2020年、フランスにてーー
桜の花びらが春の夜空に舞う季節にもかかわらず、私は一人で誰もいなくなったフォーティーヌブロー城に忍び込もうとしていた。
「本当は真昼間にお客さんとして来たかったけど…そんな余裕はないからね」
私は少し残念そうに小さく呟き、自分の腕に指でルーン文字で透明化の呪文を書いた。
「一応これでも冠位の魔術師なんで、ヘマはできない」
心の中で自分に言い聞かせながら薄暗く見えづらい城の中を駆け抜け、目的の物が保管されている部屋へと目指した。
城内を駆けてい行けば、私はとあることに気づいた。
「おかしい…警備が人一人もいない…」
ビュン!!
「!?」
何か透明な鋭利な物が真正面から私に向けて投げられ、間一髪で感覚で避けて頬を微かにかすってしまった。
「今のは…全く見えなかった…まさか!?」
「おっと、流石冠位魔術師…そう簡単に殺らせてはくれないよなぁ?」
深紅に月明かりで輝く槍を自分の手に戻しながら、1人の男が現れた。
男は青い髪を結んでおり、独特な赤い瞳が私を捉えた。
「サーヴァント…やはり、警備一人もいなかったのはこのためか!!」
私は驚きを隠せずに言った。
「俺のマスターが関係者以外は極力被害を出したくない主義でね。この城には結界も貼ってあるから安易には入って来れない…つまりだ、今この城は俺とお前だけだ」
「…最悪だな」
戦闘は避けたかった私からすれば最悪な状況で、あちらの男はやる気満々でニヤリと笑った。
「俺としては女を苦しませたくはないからな、あっさり殺られてくれたら助かる」
「はっ、生憎こっちはそう簡単に引きたくはないのでね…」
私は腹を括り、一呼吸おいて戦闘姿勢に入った。
「そうかよ…なら手加減はなしだ!」
男は槍を構え、瞬きする暇もなく私の間合いに入ってきたが、槍先が砂鉄の壁によって間一髪のところで止めることができた。
砂鉄は私の意思で形を変え、男の槍を受け止める。
冷たい感触が手のひらに伝わり、まるで生きているかのように動く砂鉄の感覚と自身の同調した。
「これで終わりだ!」
男は槍を引き戻し、再び攻撃に転じる。
その目は炎のように燃え上がり、私を捉えて離さない。
「くっ…!」
私は砂鉄の壁をさらに厚くしようとしたが、男はその隙を見逃さなかった。
彼は一瞬の隙を突き、槍を振りかざして私に向かって突進してきた。
「グラニットミュール!」
私は叫び、砂鉄の壁を強化するが、男の力強い突きはそれを軽々と貫通しようとする。彼の槍が砂鉄の壁に触れた瞬間、金属音が響き渡り、砂鉄が飛び散った。
「甘いな!」
男は笑いながら、連続した突きを繰り出すし槍が私の周囲を切り裂き、砂鉄の壁が次々と崩れ落ちていく。
私は必死に防御の体勢を整え、砂鉄を操りながら男の攻撃をかわそうとするが、その速度についていけない。
「冠位魔術師なんだろ?ちったぁ戦えよ!」
男は槍を回転させ、まるで舞うように攻撃を続ける。
槍先が私の肩をかすめ、冷たい風が肌を撫で痛みが走り、私は思わず後退する。
「くそ…!」
私は砂鉄をさらに集め、彼の攻撃を防ごうとするが、彼の勢いは止まらない。
男は一瞬の隙を狙って、私の目の前に立ち、槍を振り下ろしてきた。
「これで終わりだ!」
男の声が響きその瞬間、私は全身に力を込め砂鉄を一斉に放った。
槍が私に迫る中、砂鉄が再び形成され、彼の攻撃を食い止める。
「!?」
槍先が砂鉄で出来た刀によって間一髪のところで止めることができた。
「はっ!いいねぇ…戦える女は嫌いじゃねぇ!」
男は楽しそうに言いながら、男は隙を与える間もなく素早く攻撃を畳み掛けてきた。
「きっついな…」
砂鉄で防御するものの、このままだと圧倒的に不利だ…。
男の槍が次々と迫ってきて彼の攻撃は容赦なく、まるで私の心の隙間を突くかのように冷徹で鋭い。
人間でもある魔術師がサーヴァントに勝つのは不可能に近い、冠位の私でさえもこのザマだ。
この苦しい現状のせいか「なぜ私はここにいるのか?」その問いが頭の中を駆け巡りはじめる。
私の目的の物はあの扉の向こうにあるが、それを手に入れるためには今この瞬間を乗り越えなければならない。
それにだ、私はこの聖杯戦争のために24年間ずっと戦い続けてきた。
幼い頃から魔術の修行に明け暮れ、数え切れないほどの試練を乗り越え、その中でどんな屈辱も耐えてきた。
父さんを失い、信じていた人々に裏切られ、孤独な戦いを強いられることもあった。
そんな過去が、今の私を形成している。
「諦めれば全てが水の泡になる…」その言葉が胸に響くが、私は決して諦めたくない。
自分の努力や行い、これまでの苦労を無にしたくない。
私の目指すものはただの勝利ではない、私自身の願望を証明するための戦いでもある。
「諦めてたまるものか!!」
その決意が、私の心の奥底から何かしらの力が湧き上がり、この先の戦いで恐怖や不安が私を包み込もうとしても、私はそれを振り払い戦う。
私は父から受け継がれたこの力が私を奮い立たせ、目の前の敵を倒し、目的を達成するためには私は負けてはいけない、どんな困難が待ち受けていようとも、私は立ち向かっていく。
私は自分の指先を噛み切って、自分の心臓に噛み切った血が垂れている指を押し当てて詠唱を始めた。
「響け…響け…深淵の闇に潜む、無尽の力を解き放つ者よ…我が手に宿る神の知識より、鉄の砂を紡ぎ魂を宿す槍を創り上げん、神狼の心臓より生まれし力を解き放ち、全てを貫き通さん、我が呼び名をもって答えよ!!」
「なっ!?」
ドォン!
