
「……付き合ってません」
「つまり、セフレの関係だね」
「は、はい……」
「なるほど」
「佳香さん……というか、第三者に言われると、なんか変な感じ」
「あまり公言するような関係性ではないからな。だが別に、セフレという関係は正しい男女の付き合い方の一つだ」
「そうなんですか? てっきり佳香さんには拒絶されるかと思いました」
「私に?」
「はい。不潔! とか、正しい恋愛をしなさい! とか」
「あはは、そうか、そういうことか」
驚いたように言う奈菜に対して、氷室先生も少しだけ表情を笑顔にしながら頷く。
「私はセフレという関係性に好意的なのだよ。なにせ私にもセフレが五人ほどいるからな」
「「え……?」」