私の詠唱が響き渡ると、召喚された大量の砂鉄の槍が一斉に男を目掛けて放たれ、砂鉄の槍は空中を切り裂く音を立てながら、男に襲いかかる。
彼は驚きつつも素早く身をかわし、槍を叩き落としながら防御に徹しており、その様子はまるで舞うようで、彼の動きは洗練されていた。
しかし、私の砂鉄はただの防御に留まらない。
槍が男を追いかけ、彼の動きを封じるかのように迫る。
私はその隙を見逃さず、目的物がある部屋の扉へと向かった。
「時間がない、早く見つけないと!!」
心の中で焦りが募り、男が私を追ってくる前に、何としても目的の物を手に入れなければならない。
なんとか扉の前に立つと、拳に魔力を込めて勢いよく扉を破壊し、木の扉が音を立てて崩れ落ち、私は中に飛び込む。
暗闇の部屋に足を踏み入れると、そこは薄暗い空間が広がっており、目を凝らし暗闇を見渡すと、すぐに目的物が視界に入った。
「あった拳銃…」
それは、展示棚に綺麗に展示されており、棚の上に置かれてたのは二丁の拳銃だった。
二丁の拳銃は私の心を掴んで離さず、長い間の努力と苦労が、この瞬間のためにあったのだと実感する。
「これが…あの英雄の」
私は思わず声を上げそうになるが、周囲の状況を忘れてはいけない。
あの男が追ってくる可能性があり、急いで展示棚に近づき、棚の硝子を破壊し二丁の拳銃を手に取る。
ドォォォン!
あの男が次々と砂鉄の槍を避けながら向かってきているのが分かる。
「……時間が無い、いちかばちかだが今ここで召喚する」
再び指を噛み切り、血が滴り落ちる指で術式を描き、真ん中に拳銃二丁を置き詠唱をし始める。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却するカナエ・ヴールが告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の弓に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ、誓いを此処に、我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
ドオオン!
「させるかよぉ!」
あの男が召喚を止めるべく、無防備な私を仕留めようとした瞬間、キィィン!!という槍と何か固いものが、ぶつかり鋭い音が響き渡り誰かが私を守ってくれたようだ。
「おいおい、召喚されたと思ったら俺の
勇ましい声と共に私の目の前には男が姿を現した。
彼は私よりも背丈が高く、堂々とした姿勢で立っていた。何よりも目を引いたのは、彼が担いでいる大砲だった。その大砲は彼自身よりも大きく、まるで彼の一部のように見えた。
「見たところ、お前はランサーと見える」
「そう言うお前こそ、アーチャーと言わんばかりにそんな馬鹿でかい大砲なんざ担いじゃって…まぁ…」
互いに言葉を続けるが、緊張感が漂い一歩も引けない状態が続いていた。
ギチギチと金属音が鳴り響くき、サーヴァントの視線が交錯し、静かな緊張感が部屋を包み込んでいた。
その瞬間、彼の表情が変わった。
「大砲はいい、大砲は俺にとっては扱いやすい武器だからな!」
彼は自信満々に言い放つと同時に大砲で薙ぎ払い、男が担いでいた大砲がガトリング砲のような音を鳴らし、彼は狙いを定める体勢になり、ランサの方ーをじっと狙い定めた。
その瞬間、私の背筋に直観的なものが走り目の前の彼を見れば、彼の目には確固たる決意が宿っており 「これはただの攻撃ではないと」と直感し、私はすぐさま身を隠れるように防御術を発動した。
「吹き飛べ」
「!?」
ドゴォォォン!
大砲から放たれたその一発は、まるで怒涛のように城の壁をぶち抜き、周囲は瓦礫の山と化した。煙が立ち込める中、私はその光景に目を奪われた。しかし、肝心のランサーの姿はどこにも見当たらなかった。
「逃げられた…maître、大丈夫か!」
男は心配そうに私に声をかけてきた。
その声には彼の真剣な思いが込められていおり、しゃべり方や彼の姿、そしてなによりあの大きな大砲。
「…凄い…これがあのフランスの英雄…ナポレオン・ボナパルト…」
この状況に私は思わず感嘆の声を漏らした。彼の力強さと威厳は、まさに伝説の存在そのものだった。
「遅れたが、召喚に応じ参上した…俺の名前はナポレオン・ボナパルト…これからよろしく頼む、maître」
ナポレオンは真剣な眼差しで言った。その瞳の奥には、確固たる決意が宿っており彼は私に優しく手を差し伸べた。
彼はフランスの英雄であり、皇帝でもある。そして、私の一族と深く関係があるサーヴァントだ。これからの戦いにおいて、彼の力は必要不可欠だ。
「これからもよろしく…ナポレオン」
私は彼の手を優しく取った。その瞬間、心の中に温かい感情が広がる。彼と共に歩む未来が、少しずつ明るく感じられた。
彼の存在が、私にとっての希望となる。これから始まる戦いに、彼と共に立ち向かう覚悟を決